高音質デスクトップスピーカーの決定版
GENELEC「6010A」「5040A」を聴く − プロたちが認める高品位サウンドをデスクトップで楽しむ
現在のレコーディングスタジオにおいて、大きなシェアを誇るモニタースピーカーブランドがある。それは1978年に北欧・フィンランドで誕生した「GENELEC(ジェネレック)」という、マルチアンプ内蔵型スピーカー、いわゆる“パワード・モニター”を手がけるブランドだ。この「GENELEC」はパワード・モニター分野の草分け的存在であり、世界中のプロから信頼されている。今回ご紹介するコンパクト・アクティブ・スピーカー「6010A」は、そうした確固たる音の血統を持ちながらも、現代のPCを中心とした生活スタイルやインテリアにもマッチした、シンプルな佇まいを感じさせる“デスクトップ・モニターの決定版”といえるモデルである。まずは「GENELEC」の歴史から紐解いてみたい。
GENELECブランドの歴史を翻る
創業から遡ること10年余り、創業者イルポ・マルチカイネン氏(ヘルシンキ工科大学にて音響工学を専攻。名誉理学博士の称号を持っているという)とトッピ・パルタネン氏は、学生時代から趣味としてアンプとスピーカーの研究を行っていたという。創業の直前には、隣国スウェーデンの国営放送局に導入されていたYAMAHA「NS-1000M」の修理も手がけていたが、ある時その「NS-1000M」をより高音質にするため、マルチアンプと一体化してみたらどうか、という構想が持ち上がる。アンプの専門家イルポ氏とスピーカーの専門家トッピ氏が力をあわせて取り組んだ、この改良型パワードスピーカーは好評を博し、“アンプとスピーカーは一体化するべきものである”という、GENELECの理想の原点がここに誕生したのである。
同社のフィロソフィーは「音源の信号に対して色付けしない」、「音源に存在している要素はそのまま引き出し、何も引かない」、「信頼性ある耐久力の高さ」の3つ。その骨子は創業の1978年に完成したファーストモデル「S30」から一貫して受け継がれている。
世界のプロフェッショナル・エンジニアが信頼するブランド
当時のパワード・モニターは“ラージ”と呼ばれる大型機が中心であった。しかしラジオやTV放送局では至近距離でのモニタリングが必要であり、大型のスピーカーではなく、コンパクトな小型機へのニーズが高まってきた。こうした“ニア・フィールド・リスニング”のスタイルを実現させるために登場したのが1979年に登場した「1019A」だ。それから時を経て1991年に登場する2ウェイ・パワードモニターの大ヒットモデル「1031A」へと流れは受け継がれ、GENELECは90年代以降のアクティブ型モニターの主導権を握ることとなる。
ここ日本にGENELECが紹介されたのは1986年のこと。国内初採用は東海ラジオ放送であったそうだが、日本から仕様をオーダーした38pダブルウーファー機「1035A」が1988年に完成。国内導入に先駆け、ロンドンの「タウンハウススタジオ」、「メトロポリススタジオ」、「オリンピックスタジオ」に納入されて高い評価を受け、翌1989年には「キングレコード」が「1035A」を国内初採用。その後「ビクター青山スタジオ」にも採用され、評価が確立。90年代中頃まで多くのスタジオで導入され、国内標準ラージモニターといえるまで、その名声は轟いたのである。
筆者もスタジオ勤務時代、数々のGENELEC製品と出会ってきた。先述の「1035A」や「1031A」は言うに及ばず、「1030A」や「1024C」、「1037B」など、その代表的なモデルのサウンドを聴いてきたが、そのいずれもが非常にパワフルでストレート、そしてしっかりと音源の本質を描き出してくれる。アクティブ型の大きなメリットはアンプとスピーカー間の配線がシンプルかつ必要最小限で済むため、音の純度を保てることにある。特にGENELECは、ラインレベルで周波数分割を行えるマルチアンプの良さを活かし、出力段もリレーを介さずパワートランジスターからスピーカーのボイスコイルまでが直結された回路構成を採用。結果的にクリアで見通しの良い音色を得ることができるのだ。
