【連載】佐野正弘のITインサイト 第46回
総務省が推進する、周波数オークションで5Gの“厄介者”ミリ波の活用は進むか
携帯電話で使用する電波は国の重要な資産であり、携帯電話事業者のように電波を利用して事業をするには、国から使用する周波数の免許を割り当ててもらう必要がある。日本ではその審査方法として、さまざまな基準を設けて各社が提出する資料を基に審査をし、割り当てを決める「比較審査」という方式が用いられてきた。
だが諸外国で現在主流となっているのは、より多くのお金を入札した企業が免許を落札する「周波数オークション」方式を用いて審査がなされている。携帯電話が非常に大きな産業となったことから、電波が大きな経済的価値を持ったことが導入の背景にあるようで、行政側からしてみれば審査の公平性が担保できることや、落札費用が新たな収入源になるなどのメリットがあるため、多くの国で採用が進んでいる。
ただ、携帯電話事業者側からすれば、周波数オークションは落札額が高騰することで支出が増え、免許獲得後の基地局整備に影響が出る可能性があるのに加え、ある意味お金にモノを言わせて免許を買い占める可能性が出てくるなど、デメリットが多い仕組みでもある。そうしたことから国内の携帯電話会社は、周波数オークションの導入に従来否定的な姿勢を取っていた。
だが、2021年から総務省で進められた議論の上、周波数オークションを選択できるよう検討を進めるべきとの結論が打ち出されている。それゆえ、今後周波数オークションが導入されることは確実と見られているのだが、一方で全ての周波数帯の免許割り当てにオークション方式が導入されるわけでもないようだ。
というのも総務省は、28GHz以上の「ミリ波」など高い周波数帯や、他の無線システムとの周波数共用が必要な周波数帯に限って、免許割り当て時に一定の条件を課す「条件付きオークション」を選択できるようにするとしている。楽天モバイルと他の3社が再割り当てを巡って喧々諤々の議論を繰り広げた、プラチナバンドなどがもしオークションの対象となれば、落札額の高騰が目に見えていることからそうした事態を避けたい狙いがあるのでは?と思われるかもしれないが、総務省の狙いは別のところにあるようだ。
それは、ミリ波などの有効活用を促すためである。電波は周波数が高いほど障害物の裏に回り込みにくいので遮られやすく、減衰もしやすいことから遠くに飛びにくいとされている。それゆえ、ミリ波のような従来よりも非常に高い周波数帯は一層遠くに飛びにくく、広い場所をカバーするのに向かないことから、プラチナバンドや、5Gで新たに割り当てられた「サブ6」と呼ばれる6GHz以下の周波数帯と比べ非常に扱いにくいのだ。
それゆえ携帯電話会社は、ミリ波の基地局整備に消極的で、基地局整備が進まないことから対応する端末も増えず、利用も進まないという悪循環に陥っている。実際、総務省が2月8日に公表した「令和4年度携帯電話及び全国BWAに係る電波の利用状況調査の調査結果の概要」を見ると、トラフィックに占めるミリ波の割合は各社ともに限りなくゼロに近い状況で、5Gのサービスが始まって3年近く経過してもなおミリ波が全く使われていない様子が見えてくる。
このように、携帯電話会社の間では現状、ミリ波で広いエリアをカバーするのは困難との認識が強いことから、ミリ波の免許割り当て条件として従来の基準通り日本全国をくまなくカバーすることを求めると、割り当て後にその条件を満たせなくなるケースが多発する可能性がある。実際、韓国ではミリ波の免許割り当て後、基地局整備が進まず割り当て時の条件を満たせなかったことから、3社のうち2社が免許を取り消される事態にまで至っている。
