ガジェット 【連載】西田宗千佳のネクストゲート 第41回
噂のアップル「HMD」、WWDCで本当に発表されるのか。過去の動きから見える可能性
6月5日(現地時間)から、アップルの年次開発者会議「WWDC」がスタートする。
いろいろな製品の噂は出ているが、あくまで現時点では「噂」に過ぎない。過去も噂は、製品の発売が近いタイミングのもの以外、当たっていないことも多いので注意が必要だ。
とはいえ、予想できることはあるし、考察できることもある。来週にはすぐ答え合わせができてしまうが、その前に少し予想をしてみよう。
まず、確実に発表されるものから予測しよう。iOS/iPadOS/macOSなど、主力製品のOSは確実に発表される。「それはそうだろう」と思うかもしれないが、これがまず大切だ。
そもそも、WWDCは「開発者会議」だ。ハードウェアの新製品ばかりに注目が集まるが、実のところ、これをアピールすることのほうがまれ。ハードウェアをアピールする時には、それを使うOSやサービスがあっての場合であることが多い。
たとえば、ここ数年のWWDCにおいて、Macの話題が多かったり新製品の発表があったりしたのは、MacのプロセッサーがインテルからAppleシリコンに変わり、開発者の移行を促進する必要があったからだ。今年も新しいMacが出る「かもしれない」が、それはAppleシリコンへの移行とAppleシリコンのパフォーマンスを活かしたアプリのアピール、という側面が強いだろう。
iOSやiPadOSは、今年もある程度変化するだろう。まだ改善ですべき点は多々あるからだ。だが、UIデザインがガラッと変わったり、見たこともない新機能が搭載されたりするタイミングではない、と筆者は予想している。
一方でアップルは、iOSとiPadOSについて、すでに「アクセシビリティ」系の機能アップをアナウンス済みだ。英語向けの機能が多いが、「iPhoneのらくらくホン化」と言われた「シンプル画面化」も含まれ、こちらは日本でも使えるものと思われる。
従来、こうした機能はWWDCの中で発表されることが多かった。だが先に出したということは、それだけWWDCの基調講演で発表するべき内容が多い、という予測が成り立つ。
そうなると、俄然気になってくるのが「アップルがHMDを出すのではないか」という噂だ。
重ねていうが、この噂が真実か、100%の確証がある情報を筆者は持っていない。ただし「アップルがHMDを作っている」ことは、複数の関係者・競合他社などの取材で確信している。この時期に出てくるのか、確信できないだけだ。
外枠を埋める要素はいくつもある。そもそもアップルは、もう6年以上に渡って「ARやVR」の開発を進めている。iPhone/iPad向けのARフレームワークである「ARKit」が最初に公開されたのは、2017年のWWDCだった。
この時はまだインテルCPU版のMacだったが、HTCと組んで「VRに取り組む」とアナウンスしたこともある。こちらは、その後のプロセッサー戦略などの変化もあってほぼ立ち消えたが、アップルとしてVRにも興味がないわけではないことの証でもある。
ただしARKitが存在する以上、アップルがXR向けプラットフォームを提示するとすれば、「iOS/iPadOSベースで、ARKitを使った機器」と予想するのが自然だろう。
とはいえ、夢のような機械をいきなり作るのは難しい。十分な性能を持ち、快適に動き、画質も良い製品を作るのであれば、現在のHMDの水準を考えると、数百ドルの製品にまとめるのはかなり難しい。どこかで割り切りが必要だ。
そういう「割り切った」製品はすでにいくつもあるが、割り切ったレベルのものなら、アップルはすでに出していたはず。そうでないとすると、「相応に品質にこだわったもの」であり、結果として「高価である」「まだ初期の顧客に向けたものである」と予想するのが必然だ。
アップルの外の動きもある。その中でも最も大きいのは、競合になるMetaの動きだ。
Metaは6月1日(現地時間)、同社ブランドHMDの最新モデルとなる「Meta Quest 3」を発表した。価格は国内で7万4800円(アメリカでは499ドル)からとされており、発売は今秋の予定だ。
Meta Quest 3はフルカラーのビデオシースルー機能を内蔵し、周囲の様子を確認しながらゲームや各種作業ができる。そして、GPU性能はQuest 2の倍に向上していて、より精緻なグラフィック描画も可能になる。それでいて、本体の厚みは40%スリムになり、付け心地も向上する。
まさに「次世代機」と言っていい性能向上だが、気になる点もある。それは「今秋発売で、詳細発表は9月27日からのイベントで」とされている点だ。
発売までは最低でも4ヶ月以上あって、詳細も公開されていない。発表は9月でも良かったのではないだろうか? このタイミングで発表したのは、「近々強力なライバルが出てくるから」と考えるのがわかりやすい。
「同じようにカラーでのビデオシースルーと薄型ボディを搭載した強力なライバルが発表されるが、価格面では有利」であったとしよう。ならば、「先に価格とデザインとゲームの存在を打ち出し、牽制をしておきたい」と考えるのではないだろうか?