加えてニアフィールドタイプの“スモール・モニター”は、ミキシングコンソール上にセッティングするので、部屋の影響を受けにくい。そしてアクティブ型なのでコンソールから直接ライン出力を取り出し、最短距離で接続ができる。持ち運びも容易で、個人所有も可能なため、スタジオごとに違うモニター環境に惑わされず、アンプからスピーカーまで統一された常に同じ音色のモニター環境が得られるというメリットが挙げられる。ゆえに80〜90年代にかけ、スタジオの標準スモールモニターとして活躍していた銘機の数々をも駆逐するかの勢いで、「1031A」や「1030A」を中心とした“パワード・スモール”が普及していったのである。
こうして、いち早くアクティブモニターの世界を構築してきた「GENELEC」は、時代の流れにうまく合致し、高音質は当然の事ながら、使い勝手の良いツールを必要とするプロフェッショナルたちに愛され、そのニーズを十二分に満たしてきた。今回ご紹介する「6010A」も、30年に渡って脈々と受け継がれてきたプロフェショナル・スペックを活かしつつ、コンシューマーの世界でも充分に活用できる、手軽なデスクトップサイズのパワード・モニターとして仕上げられている。
高音質&コンパクトなスピーカー「6010A」とはどんなモデルか
ラウンド形状が目を惹く、手の平大サイズのボディは、音響回折を最小限に抑えるMDE(Minimum Diffraction Enclosure)や、壁や天井、床からの反射音を低減させて、直接音を際立たせるDCW(Directivity Control Waveguide)バッフルを採用。この思想は1985年に発売された「1022A」の段階で実現されていたが、当時はラウンドキャビネットに抵抗を示す声も多く、壁埋め込み型のラージモニターには不向きとされていたため、長らく異なったアプローチが図られていた。しかし2004年に欧州の著名な工業デザイナー、ハッリ・コスキネン氏の手による曲線美を感じさせるデザインを用いた「8000シリーズ」にて、長年の理想が結実。その流れはこの「6010A」でも活かされており、デザインとスペックの両面から、理に叶ったキャビネット形状を手に入れている。
【動画紹介】GENELEC「6010A」の360度回転ビュー
その材質はアルミダイキャスト製となっており、ホワイト以外に、ブラックとシルバーのボディカラーが用意されている。GENELECでは1996年発売の「1029A」で、初めてアルミダイキャストをキャビネットに採用したが、強度も充分で木材よりも薄く成型でき、同じ外観サイズならば内容積も稼げるため、低域の伸びも良く、ナチュラルな音色が得られるという。
設置面には『Iso-Pod』という専用のゴムベースが装着されており、垂直軸の上下方向へ角度調節が行える。サウンド面でもIso-Pod込みの音作りが行われており、振動の縁切り効果も相まって、バランスの良い音ヌケ感を実現。手に取るとサイズからは想像できないほど、ぎゅっと凝縮された重量に驚く。しかし、従来からのGENELECを知る者にとっては、“良くぞここまで軽くしてくれた”という両極の反応が出るのではないか。その重量の源であるキャビネットのアルミ材は、環境に優しいリサイクル・マテリアルだそうで、新規鍛造のものと比較しても品質には全く見劣りがないそうだ。
ユニットは1.9cmのメタル・ドームトゥイーターと7.6cmコーンウーファーによる、2ウェイ・マルチアンプ構成。特徴的なのは前身となる8000シリーズから継承した、ウーファーコーン紙の背圧をそのままエネルギーとして取り出す、整流パイプを使ったバスレフポートだ。空気にストレスを与えないような構造で、開口部は風切音を防ぐショートホーン形状になっている。8000シリーズの一つのテーマとして、低域の量感を保ちつつ、どこまで小型化できるかも課題であったそうだが、「8030A」(高さ28.5cm・2004年)、「8020A」(高さ22.6cm・2006年)と小型化し、ついにこの「6010A」で高さ20cm以下というデスクトップサイズを実現した。
この「6010A」の機能的な特徴の一つに「DESKTOP CONTROL」という、デスクトップ上に設置した時に反射が強くなる200Hz近辺を4dB減衰させる機能があり、背面のディップスイッチでON/OFFの切り替えが可能だ。その隣には2つのディップスイッチを用いた「BASS TILT」切り替えがある。2つのスイッチの組み合わせで低域を3段階(-2、-4、-6dB)減衰させることができるというもので、壁掛けや天井に吊り下げる場合など、低域が増えすぎた場合に活用できる。
