両機の差異や音のキャラクターの違いを検証
ネットワーク機能搭載エントリーAVアンプ・オンキヨー「TX-NA609」「TX-NA579」を高橋敦がレビュー
今年3月、オンキヨーからエントリークラスのAVアンプ「TX-NA609」と「TX-NA579」が登場した。どちらも手頃な価格ながら、上位機と同じくネットワーク機能を搭載しているのが特徴の注目モデル。評論家の高橋 敦氏が本機を視聴した。
オンキヨーはAVアンプの先端を歩むメーカーだ。昨年夏にはフラグシップAVアンプ「TX-NA5008」を、また昨年秋にはAVプリアンプ「PR-SC5508」およびAVパワーアンプ「PA-MC5500」というセパレート方式の意欲作を発表して、その存在感を示した。
一方でオンキヨーは、幅広いラインナップを維持し、エントリークラスの充実にも力を入れてきたメーカーだ。たとえばHDMI1.3対応のAVアンプが登場し始めた2007年、ハイエンド〜ミドルクラスの搭載機はもちろん、いちはやくエントリーモデル「TX-SA605」を投入し、ユーザーのために間口を広げたことは記憶に新しい。
今回、そのエントリークラスの歴史の中でも新たなトピックとなるであろう新モデルが発表された。「TX-NA609」と「TX-NA579」だ。型番が"SA"から"NA"になっていることは、ネットワーク機能対応機であることを表す。ついに、実売でそれぞれ約7万円/約6万円のエントリーモデルにも、ネットワーク機能などが搭載されたわけだ。
では早速、ネットワーク機能から検証していこう。
まずはDLNA1.5に準拠するネットワーク再生機能。両機はDLNAのプレーヤーおよびレンダラーとして機能。両機のオンスクリーンメニューとリモコンで直接NASの中の音楽ライブラリをブラウズして再生もできるし、iPhoneなどのコントローラーアプリから操作して、両機には再生のみを担当させることもできる。
本体側で操作する場合のメニュー構成などはネットワーク再生対応AVアンプとして一般的なもので、同社上級機に遜色ない。キー操作へのレスポンスもストレスを感じることはない。再生形式についても、FLACとWAVにおいて96kHz/24bitまでに対応。この点も上級機と同じで、いわゆるハイレゾ配信の音源も楽しめるわけだ。
コントローラーアプリと言えば、見逃せないのは、オンキヨー純正で無料提供されている「OnkyoRemote」だ。アンプの音量や入力切り替え、radikoの操作もできるのでトータルで便利。操作へのレスポンスも良好である。
さて話に出た「radiko」。既存ラジオ局の放送をネットでサイマル放送するradikoに、本機はホームオーディオ機器として初めて対応する。これまでradikoを聞くにはパソコンかスマートフォンが必要だったが、そこに一石を投じる。いままで電波状況が悪くて受信できなかったりノイズが多かった局を、ノイズなしの快適な音で聞けるようになることは大きい。radikoは現状聴取可能地域が限られているが、これを機にラジオに目を向けてみるのもよいだろう。
またネットワーク機能としては本機は他に、「Compatible with Windows 7」であることもポイント。Windows 7搭載パソコンの音声出力先として本機を選択可能だ。パソコンで音楽や動画を再生する際に利用できる。
他、「NET/USB」の「USB」の部分では、前面USB端子がiPodデジタル接続に対応している点もポイントである。
穏やかな音調と豊かな情報量のNA609
ガツンと来る個性と派手さのあるNA579
TX-NA609とTX-NA579に機能面での大きな差はないが、アンプとしての基本部分には大きな違いがある。TX-NA609のみ、パワーアンプ部に全7chディスクリート構成の3段インバーテッドダーリントン回路を採用しているのだ。オンキヨーのミドルクラス以上のモデルではおなじみの回路構成で、瞬時電流供給能力に優れ、スピーカードライブ能力が高い。さらに、電源部の電解コンデンサーを中心に、7chパワーアンプ回路をL/Rシンメトリーに配置。電源供給ラインや入出力経路まで左右chを対称にするレイアウトも採用している。
その違いがどのように現れるのか、両機の音を確認していこう。
まずは映画BD「セブン」。TX-NA609は、大粒の雨が降り注ぐ場面では、その雨音の大粒さと数にまず頷かされる。全体にはやや軟調だが、ゴロゴロと恐怖をあおる背景音には適度な硬質感もある。サブウーファーの制御が巧みだ。声の調子は適度に柔らかく、背景から浮き立つというよりは背景と自然になじむ。レストランでの会話の場面では、食器の音やベルの音が目立ちすぎずに、しかし十分な情報量でその場の雰囲気を作り上げている。
