ガジェット【連載】佐野正弘のITインサイト 第103回
Amazonで「dポイント」が貯まる、使える。ドコモが協業強化に踏み切ったワケ
2024年に入り、積極的に施策を打ち出しているNTTドコモ。先日も新しいプラン「ドコモポイ活プラン」を発表したばかりだが、昨日4月10日にも新たな発表会を実施している。
そこで発表されたのが、米Amazon.comの日本法人であるアマゾンジャパンとの新たな協業である。具体的な取り組みは大きく2つあり、1つはオンラインストア「Amazon.co.jp」で買い物をする際に、NTTドコモの共通ポイントプログラム「dポイント」を貯めたり使えたりするというものだ。
これは、dポイントの会員基盤「dポイントクラブ」の会員全てに適用されるもので、NTTドコモの携帯電話回線や「d払い」による決済は必要ない。Amazonアカウントとdポイントクラブの「dアカウント」を連携し、1回あたり合計で5,000円以上の注文をすると、その金額の1%分のdポイントが貯まることになる。
Amazonポイントと両方貯めることもできるので、ポイントの “二重取り” が可能なほか、dポイントをAmazonの買い物で使うこともできるとのこと。1回あたりの注文で獲得できるdポイントの上限は100ポイントまでとなるが、従来獲得できなかったdポイントを獲得できる分、お得になることは間違いない。
そしてもう1つは、Amazonの有料会員プログラム「Amazonプライム」に関する協業である。具体的には、NTTドコモの回線を契約している人が、NTTドコモを通じてAmazonプライムの「月間プラン」に登録することで、dポイントが毎月120ポイント還元されるほか、初めてAmazonプライム登録する人には月間プランの会費相当となる600円を、3ヵ月割引するとしている(割引期間中は120ポイント還元の対象外)。
また、NTTドコモ経由でAmazonプライムを契約し、なおかつ「eximo」「ahamo」「ギガホ」を契約しているか、60歳以上であるという条件を満たすことで得られる特典もある。それはAmazonで「d払い」を用いて決済する際に、基本の0.5%に加え、さらに1ポイント分のdポイント(期間・用途限定)が付与されるというもの。一連の条件が全て揃えば、最大3.5%のdポイント還元が受けられるという。
これまでAmazonで貯めることができるポイントは、基本的に独自の「Amazonポイント」に限られていた。それだけに両社の協業によって、NTTドコモの回線契約者でなくてもdポイントを貯めることができ、回線契約者であればさらにお得な特典が得られるようになったことで、よりお得感が高まったことは間違いない。
実は、NTTドコモとアマゾンジャパンとの関係は古く、2012年には電子書籍リーダー「Kindle」へ回線を提供するなどして協業を実施してきた。2018年からは、Amazonでd払いが利用できるようになったほか、2019年からは当時の料金プラン「ギガホ」などに向けて、Amazonプライムを1年間利用できる特典を付与する「ドコモのプランについてくるAmazonプライム」を提供するなど、関係を緊密なものにしてきていた。
ただ、日本電信電話(NTT)がNTTドコモを完全子会社化して以降、「ドコモのプランについてくるAmazonプライム」が2021年11月30日に終了するなど、両社の関係にはやや距離が生まれていた。アマゾンジャパンが2020年末に、NTTドコモの競合となるKDDIとの協業を拡大、「au」ブランドでAmazonプライムと携帯電話料金をセットにしたプランを提供するなどして関係を強めたことが、両社の関係性の変化を象徴している。
それがなぜ、現在のタイミングで再び協業を強化するに至ったのだろうか。そこに大きく影響しているのは、NTTドコモが競合に対抗する上で、サービス面での弱みをどうしても克服できなかったことだろう。
その弱みとは、まさにEコマースである。競合の動向を見ると、楽天モバイルを有する楽天グループは、国内企業としては最大手のEコマースサービス「楽天市場」を展開しているし、ソフトバンクもLINEヤフーが「Yahoo!ショッピング」を展開、さらに「アスクル」「ZOZO」など主要Eコマースサービスを買収で獲得するなど、古くからEコマースに力を入れている。
