ガジェット【連載】佐野正弘のITインサイト 第72回
衛星とスマホの直接通信に一番乗り、KDDIがスペースXと提携できたのはなぜか
スペースX(Space Exploration Technologies)と提携し、スペースXの衛星群「Starlink」を用いた衛星通信サービスの積極活用を進めているKDDI。その手を緩めることなく、昨日8月30日にもスペースXとの新たな提携を発表した。
それは、スペースXの衛星とKDDI回線を使用しているスマートフォンを直接接続できるようにするもの。空が見えるところであれば、KDDI回線が圏外の場所でも通信ができるようになるという。
KDDIは2022年に、携帯電話回線のバックホールとしてStarlinkを活用し、光ケーブルを引くのが困難な島しょ部や山間部などのエリア化を進めてきたが、携帯電話サービスを提供するには基地局を設置する必要があるため、エリア化できる場所には限界がある。だが、衛星から直接通信できるようになれば、基地局を設置していない場所でも通信できるので、空が見えているという条件さえクリアできれば、日本全国のあらゆる場所で通信できるようになるわけだ。
KDDIの発表によると、このサービスは2024年内に提供を開始する予定で、当初はSMSの送受信から始めるかたちになるとのこと。使用する周波数帯はKDDIが免許を保有するものを使うとしており、プラチナバンドよりも高い帯域を使う予定のようだ。
サービス時期が2024年度となっているのは、スペースX側でスマートフォンと直接通信できる新しい衛星の打ち上げが必要なのに加え、衛星から携帯電話で使用する地上に電波を射出する上での法整備がなされなければ、そもそもサービス提供ができないため。また、開始当初のサービスがSMSに限られるのは、ネットワークの容量が少なくてもサービスを提供しやすいためで、将来的にはネットワークの容量を増やして音声通話やデータ通信も実現したいとしている。
ただ、衛星と直接通信して日本全国をカバーする取り組みを進めているのはKDDIだけでなく、楽天モバイルも米国の衛星通信事業者であるAST SpaceMobileと提携し、実現を目指している最中だ。こちらも2023年4月に、低軌道衛星と市販スマートフォンとの直接通信による音声通話に成功したことを発表しているが、具体的なサービス提供時期は見えていないのが実状だ。
にもかかわらず、なぜKDDIが国内で衛星とスマートフォンとの直接通信をいち早く実現しようとしているのかというと、やはりスペースXの実績に寄るところが大きい。スペースXは打ち上げたロケットの再利用を実現するなど、衛星だけでなくロケットでも非常に高い技術を持つ。いち早く多数の衛星を打ち上げて衛星群を構築できたのも、その打ち上げ技術があるからだろう。
そして、衛星と携帯電話の直接通信に関しても、スペースXは2022年8月に、お膝元の米国でTモバイルUSと提携して実現することを発表済み。既に世界6カ国の携帯電話会社との提携を実現しているのだ。
そしてKDDIは、そのスペースXと2021年に提携、Starlinkを携帯電話のバックホール回線に活用したり、法人向けに積極提供したりするなどして多くの実績を積み上げてきた。その実績がさらなる提携の強化、そして衛星とスマートフォンの直接通信で先行するに至った要因といえるだろう。
だが正直なところ、これまでの取り組みを見るに、KDDIは衛星通信に関してむしろ出遅れている印象が強かった。というのも、KDDI以外の携帯3社は衛星通信に関して、他社へ出資をするなどして自ら事業化に向けた取り組みを進めていたからだ。
先に触れた通り、楽天モバイルはAST SpaceMobileに出資しているし、ソフトバンクも親会社のソフトバンクグループが英OneWebに出資していることから、衛星通信でも同社の衛星群の活用を打ち出している。またNTTドコモも2022年に、親会社の日本電信電話(NTT)がスカパーJSATと合弁でSpace Compassを設立しており、こちらも独自の取り組みで衛星通信の事業化を図っている最中だ。
ただ、衛星通信はリスクも大きく、KDDIも前身の1つである第二電電(DDI)が衛星通信の米イリジウム(現・イリジウム・コミュニケーションズ)関連の事業で大きな損失を被ったことがある。それだけに同社は、衛星通信の事業化には消極的だったと考えられるが、その分衛星通信で急速に存在感を高めたスペースX側からしてみれば、KDDIはしがらみがなく提携しやすい相手だったともいえ、結果的にそれが衛星通信サービスで他社に先行する要因になったといえるだろう。
なおKDDIの説明によると、料金やサービス提供形態などは決まっていないものの、「au」「UQ mobile」「povo」いずれのブランドでも利用できるとのこと。幅広いユーザーが利用できることが期待されるのは嬉しいところだ。
とはいうものの日本の場合、衛星通信で全土をカバーするのは困難であり、過度な期待は禁物だということも理解しておく必要がある。なぜなら日本の国土、とりわけ山間部の多くは森林であり、上空からの電波が遮られてしまうからだ。
それゆえKDDIも、今回の発表に合わせて「空が見えれば、どこでもつながる」というキャッチフレーズを打ち出し、山林は事実上サービス対象外であることをさりげなく示している。そうした場所では、衛星通信を用いても通信環境を提供できないだけに、真の「どこでもつながる」を実現するには、技術的課題がまだまだ多く存在することも知っておきたいところだ。
