【連載】佐野正弘のITインサイト 第44回
KDDIとソフトバンクが提供を表明、大きく動き出した非常時の予備回線サービス
昨年、社会的にも非常に大きな影響を与えたKDDIの大規模通信障害を受けて、モバイル通信で通信障害が発生した時の代替通信手段をいかに確保するかという取り組みが急加速している。総務省で議論が進められている「非常時ローミング」もその1つだが、民間企業の側でもさまざまな対応が進められつつある。
その大きな施策として注目されているのが、携帯電話会社同士が相互にネットワークを提供し、他社回線を用いたバックアップ回線サービスを提供するというもの。既にいくつかの携帯電話会社のトップが、バックアップ回線提供に向け前向きな発言をしていたが、中でも大きな動きを見せたのがKDDIとソフトバンクの2社である。
実際2社は2月2日に、通信障害・災害時の備えとして他社網を利用可能な通信サービスを提供すると発表。KDDIはソフトバンク、ソフトバンクはKDDIの回線を用いた非常時の予備回線サービスを提供するとしている。その詳細は、サービス提供時に改めて発表するとのことだが、2月前半に相次いで実施された2社の決算説明会で、概要はある程度明らかにされている。
最も気になるのは、その料金だろう。両社ともにサービスは有料で提供するとしているが、具体的には月額数百円程度、ソフトバンクの代表取締役社長執行役員兼CEOである宮川潤一氏は、「数百円のより下の方」を目指すとのことで、それほど高い料金にはならないようだ。
ただこの料金は、あくまでサービスを利用するためのベースの料金となるようで、KDDIの代表取締役社長である高橋誠氏によると、通信障害が発生した時に通信するには、別途追加料金を支払うかたちが想定されているという。月額料金がかかる点は異なるが、イメージとしてはKDDIが提供している「povo 2.0」に近い内容になるといえそうだ。
そして提供形態だが、通常の回線を提供するSIMに加え、他社回線を用いたもう1つのSIMを提供し、1台のスマートフォンに2つのSIMを挿入して同時に利用する「デュアルSIM」の仕組みを活用したものとなるようだ。SIMは物理SIMとeSIMのどちらかを選ぶことができ、iPhoneシリーズのように物理SIMとeSIMのデュアルSIMを採用した端末にも対応可能と考えられる。
提供時期は3月下旬頃を目指すとしており、両社ともにサービス提供に向け急ピッチで準備を進めているとのこと。通信障害の発生から1年に満たない期間で、サービス提供に至ったことはかなりのスピード感といえるが、2社のトップはその実現に至る舞台裏にも言及している。
高橋氏は、当初実現に向け担当者ベースでの話し合いを進めていたが、時間がかかると判断して高橋氏自らが各社トップに直談判しに行ったとのこと。楽天モバイルは、同社とのローミングで広範囲をカバーしているという事情もあり、まずはNTTドコモとソフトバンクの2社と話し合いを進めたというが、中でも宮川氏は以前からデュアルSIMを活用した予備回線サービスの提供を訴えていた。そこで高橋氏は宮川氏に「本気でやるかどうか」と問い、それに「ぜひ」と答えたことで早期実現に至ったのだという。
ただここで多くの人が疑問を持つのは、KDDI回線利用者以外はpovo 2.0で十分なのでは?ということではないだろうか。2社が提供予定のサービスは月額料金がかかるが、povo 2.0は基本的に月額料金がかからないからだ。実際、既にpovo 2.0をバックアップ回線として契約しているユーザーも少なからずいるという。
だがpovo 2.0は、元々10・20代をターゲットとしたオンライン専用のサービスで、契約や利用にはスマートフォンやインターネットを扱う一定のスキルが求められる。スマートフォンを使い始めたシニアなどが、povo 2.0を契約してeSIMに登録するというのは相当ハードルが高く、利用できる層が限定されてしまうのが弱点だ。
実際宮川氏も、今回のサービスは携帯各社のショップで提供されることが重要だとしている。スマートフォンに詳しい知識を持たない人にもバックアップ回線を提供するというのが、今回の取り組みの意義といえるのではないだろうか。
