ガジェット【連載】西田宗千佳のネクストゲート 第40回
ゲーム、エレキ、半導体。ソニー3事業領域の「伸びしろ」はどこか
毎年ソニーグループ(以下ソニーG)は、5月頃に「事業説明会」を開催している。同社の事業範囲は広くなっているので、グループ全体での解説だけでは不足するためだ。
現在のソニーGの事業領域は、「ゲーム」「音楽」「映画」「家電+業務機器(ET&S)」「半導体(イメージセンサー)」の領域に分かれている。
それぞれがどのような状況にあり、どのような戦略にあるのか。特に「ゲーム」「家電+業務機器」「イメージセンサー」の3領域を中心に解説してみよう。
まずはゲームから。ソニーGにとって、ゲーム事業が一つの柱であることは疑いない。2022年度前半まで、同社はPlayStation 5に関する需給のアンマッチに苦しんできた。だが昨年後半から急速に供給量は増え、「現在もフルキャパシティで生産している」(ソニーG 十時裕樹 代表執行役社長)状況だという。
ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)社長兼CEOのジム・ライアン氏は、「2023年度第3四半期には、PS4の普及ペースを超える」との予想を語る。PS4自体が記録的な伸びだったので、これが実現されるなら大きなことだ。
その上で、SIEは成長の形を以下の3つの軸で説明する。
・PS5などの成長
・自社ポートフォリオの拡充
・ソニーG内での連携
最初の1つは説明不要だろう。ただ1点付記するとすれば、5月24日の質疑応答の中で「クラウドとモビリティの領域では、数ヶ月以内にユニークな解決策をお見せできる」(ライアンCEO)と発言したことだ。
翌日(5月25日)にオンラインで開催されたイベント「PlayStation Showcase 2023」では、新たな周辺機器として「Project Q」とワイヤレスイヤホンが公開された。
前者は携帯ゲーム機のように見えるがそうではなく、あくまでPS5の「リモートプレイ」を快適にプレイするための補助デバイスのようだ。ある意味ニッチな存在ではある。Project Q/ワイヤレスヘッドホンともに2023年内の市場投入と見られており、「詳細は数ヶ月以内に公開する」とされている。
なぜこのような製品群を発表するのか? 真意を完全に読み取ることは難しいが、1つ言えるのは、SIEの中でゲーム機本体以外=周辺機器の収益を重視する動きがあることだ。
以下は説明会で示されたデータだが、PS5以降、周辺機器収入の拡大が大きい。コントローラーなどの単価アップが効いているものと思われるが、一方で、ゲーム機を買うユーザーが周辺機器を買う動きが拡大しているのも事実なのだろう。だとすれば、Project Qのような製品を用意するのも頷ける。
SIE成長の鍵として挙げられた2つ目の施作は、主に、いわゆる「ファーストパーティー」タイトルの拡充だ。
自社IPにもなり、収益力の点では他社作品に依存するよりも有利である。その分投資は大きくなるが、他社ゲーム機やPC環境との差別化を考えても重要である。またこのことは、映画やドラマなどへの「原作供給」という意味でも重要な意味を持つ。
ソニーGは今年、『グランツーリスモ』や『Twisted Metal』など、ファーストパーティー・タイトルとして発売した作品の映画化を控えており、いくつかのゲームではドラマシリーズなどの製作も決まっている。現在配信中の、HBO Maxによる『The Last of Us』のドラマ化は高い評価を得ており、それに影響を受けて、ゲーム自体の売れ行きも再浮上しているという。
IPを単に借りてくるのではなく、相乗効果が見込めるくらい大事に育てるというのは、SIEだけでなく、多くのゲームメーカーの「映像化」に見られる傾向だ。映画会社を傘下にもつソニーGとしては、SIEとソニーピクチャーズとの相乗効果が、この数年うまくいっていると判断しているようだ。
ソニーGの祖業は、いうまでもなくエレクトロニクス。現在「ソニー」の名前自体を受け継いでいるのも、ソニーG内でエレクトロニクス事業を統括する部門だ。このジャンルをソニーGは「エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション(ET&S)事業」と呼んでいる。
ET&S事業は「収益軸事業」と「成長軸事業」に分かれている。簡単に言えば、収益軸事業は既存事業。テレビやスマホ、カメラなどのエレクトロニクス商品や、プロ向けシステムなどのビジネスのことだ。
それに対して成長軸事業は、これからの新しい事業のことを指す。具体的には、映画撮影に使う「バーチャルプロダクション」やスポーツ判定・中継技術、医療向け機器、ネットワーク事業(NUROもここに含まれる)などがある。
