【連載】佐野正弘のITインサイト 第48回
「メタバース」「Web3」に力を注ぐ携帯電話会社、その鍵はプロデュース力にあり
ここ数年で急速に注目を集めるようになった、仮想空間上でコミュニケーションなどをしながら過ごすことができる「メタバース」や、ブロックチェーン技術を活用した「Web3」(Web3.0)などの技術。そしてここ最近、これらの技術に携帯電話会社が積極的に取り組んでいるようで、2023年3月に入ると携帯各社からメタバースやWeb3に関する大きな発表が相次いでいる。
その1社がソフトバンクであり、同社は先日3月7日にメタバースに関連する3つの発表を実施している。同社は既に、韓国のNAVER Z Corporationが提供するメタバースサービス「ZEPETO」上でソフトバンクショップを展開するなど、メタバースに関するいくつかの取り組みを実施しているが、企業や自治体などから多くの関心が寄せられる一方、集客やマネタイズなどに課題があったという。
そこで新たな取り組みの1つとして、ZEPETO上で展開しているソフトバンクショップをリニューアル、イベントの開催に活用しやすいスペースなどを新たに設けることにより、企業などが低コストでイベントを実施できるようにした。そして2つ目の取り組みが、「ZEP」を活用したイベントなどの展開である。
ZEPは、韓国のZEP社が展開するメタバースサービスの1つで、韓国ではサービス開始8カ月で300万のユーザー数を獲得しているとのこと。他のメタバースサービスとは違って2Dのグラフィックで構成されていることから、いわゆる「Z世代」の利用が主となるZEPETOとは違って、利用者層の幅が広いのに加え、用途に応じた空間の拡張がしやすいことなどのメリットがあることから、こちらを活用してのメタバースのイベントや店舗展開などにも重点を置く方針のようだ。
そしてもう1つが、「NFT LAB」の展開だ。これはその名前の通り、ブロックチェーン技術などを用いて価値が保証されたデジタルデータ「NFT」(Non-Fungible Token、非代替性トークン)を扱うマーケットで、ソフトバンクの実質的傘下にあるLINE社らが設立した、LINE Xenesisが持つプラットフォームを活用することで、LINE IDを用いてNFTの売買を手軽にできる仕組みを提供するとしており、それを各種メタバースサービスと連携することでマネタイズを進めていく考えのようだ。
KDDIもまた、3月7日にメタバースやWeb3技術を活用したサービスを「αU」というブランドで提供していくことを発表、メタバースやWeb3に注力する姿勢を見せている。αUブランドではリアルとバーチャルの境界線がなくなり、仮想空間上でライブやコミュニケーション、ショッピングなどに至るまで、日常体験をいつでも楽しめることを目指していくとのことで、その実現に向けて今回いくつかのサービスを新たに提供することを打ち出している。
その1つが、メタバース空間でコミュニケーションなどができるサービス「αU metaverse」だ。同社はこれまでにも、「バーチャル渋谷」「バーチャル大阪」など自治体と連携したメタバース空間を提供してきたが、αU metaverseはそれをさらに発展させたものとなるようで、仮想空間上の東京・渋谷や大阪の街中でコミュニケーションをしたり、ライブなどを楽しんだりできるという。
2つ目が、360度の自由視点で高精細なライブ映像を楽しめる「αU live」で、リアル・バーチャル問わずさまざまなアーティストのパフォーマンスを楽しめるという。3つ目が「αU place」で、Eコマースと連動しながらバーチャル空間上で現実と同じような感覚で買い物体験ができるものになるとのことだ。
そして4つ目が「αU market」、5つ目が「αU wallet」となる。これらはいずれもNFTに関連するサービスで、前者がNFTのデジタルデータの取引ができるマーケット、後者がそれを売買する暗号資産を管理するウォレットとなり、汎用性を重視してNFTで広く使われている「Polygon」のブロックチェーンを用いる一方、利用ハードルが高いNFTの取引をより簡単にできるようにすることに重点を置く方針のようだ。
ソフトバンクが、他社のメタバースサービスの活用に重点を置く一方、KDDIはさまざまな企業と連携しながらも、自社でサービス開発していることから戦略にはいくつか違いも見られるのだが、いずれもメタバース空間を積極活用し、イベントやライブ、NFTの取引などでビジネス化を推し進めようとしている点は共通している。だがそもそもなぜ、携帯電話会社がメタバースやWeb3にこれほど積極的なのか?という点には疑問も残るところだろう。
実は、3月2日までスペイン・バルセロナで実施されていた「MWC Barcelona 2023」で、筆者はNTTコノキューの代表取締役社長である丸山誠治氏に話を聞く機会があった。ちなみにNTTコノキューは、NTTドコモが2022年10月に設立されたXR関連事業を担う子会社であり、NTTドコモが600億円という巨額の投資をすることを明らかにしたことでも話題となった企業だ。