そして非常時のバックアップ回線を提供するという動きは、携帯大手だけにとどまらないものとなっている。実際、「mineo」ブランドでモバイル通信サービスを提供するMVNO大手のオプテージも、バックアップ回線の利用を意識した料金プランを新たに打ち出している。
それは、1月31日に発表された「マイそく スーパーライト」というもの。これは月額250円で利用できる料金プランなのだが、利用できるのは従量制の通話と最大32kbpsのデータ通信のみ。実際にはpovo 2.0同様、オプションを組み合わせて利用するスタイルが取られており、同時に提供が発表された「10分通話パック」(月額110円)を利用すれば、月額360円で10分間の通話が可能と、ライトな通話ニーズに応えられるという。
そして、「24時間データ使い放題」(1回当たり330円)を利用すれば、通信障害が起きたときだけ1日当たり330円を追加してバックアップ用途として活用できる。mineoはNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社回線のうちいずれかを選ぶことができ、KDDI回線に加え、2月22日にはNTTドコモ回線もeSIMでの利用が可能になる予定だ。携帯4社のうちどの回線を利用していても対応しやすいのは、MVNOならではのメリットといえるだろう。
通信障害はどの企業にも起きるものだけに、KDDIとソフトバンクだけでなく、NTTドコモや楽天モバイルも今後バックアップ回線の提供に向け何らかの動きを見せてくるだろうし、低価格領域に重点を置くMVNOも、バックアップ用途のサービスに力を入れる動きが広がるものと考えられる。一方で、携帯各社のサービスの価格設定によってはMVNOのビジネス機会を奪うのでは、との声も出ていることから、まずは2社のバックアップ回線サービスがどのような料金体系で提供されるのかが注目されるだろう。
政府主導で進められている非常時ローミングも、通信障害に対しては決して万能というわけではない。実際総務省も、「非常時における事業者間ローミング等に関する検討会」の第1次報告書で、非常時ローミングによらない通信手段の利用を推進するとしており、デュアルSIMを用いたサービスも過度な料金負担とならなければ、多様なサービスの提供を期待するとしている。
課題はいくつかあるだろうが、非常時の予備回線サービスが広がることは歓迎されて然るべきではないだろうか。
■注目を集める、携帯電話各社のバックアップ回線の提供
その大きな施策として注目されているのが、携帯電話会社同士が相互にネットワークを提供し、他社回線を用いたバックアップ回線サービスを提供するというもの。既にいくつかの携帯電話会社のトップが、バックアップ回線提供に向け前向きな発言をしていたが、中でも大きな動きを見せたのがKDDIとソフトバンクの2社である。
実際2社は2月2日に、通信障害・災害時の備えとして他社網を利用可能な通信サービスを提供すると発表。KDDIはソフトバンク、ソフトバンクはKDDIの回線を用いた非常時の予備回線サービスを提供するとしている。その詳細は、サービス提供時に改めて発表するとのことだが、2月前半に相次いで実施された2社の決算説明会で、概要はある程度明らかにされている。
最も気になるのは、その料金だろう。両社ともにサービスは有料で提供するとしているが、具体的には月額数百円程度、ソフトバンクの代表取締役社長執行役員兼CEOである宮川潤一氏は、「数百円のより下の方」を目指すとのことで、それほど高い料金にはならないようだ。
ただこの料金は、あくまでサービスを利用するためのベースの料金となるようで、KDDIの代表取締役社長である高橋誠氏によると、通信障害が発生した時に通信するには、別途追加料金を支払うかたちが想定されているという。月額料金がかかる点は異なるが、イメージとしてはKDDIが提供している「povo 2.0」に近い内容になるといえそうだ。
そして提供形態だが、通常の回線を提供するSIMに加え、他社回線を用いたもう1つのSIMを提供し、1台のスマートフォンに2つのSIMを挿入して同時に利用する「デュアルSIM」の仕組みを活用したものとなるようだ。SIMは物理SIMとeSIMのどちらかを選ぶことができ、iPhoneシリーズのように物理SIMとeSIMのデュアルSIMを採用した端末にも対応可能と考えられる。