TX-NA579は、TX-NA609よりも荒い迫力を感じさせる。台詞にも少しざらつきがあるが、それが生々しさにもつながっている。銃声やガラスの砕ける音が連続するアクションの場面では、それらの効果音が少し派手めで、これも悪くない。
続いてはハイレゾ音楽ファイル。TX-NA609は適度な湿度感を出して、しっとりとした感触。ドラムスの木質のこもりを伴う抜けも好ましい。ドラムスは一歩引いて立体的に配置され、音場の奥行を高めている。ベースのアタックはやや甘めだが、全体の穏やかな音調と合っており、違和感はない。
同じジャズの音源からTX-NA579は、ピアノの硬質さやベースのアタックの激しさなど、ロック的な要素を強く引き出す。こちらの方が好みに合うという方もいるだろう。
なお映像系では両機とも、アナログ入力された映像信号を1080pに変換してHDMI出力できるアップコンバージョン機能を搭載。さらには4K=3,840×2,160へのアップスケーリングにも対応。4K自体は現時点では実用的な機能ではないが、映像系の処理能力に相当の余裕があると見込める。
目玉であるネットワーク機能は、上位モデルに先駆けてのradiko対応など、その充実度は期待以上だ。音質は基本的には当然TX-NA609が優位だが、TX-NA579もガツンとくる個性を持っている。これからAVアンプを買おうという方々には、嬉しくも悩ましい選択になるだろう。
【執筆者プロフィール】
高橋 敦 Atsushi Takahashi
埼玉県浦和市(現さいたま市)出身。東洋大学哲学科中退。大学中退後、パーソナルコンピュータ系の記事を中心にライターとしての活動を開始。現在はデジタルオーディオ及びビジュアル機器、Apple Macintosh、それらの周辺状況などに関する記事執筆を中心に活動する。また、ロック・ポップスを中心に、年代や国境を問わず様々な音楽を愛聴。 その興味は演奏や録音の技術などにまで及び、オーディオ評に独自の視点を与えている。
オンキヨーはAVアンプの先端を歩むメーカーだ。昨年夏にはフラグシップAVアンプ「TX-NA5008」を、また昨年秋にはAVプリアンプ「PR-SC5508」およびAVパワーアンプ「PA-MC5500」というセパレート方式の意欲作を発表して、その存在感を示した。
一方でオンキヨーは、幅広いラインナップを維持し、エントリークラスの充実にも力を入れてきたメーカーだ。たとえばHDMI1.3対応のAVアンプが登場し始めた2007年、ハイエンド〜ミドルクラスの搭載機はもちろん、いちはやくエントリーモデル「TX-SA605」を投入し、ユーザーのために間口を広げたことは記憶に新しい。
今回、そのエントリークラスの歴史の中でも新たなトピックとなるであろう新モデルが発表された。「TX-NA609」と「TX-NA579」だ。型番が"SA"から"NA"になっていることは、ネットワーク機能対応機であることを表す。ついに、実売でそれぞれ約7万円/約6万円のエントリーモデルにも、ネットワーク機能などが搭載されたわけだ。
ONKYO AVアンプ TX-NA609【オンキヨーの製品情報ページ】 TX-NA579【オンキヨーの製品情報ページ】 ネットワーク機能を搭載したエントリークラスの7.1ch AVアンプ。DLNA1.5、Compatible with Windows 7に準拠し、ネットワークで共有したHDDやPC内の音楽再生が可能。フロントにはUSB端子を備え、iPod/iPhoneのデジタル接続やUSBメモリーの再生もできる。またインターネットラジオの聴取にも対応。「radiko」も聴くことができる。NA609はアンプ部を強化。全7.1chディスクリート構成で、三段インバーテッドダーリントン回路を採用しドライブ力を向上させている。 |
では早速、ネットワーク機能から検証していこう。
まずはDLNA1.5に準拠するネットワーク再生機能。両機はDLNAのプレーヤーおよびレンダラーとして機能。両機のオンスクリーンメニューとリモコンで直接NASの中の音楽ライブラリをブラウズして再生もできるし、iPhoneなどのコントローラーアプリから操作して、両機には再生のみを担当させることもできる。
本体側で操作する場合のメニュー構成などはネットワーク再生対応AVアンプとして一般的なもので、同社上級機に遜色ない。キー操作へのレスポンスもストレスを感じることはない。再生形式についても、FLACとWAVにおいて96kHz/24bitまでに対応。この点も上級機と同じで、いわゆるハイレゾ配信の音源も楽しめるわけだ。
