【特別企画】岩井喬がそのサウンドに触れる
新進ブランド「Carot One」初のカナル型イヤホン「TITTA」を聴く
イタリアの新進ブランド「Carot One」 |
管球とのハイブリッド構成のプリアンプとデジタル方式のパワーアンプが分離した純然たるセパレート構造を用いながら、コンパクトな手の平サイズにまとめ上げたユニークなプリメインアンプ「ERNESTOLO(エルネストーロ)」。登場するや否や多くのオーディオファンの注目を集めることになったこの「ERNESTOLO」を送り出したのが、イタリアの新進ブランド「Carot One(キャロットワン)」である。同ブランドから初のイヤホン「TITTA」が登場した。
そもそも、この「キャロットワン」は2009年、長年オーディオメーカーでキャリアを積んだメンバーらによって創業したというOpenItem社が立ち上げたブランドであり、ここ日本では在庫がなくなるほどの人気を誇る「ERNESTOLO」は「キャロットワン」初のプロダクトであったというから驚きだ。「ERNESTOLO」のアルミボディも、イタリア語でニンジンを指す「キャロットワン」というブランド名を表すかのように鮮やかで個性的なオレンジカラーを身に纏っている。
OpenItem社には「キャロットワン」を含め、5つのオーディオブランドがある。特にコンパクトな製品群を揃えているのが「キャロットワン」だそうで、他にも管球を用いた上位ブランドラインも存在している。
つまり、「キャロットワン」の製品は目新しさを求める発想で作られたかのようなインパクト勝負のプロダクトではなく、上位機種のテクノロジーも盛り込んだハイコストパフォーマンス機とも考えられるのではないか。プロダクトを開発しているエンジニアAntonio Scialoが掲げた“素晴らしいハイファイ製品を適正な価格で提案する”という想いがまさにそのことを指し示している。
そんな同ブランドの第一弾製品「ERNESTOLO」の持つ能力の高さを別の形で証明することになったのは、日本市場で限定200台用意された「ERNESTOLO La Serie Limitata」である。これは日本からの要望で実現したもので、OpenItem社公認でブランド初となるリミテッドエディションとなった。それが叶ったのも日本市場での人気が引き金となり、「ERNESTOLO」が世界的にヒットしたからだという。
そして、この記念すべき処女作「ERNESTOLO」をベースにプリアンプ部&ヘッドホンアンプ部だけを取りだしたスタイルの「FABRIZIOLO」や管球ハイブリッド・プリ回路を半導体によるゲイン調整回路へと置き換えを図ったプリメインアンプ「GILDOLO」も登場。リーズナブルでありながら高音質を実現した個性豊かな製品を手掛ける「キャロットワン」は人気ブランドとしてさらに輝きを放っている。
カナル型イヤホン「TITTA」で新分野へ参入 |
そうした中、「キャロットワン」はさらに新たな分野であるカナル型イヤホン「TITTA」のリリースを発表。ヘッドホンユーザーの間でも大きな話題となっている。
「TITTA」はブランドカラーといえるオレンジ色を身にまとったアルミ製ROCK SOLID Metal Ear Cupハウジングと、「ERNESTOLO」以降オペレートランプなどで採用され、オレンジ色を引き立てる役割も担う青色LEDのカラーリングを用いた熱可塑性エラストマー(TPE)製シースやイヤーチップを採用。ドライバーユニットは11mmのダイナミック型を搭載している。他にはない独自性溢れるカラーリングと逞しいアルミハウジングの存在感は1万円以下という価格を感じさせない本格的なつくりだ。
試聴にはアイバッソオーディオの高音質ポータブルプレーヤー「HDP-R10」を用いた。なお、「TITTA」のインピーダンスは16Ωなので、こうしたハイエンド機でなくともiPod/iPhone直挿しで十分楽しめることも紹介しておこう。
カナル型としては比較的大ぶりなハウジングはしっかりとした重量感もあり、サウンドにおいても重心の低いどっしりとした厚みのある中低域を軸にした傾向を持つ。
クラシック『ホルスト:惑星・木星/レヴァイン指揮・シカゴ交響楽団』では、S/N高く広がりある音場が展開。きめ細やかな管弦楽器の浮き上がりとともに、ボディの太さも実感でき、ハーモニーは中低域を重厚に響かせる。音像の密度も高く、ティンパニの弾力も太さがあり、皮のハリは滑らかに際立つ。
ジャズ『オスカー・ピーターソン・トリオ/プリーズ・リクエスト』(“ユー・ルック・グッド・トゥ・ミー”)でもリッチな音像が存在感高く張り出してくる。
ピアノはまろやかなタッチで太く伸びやかなハーモニクスが響く。ウッドベースの胴鳴りは落ち着いたトーンで弦のたわみ感も弾力良い。ドラムセットも程良いボディの厚みを持っており、スネアブラシの粒立ちは小気味よく跳ねている。
いずれも耳当たり良い厚みを持たせた聴きやすさにウェイト置いた傾向といった印象だが、程良い倍音の煌めき感を持っているのでバランス良い解像感、鮮度感も得られるだろう。
ロック/ポップスでのバランス感は「キャロットワン」ならでは |
続いてロック『デイブ・メニケッティ/MENIKETTI』(“メッシン・ウィズ・ミスター・ビッグ”)においては、「キャロットワン」の持つリッチでゴージャスな倍音表現も加わり、太く伸びやかなリズム隊のどっしりとした安定感とともに骨太なロックサウンドが楽しめる。
エレキギターは太く小気味よい刻みと伸びやかな倍音の厚みを効かせた豊かなディストーションを前面に押し出す。ハスキーな口元をハリ艶良く描くボーカルは肉付き良いボトムも同時に感じ取れる。
ポピュラーとしては『May’n/If you…』(“もしも君が願うのなら”)を聴く。ベースは太くどっしりとしており、キレ良くスカッと浮かんでくるボーカルとの対比が良い。しかし声にも十分な厚みがあるのできつさを感じることはないだろう。
ストリングスは繊細かつきめ細やかなタッチで滑らかな旋律が背後から聴こえてくる。中域成分のハリ艶の良さはこちらでも存分に発揮されており、耳当たり良い弦楽器の爪弾きの質感にも適度に反映されている。
最後に192kHz/24bitのハイレゾ音源も確認してみた。『Pure2 〜Ultimate Cool Japan Jazz〜』(“届かない恋”、“夢であるように”)のマスター音源を聴いてみたが、全体的に音像の輪郭がシャープに描かれ、密度感も引き締まってくる。
ボーカルは明瞭度が一層高くなり、程良くウェットな口元のディティールは倍音の豊かさもあって滑らかさが一段と増した。余韻のふっくらとした感触がおおらかな表現性に繋がっており、程良い解像感とマイルドさが同居した絶妙なバランス感覚を持つハイレゾサウンドだ。
基本的にどのジャンルもそつなくこなすが、ロックやポップスにおける密度とハリ艶の優れたバランス感は「キャロットワン」ならではのまとまりの良さを感じる。
「TITTA」はダイナミック型ドライバーならではの中域のリッチさと適切な倍音コントロールによってメリハリを効かせつつ、モニター的な硬さのない楽しげなサウンド構築を心掛けているかのようだ。音像の厚い安定度の高さもまた「TITTA」の持つ魅力といえるだろう。
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