提供時期は3月下旬頃を目指すとしており、両社ともにサービス提供に向け急ピッチで準備を進めているとのこと。通信障害の発生から1年に満たない期間で、サービス提供に至ったことはかなりのスピード感といえるが、2社のトップはその実現に至る舞台裏にも言及している。
高橋氏は、当初実現に向け担当者ベースでの話し合いを進めていたが、時間がかかると判断して高橋氏自らが各社トップに直談判しに行ったとのこと。楽天モバイルは、同社とのローミングで広範囲をカバーしているという事情もあり、まずはNTTドコモとソフトバンクの2社と話し合いを進めたというが、中でも宮川氏は以前からデュアルSIMを活用した予備回線サービスの提供を訴えていた。そこで高橋氏は宮川氏に「本気でやるかどうか」と問い、それに「ぜひ」と答えたことで早期実現に至ったのだという。
ただここで多くの人が疑問を持つのは、KDDI回線利用者以外はpovo 2.0で十分なのでは?ということではないだろうか。2社が提供予定のサービスは月額料金がかかるが、povo 2.0は基本的に月額料金がかからないからだ。実際、既にpovo 2.0をバックアップ回線として契約しているユーザーも少なからずいるという。
だがpovo 2.0は、元々10・20代をターゲットとしたオンライン専用のサービスで、契約や利用にはスマートフォンやインターネットを扱う一定のスキルが求められる。スマートフォンを使い始めたシニアなどが、povo 2.0を契約してeSIMに登録するというのは相当ハードルが高く、利用できる層が限定されてしまうのが弱点だ。
実際宮川氏も、今回のサービスは携帯各社のショップで提供されることが重要だとしている。スマートフォンに詳しい知識を持たない人にもバックアップ回線を提供するというのが、今回の取り組みの意義といえるのではないだろうか。
そして非常時のバックアップ回線を提供するという動きは、携帯大手だけにとどまらないものとなっている。実際、「mineo」ブランドでモバイル通信サービスを提供するMVNO大手のオプテージも、バックアップ回線の利用を意識した料金プランを新たに打ち出している。
それは、1月31日に発表された「マイそく スーパーライト」というもの。これは月額250円で利用できる料金プランなのだが、利用できるのは従量制の通話と最大32kbpsのデータ通信のみ。実際にはpovo 2.0同様、オプションを組み合わせて利用するスタイルが取られており、同時に提供が発表された「10分通話パック」(月額110円)を利用すれば、月額360円で10分間の通話が可能と、ライトな通話ニーズに応えられるという。
そして、「24時間データ使い放題」(1回当たり330円)を利用すれば、通信障害が起きたときだけ1日当たり330円を追加してバックアップ用途として活用できる。mineoはNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社回線のうちいずれかを選ぶことができ、KDDI回線に加え、2月22日にはNTTドコモ回線もeSIMでの利用が可能になる予定だ。携帯4社のうちどの回線を利用していても対応しやすいのは、MVNOならではのメリットといえるだろう。
通信障害はどの企業にも起きるものだけに、KDDIとソフトバンクだけでなく、NTTドコモや楽天モバイルも今後バックアップ回線の提供に向け何らかの動きを見せてくるだろうし、低価格領域に重点を置くMVNOも、バックアップ用途のサービスに力を入れる動きが広がるものと考えられる。一方で、携帯各社のサービスの価格設定によってはMVNOのビジネス機会を奪うのでは、との声も出ていることから、まずは2社のバックアップ回線サービスがどのような料金体系で提供されるのかが注目されるだろう。
政府主導で進められている非常時ローミングも、通信障害に対しては決して万能というわけではない。実際総務省も、「非常時における事業者間ローミング等に関する検討会」の第1次報告書で、非常時ローミングによらない通信手段の利用を推進するとしており、デュアルSIMを用いたサービスも過度な料金負担とならなければ、多様なサービスの提供を期待するとしている。
課題はいくつかあるだろうが、非常時の予備回線サービスが広がることは歓迎されて然るべきではないだろうか。