驚くほど三次元的な4K映像
JVCの4K対応D-ILAプロジェクター最上位機、「DLA-X90R」の画質に迫る
JVCのD-ILAプロジェクターに、今年4K対応モデルが登場した。そのトップモデルに君臨する「DLA-X90R」の4K映像の魅力に大橋伸太郎氏が迫った。
4K映像を実現する「e-shift」をホームプロジェクターに採用
JVCは「DLA-HD1」以来、家庭用プロジェクターのアッパーマーケットの覇者だった。4Kへの対応は他社に増して重要課題だった。同社は既に4Kデバイスは持っているが、1.27インチ(4,096×2,400画素/アナログ駆動)と大型である。デバイスサイズに合わせた大きな受光部面積が必要になり、光学系全体(特にレンズ)の規模が大きくなり家庭用にふさわしくない。0.7インチ前後の専用デバイスを起こして全て新設計することになるが、現時点で4K動画ソフトも家庭用の送り出し機器も存在しない。総合的に判断した結果、JVCは現時点では2Kの完成度と4K解像度の橋渡しをする「実力4K」の製品を作った方が賢明、と考えた。そしてこの「DLA-X90R」で採用に至ったのが、JVCケンウッドがNHK、ならびにNHKエンジニアリングサービスと共同開発した小型スーパーハイビジョンプロジェクターで搭載実績のある「e-shift」技術だ。
「e-shift」は光学系と電気系の組み合わせで、4倍の解像度を得る技術だ。光学系では手前に光の制御液晶偏光板があり、その後段に複屈折特性を持つ水晶板が配置される。シフトの距離は、その厚みで決まる。偏光板+水晶板が入力光を0.5画素斜め方向にシフトすることで、縦横の解像度が実質2倍になり、フルHD素子(1,920×1,080)を使いながら4K解像度(3,840×2,160)表示を行う仕組みだ。
次に電気系だが、中核技術はJVC流の超解像で、時分割で入力信号をe-shiftデバイスと120Hzで同期させている。まず入力されたフルHD信号を解析し、画素相関検出をかけて欠落した高域成分を検出する。次にフィルタリングによって新しい(補間)画素を生成、4Kの情報量に伸張される。その後4Kエンハンス処理を行い、2枚の1,920×1,080信号を分割生成し、先述の光学系に送り込む。つまり4K/60Hzの1コマを生成するために、FHD/120Hzの画像を2枚用いてe-shiftしているのだ。
3Dに関しては「DLA-X9」など、JVCの昨季のモデルでも高い評価を得たが、クロストークキャンセル機能、視差調整機能、さらに業務用イメージプロセッサー「IF-2D3D1」の変換機能を家庭用プロジェクター搭載用にアレンジしながら搭載し、2DのBDや放送ソースのリアルタイム3D変換が行える。奥行き調整(映像の奥行きと前方飛び出し量をマニュアル調整)と字幕補正(字幕に影響を与えるエリアの奥行き補正量を軽減する)が付属機能として備わる。なお、「DLA-X90R」はTHX 3Dディスプレイ規格の認証を受けている。また、JVC独自のキャリブレーションPCアプリ(関連ニュース)が使えるのは最上位の「DLA-X90R」だけである。
驚くほど三次元的な4K映像
「DLA-X90R」の画質上の最大の特長は“立体感”にある。「e-shift」で画素数が増えた結果、階調表現の元になる情報の量が増えるのは自明だが、JVCのアップコンバートはフォーカスの合っている部分の解像度を大きく改善する特長がある。その結果、2D映像に三次元的な立体感が生まれるのだ。
ハイビジョンテストディスクの女性モデルのアップは、顔の白塗りの肌理、顔立ちの微妙な凹凸が手でなぞるように豊かに現れる。定評あるコントラストと暗部表現もさらに前進し暗部の見通し、ノイズ抑圧、解像感で前世代機からの進歩を印象付ける。細かなコントラストと階調が増しているため、BD映画ソフト『ブラック・スワン』のナタリー・ポートマンのクローズアップでは、彼女の鋭い鼻梁や頬の稜線、輪郭がライティング、メイキャップが生む陰影の描写と一体になり、驚くほど三次元的である。