この他、「6010A」はマイクスタンドなどにも設置可能で、幅広い使用方法が提案できる製品となっている。音声入力はコンシューマーを強く意識し、アナログRCAピンのみ。また背面には入力感度トリムが設けられ、簡易的な音量微調整も可能だが、プリアンプと組み合わせるなど、前段にボリュームコントローラーを追加することでより使い勝手が広がるだろう。
6010Aとの組み合わせにベストマッチするサブウーファー「5040A」
そして「6010A」との組み合わせが最適なサブウーファー「5040A」は、16.5cmウーファーを内蔵した5.1ch対応モデルである。ボディは強靭なアルミダイキャストと強化スチールで構成され、床に向かってコーン紙からの音とバスレフダクトからの音が放射される。本体と同じスタイリッシュなデザインのアルミダイキャスト製リモート・マスター・ボリュームが特徴となっており、本体カラーは「6010A」と同様に、ホワイト、ブラック、シルバーの3色が用意されている。この「5040A」のデザインもハッリ・コスキネン氏によるものであるが、この意匠は『Fennia Prize 2009』にてグランプリを獲得している。
接続パネルも底面側に設けられ、「5040A」経由で「6010A」に接続すれば、マスターボリュームで一括音量調整が可能だ。「5040A」はメインチャンネル用にクロスオーバーを内蔵しており、85Hz以下は「5040A」が担当することになる。設置環境によって調整可能な「BASS ROLL-OFF」や「位相マッチング・スイッチ」も装備しており、底面にあるディップスイッチで切り替えが可能だ。特に位相切り替えは、メインチャンネルのスピーカー設置位置を基準にして、0°、-90°、-180°、-270°と細かく補正が可能で、低域の音像定位を的確に揃えることができる。
なお、今回の試聴では「6010A」と「5040A」を2.1chシステムとして構築し、デスクトップを中心とした使いこなしを想定して聴いたが、「5040A」には5.1chサラウンドへの拡張機能も備わっている点も魅力のひとつだ。本体には合わせて5基の6010Aを接続することができ、5.1chのベースマネージメント回路も内蔵されている。例えば薄型テレビの音質グレードアップ用に、始めは2.1chでスタートした後、リアル5.1chへ環境を発展させることも可能だ。
6010A&5040Aを聴く −「CD再生編」
まずは「6010A」単体のクオリティを確認すべく、KENWOODの小型CDプレーヤー「DP-K1000-N」と、Pro-Jectがラインナップする“Box Component”シリーズから、デスクトップサイズの小型プリアンプ「Pre Box」を組み合わせたサウンドを聴いてみた。今回の試聴では「DESKTOP CONTROL」や「BASS TILT」はOFFの状態を選択している。
まずクラシックの音場は雰囲気があり、奥行きや広がりも程良く感じられる。アタック&リリースも鮮明で、管弦楽器はここが際立ちハーモニーも澄んでいる。解像度はデスクトップ系スピーカーの中では極めて高く、ローエンドもスマートに押し出してくる。ジャズのウッドベースはハリ良く弾力豊か。胴鳴りは製動力があり巧みなスマート感が得られる。ピアノも立体的に浮き上がり、スネアのボトム感も緻密だ。
ポップスもクリアにボーカルが浮き上がるが、音像は肉付きを感じられ、アナログライクな質感描写もうまい。ロックでは粒立ち良いピッキングのエレキが楽しめ、キレ良く重厚で、押し出しの良いリズム隊がリッチに感じられた。全帯域でスムースな音の繋がりを感じられ、モニターらしい中域のエナジー感に溢れている。ソースの録音状況が手に取るように判るので、録音状態がそのまま明らかにされてしまう。しかし原音重視派にとってはこれほど嘘をつかないデスクトップ・スピーカーは珍しいと言えるだろうし、本機は貴重な選択肢となるであろう。
6010A&5040Aを聴く −「PCデスクトップ再生編」
