ガジェット【連載】佐野正弘のITインサイト 第91回
スマホ市場のさらなる縮小にNTT法の行方…2024年の携帯電話業界を読む
波乱の幕開けとなった2024年だが、携帯電話業界は2023年から波乱が続いている。国内スマートフォンメーカーの相次ぐ撤退に、NTTドコモの通信品質低下、「1円スマホ」規制、そして業界を二分する騒動となっているNTT法見直し…等々、業界全体に大きな衝撃を与える出来事が相次いだからだ。
それらの波乱が落ち着きを見せていない状況で、年明け早々に能登半島地震が発生、携帯各社は被災地でのインフラ復旧に追われることとなった。携帯各社は当面、被災地の復旧に全力を注ぐことになるだろうが、それが落ち着けば再び業界の懸念事項を巡ってさまざまな動きが出てくるだろう。
では2024年、携帯電話業界はどうなると考えられるだろうか。まず、携帯電話の要となるネットワークに関してだが、災害対応を除けば注目されるのはやはり通信品質ではないだろうか。とりわけNTTドコモは、2023年の通信品質低下で評価を大幅に落としているだけに、その改善に向けた取り組みが引き続き注目されることは間違いない。
だが、年の前半にコロナ禍での制約が残っていた2023年とは違い、2024年は制約のない状態からのスタートとなるため、通信トラフィックは2023年より一層増えることが予想される。それだけに、通信品質の維持はNTTドコモだけでなく、他の競合3社にとっても重要な課題になってくるだろう。
そこで重要な鍵を握るのが、6GHz以下の「サブ6」や、主に30GHz以上の「ミリ波」と呼ばれる、5G向けに割り当てられた周波数帯の活用だ。これらは、1GHz以下のいわゆる「プラチナバンド」などと比べると、帯域幅が非常に広く高速大容量通信に適していることから、急増するトラフィックへの対処に有効とされている。
だが、こうした周波数帯は遠くに飛びにくくカバーできるエリアが狭いことから、広いエリアをカバーするには多数の基地局を設置する必要があり、コストがかかる。それに加えて、サブ6の周波数帯の多くは、衛星通信と干渉するという問題を抱えている。それゆえ、政府主導の料金引き下げで業績が大幅に低下している携帯各社は、これら周波数帯を用いて全面的にエリア展開をすることには、かなりおよび腰だった。
しかしながら、NTTドコモの事例で示された通り、急増するトラフィックへの対処は待ったなしの状況だ。2024年は、活用が進んでいなかったサブ6などの基地局整備を急いでトラフィックを吸収し、通信品質を維持し続けられるかが大きく問われるところだ。
そしてネットワークより深刻なのが、スマートフォン市場である。スマートフォンといえば2023年5月に、国内メーカー3社が相次いで撤退・破綻したことが大きな衝撃を与えたが、その主因ともいえる円安、そして政府による値引き規制の状況は現在も大きく変わっていない。
後者に関してはむしろ、一層厳しくなっている印象さえある。そのことを示しているのが、2023年12月27日に適用された電気通信事業法の一部改正による、いわゆる「1円スマホ」への新たな規制である。端末の元の価格を大きく引き下げることで大幅値引きをする手法が、塞がれてしまったのだ。
そうした状況ながらも、新たな手法で大幅値引きを実現する事例は出てきている。ソフトバンクが2023年12月27日から提供を開始した端末購入プログラム「新トクするサポート(バリュー)」がそれに当たり、従来の「新トクするサポート」と同様に48回払いでスマートフォンを購入してもらいながらも、中古市場での買い取り価格が高い1年を目途に返却し、それに番号ポータビリティによる乗り換えに応じた値引きなどを適用することで、「実質12円」といった大幅値引きを実現するものだ。
ただ、この仕組みで大幅値引きを実現している機種は、先の法改正で新たに定められた値引き額を上限の4万円(税抜以下同様)まで適用できる8万円以上の端末で、なおかつ1年後の端末買い取り価格がある程度高いものに限られている。法改正によって、低価格の端末ほど値引き額の上限が減る仕組みとなったことから、8万円を切るスマートフォンにこの仕組みは適用しづらく、1円スマホのような広がりは考えにくいだろう。
そうしたことから2024年は、円高に転じない限り、2023年以上にスマートフォンの販売が大幅に減少する“氷河期”を迎えることは確実だろう。そのことが、端末メーカーを更なる苦境に追い込み撤退を招くだけでなく、他国に大きく遅れているとされる、5Gの普及にも影を落とすことは間違いない。しかも、それを主導しているのが総務省、ひいては日本政府であるというのが非常に嘆かわしい限りであり、何らかの改善を求めたいところだ。
そして最後に、2023年の大きなトピックとなったNTT法の見直しについても触れておきたい。NTT法を巡っては、すでに政府与党の自由民主党がNTT寄りの提言をまとめていることから、日本電信電話(NTT)の要望をほぼくんだ形で、NTT法の廃止を前提とした見直し議論が進められる可能性が高いと考えられる。
ただ、競合らがNTT法の廃止に猛反対する根拠となっている、NTTが日本電信電話公社だった時代に整備した局舎や管路などの、いわゆる「特別な資産」の扱いに関しては、公正競争や安全保障などの観点から議論の余地が残されている。それゆえ、2024年のNTT法を巡る議論においては、この特別な資産が誰のものになるのか?という点が最大の焦点になるといえ、資産を巡りNTTと競合との間で再び激しい論争が繰り広げられることとなりそうだ。
とはいえ、通信各社だけでなく政府も当面は、能登半島地震からの復旧に向けた対応に注力することが求められるだろうし、ここ最近取り沙汰されている自民党の政治資金問題も少なからず国政に影響してくるだろう。それゆえ、NTT法を巡る議論も当初の想定より遅れる可能性が出てきたといえ、2024年のうちに何らかの方向性が出るかどうか、不透明な状況となりつつあることも気がかりだ。
それらの波乱が落ち着きを見せていない状況で、年明け早々に能登半島地震が発生、携帯各社は被災地でのインフラ復旧に追われることとなった。携帯各社は当面、被災地の復旧に全力を注ぐことになるだろうが、それが落ち着けば再び業界の懸念事項を巡ってさまざまな動きが出てくるだろう。
■2024年 携帯電話業界の行く末。ネットワーク状況や市場推移の変化は?
