ガジェット【連載】佐野正弘のITインサイト 第81回
やっとプラチナバンドを獲得した楽天モバイル、なぜサービス開始が3年後なのか
周波数が1GHz以下で広範囲をカバーしやすい、いわゆる「プラチナバンド」が割り当てられていないことが競争上不利だとして、その割り当てを要求していた楽天モバイル。2022年には競合他社のプラチナバンドを “奪う” 方針を打ち出し、総務省での議論が紛糾するなど、大きな話題をもたらしていた。
だが先日10月23日、そのプラチナバンドを巡って大きな動きがあった。それは総務省が、新たに携帯電話向けに割り当てられた700MHz帯の免許を楽天モバイルに付与したことである。
今回割り当てられた700MHz帯について簡単に振り返ると、これは他の携帯大手3社に割り当てられている700MHz帯と、隣接する地上デジタルテレビ放送や特定ラジオマイクとの干渉を避けるために空けられている4〜8MHz幅の周波数のうち、干渉の影響が少ない3MHz幅を携帯電話向けに新たに割り当てるもの。総務省のプラチナバンド再割り当て方針により、楽天モバイルにプラチナバンドの一部を奪われる可能性が出てきたNTTドコモが、それを避けるために提案したと見られている。
そして、総務省での検証と議論の末、干渉に一定の配慮は必要だが、3MHz幅の割り当ては可能という結論が下された。そこで総務省は8月29日から、3MHz幅の新しい700MHz帯の免許を割り当てるべく申請を受け付けたのだが、結果他の3社は獲得に手を挙げず、唯一手を挙げた楽天モバイルに割り当てがなされたわけだ。
なぜ他の3社が手を挙げなかったのかといえば、楽天モバイルが新しいプラチナバンドを獲得することで、再割り当てによる混乱を避けたいという狙いも、もちろん大きいだろう。だがもう1つ、プラチナバンドの割り当てを受けていない事業者を高く評価する審査項目が設けられるなど、楽天モバイルにかなり有利な審査内容となっていたことも理由として挙げられる。
総務省側は、他の審査項目で高い評価を獲得すれば、楽天モバイル以外が割り当てを受ける可能性は十分あると説明していた。だが、内容的に楽天モバイルに有利なのは明らかであるし、総務省としても楽天モバイルがこの帯域を獲得することで、プラチナバンドを巡る混乱を抑えたかったのではないかと筆者は見ている。
楽天モバイルがプラチナバンドを獲得したことで、多くの人が期待するのは同社のネットワークが全国でつながりやすくなることだろう。人口カバー率98%を超えるなど、自社エリア自体かなり広がってはいるものの、プラチナバンドを持っていないこともあって、入り組んだ場所や建物の中などはやはり電波が入りづらくなることが多いし、地方ではカバーが進んでいない所も少なからずある。
そうしたエリアは、現状KDDIとのローミングで賄っており、現行の「楽天最強プラン」を機として楽天モバイルは2023年5月に新たなローミング契約を締結した。先に挙げたような場所では、当面KDDIのローミングを用いてカバーしていく方針を打ち出しているが、プラチナバンドを獲得したことでローミングに頼ることなく、楽天モバイル自身のネットワークで競合と同等の通信品質が得られることを期待する人は多いのではないだろうか。
一方で楽天モバイルが、新しい700MHz帯の獲得に向け総務省に提出した開設計画を見るに、いくつか疑問点も見えてくる。その1つが、700MHz帯によるサービスの開始日が令和8年(2026年)3月頃、つまり今からおよそ3年後であるということ。そしてもう1つは認定期間終了時、つまりこの帯域で整備するエリアの人口カバー率が83.2%と、広範囲をカバーできるプラチナバンドにもかかわらず、整備するエリアが現行の同社エリアと比べても狭いことだ。
楽天モバイルの代表取締役 共同CEOである鈴木和洋氏は、あくまで「少し保守的な形で記載している」と説明、できれば2024年中にサービス開始したいと話していた。だが、これまでプラチナバンドの早期利用を打ち出していた楽天モバイルとはかなり様子が違い、慎重な印象を受けたのも確かだ。