続いては音源をPCへWAVファイルでリッピングし、デスクトップユースでの「6010A」とサブウーファー「5040A」を追加した2.1chシステムのサウンドを確認してみる。「5040A」の位相スイッチは試聴感で「-90°」にセットした。「BASS ROLL-OFF」は“切”のままにしておき、レベルトリムで低域感を調整した。まずはPCの音声出力をそのまま「6010A」&「5040A」に接続した音を試聴してみたが、ポップスのボーカルやクラシックのストリングス、そしてロックのエレキはいずれも細身で、すっきりとまとまる。エッジは丸みを若干帯び聴きやすく、ベースもゆったりと感じられる。
次にPro-JectのUSB DAC「USB Box」をPCと接続し、「6010A」のみでピュアなPCサウンドの良さを確認することにした。見通しはどこまでもクリアだ。クラシックのストリングスは旋律のまとまりが良く、逞しい押し出しのパワーを感じる。広がり感が優先されるが、音像は立体的に捉えられる。定位も明確で、ジャズピアノはエッジも硬めに描かれる。空間は澄んでおり、SN感も高い。ポップスのベースは引き締まり、よりボーカルが鮮やかに浮き上がってくる。ロックもストレート傾向で、刻みの切れ良いエレキとスマートなリズム隊がスピード感を向上させている。総じてデスクトップ環境とは思えない、鮮やかな質感描写と音像の立体感に驚く。
ここに「5040A」を追加した状態で試聴を続けてみると、全体の音像が太く厚みを増し、伸びやかで深みのある音場が形成される。低域の重心が下がるのでロックも迫力を増し、ボーカルにも余裕が生まれる。音域が広がり、クラシックやジャズの弦楽器は倍音も豊かに響く。輪郭の描写はモニターらしいシャープさが感じられるが、PCならではのDVD鑑賞やゲームプレイ時などにも、そのサイズ以上のリッチなサウンドが活きてくるであろう。
6010A&5040Aを聴く −「iPod再生編」
最後にiPodでのサウンドも確認してみることにした。Pro-Jectの「Pre Box」と「Dock Box」を組み合わせ、「6010A」のみのサウンドを試聴する。無駄のないストレートな音色にボトム感ある音像が重なり、有機的な音場が広がっている。「iPod nano」によるフラッシュメモリーの音色が出ていると感じられるが、音場の静けさに加えて低域もキレ良く押し出され、ポップスのボーカルの潤いと澄んだ余韻がより際立ってくる。クラシックの管弦楽器もすっきりとまとまり、一つ一つが鮮明に描き分けられている。
「5040A」を加えたセッティングでは、高低ともに音がゆったりと伸びており、窮屈さが一切感じられない。ベースはどっしりとしており、ロックギターのエフェクト感も見やすくなる。ストリングスの線は太く豊かで、ジャズのウッドベースも表情豊かに跳ねている。iPodによる最小コンパクトオーディオであっても、プロ譲りの的確なサウンドがきちんと反映されているようだ。
「GENELEC」ではこの「6010A」&「5040A」を、プロたちが認める音を手軽に体感できる優越感、そして本格オーディオへの“ファーストステップ”が実現できる製品として位置付けている。脚色のないレコーディングスタジオ直系のストレートなサウンドを、身近なデスクトップで味わうことのできるスピーカーシステムだ。
【6010Aのスペック】
●ドライバー:76mmコーン(低域)、19mmメタルドーム(高域) ●周波数特性:74Hz〜18kHz(±2.5dB) ●アンプ部出力:12W(8Ω/高域)、12W(8Ω/低域) ●クロスオーバー:3kHz ●消費電力:35W(最大) ●ミュージックパワー:102dB SPL@1m(ペア) ●入力感度:-12dBu ●外形寸法:121W×181H×114Dmm(Iso-Pod付 195Hmm) ●質量:1.4kg ●カラー:ブラック/ホワイト/シルバー
【5040Aのスペック】
●ドライバー:165mmコーン ●周波数特性:35Hz〜85Hz(±3dB) LFE(85/120Hz) ●アンプ部出力:40W ●消費電力:70W(最大) ●定格音圧レベル:96dB SPL@1m ●入力感度:-12dBu ●外形寸法:251H×305φmm ●質量:6.3kg ●カラー:ブラック/ホワイト/シルバー
◆筆者プロフィール 岩井喬 Takashi Iwai