そうしたことからミリ波などの活用を進めるには、課題となっているエリアカバーの条件を緩め、人が多く集まる場所に限定しての利用や、イベントなど多くの人が集まる時に一時的に利用するなど、より柔軟に使えるようにすることが求められる。そこで、免許割り当ての際にエリアカバーの条件を、従来と大きく変えて広域をカバーすることを求めない代わりに、経済的価値に重点を置いて審査をするべく周波数オークションを用いたい、というのが総務省の考えであるようだ。
周波数オークションの導入がミリ波などに限定されたことから、当初導入に反対したり、慎重な姿勢を示したりしていた携帯各社もおおむね賛同の姿勢を示すようになってきた印象を受ける。周波数オークションの導入に、猛反対の姿勢を示していた新興の楽天モバイルも、後発事業者への配慮を求めながらもミリ波への周波数オークション導入に明確に反対する姿勢は見せていない。
ゆえに今後、周波数オークションの導入に向けては大きな波乱なく議論と準備が進められる可能性が高いだろう。総務省としては、2025年度末までにサブ6の4.9GHz帯とミリ波の40GHz帯、26GHz帯を割り当てる予定をしており、その時までに周波数オークションの制度設計をしておきたいようだ。
もちろん、ミリ波をより広い範囲で利用できるようにするための技術開発は、現在も積極的に進められている。NTTドコモが2月2日から実施している、同社の先進技術を披露するイベント「docomo Open House’23」でも、従来より小型かつ低コストで360度全方位をカバーできる屋内基地局向けの「マルチセクタアンテナ」や、屋内基地局の電波をビルの真下に届ける「透過型メタサーフェス」など、ミリ波の有効活用に向けたいくつかの技術が披露されていた。
加えて、ミリ波は周波数帯域の空きが広い分、サブ6より一層高速通信ができるなどのメリットがあり、将来必要不可欠な存在になるという認識は官民ともに共通している。だがその将来いつなのか?という点は見えておらず、新しい技術が導入されミリ波が広く活用されるには、まだ時間がかかることも確かなようだ。
新しい免許割り当て時までにミリ波などを有効活用する術がなければ、どの会社も割り当てに手を挙げず周波数オークションが有効に機能しないという可能性も十分あり得るだろう。ミリ波を巡っては携帯各社だけでなく、行政側も頭を悩ませる日々がしばらく続くこととなりそうだ。
■国外で主流の「周波数オークション」方式を用いる審査
だが諸外国で現在主流となっているのは、より多くのお金を入札した企業が免許を落札する「周波数オークション」方式を用いて審査がなされている。携帯電話が非常に大きな産業となったことから、電波が大きな経済的価値を持ったことが導入の背景にあるようで、行政側からしてみれば審査の公平性が担保できることや、落札費用が新たな収入源になるなどのメリットがあるため、多くの国で採用が進んでいる。
ただ、携帯電話事業者側からすれば、周波数オークションは落札額が高騰することで支出が増え、免許獲得後の基地局整備に影響が出る可能性があるのに加え、ある意味お金にモノを言わせて免許を買い占める可能性が出てくるなど、デメリットが多い仕組みでもある。そうしたことから国内の携帯電話会社は、周波数オークションの導入に従来否定的な姿勢を取っていた。
だが、2021年から総務省で進められた議論の上、周波数オークションを選択できるよう検討を進めるべきとの結論が打ち出されている。それゆえ、今後周波数オークションが導入されることは確実と見られているのだが、一方で全ての周波数帯の免許割り当てにオークション方式が導入されるわけでもないようだ。
というのも総務省は、28GHz以上の「ミリ波」など高い周波数帯や、他の無線システムとの周波数共用が必要な周波数帯に限って、免許割り当て時に一定の条件を課す「条件付きオークション」を選択できるようにするとしている。楽天モバイルと他の3社が再割り当てを巡って喧々諤々の議論を繰り広げた、プラチナバンドなどがもしオークションの対象となれば、落札額の高騰が目に見えていることからそうした事態を避けたい狙いがあるのでは?と思われるかもしれないが、総務省の狙いは別のところにあるようだ。