エレクトロニクスは重要な領域だが、ことテレビやスマートフォンについては、市場競争の激化もあって「大きく伸びる想定はしていない」(ソニー・代表取締役社長兼CEOの槙公雄氏)という。カメラなど、まだまだ伸びている領域はあるものの、全体的に「このままでいい」わけではない。
そこで重視しているのが成長軸領域。技術基盤の多くはマイクやカメラ、ディスプレイといった収益軸領域と同じだが、その応用領域を「クリエイター」側により近づけることで、単価拡大と中長期的な収益力拡大を狙っている。
逆に言えば、テレビやスマホなどの事業は、シェアや数を追わない付加価値型が軸になるわけで、高性能・高付加価値=若干価格が高いものは増えても、安価な普及型は減っていく可能性も高い、ということになる。
技術的にも1つの柱であるのが、スマートフォン向けのイメージセンサーを主体とした半導体事業だ。このジャンルでソニーは相変わらず強く、金額シェアでは23年度予測でも56%、2025年度には60%を目指す。
とはいうものの、スマートフォン自体の需要は伸び悩みを見せており、2022年度予測に対して「回復に数年間を必要とする」(ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社 代表取締役社長 兼 CEOの清水照士氏)という、楽観できない状況にある。
その中でもソニーは、スマホの高付加価値型センサーは今後も伸びると想定し、業績自体を牽引すると予測している。要は1インチや1/1.3インチといった大型かつ二層トランジスタ型といった単価の高い製品の重要は底堅いとみているわけだ。清水CEOは「1インチが中国系の複数のメーカーで採用され、1/1.3インチも需要拡大」と今年の方向性を説明する。
さらに、自動車向けのイメージセンサーがようやくシェア拡大を見せており、収益に貢献する時期もそう遠くない、とのことだ。
これらの予想を実現するには、今後も半導体製造設備への積極的な投資を行い、安定供給を続ける必要がある。そこで、熊本に新たな工場建設の敷地の確保を発表した。
熊本へは半導体工場の誘致が続いており、政府としても経済安全保障の観点から、投資とインフラ整備を積極的に進めている状況だ。ソニーもその方針に従い、「世界最大のイメージセンサー生産拠点」としての足場を固めていくものと考えられる。
現在のソニーGの事業領域は、「ゲーム」「音楽」「映画」「家電+業務機器(ET&S)」「半導体(イメージセンサー)」の領域に分かれている。
それぞれがどのような状況にあり、どのような戦略にあるのか。特に「ゲーム」「家電+業務機器」「イメージセンサー」の3領域を中心に解説してみよう。
■PS5は生産好調、新周辺機器「Q」も
まずはゲームから。ソニーGにとって、ゲーム事業が一つの柱であることは疑いない。2022年度前半まで、同社はPlayStation 5に関する需給のアンマッチに苦しんできた。だが昨年後半から急速に供給量は増え、「現在もフルキャパシティで生産している」(ソニーG 十時裕樹 代表執行役社長)状況だという。
ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)社長兼CEOのジム・ライアン氏は、「2023年度第3四半期には、PS4の普及ペースを超える」との予想を語る。PS4自体が記録的な伸びだったので、これが実現されるなら大きなことだ。
その上で、SIEは成長の形を以下の3つの軸で説明する。
・PS5などの成長
・自社ポートフォリオの拡充
・ソニーG内での連携
最初の1つは説明不要だろう。ただ1点付記するとすれば、5月24日の質疑応答の中で「クラウドとモビリティの領域では、数ヶ月以内にユニークな解決策をお見せできる」(ライアンCEO)と発言したことだ。
翌日(5月25日)にオンラインで開催されたイベント「PlayStation Showcase 2023」では、新たな周辺機器として「Project Q」とワイヤレスイヤホンが公開された。
前者は携帯ゲーム機のように見えるがそうではなく、あくまでPS5の「リモートプレイ」を快適にプレイするための補助デバイスのようだ。ある意味ニッチな存在ではある。Project Q/ワイヤレスヘッドホンともに2023年内の市場投入と見られており、「詳細は数ヶ月以内に公開する」とされている。
なぜこのような製品群を発表するのか? 真意を完全に読み取ることは難しいが、1つ言えるのは、SIEの中でゲーム機本体以外=周辺機器の収益を重視する動きがあることだ。