その中で丸山氏が話していたのは、携帯電話会社が総合的にサービスを展開できる立場にあることが、メタバースのサービスを提供する上で重要な意味を持つということだ。確かに日本の携帯電話会社は、単に通信サービスを提供するのではなく、通信だけでなくデバイスやサービスを総合的に組み合わせて幅広い顧客が満足できるサービスを提供する、ある意味プロデューサー的なポジションを獲得している。
そこでメタバースや、Web3のような先進的で尖ったサービスを幅広い顧客に提供する上でも、総合的な立場で通信とデバイス、そしてサービスを先導していける携帯電話会社の強みが生きると見ているようだ。確かに、現在のメタバースやWeb3に関連するサービスは、非常に詳しい知識を持つ先進層の間では大きな盛り上がりを見せている一方、利用する上での敷居が高く、それ以外の一般層との乖離が激しい状況にある。
そうした先進層と一般層の間を埋め、より大きなビジネスにしていく上では、携帯電話会社が入り込む余地が大きいと判断したことで、各社が注力するに至ったといえそうだ。だが、米メタ・プラットフォームズのような巨大IT企業が積極的に投資をしてもなお、メタバースなどの急速な普及にはなかなか結びついていないこともまた確かで、ビジネスには難しさを伴う印象を受ける。
丸山氏はその原因について、現状のメタバースを取り巻く環境から「想像しているよりも通信やデバイスの実力が足りていない」との見解を示すが、一方で今後の技術進化によって「必ずあるところでブレイクすると思う」とも話している。ただその時期を見通すのは難しく、豊富な資金を持つとはいえ、携帯電話会社が成功まで投資を続けられるのか? という疑問も残る。
だが丸山氏は、メタバースなどはコンシューマー向けのサービスだけが全てではない様子も見せている。なぜなら、実際コンシューマー向けのビジネスが立ち上がっていない状況下でも、企業向けのメタバース関連ビジネスは既に立ち上がっているからだ。実際同社の場合、企業などが自身の仮想空間を手軽に作成できるプラットフォーム「DOOR」を提供しており、これを活用して企業が仮想空間上での展示会やライブなどを展開するケースが増えているとのこと。
ソフトバンクの事例でも触れたように、メタバースなどに対する企業や自治体の関心は高く活用したいというニーズは大きい。そこで当面は、法人向けの事業に重点を置き収益の主軸としながら、コンシューマー向けのサービスやデバイスなどに対する投資を続けて、市場の立ち上がりを待つというのが携帯各社の戦略ということになりそうだ。
実際丸山氏も、2023年の夏以降には課題の1つとなっているXRデバイスに関して、同社が開発しているプロトタイプを披露したいと話すなど、この事業への強い自信も示していた。
ここ最近の動向を見るに、メタバースやWeb3からいわゆる「生成系AI」へとIT先進層の関心は移りつつあるようだが、携帯各社がメタバースやWeb3に向けて積極的に取り組み、その敷居を下げ一般化を進めようという動きは今後より本格化することになりそうだ。
■携帯各社から相次ぐメタバース関連の取り組み
その1社がソフトバンクであり、同社は先日3月7日にメタバースに関連する3つの発表を実施している。同社は既に、韓国のNAVER Z Corporationが提供するメタバースサービス「ZEPETO」上でソフトバンクショップを展開するなど、メタバースに関するいくつかの取り組みを実施しているが、企業や自治体などから多くの関心が寄せられる一方、集客やマネタイズなどに課題があったという。
そこで新たな取り組みの1つとして、ZEPETO上で展開しているソフトバンクショップをリニューアル、イベントの開催に活用しやすいスペースなどを新たに設けることにより、企業などが低コストでイベントを実施できるようにした。そして2つ目の取り組みが、「ZEP」を活用したイベントなどの展開である。
ZEPは、韓国のZEP社が展開するメタバースサービスの1つで、韓国ではサービス開始8カ月で300万のユーザー数を獲得しているとのこと。他のメタバースサービスとは違って2Dのグラフィックで構成されていることから、いわゆる「Z世代」の利用が主となるZEPETOとは違って、利用者層の幅が広いのに加え、用途に応じた空間の拡張がしやすいことなどのメリットがあることから、こちらを活用してのメタバースのイベントや店舗展開などにも重点を置く方針のようだ。
そしてもう1つが、「NFT LAB」の展開だ。これはその名前の通り、ブロックチェーン技術などを用いて価値が保証されたデジタルデータ「NFT」(Non-Fungible Token、非代替性トークン)を扱うマーケットで、ソフトバンクの実質的傘下にあるLINE社らが設立した、LINE Xenesisが持つプラットフォームを活用することで、LINE IDを用いてNFTの売買を手軽にできる仕組みを提供するとしており、それを各種メタバースサービスと連携することでマネタイズを進めていく考えのようだ。
KDDIもまた、3月7日にメタバースやWeb3技術を活用したサービスを「αU」というブランドで提供していくことを発表、メタバースやWeb3に注力する姿勢を見せている。αUブランドではリアルとバーチャルの境界線がなくなり、仮想空間上でライブやコミュニケーション、ショッピングなどに至るまで、日常体験をいつでも楽しめることを目指していくとのことで、その実現に向けて今回いくつかのサービスを新たに提供することを打ち出している。