1977年・長野県北佐久郡出身。東放学園音響専門学校卒業後、レコーディングスタジオ(アークギャレットスタジオ、サンライズスタジオ)で勤務。その後大手ゲームメーカーでの勤務を経て音響雑誌での執筆を開始。現在でも自主的な録音作業(主にトランスミュージックのマスタリング)に携わる。プロ・民生オーディオ、録音・SR、ゲーム・アニメ製作現場の取材も多数。小学生の頃から始めた電子工作からオーディオへの興味を抱き、管球アンプの自作も始める。
【GENELEC製品に関する問い合わせ先】
オタリテック(株)
TEL/03-3332-3211
http://www.otaritec.co.jp/
GENELECブランドの歴史を翻る
創業から遡ること10年余り、創業者イルポ・マルチカイネン氏(ヘルシンキ工科大学にて音響工学を専攻。名誉理学博士の称号を持っているという)とトッピ・パルタネン氏は、学生時代から趣味としてアンプとスピーカーの研究を行っていたという。創業の直前には、隣国スウェーデンの国営放送局に導入されていたYAMAHA「NS-1000M」の修理も手がけていたが、ある時その「NS-1000M」をより高音質にするため、マルチアンプと一体化してみたらどうか、という構想が持ち上がる。アンプの専門家イルポ氏とスピーカーの専門家トッピ氏が力をあわせて取り組んだ、この改良型パワードスピーカーは好評を博し、“アンプとスピーカーは一体化するべきものである”という、GENELECの理想の原点がここに誕生したのである。
同社のフィロソフィーは「音源の信号に対して色付けしない」、「音源に存在している要素はそのまま引き出し、何も引かない」、「信頼性ある耐久力の高さ」の3つ。その骨子は創業の1978年に完成したファーストモデル「S30」から一貫して受け継がれている。
世界のプロフェッショナル・エンジニアが信頼するブランド
当時のパワード・モニターは“ラージ”と呼ばれる大型機が中心であった。しかしラジオやTV放送局では至近距離でのモニタリングが必要であり、大型のスピーカーではなく、コンパクトな小型機へのニーズが高まってきた。こうした“ニア・フィールド・リスニング”のスタイルを実現させるために登場したのが1979年に登場した「1019A」だ。それから時を経て1991年に登場する2ウェイ・パワードモニターの大ヒットモデル「1031A」へと流れは受け継がれ、GENELECは90年代以降のアクティブ型モニターの主導権を握ることとなる。
ここ日本にGENELECが紹介されたのは1986年のこと。国内初採用は東海ラジオ放送であったそうだが、日本から仕様をオーダーした38pダブルウーファー機「1035A」が1988年に完成。国内導入に先駆け、ロンドンの「タウンハウススタジオ」、「メトロポリススタジオ」、「オリンピックスタジオ」に納入されて高い評価を受け、翌1989年には「キングレコード」が「1035A」を国内初採用。その後「ビクター青山スタジオ」にも採用され、評価が確立。90年代中頃まで多くのスタジオで導入され、国内標準ラージモニターといえるまで、その名声は轟いたのである。
筆者もスタジオ勤務時代、数々のGENELEC製品と出会ってきた。先述の「1035A」や「1031A」は言うに及ばず、「1030A」や「1024C」、「1037B」など、その代表的なモデルのサウンドを聴いてきたが、そのいずれもが非常にパワフルでストレート、そしてしっかりと音源の本質を描き出してくれる。アクティブ型の大きなメリットはアンプとスピーカー間の配線がシンプルかつ必要最小限で済むため、音の純度を保てることにある。特にGENELECは、ラインレベルで周波数分割を行えるマルチアンプの良さを活かし、出力段もリレーを介さずパワートランジスターからスピーカーのボイスコイルまでが直結された回路構成を採用。結果的にクリアで見通しの良い音色を得ることができるのだ。
加えてニアフィールドタイプの“スモール・モニター”は、ミキシングコンソール上にセッティングするので、部屋の影響を受けにくい。そしてアクティブ型なのでコンソールから直接ライン出力を取り出し、最短距離で接続ができる。持ち運びも容易で、個人所有も可能なため、スタジオごとに違うモニター環境に惑わされず、アンプからスピーカーまで統一された常に同じ音色のモニター環境が得られるというメリットが挙げられる。ゆえに80〜90年代にかけ、スタジオの標準スモールモニターとして活躍していた銘機の数々をも駆逐するかの勢いで、「1031A」や「1030A」を中心とした“パワード・スモール”が普及していったのである。
