石原俊がそのサウンドに迫る
【レビュー】「オーディオ史に登場した“新たなる極” 」 − ラックスマンのプリメイン「L-305」を聴く
■リバイバル的なニュアンスをもつソリッドステート機
ラックスマンからトラディショナルな外装デザインを与えられたプリメインアンプ「L-305」(関連ニュース)がリリースされた。
L-305の内容を見ていこう。本機は外観のみならず、回路的にもリバイバル的なニュアンスをもつソリッドステート機である。終段はバイポーラ・トランジスタのパラレル・プッシュプルで、出力は50W×2。
NFB回路は、ラックスマンが20世紀の終わりごろに採用していたODβ(OptimizedDuoβ)。これは、DC領域の信号と音楽領域の信号を別系統でフィードバックさせて歪率を低減させる回路である。筐体には伝統的な「ロの字」型のウッドカバーがほどこされている。
アナログ再生を強く意識しているのか、MM/MC対応フォノイコライザーを搭載しているほか、レコードの反り対策のためのローカットスイッチ、モノラルレコード用のモノラルスイッチも装備している(この機能はシステムの調整の際にも威力を発揮する)。
トーンコントロールも凝ったもので、ターンオーバー周波数を切り替えることができる(バスは100,300,600Hz/トレブルは1.5,3,6kHz)。また、プリ部とパワー部を分離するセパレートスイッチやヘッドホンアンプを装備しているほか、ボリューム調整用リモコンが付属する。
見かけはクラシカルだが、筐体は昔のモデルより横幅がスリムになっていてセッティングがしやすい。ノブ・スイッチ類の感触は往年の銘機のトルク感が再現されているらしく、プリミティブだが高級感のあるタッチを味わうことができる。
プリ/プリメインアンプで最も重要なボリュームノブの感触は鋭敏で、先端機に比べると習熟を要するが、慣れれば速やかに狙いどおりの音量を得ることができるだろう。
リアパネルの端子レイアウトは昔よりもはるかに洗練されており、抜き差し時の剛性感が高く、安心して使うことができる。発熱量は微弱というほどではないが、四季を通じて快適に使用できるだろう。
■先端機とは一線を画すサウンド
そのサウンドは、いわゆる先端機とは一線を画すものである。筆記用具に例えると、現代のプリメインアンプの音はシャープペンシルみたいだ。機能的ではあるが、味わいに乏しいと言えなくもない。
それに対して、本機の音はあたかも鉛筆のよう。音楽言語に「筆圧」のようなものがこもっていて、しかも書き心地というか聴き心地が柔らかく、削りたての鉛筆のようなフレッシュ感がある。
シンの硬さは「B」くらいだが、トーンコントロールで「HB」にも「2B」にもできるだろうし、ソフトによっても変化するだろう。低音は先端機に比べて聴感上の量的満足度が高い。スペック的には先端機に軍配が上がるのかもしれないが、このアンプは「低音の空振り」がほとんどないのだ。これは実戦的な再生の現場で誠にありがたい。
音楽的にはややレトロといった印象だ。クラシックは現代最先端の演奏・録音よりも、1980年代以前を得意としている。ジャズはモダン期と、そのリバイバル的な演奏録音がストライク。ヴォーカルは現代のラックスマンよりも色気が濃厚に感じられる。
L-305はオーディオ史のなかでどのような位置づけになるのだろうか。先に「リバイバル的なニュアンスをもつ」と記したが、本機はラックスマンの以前のモデルの復刻ではない。むしろ、20世紀のトランジスタアンプ技術へのオマージュのような意味合いが込められているのではないかと筆者は考える。現在進行形のオーディオワールドでは異色の存在なので、ソリッドステートの先端機とも新旧の真空管式機とも異なる「新たなる極」とも受け取れよう。
古い年代のソフトを大量に所有しておられ、現在アンプを探している方には自信をもってお薦めする。また、ソリッドステートの先端機にあきたらなさを感じている愛好家には、ぜひとも一度試聴していただきたい。
<石原 俊>
慶応義塾大学法学部政治学科卒業。音楽評論とオーディオ評論の二つの顔を持ち、オーディオやカメラなどのメカニズムにも造詣が深い。著書に『いい音が聴きたい - 実用以上マニア未満のオーディオ入門』 (岩波アクティブ新書)などがある。
