ガジェット 【連載】佐野正弘のITインサイト 第98回
日本市場攻略に本気の姿勢を見せるXiaomi、厳しい市場環境を乗り越える策とは
2019年末に日本市場に進出して以降、海外メーカーが導入に消極的だったFeliCaに対応したスマートフォンを積極投入し、短期間のうちに携帯大手への端末供給を実現するなど、日本市場で攻めの姿勢を続けてきた中国の大手スマートフォンメーカーであるXiaomi(シャオミ)。
だが2023年は、他のスマートフォンメーカーと同様に、円安や政府によるスマートフォンの値引き規制に苦しめられ、端末のラインナップが急減するなど勢いが失われてきている。
だが一方同年に、日本法人のXiaomi Japanの取締役社長として、携帯電話業界での経験が豊富な日本人の大沼彰氏が就任したことを発表。日本市場をよく知る人物を日本法人の社長に据えたことで、より日本に根差した戦略を取り、本格的な日本市場攻略を進めようとしている。
ではXiaomiは、現在の日本市場をどのように見ており、今後どのような策を持って日本市場を攻略しようとしているのだろうか。「MWC Barcelona 2024」会場で、大沼氏と、Xiaomiの東アジアリージョンジェネラルマネージャーである李剛健氏にグループインタビュー形式で話を聞くことができた。
実は、日本の携帯電話市場は世界的に特殊と言われることが多い。それは、携帯電話会社から通信サービスの契約と一緒に端末を購入することが一般的で、海外では一般的な家電量販店などのオープン市場(いわゆるSIMフリー)で、端末だけを購入する人が少ないからだ。そうした市場の特殊性はXiaomi側も認識しており、李氏も日本市場に即した戦略が必要との認識を示している。
実際、Xiaomiも日本市場参入当初は、オープン市場を主体に事情展開していたが、現在はその方向性を変えて携帯大手との関係を強化。携帯電話会社からの端末販売に力を入れている。李氏も、「今成功を収めているのは、かなりの勉強と試みを重ねた成果だと思っている」と話しており、日本法人だけでなくXiaomi自体も、日本の携帯電話会社の意向に合わせたプロダクトや品質の改善を進めているという。
とはいえ、現状の日本市場は円安と政府によるスマートフォン値引き規制の影響で、どのメーカーにとっても非常に厳しい環境にある。大沼氏も、「今は全てのメーカーにとって厳しい状況だ」と話すが、一方でXiaomiが世界で大きなシェアを獲得しているのは、技術力とコストパフォーマンスに強みがあるからでもあり、その強みを生かしていくことが状況を打開する鍵と見ているようだ。
その具体例として示されたのが、日本で2023年末に発売された「Xiaomi 13T」シリーズである。Xiaomi 13Tシリーズは、ハイエンドモデルに相応しい性能を備えながらも、高いコストパフォーマンスを実現しており、日本でもよい販売成果が出ているとのことだ。
そしてもう1つ、大沼氏が日本市場を勝ち抜く上で重要な存在として挙げているのがIoT製品、要はスマートフォン以外の製品群である。Xiaomiは、スマートフォン以外にも多数の多くの製品群を保有しており、2023年にはロボット掃除機やチューナーレステレビなどを日本市場に投入している。
イヤホンやウェアラブルデバイスなどを提供するスマートフォンメーカーは多く存在するが、家電まで提供しているメーカーは決して多くはない。そうしたXiaomiの独自性を生かし、スマートフォンを軸にしながらも、そこにとどまらない幅広い製品の販売に結びつけてトータルでの売上を伸ばすことが、Xiaomiの重要な戦略のひとつとなっているようだ。
ただ、販売を伸ばす上でも、スマートフォンのラインナップがここ最近減少傾向にあることは気になる。この点について大沼氏は、確かに市場動向に応じてラインナップの増減があると話すが、携帯電話会社への影響や、価格競争力などを考慮しながら、市場の声を聞いてハイエンドからミドル、ローエンドまで顧客に価値を届けられるラインナップを揃えていきたいと話している。今後の市場動向によっては、ラインナップが再び増加する可能性もありそうだ。
ただ、これまでの日本市場向けラインナップを振り返ると、同社のフラグシップモデルが未だ日本市場に投入されていないことも気になる。Xiaomiは今回のMWC Barcelonaに合わせて、ライカカメラと共同開発したカメラを搭載したフラグシップモデル「Xiaomi 14」「Xiaomi 14 Ultra」の世界展開を打ち出しているのだが、こちらも現時点で日本市場への投入は未定だ。
この点について大沼氏は、「 “T” が付かないモデルの投入を目指さないといけない」と、Xiaomi 13Tシリーズのような(フラグシップではない)ハイエンドモデルだけでなく、フラグシップモデルの国内投入に向けた検討を進めていると答えていた。実際の投入に結びつくかどうかは分からないが、日本法人側がフラグシップモデルの投入に向け努力をしていることは確かなようだ。