では2024年、携帯電話業界はどうなると考えられるだろうか。まず、携帯電話の要となるネットワークに関してだが、災害対応を除けば注目されるのはやはり通信品質ではないだろうか。とりわけNTTドコモは、2023年の通信品質低下で評価を大幅に落としているだけに、その改善に向けた取り組みが引き続き注目されることは間違いない。
だが、年の前半にコロナ禍での制約が残っていた2023年とは違い、2024年は制約のない状態からのスタートとなるため、通信トラフィックは2023年より一層増えることが予想される。それだけに、通信品質の維持はNTTドコモだけでなく、他の競合3社にとっても重要な課題になってくるだろう。
そこで重要な鍵を握るのが、6GHz以下の「サブ6」や、主に30GHz以上の「ミリ波」と呼ばれる、5G向けに割り当てられた周波数帯の活用だ。これらは、1GHz以下のいわゆる「プラチナバンド」などと比べると、帯域幅が非常に広く高速大容量通信に適していることから、急増するトラフィックへの対処に有効とされている。
だが、こうした周波数帯は遠くに飛びにくくカバーできるエリアが狭いことから、広いエリアをカバーするには多数の基地局を設置する必要があり、コストがかかる。それに加えて、サブ6の周波数帯の多くは、衛星通信と干渉するという問題を抱えている。それゆえ、政府主導の料金引き下げで業績が大幅に低下している携帯各社は、これら周波数帯を用いて全面的にエリア展開をすることには、かなりおよび腰だった。
しかしながら、NTTドコモの事例で示された通り、急増するトラフィックへの対処は待ったなしの状況だ。2024年は、活用が進んでいなかったサブ6などの基地局整備を急いでトラフィックを吸収し、通信品質を維持し続けられるかが大きく問われるところだ。
そしてネットワークより深刻なのが、スマートフォン市場である。スマートフォンといえば2023年5月に、国内メーカー3社が相次いで撤退・破綻したことが大きな衝撃を与えたが、その主因ともいえる円安、そして政府による値引き規制の状況は現在も大きく変わっていない。
後者に関してはむしろ、一層厳しくなっている印象さえある。そのことを示しているのが、2023年12月27日に適用された電気通信事業法の一部改正による、いわゆる「1円スマホ」への新たな規制である。端末の元の価格を大きく引き下げることで大幅値引きをする手法が、塞がれてしまったのだ。
そうした状況ながらも、新たな手法で大幅値引きを実現する事例は出てきている。ソフトバンクが2023年12月27日から提供を開始した端末購入プログラム「新トクするサポート(バリュー)」がそれに当たり、従来の「新トクするサポート」と同様に48回払いでスマートフォンを購入してもらいながらも、中古市場での買い取り価格が高い1年を目途に返却し、それに番号ポータビリティによる乗り換えに応じた値引きなどを適用することで、「実質12円」といった大幅値引きを実現するものだ。
ただ、この仕組みで大幅値引きを実現している機種は、先の法改正で新たに定められた値引き額を上限の4万円(税抜以下同様)まで適用できる8万円以上の端末で、なおかつ1年後の端末買い取り価格がある程度高いものに限られている。法改正によって、低価格の端末ほど値引き額の上限が減る仕組みとなったことから、8万円を切るスマートフォンにこの仕組みは適用しづらく、1円スマホのような広がりは考えにくいだろう。
そうしたことから2024年は、円高に転じない限り、2023年以上にスマートフォンの販売が大幅に減少する“氷河期”を迎えることは確実だろう。そのことが、端末メーカーを更なる苦境に追い込み撤退を招くだけでなく、他国に大きく遅れているとされる、5Gの普及にも影を落とすことは間違いない。しかも、それを主導しているのが総務省、ひいては日本政府であるというのが非常に嘆かわしい限りであり、何らかの改善を求めたいところだ。
そして最後に、2023年の大きなトピックとなったNTT法の見直しについても触れておきたい。NTT法を巡っては、すでに政府与党の自由民主党がNTT寄りの提言をまとめていることから、日本電信電話(NTT)の要望をほぼくんだ形で、NTT法の廃止を前提とした見直し議論が進められる可能性が高いと考えられる。
ただ、競合らがNTT法の廃止に猛反対する根拠となっている、NTTが日本電信電話公社だった時代に整備した局舎や管路などの、いわゆる「特別な資産」の扱いに関しては、公正競争や安全保障などの観点から議論の余地が残されている。それゆえ、2024年のNTT法を巡る議論においては、この特別な資産が誰のものになるのか?という点が最大の焦点になるといえ、資産を巡りNTTと競合との間で再び激しい論争が繰り広げられることとなりそうだ。
とはいえ、通信各社だけでなく政府も当面は、能登半島地震からの復旧に向けた対応に注力することが求められるだろうし、ここ最近取り沙汰されている自民党の政治資金問題も少なからず国政に影響してくるだろう。それゆえ、NTT法を巡る議論も当初の想定より遅れる可能性が出てきたといえ、2024年のうちに何らかの方向性が出るかどうか、不透明な状況となりつつあることも気がかりだ。