こうして、いち早くアクティブモニターの世界を構築してきた「GENELEC」は、時代の流れにうまく合致し、高音質は当然の事ながら、使い勝手の良いツールを必要とするプロフェッショナルたちに愛され、そのニーズを十二分に満たしてきた。今回ご紹介する「6010A」も、30年に渡って脈々と受け継がれてきたプロフェショナル・スペックを活かしつつ、コンシューマーの世界でも充分に活用できる、手軽なデスクトップサイズのパワード・モニターとして仕上げられている。
高音質&コンパクトなスピーカー「6010A」とはどんなモデルか
ラウンド形状が目を惹く、手の平大サイズのボディは、音響回折を最小限に抑えるMDE(Minimum Diffraction Enclosure)や、壁や天井、床からの反射音を低減させて、直接音を際立たせるDCW(Directivity Control Waveguide)バッフルを採用。この思想は1985年に発売された「1022A」の段階で実現されていたが、当時はラウンドキャビネットに抵抗を示す声も多く、壁埋め込み型のラージモニターには不向きとされていたため、長らく異なったアプローチが図られていた。しかし2004年に欧州の著名な工業デザイナー、ハッリ・コスキネン氏の手による曲線美を感じさせるデザインを用いた「8000シリーズ」にて、長年の理想が結実。その流れはこの「6010A」でも活かされており、デザインとスペックの両面から、理に叶ったキャビネット形状を手に入れている。
その材質はアルミダイキャスト製となっており、ホワイト以外に、ブラックとシルバーのボディカラーが用意されている。GENELECでは1996年発売の「1029A」で、初めてアルミダイキャストをキャビネットに採用したが、強度も充分で木材よりも薄く成型でき、同じ外観サイズならば内容積も稼げるため、低域の伸びも良く、ナチュラルな音色が得られるという。
設置面には『Iso-Pod』という専用のゴムベースが装着されており、垂直軸の上下方向へ角度調節が行える。サウンド面でもIso-Pod込みの音作りが行われており、振動の縁切り効果も相まって、バランスの良い音ヌケ感を実現。手に取るとサイズからは想像できないほど、ぎゅっと凝縮された重量に驚く。しかし、従来からのGENELECを知る者にとっては、“良くぞここまで軽くしてくれた”という両極の反応が出るのではないか。その重量の源であるキャビネットのアルミ材は、環境に優しいリサイクル・マテリアルだそうで、新規鍛造のものと比較しても品質には全く見劣りがないそうだ。
ユニットは1.9cmのメタル・ドームトゥイーターと7.6cmコーンウーファーによる、2ウェイ・マルチアンプ構成。特徴的なのは前身となる8000シリーズから継承した、ウーファーコーン紙の背圧をそのままエネルギーとして取り出す、整流パイプを使ったバスレフポートだ。空気にストレスを与えないような構造で、開口部は風切音を防ぐショートホーン形状になっている。8000シリーズの一つのテーマとして、低域の量感を保ちつつ、どこまで小型化できるかも課題であったそうだが、「8030A」(高さ28.5cm・2004年)、「8020A」(高さ22.6cm・2006年)と小型化し、ついにこの「6010A」で高さ20cm以下というデスクトップサイズを実現した。
この「6010A」の機能的な特徴の一つに「DESKTOP CONTROL」という、デスクトップ上に設置した時に反射が強くなる200Hz近辺を4dB減衰させる機能があり、背面のディップスイッチでON/OFFの切り替えが可能だ。その隣には2つのディップスイッチを用いた「BASS TILT」切り替えがある。2つのスイッチの組み合わせで低域を3段階(-2、-4、-6dB)減衰させることができるというもので、壁掛けや天井に吊り下げる場合など、低域が増えすぎた場合に活用できる。
この他、「6010A」はマイクスタンドなどにも設置可能で、幅広い使用方法が提案できる製品となっている。音声入力はコンシューマーを強く意識し、アナログRCAピンのみ。また背面には入力感度トリムが設けられ、簡易的な音量微調整も可能だが、プリアンプと組み合わせるなど、前段にボリュームコントローラーを追加することでより使い勝手が広がるだろう。
6010Aとの組み合わせにベストマッチするサブウーファー「5040A」