以下は説明会で示されたデータだが、PS5以降、周辺機器収入の拡大が大きい。コントローラーなどの単価アップが効いているものと思われるが、一方で、ゲーム機を買うユーザーが周辺機器を買う動きが拡大しているのも事実なのだろう。だとすれば、Project Qのような製品を用意するのも頷ける。
■ゲームにも映画にも。自社IP拡大
SIE成長の鍵として挙げられた2つ目の施作は、主に、いわゆる「ファーストパーティー」タイトルの拡充だ。
自社IPにもなり、収益力の点では他社作品に依存するよりも有利である。その分投資は大きくなるが、他社ゲーム機やPC環境との差別化を考えても重要である。またこのことは、映画やドラマなどへの「原作供給」という意味でも重要な意味を持つ。
ソニーGは今年、『グランツーリスモ』や『Twisted Metal』など、ファーストパーティー・タイトルとして発売した作品の映画化を控えており、いくつかのゲームではドラマシリーズなどの製作も決まっている。現在配信中の、HBO Maxによる『The Last of Us』のドラマ化は高い評価を得ており、それに影響を受けて、ゲーム自体の売れ行きも再浮上しているという。
IPを単に借りてくるのではなく、相乗効果が見込めるくらい大事に育てるというのは、SIEだけでなく、多くのゲームメーカーの「映像化」に見られる傾向だ。映画会社を傘下にもつソニーGとしては、SIEとソニーピクチャーズとの相乗効果が、この数年うまくいっていると判断しているようだ。
■エレクトロニクスは「新事業領域」に期待
ソニーGの祖業は、いうまでもなくエレクトロニクス。現在「ソニー」の名前自体を受け継いでいるのも、ソニーG内でエレクトロニクス事業を統括する部門だ。このジャンルをソニーGは「エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション(ET&S)事業」と呼んでいる。
ET&S事業は「収益軸事業」と「成長軸事業」に分かれている。簡単に言えば、収益軸事業は既存事業。テレビやスマホ、カメラなどのエレクトロニクス商品や、プロ向けシステムなどのビジネスのことだ。
それに対して成長軸事業は、これからの新しい事業のことを指す。具体的には、映画撮影に使う「バーチャルプロダクション」やスポーツ判定・中継技術、医療向け機器、ネットワーク事業(NUROもここに含まれる)などがある。
エレクトロニクスは重要な領域だが、ことテレビやスマートフォンについては、市場競争の激化もあって「大きく伸びる想定はしていない」(ソニー・代表取締役社長兼CEOの槙公雄氏)という。カメラなど、まだまだ伸びている領域はあるものの、全体的に「このままでいい」わけではない。
そこで重視しているのが成長軸領域。技術基盤の多くはマイクやカメラ、ディスプレイといった収益軸領域と同じだが、その応用領域を「クリエイター」側により近づけることで、単価拡大と中長期的な収益力拡大を狙っている。
逆に言えば、テレビやスマホなどの事業は、シェアや数を追わない付加価値型が軸になるわけで、高性能・高付加価値=若干価格が高いものは増えても、安価な普及型は減っていく可能性も高い、ということになる。
■厳しいながらも付加価値で伸ばすスマホセンサー、安定供給に向け新工場も
技術的にも1つの柱であるのが、スマートフォン向けのイメージセンサーを主体とした半導体事業だ。このジャンルでソニーは相変わらず強く、金額シェアでは23年度予測でも56%、2025年度には60%を目指す。
とはいうものの、スマートフォン自体の需要は伸び悩みを見せており、2022年度予測に対して「回復に数年間を必要とする」(ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社 代表取締役社長 兼 CEOの清水照士氏)という、楽観できない状況にある。
その中でもソニーは、スマホの高付加価値型センサーは今後も伸びると想定し、業績自体を牽引すると予測している。要は1インチや1/1.3インチといった大型かつ二層トランジスタ型といった単価の高い製品の重要は底堅いとみているわけだ。清水CEOは「1インチが中国系の複数のメーカーで採用され、1/1.3インチも需要拡大」と今年の方向性を説明する。
さらに、自動車向けのイメージセンサーがようやくシェア拡大を見せており、収益に貢献する時期もそう遠くない、とのことだ。
これらの予想を実現するには、今後も半導体製造設備への積極的な投資を行い、安定供給を続ける必要がある。そこで、熊本に新たな工場建設の敷地の確保を発表した。
熊本へは半導体工場の誘致が続いており、政府としても経済安全保障の観点から、投資とインフラ整備を積極的に進めている状況だ。ソニーもその方針に従い、「世界最大のイメージセンサー生産拠点」としての足場を固めていくものと考えられる。