もうひとつ、販売を伸ばすためにはブランド認知も重要になってくるだろう。Xiaomiは日本市場への参入がかなりの後発で、多くの消費者がブランドを認知しているわけではないことから、日本でのブランド認知をいかに高めるかは、Xiaomiにとって非常に大きな課題だ。
この点について李氏は、「ブランド力向上は総合的な動きが必要だと思う。1、2回のキャンペーンを通じて簡単にできる話ではない」と回答。最も大事なのは、ニーズに合わせた製品やサービスを提供することだが、それと同時に製品のコアとなるセールスポイントに合わせたアプローチをしていきたいとしている。
その実現のためには、日本でのパートナー企業の協力も必要だとしており、携帯電話会社のほか量販店やECサイトなどの協力を得て、ブランド強化を図っていく考えも示していた。大沼氏はそれに加えて、これまで国内で展開しているポップアップショップやファンイベント、そしてSNSでの情報発信など、ユーザーとの直接的な接点をいくつか設けていることにも言及。口コミを通じてブランドを高めることにも力を入れていきたいとしている。
一方で、Xiaomiが海外の多くの国や地域で展開し、ブランド力向上に大きく貢献している実店舗展開についてはどう考えているのだろうか。李氏は、「将来的には作りたいが、今はマーケットを研究している段階」と、市場性の違いもあって、現時点での店舗展開には慎重に考えている様子だ。
そしてもうひとつが、日本市場開拓を進める上で重要になってくるのがサポート体制の強化だ。日本の消費者は世界的に見て、製品の品質だけでなく、サポートに対する要求水準も非常に高いと言われている。Xiaomiの一部製品でもオプション品の在庫がないことなどで、評判を落としたケースが見られるようだ。
それだけに大沼氏も、サポートの強化は「やらないといけない」と回答し、日本のユーザーに合ったサポート体制の改善を図る姿勢を見せている。それが日本だけにとどまらない、Xiaomi全体の製品・サービス品質の向上につながってくることから、日本市場での品質管理やサービスに対しては今後、他の国や地域よりも積極的に投資をしていくとの考えも示されていた。
市場性の違いや品質に対する要求水準の高さ、円安や値引き規制、さらに言えば米中摩擦が少なからず影響している部分があるなど、さまざまな要因を考慮すると、Xiaomiにとって日本が非常に攻略の難しい市場となっていることは間違いない。
だが、それでも日本法人を強化し、現地に根差した戦略を取ろうとしている同社の姿勢からは、日本市場攻略に向けた本気度合いも見えてくる。そうした取り組みが結実してシェア向上につなげられるかどうか、まずは2024年の国内市場に向けた一手を見守りたいところだ。
だが2023年は、他のスマートフォンメーカーと同様に、円安や政府によるスマートフォンの値引き規制に苦しめられ、端末のラインナップが急減するなど勢いが失われてきている。
だが一方同年に、日本法人のXiaomi Japanの取締役社長として、携帯電話業界での経験が豊富な日本人の大沼彰氏が就任したことを発表。日本市場をよく知る人物を日本法人の社長に据えたことで、より日本に根差した戦略を取り、本格的な日本市場攻略を進めようとしている。
ではXiaomiは、現在の日本市場をどのように見ており、今後どのような策を持って日本市場を攻略しようとしているのだろうか。「MWC Barcelona 2024」会場で、大沼氏と、Xiaomiの東アジアリージョンジェネラルマネージャーである李剛健氏にグループインタビュー形式で話を聞くことができた。
■日本市場攻略を目指す、Xiaomiの戦略を聞く
実は、日本の携帯電話市場は世界的に特殊と言われることが多い。それは、携帯電話会社から通信サービスの契約と一緒に端末を購入することが一般的で、海外では一般的な家電量販店などのオープン市場(いわゆるSIMフリー)で、端末だけを購入する人が少ないからだ。そうした市場の特殊性はXiaomi側も認識しており、李氏も日本市場に即した戦略が必要との認識を示している。
実際、Xiaomiも日本市場参入当初は、オープン市場を主体に事情展開していたが、現在はその方向性を変えて携帯大手との関係を強化。携帯電話会社からの端末販売に力を入れている。李氏も、「今成功を収めているのは、かなりの勉強と試みを重ねた成果だと思っている」と話しており、日本法人だけでなくXiaomi自体も、日本の携帯電話会社の意向に合わせたプロダクトや品質の改善を進めているという。
とはいえ、現状の日本市場は円安と政府によるスマートフォン値引き規制の影響で、どのメーカーにとっても非常に厳しい環境にある。大沼氏も、「今は全てのメーカーにとって厳しい状況だ」と話すが、一方でXiaomiが世界で大きなシェアを獲得しているのは、技術力とコストパフォーマンスに強みがあるからでもあり、その強みを生かしていくことが状況を打開する鍵と見ているようだ。