そして「6010A」との組み合わせが最適なサブウーファー「5040A」は、16.5cmウーファーを内蔵した5.1ch対応モデルである。ボディは強靭なアルミダイキャストと強化スチールで構成され、床に向かってコーン紙からの音とバスレフダクトからの音が放射される。本体と同じスタイリッシュなデザインのアルミダイキャスト製リモート・マスター・ボリュームが特徴となっており、本体カラーは「6010A」と同様に、ホワイト、ブラック、シルバーの3色が用意されている。この「5040A」のデザインもハッリ・コスキネン氏によるものであるが、この意匠は『Fennia Prize 2009』にてグランプリを獲得している。
接続パネルも底面側に設けられ、「5040A」経由で「6010A」に接続すれば、マスターボリュームで一括音量調整が可能だ。「5040A」はメインチャンネル用にクロスオーバーを内蔵しており、85Hz以下は「5040A」が担当することになる。設置環境によって調整可能な「BASS ROLL-OFF」や「位相マッチング・スイッチ」も装備しており、底面にあるディップスイッチで切り替えが可能だ。特に位相切り替えは、メインチャンネルのスピーカー設置位置を基準にして、0°、-90°、-180°、-270°と細かく補正が可能で、低域の音像定位を的確に揃えることができる。
なお、今回の試聴では「6010A」と「5040A」を2.1chシステムとして構築し、デスクトップを中心とした使いこなしを想定して聴いたが、「5040A」には5.1chサラウンドへの拡張機能も備わっている点も魅力のひとつだ。本体には合わせて5基の6010Aを接続することができ、5.1chのベースマネージメント回路も内蔵されている。例えば薄型テレビの音質グレードアップ用に、始めは2.1chでスタートした後、リアル5.1chへ環境を発展させることも可能だ。
6010A&5040Aを聴く −「CD再生編」
まずは「6010A」単体のクオリティを確認すべく、KENWOODの小型CDプレーヤー「DP-K1000-N」と、Pro-Jectがラインナップする“Box Component”シリーズから、デスクトップサイズの小型プリアンプ「Pre Box」を組み合わせたサウンドを聴いてみた。今回の試聴では「DESKTOP CONTROL」や「BASS TILT」はOFFの状態を選択している。
まずクラシックの音場は雰囲気があり、奥行きや広がりも程良く感じられる。アタック&リリースも鮮明で、管弦楽器はここが際立ちハーモニーも澄んでいる。解像度はデスクトップ系スピーカーの中では極めて高く、ローエンドもスマートに押し出してくる。ジャズのウッドベースはハリ良く弾力豊か。胴鳴りは製動力があり巧みなスマート感が得られる。ピアノも立体的に浮き上がり、スネアのボトム感も緻密だ。
ポップスもクリアにボーカルが浮き上がるが、音像は肉付きを感じられ、アナログライクな質感描写もうまい。ロックでは粒立ち良いピッキングのエレキが楽しめ、キレ良く重厚で、押し出しの良いリズム隊がリッチに感じられた。全帯域でスムースな音の繋がりを感じられ、モニターらしい中域のエナジー感に溢れている。ソースの録音状況が手に取るように判るので、録音状態がそのまま明らかにされてしまう。しかし原音重視派にとってはこれほど嘘をつかないデスクトップ・スピーカーは珍しいと言えるだろうし、本機は貴重な選択肢となるであろう。
6010A&5040Aを聴く −「PCデスクトップ再生編」
続いては音源をPCへWAVファイルでリッピングし、デスクトップユースでの「6010A」とサブウーファー「5040A」を追加した2.1chシステムのサウンドを確認してみる。「5040A」の位相スイッチは試聴感で「-90°」にセットした。「BASS ROLL-OFF」は“切”のままにしておき、レベルトリムで低域感を調整した。まずはPCの音声出力をそのまま「6010A」&「5040A」に接続した音を試聴してみたが、ポップスのボーカルやクラシックのストリングス、そしてロックのエレキはいずれも細身で、すっきりとまとまる。エッジは丸みを若干帯び聴きやすく、ベースもゆったりと感じられる。
