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技術説明の模様を中心にレポート

ヤマハ『LUNA SEA Back in 鹿鳴館』再現ライブを体感。会場の熱気すら呼び起こす最新技術を紹介

公開日 2024/09/06 18:07 編集部 : 伴 修二郎
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昨日9月5日、ヤマハはライブやコンサート体験の保存を目指す「ライブの真空パック」の取り組みにおいて、ロックバンド・LUNA SEAとアンバサダー契約を締結。あわせて、メディア向けに昨年32年ぶりの目黒鹿鳴館で開催された150人限定ライブ『LUNA SEA Back in 鹿鳴館』の再現ライブ、および技術説明会が銀座ヤマハホールで開催されたので、本稿ではその模様をレポートする。

『LUNA SEA Back in 鹿鳴館』の再現ライブのステージ

■ロックバンドの演奏再現を可能にする新技術。「ライブの真空パック」の詳細を解説



「ライブの真空パック」は、主に実際の楽器の演奏をリアルに自動再現する「Real Sound Viewing」、高臨場感ライブビューイングシステム「Distance Viewing」、音響/映像/証明/舞台演出などのデータ形式を統一する記録・再生システム「GPAP(General Purpose Audio Protocol)」を用いて構成されている。

今回LUNA SEAが、約32年ぶりにバンドの原点である目黒鹿鳴館で開催した150人限定ライブ『LUNA SEA Back in 鹿鳴館』をGPAPを用いて収録。そのデータを元に、鹿鳴館のライブを演奏者不在で再現しようという試みだ。

150人限定のプレミアムライブを新技術で収録 (c) 2023 LUNA SEA Inc.

再現ライブに用いられる新技術「Real Sound Viewing」は、アーティストのパフォーマンスをデジタル化して正確に記録し、楽器の生音による演奏を忠実に再現するシステム。同時にスクリーンやモニターに演奏するアーティストの姿を映し出すことで、あたかもアーティスト本人がそこで演奏しているかのような臨場感あふれるバーチャルライブを実現できる。

本システムでは、「アコースティック楽器の振動再現」「電気楽器の超高精度の信号記録再現」「オーディオデータのデジタル処理技術」といった同社が長年培ってきた技術と、スクリーンに映像を映し出し演奏する姿を再現する技術を用いる。そこに今回初となるエレキギター、エレキベースの演奏再現や、ドラム演奏の再現力の向上を実現したと謳う。

エレキギターとエレキベースの演奏再現には、演奏者のタッチをリアルに再現する高精度な「リアンプシステム」を採用する。リアンプとは、収録したギターの電気信号をPCで記録し後からアンプで再生するというもので、通常主にレコーディング時に使用される手法。REC時に様々なアンプやマイクを試したい際などに活用することで、音作りの効率化を図ることができるのだ。

通常リアンプでは、ダイレクト・ボックス、オーディオインターフェース、リアンプボックスを経由し、ギターアンプから音声を出力する。しかしこの場合、各機器が個別に設計されているため音声データが通る過程で本来の音質や音量が変化し、原音の忠実な保存や再現が難しいとされてきた。

従来のリアンプの仕組みと課題

そこで今回、音質の変化や劣化を限りなく抑え、演奏者の繊細なニュアンスをリアルに伝えて再現性を高める新たなリアンプシステムを開発。エレキギターとエレキベースの信号を記録するための入口から、記録した音声信号を出力する出口まで一貫したシステムとして設計することで変化が最小となり、生演奏時の音の忠実な再現に成功したのだという。

このリアンプシステムの開発により、今後はエレキギターとエレキベースの生の音を文化遺産として保存できるようになるほか、音楽制作やレコーディングの制作効率化や品質アップも図れるそうだ。

「リアンプシステム」プロトタイプのイメージ図

Real Sound Viewing技術を用いたドラム演奏の再現においても、新たなバーションのシステムが開発された。その進化点の1つが、ペダルワークを含む演奏データの記録と再現。ドラム演奏時に使用されるハイハット、キックペダルを含む演奏の情報をセンサーを使い記録する新技術により、記録したデータを使用してペダルワークを含めた動作の復元を実現。これにより大幅な再現性の向上に成功したという。

ハイハットの再現を例にすると、センサーによるペダル演奏のデータ化と演奏データからの動作再現、そしてスティックで叩いた際に発生するシンバルの振動を加振機で再現するという仕組みだ。生演奏時の音と比較したデモ音源では、ペダル操作でシンバルを開閉した際の細かな音のニュアンスや強弱までもが忠実に再現されているように聴こえた。

ドラム再現システム プロトタイプ一式

ハイハット再現の仕組み

2つめが、パワフルなロックドラムも再現すると謳うハイパワーシステム。フロアタム用/タム・スネア用に、従来から大幅に出力が向上した新式加振機を採用したのがポイントだ。この新開発システムにより、さらに迫力のあるロックドラムの演奏再現に成功し、キックドラムからシンバルまでドラマーの奏でる力強い音を再現することが可能になったとアピールする。

ロックドラムに合わせて加振機の出力がアップ

同じく同社が開発を進める「Distance Viewing」は、ライブ時の迫力あふれる音を完全再現しながら、大型スクリーンを用いた等身大映像とライブさながらの照明演出などでそのパフォーマンスをステージ上に蘇らせるシステム。本システムでは、音響/映像/照明/VJ/レーザー/舞台演出を同期できる形で記録して0.1秒のズレもなく再生する必要があるが、これが実は非常に煩雑であったと同社は強調する。