なぜ、サービス開始を2026年としたのか考えると、思い当たるのがKDDIとのローミング契約である。当初KDDIとのローミング契約は、2026年3月末が期限とされていた。新しい契約の締結によって2026年9月まで延長されてはいるのだが、いずれにしてもローミングの活用は2026年のどこかで終わることになる。
それ以降は、自社でネットワーク整備をする必要がある。もちろんローミングの契約中であってもプラチナバンドによるエリア整備自体は可能だが、楽天モバイルは未だ赤字が続いている。親会社の楽天グループも、楽天モバイルの先行投資による資金獲得のために発行した社債の償還が迫っており、経営が危機的状況にあることは変わっていない。
それゆえ、可能な限りKDDIとのローミングをギリギリまで活用し、基地局整備にかける投資を後ろ倒ししたいというのが楽天モバイルの本音と言えそうだ。計画書では令和15年度(2033年度)までの投資額が累計で544億円とされているが、その投資の多くは整備開始から早い段階でかかってくるものと考えられるだけに、大規模な投資は経営が改善するまで先送りしたい、というのが正直なところではないだろうか。
ちなみにもう1つ、新しい700MHz帯は確かにプラチナバンドではあるが、帯域幅が3MHz幅と携帯電話向けとしては非常に狭い。そして少なくとも現状では、複数の周波数帯を束ねて高速化する「キャリアアグリゲーション」という技術も使うことができない。それゆえ楽天モバイルが、「使い放題」を売りとしている現行の料金プランとは相性が良くないのも非常に気になっている。
鈴木氏は、その課題を解決するための技術を検討しており、後日明らかにするとしている。だが、プラチナバンドは遠くに飛びやすい分、特に都市部などではトラフィックが集中しやすい周波数帯でもある。
運用の仕方によっても品質低下を招きやすいだけに、楽天モバイルが「帯域幅が狭いプラチナバンド」と「使い放題の料金プラン」を両立し、顧客に十分満足できる品質のネットワークを提供できるのか?という点にも、今後目を配っておく必要があるだろう。
■700MHz帯の免許が楽天モバイルに付与
だが先日10月23日、そのプラチナバンドを巡って大きな動きがあった。それは総務省が、新たに携帯電話向けに割り当てられた700MHz帯の免許を楽天モバイルに付与したことである。
今回割り当てられた700MHz帯について簡単に振り返ると、これは他の携帯大手3社に割り当てられている700MHz帯と、隣接する地上デジタルテレビ放送や特定ラジオマイクとの干渉を避けるために空けられている4〜8MHz幅の周波数のうち、干渉の影響が少ない3MHz幅を携帯電話向けに新たに割り当てるもの。総務省のプラチナバンド再割り当て方針により、楽天モバイルにプラチナバンドの一部を奪われる可能性が出てきたNTTドコモが、それを避けるために提案したと見られている。
そして、総務省での検証と議論の末、干渉に一定の配慮は必要だが、3MHz幅の割り当ては可能という結論が下された。そこで総務省は8月29日から、3MHz幅の新しい700MHz帯の免許を割り当てるべく申請を受け付けたのだが、結果他の3社は獲得に手を挙げず、唯一手を挙げた楽天モバイルに割り当てがなされたわけだ。
なぜ他の3社が手を挙げなかったのかといえば、楽天モバイルが新しいプラチナバンドを獲得することで、再割り当てによる混乱を避けたいという狙いも、もちろん大きいだろう。だがもう1つ、プラチナバンドの割り当てを受けていない事業者を高く評価する審査項目が設けられるなど、楽天モバイルにかなり有利な審査内容となっていたことも理由として挙げられる。
総務省側は、他の審査項目で高い評価を獲得すれば、楽天モバイル以外が割り当てを受ける可能性は十分あると説明していた。だが、内容的に楽天モバイルに有利なのは明らかであるし、総務省としても楽天モバイルがこの帯域を獲得することで、プラチナバンドを巡る混乱を抑えたかったのではないかと筆者は見ている。