3D映画『ボルト』冒頭の犬と列車、自動車のチェイスは急峻な奥行きのアグレッシブな立体映像だが、クロストークもなく動きも滑らかで、全く破綻が皆無なのは凄い。アクティブ3Dメガネ越しの色彩変化が少なく、2Dからの落ち込みが少ないのは昨季のモデルの通りだ。
2D/3D変換を使って見た同タイトルの2Dディスクは穏やかな設定で自然さが持ち味。視差設定±15段階(デフォルト0)、奥行き設定5段階(同3)があり、+方向で3Dらしい立体感が増すが反面、やはりクロストークも出る。空間の歪みが少ないことが美点で、『ジュラシック・パーク』の冒頭の水平線が自然に遠ざかるシーンは実景の広大さを感じさせる。中盤、Tレックスのギニョールの肌のぶつぶつした質感が異様に生々しく、いたいけな子供たちの柔肌、金髪の質感との対比が強烈な恐怖効果を生む。
「DLA-X90R」は4K解像度で単に高精細なばかりでなく、D-ILAの最大の武器であるコントラストときめ細かい階調が情報量をしっかりとサポートしている。解像感、高精細度が浮き上がらず“リアリズム”に地道に結びついた「DLA-X90R」の映像に、4K時代へのJVCらしい回答がある。
【SPEC】●表示デバイス:フルハイビジョン対応D-ILA デバイス ●パネルサイズ:フルHD 0.7インチ×3(16:9) ●表示解像度:3840×2160 ●レンズ:2倍電動ズーム・フォーカスレンズ ●レンズシフト:上下80%、左右34% ●光源ランプ:220W超高圧水銀ランプ ●輝度:1,200lm ●コントラスト:120,000対1 ●ビデオ入力端子:HDMI×2、コンポーネント1、PC入力1、トリガー端子、RS-232C、LAN端子、リモート端子、3Dシンクロ ●騒音レベル:20dB(ランプ標準モード時) ●消費電力:360W(スタンバイ時0.8W) ●外形寸法:455W×179H×472Dmm ●質量:15.4kg
◆筆者プロフィール 大橋伸太郎
元AVレビュー編集長。映画、音楽、文学など広範な知識をベースとする批評が注目を集めている。趣味はウィーン、ミラノなど海外都市訪問をふくむコンサート鑑賞、アスレチックジム、ボルドーワイン。
4K映像を実現する「e-shift」をホームプロジェクターに採用
JVCは「DLA-HD1」以来、家庭用プロジェクターのアッパーマーケットの覇者だった。4Kへの対応は他社に増して重要課題だった。同社は既に4Kデバイスは持っているが、1.27インチ(4,096×2,400画素/アナログ駆動)と大型である。デバイスサイズに合わせた大きな受光部面積が必要になり、光学系全体(特にレンズ)の規模が大きくなり家庭用にふさわしくない。0.7インチ前後の専用デバイスを起こして全て新設計することになるが、現時点で4K動画ソフトも家庭用の送り出し機器も存在しない。総合的に判断した結果、JVCは現時点では2Kの完成度と4K解像度の橋渡しをする「実力4K」の製品を作った方が賢明、と考えた。そしてこの「DLA-X90R」で採用に至ったのが、JVCケンウッドがNHK、ならびにNHKエンジニアリングサービスと共同開発した小型スーパーハイビジョンプロジェクターで搭載実績のある「e-shift」技術だ。
「e-shift」は光学系と電気系の組み合わせで、4倍の解像度を得る技術だ。光学系では手前に光の制御液晶偏光板があり、その後段に複屈折特性を持つ水晶板が配置される。シフトの距離は、その厚みで決まる。偏光板+水晶板が入力光を0.5画素斜め方向にシフトすることで、縦横の解像度が実質2倍になり、フルHD素子(1,920×1,080)を使いながら4K解像度(3,840×2,160)表示を行う仕組みだ。
次に電気系だが、中核技術はJVC流の超解像で、時分割で入力信号をe-shiftデバイスと120Hzで同期させている。まず入力されたフルHD信号を解析し、画素相関検出をかけて欠落した高域成分を検出する。次にフィルタリングによって新しい(補間)画素を生成、4Kの情報量に伸張される。その後4Kエンハンス処理を行い、2枚の1,920×1,080信号を分割生成し、先述の光学系に送り込む。つまり4K/60Hzの1コマを生成するために、FHD/120Hzの画像を2枚用いてe-shiftしているのだ。