コントローラーアプリと言えば、見逃せないのは、オンキヨー純正で無料提供されている「OnkyoRemote」だ。アンプの音量や入力切り替え、radikoの操作もできるのでトータルで便利。操作へのレスポンスも良好である。
さて話に出た「radiko」。既存ラジオ局の放送をネットでサイマル放送するradikoに、本機はホームオーディオ機器として初めて対応する。これまでradikoを聞くにはパソコンかスマートフォンが必要だったが、そこに一石を投じる。いままで電波状況が悪くて受信できなかったりノイズが多かった局を、ノイズなしの快適な音で聞けるようになることは大きい。radikoは現状聴取可能地域が限られているが、これを機にラジオに目を向けてみるのもよいだろう。
またネットワーク機能としては本機は他に、「Compatible with Windows 7」であることもポイント。Windows 7搭載パソコンの音声出力先として本機を選択可能だ。パソコンで音楽や動画を再生する際に利用できる。
他、「NET/USB」の「USB」の部分では、前面USB端子がiPodデジタル接続に対応している点もポイントである。
穏やかな音調と豊かな情報量のNA609
ガツンと来る個性と派手さのあるNA579
TX-NA609とTX-NA579に機能面での大きな差はないが、アンプとしての基本部分には大きな違いがある。TX-NA609のみ、パワーアンプ部に全7chディスクリート構成の3段インバーテッドダーリントン回路を採用しているのだ。オンキヨーのミドルクラス以上のモデルではおなじみの回路構成で、瞬時電流供給能力に優れ、スピーカードライブ能力が高い。さらに、電源部の電解コンデンサーを中心に、7chパワーアンプ回路をL/Rシンメトリーに配置。電源供給ラインや入出力経路まで左右chを対称にするレイアウトも採用している。
その違いがどのように現れるのか、両機の音を確認していこう。
まずは映画BD「セブン」。TX-NA609は、大粒の雨が降り注ぐ場面では、その雨音の大粒さと数にまず頷かされる。全体にはやや軟調だが、ゴロゴロと恐怖をあおる背景音には適度な硬質感もある。サブウーファーの制御が巧みだ。声の調子は適度に柔らかく、背景から浮き立つというよりは背景と自然になじむ。レストランでの会話の場面では、食器の音やベルの音が目立ちすぎずに、しかし十分な情報量でその場の雰囲気を作り上げている。
TX-NA579は、TX-NA609よりも荒い迫力を感じさせる。台詞にも少しざらつきがあるが、それが生々しさにもつながっている。銃声やガラスの砕ける音が連続するアクションの場面では、それらの効果音が少し派手めで、これも悪くない。
続いてはハイレゾ音楽ファイル。TX-NA609は適度な湿度感を出して、しっとりとした感触。ドラムスの木質のこもりを伴う抜けも好ましい。ドラムスは一歩引いて立体的に配置され、音場の奥行を高めている。ベースのアタックはやや甘めだが、全体の穏やかな音調と合っており、違和感はない。
同じジャズの音源からTX-NA579は、ピアノの硬質さやベースのアタックの激しさなど、ロック的な要素を強く引き出す。こちらの方が好みに合うという方もいるだろう。
なお映像系では両機とも、アナログ入力された映像信号を1080pに変換してHDMI出力できるアップコンバージョン機能を搭載。さらには4K=3,840×2,160へのアップスケーリングにも対応。4K自体は現時点では実用的な機能ではないが、映像系の処理能力に相当の余裕があると見込める。
目玉であるネットワーク機能は、上位モデルに先駆けてのradiko対応など、その充実度は期待以上だ。音質は基本的には当然TX-NA609が優位だが、TX-NA579もガツンとくる個性を持っている。これからAVアンプを買おうという方々には、嬉しくも悩ましい選択になるだろう。
【執筆者プロフィール】
高橋 敦 Atsushi Takahashi
埼玉県浦和市(現さいたま市)出身。東洋大学哲学科中退。大学中退後、パーソナルコンピュータ系の記事を中心にライターとしての活動を開始。現在はデジタルオーディオ及びビジュアル機器、Apple Macintosh、それらの周辺状況などに関する記事執筆を中心に活動する。また、ロック・ポップスを中心に、年代や国境を問わず様々な音楽を愛聴。 その興味は演奏や録音の技術などにまで及び、オーディオ評に独自の視点を与えている。