その具体例として示されたのが、日本で2023年末に発売された「Xiaomi 13T」シリーズである。Xiaomi 13Tシリーズは、ハイエンドモデルに相応しい性能を備えながらも、高いコストパフォーマンスを実現しており、日本でもよい販売成果が出ているとのことだ。
そしてもう1つ、大沼氏が日本市場を勝ち抜く上で重要な存在として挙げているのがIoT製品、要はスマートフォン以外の製品群である。Xiaomiは、スマートフォン以外にも多数の多くの製品群を保有しており、2023年にはロボット掃除機やチューナーレステレビなどを日本市場に投入している。
イヤホンやウェアラブルデバイスなどを提供するスマートフォンメーカーは多く存在するが、家電まで提供しているメーカーは決して多くはない。そうしたXiaomiの独自性を生かし、スマートフォンを軸にしながらも、そこにとどまらない幅広い製品の販売に結びつけてトータルでの売上を伸ばすことが、Xiaomiの重要な戦略のひとつとなっているようだ。
ただ、販売を伸ばす上でも、スマートフォンのラインナップがここ最近減少傾向にあることは気になる。この点について大沼氏は、確かに市場動向に応じてラインナップの増減があると話すが、携帯電話会社への影響や、価格競争力などを考慮しながら、市場の声を聞いてハイエンドからミドル、ローエンドまで顧客に価値を届けられるラインナップを揃えていきたいと話している。今後の市場動向によっては、ラインナップが再び増加する可能性もありそうだ。
ただ、これまでの日本市場向けラインナップを振り返ると、同社のフラグシップモデルが未だ日本市場に投入されていないことも気になる。Xiaomiは今回のMWC Barcelonaに合わせて、ライカカメラと共同開発したカメラを搭載したフラグシップモデル「Xiaomi 14」「Xiaomi 14 Ultra」の世界展開を打ち出しているのだが、こちらも現時点で日本市場への投入は未定だ。
この点について大沼氏は、「 “T” が付かないモデルの投入を目指さないといけない」と、Xiaomi 13Tシリーズのような(フラグシップではない)ハイエンドモデルだけでなく、フラグシップモデルの国内投入に向けた検討を進めていると答えていた。実際の投入に結びつくかどうかは分からないが、日本法人側がフラグシップモデルの投入に向け努力をしていることは確かなようだ。
もうひとつ、販売を伸ばすためにはブランド認知も重要になってくるだろう。Xiaomiは日本市場への参入がかなりの後発で、多くの消費者がブランドを認知しているわけではないことから、日本でのブランド認知をいかに高めるかは、Xiaomiにとって非常に大きな課題だ。
この点について李氏は、「ブランド力向上は総合的な動きが必要だと思う。1、2回のキャンペーンを通じて簡単にできる話ではない」と回答。最も大事なのは、ニーズに合わせた製品やサービスを提供することだが、それと同時に製品のコアとなるセールスポイントに合わせたアプローチをしていきたいとしている。
その実現のためには、日本でのパートナー企業の協力も必要だとしており、携帯電話会社のほか量販店やECサイトなどの協力を得て、ブランド強化を図っていく考えも示していた。大沼氏はそれに加えて、これまで国内で展開しているポップアップショップやファンイベント、そしてSNSでの情報発信など、ユーザーとの直接的な接点をいくつか設けていることにも言及。口コミを通じてブランドを高めることにも力を入れていきたいとしている。
一方で、Xiaomiが海外の多くの国や地域で展開し、ブランド力向上に大きく貢献している実店舗展開についてはどう考えているのだろうか。李氏は、「将来的には作りたいが、今はマーケットを研究している段階」と、市場性の違いもあって、現時点での店舗展開には慎重に考えている様子だ。
そしてもうひとつが、日本市場開拓を進める上で重要になってくるのがサポート体制の強化だ。日本の消費者は世界的に見て、製品の品質だけでなく、サポートに対する要求水準も非常に高いと言われている。Xiaomiの一部製品でもオプション品の在庫がないことなどで、評判を落としたケースが見られるようだ。
それだけに大沼氏も、サポートの強化は「やらないといけない」と回答し、日本のユーザーに合ったサポート体制の改善を図る姿勢を見せている。それが日本だけにとどまらない、Xiaomi全体の製品・サービス品質の向上につながってくることから、日本市場での品質管理やサービスに対しては今後、他の国や地域よりも積極的に投資をしていくとの考えも示されていた。
市場性の違いや品質に対する要求水準の高さ、円安や値引き規制、さらに言えば米中摩擦が少なからず影響している部分があるなど、さまざまな要因を考慮すると、Xiaomiにとって日本が非常に攻略の難しい市場となっていることは間違いない。
だが、それでも日本法人を強化し、現地に根差した戦略を取ろうとしている同社の姿勢からは、日本市場攻略に向けた本気度合いも見えてくる。そうした取り組みが結実してシェア向上につなげられるかどうか、まずは2024年の国内市場に向けた一手を見守りたいところだ。