3Dに関しては「DLA-X9」など、JVCの昨季のモデルでも高い評価を得たが、クロストークキャンセル機能、視差調整機能、さらに業務用イメージプロセッサー「IF-2D3D1」の変換機能を家庭用プロジェクター搭載用にアレンジしながら搭載し、2DのBDや放送ソースのリアルタイム3D変換が行える。奥行き調整(映像の奥行きと前方飛び出し量をマニュアル調整)と字幕補正(字幕に影響を与えるエリアの奥行き補正量を軽減する)が付属機能として備わる。なお、「DLA-X90R」はTHX 3Dディスプレイ規格の認証を受けている。また、JVC独自のキャリブレーションPCアプリ(関連ニュース)が使えるのは最上位の「DLA-X90R」だけである。
驚くほど三次元的な4K映像
「DLA-X90R」の画質上の最大の特長は“立体感”にある。「e-shift」で画素数が増えた結果、階調表現の元になる情報の量が増えるのは自明だが、JVCのアップコンバートはフォーカスの合っている部分の解像度を大きく改善する特長がある。その結果、2D映像に三次元的な立体感が生まれるのだ。
ハイビジョンテストディスクの女性モデルのアップは、顔の白塗りの肌理、顔立ちの微妙な凹凸が手でなぞるように豊かに現れる。定評あるコントラストと暗部表現もさらに前進し暗部の見通し、ノイズ抑圧、解像感で前世代機からの進歩を印象付ける。細かなコントラストと階調が増しているため、BD映画ソフト『ブラック・スワン』のナタリー・ポートマンのクローズアップでは、彼女の鋭い鼻梁や頬の稜線、輪郭がライティング、メイキャップが生む陰影の描写と一体になり、驚くほど三次元的である。
3D映画『ボルト』冒頭の犬と列車、自動車のチェイスは急峻な奥行きのアグレッシブな立体映像だが、クロストークもなく動きも滑らかで、全く破綻が皆無なのは凄い。アクティブ3Dメガネ越しの色彩変化が少なく、2Dからの落ち込みが少ないのは昨季のモデルの通りだ。
2D/3D変換を使って見た同タイトルの2Dディスクは穏やかな設定で自然さが持ち味。視差設定±15段階(デフォルト0)、奥行き設定5段階(同3)があり、+方向で3Dらしい立体感が増すが反面、やはりクロストークも出る。空間の歪みが少ないことが美点で、『ジュラシック・パーク』の冒頭の水平線が自然に遠ざかるシーンは実景の広大さを感じさせる。中盤、Tレックスのギニョールの肌のぶつぶつした質感が異様に生々しく、いたいけな子供たちの柔肌、金髪の質感との対比が強烈な恐怖効果を生む。
「DLA-X90R」は4K解像度で単に高精細なばかりでなく、D-ILAの最大の武器であるコントラストときめ細かい階調が情報量をしっかりとサポートしている。解像感、高精細度が浮き上がらず“リアリズム”に地道に結びついた「DLA-X90R」の映像に、4K時代へのJVCらしい回答がある。
【SPEC】●表示デバイス:フルハイビジョン対応D-ILA デバイス ●パネルサイズ:フルHD 0.7インチ×3(16:9) ●表示解像度:3840×2160 ●レンズ:2倍電動ズーム・フォーカスレンズ ●レンズシフト:上下80%、左右34% ●光源ランプ:220W超高圧水銀ランプ ●輝度:1,200lm ●コントラスト:120,000対1 ●ビデオ入力端子:HDMI×2、コンポーネント1、PC入力1、トリガー端子、RS-232C、LAN端子、リモート端子、3Dシンクロ ●騒音レベル:20dB(ランプ標準モード時) ●消費電力:360W(スタンバイ時0.8W) ●外形寸法:455W×179H×472Dmm ●質量:15.4kg
◆筆者プロフィール 大橋伸太郎
元AVレビュー編集長。映画、音楽、文学など広範な知識をベースとする批評が注目を集めている。趣味はウィーン、ミラノなど海外都市訪問をふくむコンサート鑑賞、アスレチックジム、ボルドーワイン。