またKDDIも2016年に、Eコマースの老舗でもあったディー・エヌ・エー(DeNA)から「DeNAショッピング」などのオンラインショッピングモール事業を買収。名称を何度か変更した後に現在は「au PAYマーケット」として事業展開しており、KDDIの各種サービスとの連携や、ライブコマースを積極展開するなどして強化を図っている。
一方でNTTドコモは、Eコマースの分野で出遅れており、独自のEコマースサービス「dショッピング」などを展開しているが、市場での存在感は薄い。だが携帯各社が、ポイントを軸として自社系列のサービスで顧客を囲い込む、いわゆる「経済圏ビジネス」に力を入れる中にあって、有力なEコマースサービスを持たないNTTドコモに弱みがあったことは確かだ。
しかも、Eコマースは先にも触れた通り、すでに国内の主要なサービスが競合他社に抑えられてしまっている。マネックス証券やオリックス・クレジットの買収で強化を図っている金融事業のように、企業買収で事業を強化するのが非常に難しい状況にあるのだ。
それゆえNTTドコモは、アマゾンジャパンとの距離が生まれた数年のうちに、さまざまな取り組みや検討を進めたうえで、自社単独でEコマース事業をこれ以上伸ばすのは難しい、と判断したのではないかと考えられる。経済圏ビジネスを巡る競争が非常に激しくなっている中にあって、Eコマースサービスでこれ以上他社に後れを取ってしまうと、主力の携帯電話事業での競争力低下にもつながりかねない。巨大な外資系企業であり、国内のEコマース分野ではオープンな立場を確保しているアマゾンジャパンとの協力関係を再び強化するよう、戦略転換を図ったと言えそうだ。
一方のアマゾンジャパンにとっても、2023年度で1億人を超えたというdポイントの会員基盤は、日本での事業を拡大する上で魅力的な存在であることに間違いない。それだけに、dポイントが使えるだけでなく付与もするなど、従来より大きく踏み込んだ施策を打ち出すに至ったのではないかと考えられる。
国内でも人気の高いアマゾンジャパンとの協業を強化することで、NTTドコモは金融サービスに続いて、Eコマース分野での遅れを一気に取り戻す可能性が高まったことは間違いない。ただ依然として、NTTドコモが経済圏ビジネスを拡大するためのサービス開発で出遅れていることに変わりはなく、さらなるサービス強化が急がれるところだろう。
■ドコモがAmazonと協業。「dポイント」との連携が可能に
そこで発表されたのが、米Amazon.comの日本法人であるアマゾンジャパンとの新たな協業である。具体的な取り組みは大きく2つあり、1つはオンラインストア「Amazon.co.jp」で買い物をする際に、NTTドコモの共通ポイントプログラム「dポイント」を貯めたり使えたりするというものだ。
これは、dポイントの会員基盤「dポイントクラブ」の会員全てに適用されるもので、NTTドコモの携帯電話回線や「d払い」による決済は必要ない。Amazonアカウントとdポイントクラブの「dアカウント」を連携し、1回あたり合計で5,000円以上の注文をすると、その金額の1%分のdポイントが貯まることになる。
Amazonポイントと両方貯めることもできるので、ポイントの “二重取り” が可能なほか、dポイントをAmazonの買い物で使うこともできるとのこと。1回あたりの注文で獲得できるdポイントの上限は100ポイントまでとなるが、従来獲得できなかったdポイントを獲得できる分、お得になることは間違いない。
そしてもう1つは、Amazonの有料会員プログラム「Amazonプライム」に関する協業である。具体的には、NTTドコモの回線を契約している人が、NTTドコモを通じてAmazonプライムの「月間プラン」に登録することで、dポイントが毎月120ポイント還元されるほか、初めてAmazonプライム登録する人には月間プランの会費相当となる600円を、3ヵ月割引するとしている(割引期間中は120ポイント還元の対象外)。
また、NTTドコモ経由でAmazonプライムを契約し、なおかつ「eximo」「ahamo」「ギガホ」を契約しているか、60歳以上であるという条件を満たすことで得られる特典もある。それはAmazonで「d払い」を用いて決済する際に、基本の0.5%に加え、さらに1ポイント分のdポイント(期間・用途限定)が付与されるというもの。一連の条件が全て揃えば、最大3.5%のdポイント還元が受けられるという。