これはあくまで予測であり、実際には外れるかもしれない。だが、そうした外部要因が揃ったのが、今年のWWDCではある。
WWDCは毎回ロゴが変わる。個人的には「このロゴから深読みをしてもたいてい的外れ」である、というのが過去の経験だ。今回「レンズっぽい見た目」であることに寓意性があるのか否か。答えは、日本時間6月6日午前2時からの基調講演で明かされる。
いろいろな製品の噂は出ているが、あくまで現時点では「噂」に過ぎない。過去も噂は、製品の発売が近いタイミングのもの以外、当たっていないことも多いので注意が必要だ。
とはいえ、予想できることはあるし、考察できることもある。来週にはすぐ答え合わせができてしまうが、その前に少し予想をしてみよう。
■WWDCは「開発者会議」であって「新製品発表会」ではない
まず、確実に発表されるものから予測しよう。iOS/iPadOS/macOSなど、主力製品のOSは確実に発表される。「それはそうだろう」と思うかもしれないが、これがまず大切だ。
そもそも、WWDCは「開発者会議」だ。ハードウェアの新製品ばかりに注目が集まるが、実のところ、これをアピールすることのほうがまれ。ハードウェアをアピールする時には、それを使うOSやサービスがあっての場合であることが多い。
たとえば、ここ数年のWWDCにおいて、Macの話題が多かったり新製品の発表があったりしたのは、MacのプロセッサーがインテルからAppleシリコンに変わり、開発者の移行を促進する必要があったからだ。今年も新しいMacが出る「かもしれない」が、それはAppleシリコンへの移行とAppleシリコンのパフォーマンスを活かしたアプリのアピール、という側面が強いだろう。
iOSやiPadOSは、今年もある程度変化するだろう。まだ改善ですべき点は多々あるからだ。だが、UIデザインがガラッと変わったり、見たこともない新機能が搭載されたりするタイミングではない、と筆者は予想している。
一方でアップルは、iOSとiPadOSについて、すでに「アクセシビリティ」系の機能アップをアナウンス済みだ。英語向けの機能が多いが、「iPhoneのらくらくホン化」と言われた「シンプル画面化」も含まれ、こちらは日本でも使えるものと思われる。
従来、こうした機能はWWDCの中で発表されることが多かった。だが先に出したということは、それだけWWDCの基調講演で発表するべき内容が多い、という予測が成り立つ。
■アップルは6年前から準備を「公開」していた
そうなると、俄然気になってくるのが「アップルがHMDを出すのではないか」という噂だ。
重ねていうが、この噂が真実か、100%の確証がある情報を筆者は持っていない。ただし「アップルがHMDを作っている」ことは、複数の関係者・競合他社などの取材で確信している。この時期に出てくるのか、確信できないだけだ。
外枠を埋める要素はいくつもある。そもそもアップルは、もう6年以上に渡って「ARやVR」の開発を進めている。iPhone/iPad向けのARフレームワークである「ARKit」が最初に公開されたのは、2017年のWWDCだった。
この時はまだインテルCPU版のMacだったが、HTCと組んで「VRに取り組む」とアナウンスしたこともある。こちらは、その後のプロセッサー戦略などの変化もあってほぼ立ち消えたが、アップルとしてVRにも興味がないわけではないことの証でもある。
ただしARKitが存在する以上、アップルがXR向けプラットフォームを提示するとすれば、「iOS/iPadOSベースで、ARKitを使った機器」と予想するのが自然だろう。
とはいえ、夢のような機械をいきなり作るのは難しい。十分な性能を持ち、快適に動き、画質も良い製品を作るのであれば、現在のHMDの水準を考えると、数百ドルの製品にまとめるのはかなり難しい。どこかで割り切りが必要だ。
そういう「割り切った」製品はすでにいくつもあるが、割り切ったレベルのものなら、アップルはすでに出していたはず。そうでないとすると、「相応に品質にこだわったもの」であり、結果として「高価である」「まだ初期の顧客に向けたものである」と予想するのが必然だ。
■Metaはなぜ急に動いたのか
アップルの外の動きもある。その中でも最も大きいのは、競合になるMetaの動きだ。
Metaは6月1日(現地時間)、同社ブランドHMDの最新モデルとなる「Meta Quest 3」を発表した。価格は国内で7万4800円(アメリカでは499ドル)からとされており、発売は今秋の予定だ。
Meta Quest 3はフルカラーのビデオシースルー機能を内蔵し、周囲の様子を確認しながらゲームや各種作業ができる。そして、GPU性能はQuest 2の倍に向上していて、より精緻なグラフィック描画も可能になる。それでいて、本体の厚みは40%スリムになり、付け心地も向上する。
まさに「次世代機」と言っていい性能向上だが、気になる点もある。それは「今秋発売で、詳細発表は9月27日からのイベントで」とされている点だ。
発売までは最低でも4ヶ月以上あって、詳細も公開されていない。発表は9月でも良かったのではないだろうか? このタイミングで発表したのは、「近々強力なライバルが出てくるから」と考えるのがわかりやすい。
「同じようにカラーでのビデオシースルーと薄型ボディを搭載した強力なライバルが発表されるが、価格面では有利」であったとしよう。ならば、「先に価格とデザインとゲームの存在を打ち出し、牽制をしておきたい」と考えるのではないだろうか?
これはあくまで予測であり、実際には外れるかもしれない。だが、そうした外部要因が揃ったのが、今年のWWDCではある。
WWDCは毎回ロゴが変わる。個人的には「このロゴから深読みをしてもたいてい的外れ」である、というのが過去の経験だ。今回「レンズっぽい見た目」であることに寓意性があるのか否か。答えは、日本時間6月6日午前2時からの基調講演で明かされる。