その1つが、メタバース空間でコミュニケーションなどができるサービス「αU metaverse」だ。同社はこれまでにも、「バーチャル渋谷」「バーチャル大阪」など自治体と連携したメタバース空間を提供してきたが、αU metaverseはそれをさらに発展させたものとなるようで、仮想空間上の東京・渋谷や大阪の街中でコミュニケーションをしたり、ライブなどを楽しんだりできるという。
2つ目が、360度の自由視点で高精細なライブ映像を楽しめる「αU live」で、リアル・バーチャル問わずさまざまなアーティストのパフォーマンスを楽しめるという。3つ目が「αU place」で、Eコマースと連動しながらバーチャル空間上で現実と同じような感覚で買い物体験ができるものになるとのことだ。
そして4つ目が「αU market」、5つ目が「αU wallet」となる。これらはいずれもNFTに関連するサービスで、前者がNFTのデジタルデータの取引ができるマーケット、後者がそれを売買する暗号資産を管理するウォレットとなり、汎用性を重視してNFTで広く使われている「Polygon」のブロックチェーンを用いる一方、利用ハードルが高いNFTの取引をより簡単にできるようにすることに重点を置く方針のようだ。
ソフトバンクが、他社のメタバースサービスの活用に重点を置く一方、KDDIはさまざまな企業と連携しながらも、自社でサービス開発していることから戦略にはいくつか違いも見られるのだが、いずれもメタバース空間を積極活用し、イベントやライブ、NFTの取引などでビジネス化を推し進めようとしている点は共通している。だがそもそもなぜ、携帯電話会社がメタバースやWeb3にこれほど積極的なのか?という点には疑問も残るところだろう。
■メタバースサービス活用に積極的な理由
実は、3月2日までスペイン・バルセロナで実施されていた「MWC Barcelona 2023」で、筆者はNTTコノキューの代表取締役社長である丸山誠治氏に話を聞く機会があった。ちなみにNTTコノキューは、NTTドコモが2022年10月に設立されたXR関連事業を担う子会社であり、NTTドコモが600億円という巨額の投資をすることを明らかにしたことでも話題となった企業だ。
その中で丸山氏が話していたのは、携帯電話会社が総合的にサービスを展開できる立場にあることが、メタバースのサービスを提供する上で重要な意味を持つということだ。確かに日本の携帯電話会社は、単に通信サービスを提供するのではなく、通信だけでなくデバイスやサービスを総合的に組み合わせて幅広い顧客が満足できるサービスを提供する、ある意味プロデューサー的なポジションを獲得している。
そこでメタバースや、Web3のような先進的で尖ったサービスを幅広い顧客に提供する上でも、総合的な立場で通信とデバイス、そしてサービスを先導していける携帯電話会社の強みが生きると見ているようだ。確かに、現在のメタバースやWeb3に関連するサービスは、非常に詳しい知識を持つ先進層の間では大きな盛り上がりを見せている一方、利用する上での敷居が高く、それ以外の一般層との乖離が激しい状況にある。
そうした先進層と一般層の間を埋め、より大きなビジネスにしていく上では、携帯電話会社が入り込む余地が大きいと判断したことで、各社が注力するに至ったといえそうだ。だが、米メタ・プラットフォームズのような巨大IT企業が積極的に投資をしてもなお、メタバースなどの急速な普及にはなかなか結びついていないこともまた確かで、ビジネスには難しさを伴う印象を受ける。
丸山氏はその原因について、現状のメタバースを取り巻く環境から「想像しているよりも通信やデバイスの実力が足りていない」との見解を示すが、一方で今後の技術進化によって「必ずあるところでブレイクすると思う」とも話している。ただその時期を見通すのは難しく、豊富な資金を持つとはいえ、携帯電話会社が成功まで投資を続けられるのか? という疑問も残る。
だが丸山氏は、メタバースなどはコンシューマー向けのサービスだけが全てではない様子も見せている。なぜなら、実際コンシューマー向けのビジネスが立ち上がっていない状況下でも、企業向けのメタバース関連ビジネスは既に立ち上がっているからだ。実際同社の場合、企業などが自身の仮想空間を手軽に作成できるプラットフォーム「DOOR」を提供しており、これを活用して企業が仮想空間上での展示会やライブなどを展開するケースが増えているとのこと。
ソフトバンクの事例でも触れたように、メタバースなどに対する企業や自治体の関心は高く活用したいというニーズは大きい。そこで当面は、法人向けの事業に重点を置き収益の主軸としながら、コンシューマー向けのサービスやデバイスなどに対する投資を続けて、市場の立ち上がりを待つというのが携帯各社の戦略ということになりそうだ。
実際丸山氏も、2023年の夏以降には課題の1つとなっているXRデバイスに関して、同社が開発しているプロトタイプを披露したいと話すなど、この事業への強い自信も示していた。
ここ最近の動向を見るに、メタバースやWeb3からいわゆる「生成系AI」へとIT先進層の関心は移りつつあるようだが、携帯各社がメタバースやWeb3に向けて積極的に取り組み、その敷居を下げ一般化を進めようという動きは今後より本格化することになりそうだ。