それは、ミリ波などの有効活用を促すためである。電波は周波数が高いほど障害物の裏に回り込みにくいので遮られやすく、減衰もしやすいことから遠くに飛びにくいとされている。それゆえ、ミリ波のような従来よりも非常に高い周波数帯は一層遠くに飛びにくく、広い場所をカバーするのに向かないことから、プラチナバンドや、5Gで新たに割り当てられた「サブ6」と呼ばれる6GHz以下の周波数帯と比べ非常に扱いにくいのだ。
それゆえ携帯電話会社は、ミリ波の基地局整備に消極的で、基地局整備が進まないことから対応する端末も増えず、利用も進まないという悪循環に陥っている。実際、総務省が2月8日に公表した「令和4年度携帯電話及び全国BWAに係る電波の利用状況調査の調査結果の概要」を見ると、トラフィックに占めるミリ波の割合は各社ともに限りなくゼロに近い状況で、5Gのサービスが始まって3年近く経過してもなおミリ波が全く使われていない様子が見えてくる。
このように、携帯電話会社の間では現状、ミリ波で広いエリアをカバーするのは困難との認識が強いことから、ミリ波の免許割り当て条件として従来の基準通り日本全国をくまなくカバーすることを求めると、割り当て後にその条件を満たせなくなるケースが多発する可能性がある。実際、韓国ではミリ波の免許割り当て後、基地局整備が進まず割り当て時の条件を満たせなかったことから、3社のうち2社が免許を取り消される事態にまで至っている。
そうしたことからミリ波などの活用を進めるには、課題となっているエリアカバーの条件を緩め、人が多く集まる場所に限定しての利用や、イベントなど多くの人が集まる時に一時的に利用するなど、より柔軟に使えるようにすることが求められる。そこで、免許割り当ての際にエリアカバーの条件を、従来と大きく変えて広域をカバーすることを求めない代わりに、経済的価値に重点を置いて審査をするべく周波数オークションを用いたい、というのが総務省の考えであるようだ。
周波数オークションの導入がミリ波などに限定されたことから、当初導入に反対したり、慎重な姿勢を示したりしていた携帯各社もおおむね賛同の姿勢を示すようになってきた印象を受ける。周波数オークションの導入に、猛反対の姿勢を示していた新興の楽天モバイルも、後発事業者への配慮を求めながらもミリ波への周波数オークション導入に明確に反対する姿勢は見せていない。
ゆえに今後、周波数オークションの導入に向けては大きな波乱なく議論と準備が進められる可能性が高いだろう。総務省としては、2025年度末までにサブ6の4.9GHz帯とミリ波の40GHz帯、26GHz帯を割り当てる予定をしており、その時までに周波数オークションの制度設計をしておきたいようだ。
もちろん、ミリ波をより広い範囲で利用できるようにするための技術開発は、現在も積極的に進められている。NTTドコモが2月2日から実施している、同社の先進技術を披露するイベント「docomo Open House’23」でも、従来より小型かつ低コストで360度全方位をカバーできる屋内基地局向けの「マルチセクタアンテナ」や、屋内基地局の電波をビルの真下に届ける「透過型メタサーフェス」など、ミリ波の有効活用に向けたいくつかの技術が披露されていた。
加えて、ミリ波は周波数帯域の空きが広い分、サブ6より一層高速通信ができるなどのメリットがあり、将来必要不可欠な存在になるという認識は官民ともに共通している。だがその将来いつなのか?という点は見えておらず、新しい技術が導入されミリ波が広く活用されるには、まだ時間がかかることも確かなようだ。
新しい免許割り当て時までにミリ波などを有効活用する術がなければ、どの会社も割り当てに手を挙げず周波数オークションが有効に機能しないという可能性も十分あり得るだろう。ミリ波を巡っては携帯各社だけでなく、行政側も頭を悩ませる日々がしばらく続くこととなりそうだ。