楽天モバイルがプラチナバンドを獲得したことで、多くの人が期待するのは同社のネットワークが全国でつながりやすくなることだろう。人口カバー率98%を超えるなど、自社エリア自体かなり広がってはいるものの、プラチナバンドを持っていないこともあって、入り組んだ場所や建物の中などはやはり電波が入りづらくなることが多いし、地方ではカバーが進んでいない所も少なからずある。
そうしたエリアは、現状KDDIとのローミングで賄っており、現行の「楽天最強プラン」を機として楽天モバイルは2023年5月に新たなローミング契約を締結した。先に挙げたような場所では、当面KDDIのローミングを用いてカバーしていく方針を打ち出しているが、プラチナバンドを獲得したことでローミングに頼ることなく、楽天モバイル自身のネットワークで競合と同等の通信品質が得られることを期待する人は多いのではないだろうか。
■開設計画から浮かび上がる疑問点
一方で楽天モバイルが、新しい700MHz帯の獲得に向け総務省に提出した開設計画を見るに、いくつか疑問点も見えてくる。その1つが、700MHz帯によるサービスの開始日が令和8年(2026年)3月頃、つまり今からおよそ3年後であるということ。そしてもう1つは認定期間終了時、つまりこの帯域で整備するエリアの人口カバー率が83.2%と、広範囲をカバーできるプラチナバンドにもかかわらず、整備するエリアが現行の同社エリアと比べても狭いことだ。
楽天モバイルの代表取締役 共同CEOである鈴木和洋氏は、あくまで「少し保守的な形で記載している」と説明、できれば2024年中にサービス開始したいと話していた。だが、これまでプラチナバンドの早期利用を打ち出していた楽天モバイルとはかなり様子が違い、慎重な印象を受けたのも確かだ。
なぜ、サービス開始を2026年としたのか考えると、思い当たるのがKDDIとのローミング契約である。当初KDDIとのローミング契約は、2026年3月末が期限とされていた。新しい契約の締結によって2026年9月まで延長されてはいるのだが、いずれにしてもローミングの活用は2026年のどこかで終わることになる。
それ以降は、自社でネットワーク整備をする必要がある。もちろんローミングの契約中であってもプラチナバンドによるエリア整備自体は可能だが、楽天モバイルは未だ赤字が続いている。親会社の楽天グループも、楽天モバイルの先行投資による資金獲得のために発行した社債の償還が迫っており、経営が危機的状況にあることは変わっていない。
それゆえ、可能な限りKDDIとのローミングをギリギリまで活用し、基地局整備にかける投資を後ろ倒ししたいというのが楽天モバイルの本音と言えそうだ。計画書では令和15年度(2033年度)までの投資額が累計で544億円とされているが、その投資の多くは整備開始から早い段階でかかってくるものと考えられるだけに、大規模な投資は経営が改善するまで先送りしたい、というのが正直なところではないだろうか。
ちなみにもう1つ、新しい700MHz帯は確かにプラチナバンドではあるが、帯域幅が3MHz幅と携帯電話向けとしては非常に狭い。そして少なくとも現状では、複数の周波数帯を束ねて高速化する「キャリアアグリゲーション」という技術も使うことができない。それゆえ楽天モバイルが、「使い放題」を売りとしている現行の料金プランとは相性が良くないのも非常に気になっている。
鈴木氏は、その課題を解決するための技術を検討しており、後日明らかにするとしている。だが、プラチナバンドは遠くに飛びやすい分、特に都市部などではトラフィックが集中しやすい周波数帯でもある。
運用の仕方によっても品質低下を招きやすいだけに、楽天モバイルが「帯域幅が狭いプラチナバンド」と「使い放題の料金プラン」を両立し、顧客に十分満足できる品質のネットワークを提供できるのか?という点にも、今後目を配っておく必要があるだろう。