■衛星とKDDI回線を活用したスマートフォンの直接通信
それは、スペースXの衛星とKDDI回線を使用しているスマートフォンを直接接続できるようにするもの。空が見えるところであれば、KDDI回線が圏外の場所でも通信ができるようになるという。
KDDIは2022年に、携帯電話回線のバックホールとしてStarlinkを活用し、光ケーブルを引くのが困難な島しょ部や山間部などのエリア化を進めてきたが、携帯電話サービスを提供するには基地局を設置する必要があるため、エリア化できる場所には限界がある。だが、衛星から直接通信できるようになれば、基地局を設置していない場所でも通信できるので、空が見えているという条件さえクリアできれば、日本全国のあらゆる場所で通信できるようになるわけだ。
KDDIの発表によると、このサービスは2024年内に提供を開始する予定で、当初はSMSの送受信から始めるかたちになるとのこと。使用する周波数帯はKDDIが免許を保有するものを使うとしており、プラチナバンドよりも高い帯域を使う予定のようだ。
サービス時期が2024年度となっているのは、スペースX側でスマートフォンと直接通信できる新しい衛星の打ち上げが必要なのに加え、衛星から携帯電話で使用する地上に電波を射出する上での法整備がなされなければ、そもそもサービス提供ができないため。また、開始当初のサービスがSMSに限られるのは、ネットワークの容量が少なくてもサービスを提供しやすいためで、将来的にはネットワークの容量を増やして音声通話やデータ通信も実現したいとしている。
ただ、衛星と直接通信して日本全国をカバーする取り組みを進めているのはKDDIだけでなく、楽天モバイルも米国の衛星通信事業者であるAST SpaceMobileと提携し、実現を目指している最中だ。こちらも2023年4月に、低軌道衛星と市販スマートフォンとの直接通信による音声通話に成功したことを発表しているが、具体的なサービス提供時期は見えていないのが実状だ。
にもかかわらず、なぜKDDIが国内で衛星とスマートフォンとの直接通信をいち早く実現しようとしているのかというと、やはりスペースXの実績に寄るところが大きい。スペースXは打ち上げたロケットの再利用を実現するなど、衛星だけでなくロケットでも非常に高い技術を持つ。いち早く多数の衛星を打ち上げて衛星群を構築できたのも、その打ち上げ技術があるからだろう。
そして、衛星と携帯電話の直接通信に関しても、スペースXは2022年8月に、お膝元の米国でTモバイルUSと提携して実現することを発表済み。既に世界6カ国の携帯電話会社との提携を実現しているのだ。
そしてKDDIは、そのスペースXと2021年に提携、Starlinkを携帯電話のバックホール回線に活用したり、法人向けに積極提供したりするなどして多くの実績を積み上げてきた。その実績がさらなる提携の強化、そして衛星とスマートフォンの直接通信で先行するに至った要因といえるだろう。
だが正直なところ、これまでの取り組みを見るに、KDDIは衛星通信に関してむしろ出遅れている印象が強かった。というのも、KDDI以外の携帯3社は衛星通信に関して、他社へ出資をするなどして自ら事業化に向けた取り組みを進めていたからだ。
先に触れた通り、楽天モバイルはAST SpaceMobileに出資しているし、ソフトバンクも親会社のソフトバンクグループが英OneWebに出資していることから、衛星通信でも同社の衛星群の活用を打ち出している。またNTTドコモも2022年に、親会社の日本電信電話(NTT)がスカパーJSATと合弁でSpace Compassを設立しており、こちらも独自の取り組みで衛星通信の事業化を図っている最中だ。
ただ、衛星通信はリスクも大きく、KDDIも前身の1つである第二電電(DDI)が衛星通信の米イリジウム(現・イリジウム・コミュニケーションズ)関連の事業で大きな損失を被ったことがある。それだけに同社は、衛星通信の事業化には消極的だったと考えられるが、その分衛星通信で急速に存在感を高めたスペースX側からしてみれば、KDDIはしがらみがなく提携しやすい相手だったともいえ、結果的にそれが衛星通信サービスで他社に先行する要因になったといえるだろう。
なおKDDIの説明によると、料金やサービス提供形態などは決まっていないものの、「au」「UQ mobile」「povo」いずれのブランドでも利用できるとのこと。幅広いユーザーが利用できることが期待されるのは嬉しいところだ。
とはいうものの日本の場合、衛星通信で全土をカバーするのは困難であり、過度な期待は禁物だということも理解しておく必要がある。なぜなら日本の国土、とりわけ山間部の多くは森林であり、上空からの電波が遮られてしまうからだ。
それゆえKDDIも、今回の発表に合わせて「空が見えれば、どこでもつながる」というキャッチフレーズを打ち出し、山林は事実上サービス対象外であることをさりげなく示している。そうした場所では、衛星通信を用いても通信環境を提供できないだけに、真の「どこでもつながる」を実現するには、技術的課題がまだまだ多く存在することも知っておきたいところだ。