具体的には、音響、電子楽器、映像に照明と全てのデータが独自形式となっており、ハードウェアもバラバラ、記録フォーマットも存在しないことから、全データを独立して記録する必要があった。このため、同時再生を行うには同期信号を用いる必要があるが、各データそれぞれが別のタイムコードフォーマットとなるため、この同期信号の扱いが煩雑で複雑化していたのだという。

音響や電子楽器、映像に照明と全てのデータが独自形式となっていた

この課題解決のために同社は、各データのほとんどがデジタルデータであることに着眼。「全部オーディオデータの中に取り込めるのでは?」という発想のもと開発したのが、異なるフォーマットを全てwavフォーマットで保存する世界初のシステム「GPAP(General Purpose Audio Protocol)」だ。

各機材の記録フォーマットを1つに統一化することで、オーディオレコーダーさえあれば全てのフォーマットを保存することが可能になった。また、1つのオーディオタイムライン上に記録されるので、タイムコード自体も不要になる。

記録フォーマットが1つに統一化される

現場での必要な作業は、各機器をケーブルで接続してオーディオとして「録音」するだけ。再生もオーディオとして「再生する」のみで、PCやMTR、iPhoneなどwavファイル再生が可能なデバイスなら何でも対応する。また、編集作業においても市販のDAWがそのままオーサリングソフトとして活用できるため、ソフト上でコピー&ペーストやカットなど、自由自在に音楽と並列して編集が行える。

これらの技術を活用することで、ライブ会場の全てのデータを1つのフォーマットでシンプルに記録、編集することが可能に。今後の活用方法の例として、ライブハウスでの高臨場感ライブビューイングの再現、VR空間上における音・映像に照明まで加えた3D再現、ホームオーディオにおける音・映像プラスαの付加価値の提供、価値あるデータを遺産として保存する「ライブの博物館」の実現など、さまざまな展望をアピールした。

今後さまざまな活用方法を想定している

■『LUNA SEA Back in 鹿鳴館』再現ライブを、ヤマハスタジオで体感



そして昨年、LUNA SEAのライブのデータを音楽・文化資産として保存していくことを目的に、5月29日の結成記念日に開催された目黒鹿鳴館150人限定の超プレミアムライブにGPAPを導入。当日のエレキギターやエレキベース、ドラムの演奏データに加え、照明、レーザー演出も記録された。

今回の説明会の後半では、この『LUNA SEA Back in 鹿鳴館』のライブを約30分にまとめた再現ライブ鑑賞が実施。会場のSE、オーディエンスの歓声までもが本番のライブさながらに再生されるさまを実体験することができた。

再現ライブ中の様子 (c) 2023 LUNA SEA Inc.

ヤマハ銀座店地下スタジオに設置された再現ライブステージには、実際の本人機材であるアンプやドラムセットなどの楽器類が設置。サウンドは楽器の生音と、各アンプおよびドラムをマイキングしてスピーカーからステレオ再生で鳴らす格好だ。加えて、ライブ音響はLUNA SEAのPA音響を手掛けるPAエンジニアの小松久明氏が、実際のライブと同じようにPAミックスを行う。なお、本スタジオには立体音響システムが搭載されているが、今回の再現ライブでは一切未使用とのこと。

INORAN氏とJ氏の使用アンプ。ヘッド部分はスクリーンを遮ることから今回はステージ袖に配置されていた

SUGIZO氏の使用アンプ

メンバー5人が颯爽と登場すると、1曲目『DESIRE』からライブがスタート。弦楽器のサウンドはステージ上に設置されたアンプのキャビネットから再生、そしてドラムは演奏情報を元に動作や振動を復元した生音が鳴らされるのだが、そのサウンドはまさに本人たちが目の前で演奏しているライブを観ていると錯覚するほどの再現度の高さだった。

色鮮やかな照明も本番さながらに演出 (c) 2023 LUNA SEA Inc.

特にドラムサウンドの再現力は見事で、真矢氏(Dr.)のパワフルなフィルやキメ部分の力強さ、繊細なシンバルワークなどが精密に再現されているように感じた。同社によれば現時点ではまだ100%の状態ではなく、例えばスティック素材の違いなども反映するよう完成度を高めていくとのことだが、現時点でも十分に “本物のライブ” を感じることができるように思えた。

再現ライブ時のドラムの様子

シンバルのセッティング

弦楽器においても、J氏のゴリッとしたベースのニュアンスや、SUGIZO氏、INORAN氏(Gt.)の独特で個性あふれる豊かなギタートーンも再現されていた。また、ライブ音響も音量感含めて通常のライブハウス音響と相違ないクオリティで、これはPAエンジニア・小松氏の手腕がいかんなく発揮されていることも大きいだろう。

最後に本システムの今後の活用方法について、ヤマハ(株)ミュージックコネクト推進部 企画・開発担当の柘植 秀幸氏は、「このシステムをどの方でも簡単で手軽に導入できる仕組みづくりに力を入れたい。新開発のリアンプシステムもすでに多くのプロのミュージシャンからご評価いただいているので、それをもっと色んな方に使っていただけるようにできれば」と力を込める。

ヤマハ(株)ミュージックコネクト推進部 企画・開発担当の柘植 秀幸氏

また、今回の鹿鳴館ライブ再現を含むLUNA SEA再現ライブの一般公開の機会について問われると、「今回の鹿鳴館ライブ含めて今後どのようにLUNA SEAのライブを真空パックしてファンの皆様に届けていくのがベストかを、ちょうどLUNA SEAの皆様と話し合っている最中。しっかりと相談しながら決めていきたい」と述べていた。

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