これまでAmazonで貯めることができるポイントは、基本的に独自の「Amazonポイント」に限られていた。それだけに両社の協業によって、NTTドコモの回線契約者でなくてもdポイントを貯めることができ、回線契約者であればさらにお得な特典が得られるようになったことで、よりお得感が高まったことは間違いない。
実は、NTTドコモとアマゾンジャパンとの関係は古く、2012年には電子書籍リーダー「Kindle」へ回線を提供するなどして協業を実施してきた。2018年からは、Amazonでd払いが利用できるようになったほか、2019年からは当時の料金プラン「ギガホ」などに向けて、Amazonプライムを1年間利用できる特典を付与する「ドコモのプランについてくるAmazonプライム」を提供するなど、関係を緊密なものにしてきていた。
■2024年に再び協業強化に至った背景
ただ、日本電信電話(NTT)がNTTドコモを完全子会社化して以降、「ドコモのプランについてくるAmazonプライム」が2021年11月30日に終了するなど、両社の関係にはやや距離が生まれていた。アマゾンジャパンが2020年末に、NTTドコモの競合となるKDDIとの協業を拡大、「au」ブランドでAmazonプライムと携帯電話料金をセットにしたプランを提供するなどして関係を強めたことが、両社の関係性の変化を象徴している。
それがなぜ、現在のタイミングで再び協業を強化するに至ったのだろうか。そこに大きく影響しているのは、NTTドコモが競合に対抗する上で、サービス面での弱みをどうしても克服できなかったことだろう。
その弱みとは、まさにEコマースである。競合の動向を見ると、楽天モバイルを有する楽天グループは、国内企業としては最大手のEコマースサービス「楽天市場」を展開しているし、ソフトバンクもLINEヤフーが「Yahoo!ショッピング」を展開、さらに「アスクル」「ZOZO」など主要Eコマースサービスを買収で獲得するなど、古くからEコマースに力を入れている。
またKDDIも2016年に、Eコマースの老舗でもあったディー・エヌ・エー(DeNA)から「DeNAショッピング」などのオンラインショッピングモール事業を買収。名称を何度か変更した後に現在は「au PAYマーケット」として事業展開しており、KDDIの各種サービスとの連携や、ライブコマースを積極展開するなどして強化を図っている。
一方でNTTドコモは、Eコマースの分野で出遅れており、独自のEコマースサービス「dショッピング」などを展開しているが、市場での存在感は薄い。だが携帯各社が、ポイントを軸として自社系列のサービスで顧客を囲い込む、いわゆる「経済圏ビジネス」に力を入れる中にあって、有力なEコマースサービスを持たないNTTドコモに弱みがあったことは確かだ。
しかも、Eコマースは先にも触れた通り、すでに国内の主要なサービスが競合他社に抑えられてしまっている。マネックス証券やオリックス・クレジットの買収で強化を図っている金融事業のように、企業買収で事業を強化するのが非常に難しい状況にあるのだ。
それゆえNTTドコモは、アマゾンジャパンとの距離が生まれた数年のうちに、さまざまな取り組みや検討を進めたうえで、自社単独でEコマース事業をこれ以上伸ばすのは難しい、と判断したのではないかと考えられる。経済圏ビジネスを巡る競争が非常に激しくなっている中にあって、Eコマースサービスでこれ以上他社に後れを取ってしまうと、主力の携帯電話事業での競争力低下にもつながりかねない。巨大な外資系企業であり、国内のEコマース分野ではオープンな立場を確保しているアマゾンジャパンとの協力関係を再び強化するよう、戦略転換を図ったと言えそうだ。
一方のアマゾンジャパンにとっても、2023年度で1億人を超えたというdポイントの会員基盤は、日本での事業を拡大する上で魅力的な存在であることに間違いない。それだけに、dポイントが使えるだけでなく付与もするなど、従来より大きく踏み込んだ施策を打ち出すに至ったのではないかと考えられる。
国内でも人気の高いアマゾンジャパンとの協業を強化することで、NTTドコモは金融サービスに続いて、Eコマース分野での遅れを一気に取り戻す可能性が高まったことは間違いない。ただ依然として、NTTドコモが経済圏ビジネスを拡大するためのサービス開発で出遅れていることに変わりはなく、さらなるサービス強化が急がれるところだろう。