次にPro-JectのUSB DAC「USB Box」をPCと接続し、「6010A」のみでピュアなPCサウンドの良さを確認することにした。見通しはどこまでもクリアだ。クラシックのストリングスは旋律のまとまりが良く、逞しい押し出しのパワーを感じる。広がり感が優先されるが、音像は立体的に捉えられる。定位も明確で、ジャズピアノはエッジも硬めに描かれる。空間は澄んでおり、SN感も高い。ポップスのベースは引き締まり、よりボーカルが鮮やかに浮き上がってくる。ロックもストレート傾向で、刻みの切れ良いエレキとスマートなリズム隊がスピード感を向上させている。総じてデスクトップ環境とは思えない、鮮やかな質感描写と音像の立体感に驚く。
ここに「5040A」を追加した状態で試聴を続けてみると、全体の音像が太く厚みを増し、伸びやかで深みのある音場が形成される。低域の重心が下がるのでロックも迫力を増し、ボーカルにも余裕が生まれる。音域が広がり、クラシックやジャズの弦楽器は倍音も豊かに響く。輪郭の描写はモニターらしいシャープさが感じられるが、PCならではのDVD鑑賞やゲームプレイ時などにも、そのサイズ以上のリッチなサウンドが活きてくるであろう。
6010A&5040Aを聴く −「iPod再生編」
最後にiPodでのサウンドも確認してみることにした。Pro-Jectの「Pre Box」と「Dock Box」を組み合わせ、「6010A」のみのサウンドを試聴する。無駄のないストレートな音色にボトム感ある音像が重なり、有機的な音場が広がっている。「iPod nano」によるフラッシュメモリーの音色が出ていると感じられるが、音場の静けさに加えて低域もキレ良く押し出され、ポップスのボーカルの潤いと澄んだ余韻がより際立ってくる。クラシックの管弦楽器もすっきりとまとまり、一つ一つが鮮明に描き分けられている。
「5040A」を加えたセッティングでは、高低ともに音がゆったりと伸びており、窮屈さが一切感じられない。ベースはどっしりとしており、ロックギターのエフェクト感も見やすくなる。ストリングスの線は太く豊かで、ジャズのウッドベースも表情豊かに跳ねている。iPodによる最小コンパクトオーディオであっても、プロ譲りの的確なサウンドがきちんと反映されているようだ。
「GENELEC」ではこの「6010A」&「5040A」を、プロたちが認める音を手軽に体感できる優越感、そして本格オーディオへの“ファーストステップ”が実現できる製品として位置付けている。脚色のないレコーディングスタジオ直系のストレートなサウンドを、身近なデスクトップで味わうことのできるスピーカーシステムだ。
【岩井喬氏の試聴ソース】 |
【6010Aのスペック】
●ドライバー:76mmコーン(低域)、19mmメタルドーム(高域) ●周波数特性:74Hz〜18kHz(±2.5dB) ●アンプ部出力:12W(8Ω/高域)、12W(8Ω/低域) ●クロスオーバー:3kHz ●消費電力:35W(最大) ●ミュージックパワー:102dB SPL@1m(ペア) ●入力感度:-12dBu ●外形寸法:121W×181H×114Dmm(Iso-Pod付 195Hmm) ●質量:1.4kg ●カラー:ブラック/ホワイト/シルバー
【5040Aのスペック】
●ドライバー:165mmコーン ●周波数特性:35Hz〜85Hz(±3dB) LFE(85/120Hz) ●アンプ部出力:40W ●消費電力:70W(最大) ●定格音圧レベル:96dB SPL@1m ●入力感度:-12dBu ●外形寸法:251H×305φmm ●質量:6.3kg ●カラー:ブラック/ホワイト/シルバー
◆筆者プロフィール 岩井喬 Takashi Iwai
1977年・長野県北佐久郡出身。東放学園音響専門学校卒業後、レコーディングスタジオ(アークギャレットスタジオ、サンライズスタジオ)で勤務。その後大手ゲームメーカーでの勤務を経て音響雑誌での執筆を開始。現在でも自主的な録音作業(主にトランスミュージックのマスタリング)に携わる。プロ・民生オーディオ、録音・SR、ゲーム・アニメ製作現場の取材も多数。小学生の頃から始めた電子工作からオーディオへの興味を抱き、管球アンプの自作も始める。
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オタリテック(株)
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