ラックスマンからトラディショナルな外装デザインを与えられたプリメインアンプ「L-305」(関連ニュース)がリリースされた。
L-305の内容を見ていこう。本機は外観のみならず、回路的にもリバイバル的なニュアンスをもつソリッドステート機である。終段はバイポーラ・トランジスタのパラレル・プッシュプルで、出力は50W×2。
NFB回路は、ラックスマンが20世紀の終わりごろに採用していたODβ(OptimizedDuoβ)。これは、DC領域の信号と音楽領域の信号を別系統でフィードバックさせて歪率を低減させる回路である。筐体には伝統的な「ロの字」型のウッドカバーがほどこされている。
アナログ再生を強く意識しているのか、MM/MC対応フォノイコライザーを搭載しているほか、レコードの反り対策のためのローカットスイッチ、モノラルレコード用のモノラルスイッチも装備している(この機能はシステムの調整の際にも威力を発揮する)。
トーンコントロールも凝ったもので、ターンオーバー周波数を切り替えることができる(バスは100,300,600Hz/トレブルは1.5,3,6kHz)。また、プリ部とパワー部を分離するセパレートスイッチやヘッドホンアンプを装備しているほか、ボリューム調整用リモコンが付属する。
見かけはクラシカルだが、筐体は昔のモデルより横幅がスリムになっていてセッティングがしやすい。ノブ・スイッチ類の感触は往年の銘機のトルク感が再現されているらしく、プリミティブだが高級感のあるタッチを味わうことができる。
プリ/プリメインアンプで最も重要なボリュームノブの感触は鋭敏で、先端機に比べると習熟を要するが、慣れれば速やかに狙いどおりの音量を得ることができるだろう。
リアパネルの端子レイアウトは昔よりもはるかに洗練されており、抜き差し時の剛性感が高く、安心して使うことができる。発熱量は微弱というほどではないが、四季を通じて快適に使用できるだろう。
■先端機とは一線を画すサウンド
そのサウンドは、いわゆる先端機とは一線を画すものである。筆記用具に例えると、現代のプリメインアンプの音はシャープペンシルみたいだ。機能的ではあるが、味わいに乏しいと言えなくもない。
それに対して、本機の音はあたかも鉛筆のよう。音楽言語に「筆圧」のようなものがこもっていて、しかも書き心地というか聴き心地が柔らかく、削りたての鉛筆のようなフレッシュ感がある。
シンの硬さは「B」くらいだが、トーンコントロールで「HB」にも「2B」にもできるだろうし、ソフトによっても変化するだろう。低音は先端機に比べて聴感上の量的満足度が高い。スペック的には先端機に軍配が上がるのかもしれないが、このアンプは「低音の空振り」がほとんどないのだ。これは実戦的な再生の現場で誠にありがたい。
音楽的にはややレトロといった印象だ。クラシックは現代最先端の演奏・録音よりも、1980年代以前を得意としている。ジャズはモダン期と、そのリバイバル的な演奏録音がストライク。ヴォーカルは現代のラックスマンよりも色気が濃厚に感じられる。
L-305はオーディオ史のなかでどのような位置づけになるのだろうか。先に「リバイバル的なニュアンスをもつ」と記したが、本機はラックスマンの以前のモデルの復刻ではない。むしろ、20世紀のトランジスタアンプ技術へのオマージュのような意味合いが込められているのではないかと筆者は考える。現在進行形のオーディオワールドでは異色の存在なので、ソリッドステートの先端機とも新旧の真空管式機とも異なる「新たなる極」とも受け取れよう。
古い年代のソフトを大量に所有しておられ、現在アンプを探している方には自信をもってお薦めする。また、ソリッドステートの先端機にあきたらなさを感じている愛好家には、ぜひとも一度試聴していただきたい。
<石原 俊>
慶応義塾大学法学部政治学科卒業。音楽評論とオーディオ評論の二つの顔を持ち、オーディオやカメラなどのメカニズムにも造詣が深い。著書に『いい音が聴きたい - 実用以上マニア未満のオーディオ入門』 (岩波アクティブ新書)などがある。