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【特別企画】

パイオニア旗艦AVアンプ「SC-LX87」ー 山之内 正が実力を徹底検証

公開日 2013/10/17 12:00 山之内 正
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●視聴レポート
定位や余韻を正確に描き出す優れた空間描写能力
細かな音情報まで描き出す力は新DACとの組み合わせが奏功


ここで実際に「SC-LX87」の音を聴いてみることにしよう。ソル・ガベッタが独奏を弾くエルガーのチェロ協奏曲では、チェロの弦のふるえが目に浮かぶようなリアリティのある音像が左右スピーカーの中央に浮かび、まずは音像定位の正確さを強く印象付けた。この録音は、再生装置によってはチェロの音像が大きくなってしまうことがあるのだが、本機とS-1EXの組み合わせではフォーカスの良いイメージがアンカーで固定したようにしっかり定位し、それを取り囲むオーケストラの響きは部屋いっぱいに余韻が広がっていく。ステレオ録音とはいえ、余韻を忠実に収録した録音ではそうした聴こえ方になることがあるのだ。

もちろん、空間情報を正確に再現する能力が再生装置にそなわっていることが基本だが、本機は特に弱音時の空間の描写が精妙で、ピアニシモでも響きがスカスカにならず、密度の高い空気が部屋を満たしている印象だ。この弱音の質感の高さは、おそらくESS製DACがもたらす長所の一つだと思う。

次にペーター・レーゼルが独奏を弾いたモーツァルトのピアノ協奏曲で、さらに精妙な余韻の広がり具合を確認した。この録音はオーケストラ上方に余韻の雲が浮かぶイメージのサウンドに特徴があり、スピーカーの後方にも大きな空間が広がっていく。

本機で聴くと直接音と残響の関係が絶妙で、伸び伸びとした余韻の広がりのなか、ていねいな表情で歌うピアノと弦楽器の掛け合いがとても美しい。SACD層を聴くとそのニュアンスがさらに生き生きとした表情をたたえて、歌曲のような起伏に富んだ音楽が展開する。独奏は過剰なフレージングとは無縁で、むしろテンポの揺れも抑えた自然さに良さがあるのだが、ときおり見せる絶妙な歌いまわしのうまさが、本機の音からはストレートに伝わってくるのだ。


音の美味しい部分を見事に引き出す再生力
専用アプリも直感的な操作が可能


次にUSBとDLNAでDSD音源をいくつか聴いてみた。特に後者については、iControlAV 2013での選曲操作を行ってみたが、サクサクと動き、表示のレスポンスやブラウジングの操作にストレスを感じなくなった。画面インターフェースもフリック操作で直感的に使いこなせる良さがあるし、再生画面でそのまま音量調整ができるようになった点にも確実な進化を実感した。

パイオニアの操作アプリ「iControlAV 2013」はスマートフォンライクな操作感を取り入れ、快適な使い勝手を目指した。(写真左)フリック操作のイメージ。Androidのホームボタンのようなマークを選択すると左右下に各メニューへ遷移するウインドウが現れる。それを選択すると、各メニューに簡単に移動できる

肝心の再生音だが、今回、ディスク再生以上に本機の音質的な特徴がダイレクトに浮かび上がってきたように思う。『NAMA』の5.6MHz音源からは、アンサンブルのうまさ、生き生きとしたテンポ感、アコーディオンのキレの良さなど、この演奏の一番美味しい部分を見事に引き出し、実演を聴いているような臨場感を味わうことができた。余韻のくせのなさに加え、弱音のノイズフロアが低いことが、抜群の臨場感を生んでいるようだ。

ゲルギエフのショスタコーヴィチは弱音からフォルテにいたるダイナミックレンジの余裕が桁外れに大きい。特にNASから再生したときのローエンドの伸びは見事で、パソコンのUSB接続を上回るスケールの大きさがある。

静寂の深さは、BDのサラウンド音声でも絶大な威力を発揮する。『レ・ミゼラブル』のダイナミックレンジの余裕と声のフォーカスの良さについては「AV REVIEW」11月号(10月17日発売)の記事で触れた通りで、クライマックス場面の長いクレッシェンドはまさに圧巻だ。特に、音が次第に厚くなるとき、まったく力みがないことに感心した。無理やり音圧を上げていくのではなく、自然にエネルギーの密度が上がり、部屋の空間全体が共鳴するような力強さがある。ダイレクトエナジーHDアンプの多チャンネル同時出力の余裕が、この圧倒的な密度感を生んでいることは間違いない。

パルシブでインパクトの強いサウンドが高速に飛び交う『ダークナイト・ライジング』は、本機の再生音にそなわるスピード感を体感するのにふさわしい作品だ。今回はキャットウーマンが屋上でバットマンと出会う場面を見たが、見慣れたシーンからここまでテンションの高い動きが伝わってきたのははじめてのことだ。エフェクトの質感がリアルで密度が高いことに加え、音が立ち上がる瞬間のエネルギーが大きく、しかも輪郭がいっさいにじまない。聴き手のすぐ近くまで音が飛んでくるようなスピード感があるため、説得力が倍加するというわけだ。

エフェクトの生々しいサウンドに加え、最低音域まで深々と伸びたベースとパーカッションのサウンドが下から全体の響きを支え、その組み合わせが生むスケールの大きさに圧倒された。見慣れた場面が違って聴こえる体験はときどき起こるのだが、本機は他の作品からもいろいろな驚きを引き出してくれそうな予感がする。


SC-LX87

【SPEC】●定格出力(1kHz、2ch駆動時、T.H.D. 1.0%):フロント…250W+250W(4Ω)、190W+190W(6Ω)/センター…250W(4Ω)、190W(6Ω)/サラウンド…250W+250W(4Ω)、190W+190W(6Ω)/サラウンドバック…250W+250W(4Ω)、190W+190W(6Ω)/フロントハイト/ワイド…250W+250W(4Ω)、190W+190W(6Ω)
●入出力端子:入力…オーディオ(PHONO含む)×2、AV×4、マルチチャンネル7.1ch、コンポーネント×3、光デジタル×2、同軸デジタル×2、HDMI×9、LAN×1、ADAPTER PORT×1、USB×2/出力…AV×1、プリアウト9.1ch、パワーアンプチャンネル数9ch、スピーカー設定12パターン、コンポーネント×1、光デジタル×1、HDMI×3、LAN×1
●消費電力:370W(待機時0.1W) ●外形寸法:435W×185H×441Dmm ●質量:18kg



【執筆者紹介】
山之内 正
神奈川県横浜市出身。東京都立大学理学部卒。在学時は原子物理学を専攻する。出版社勤務を経て、音楽の勉強のためドイツで1年間過ごす。帰国後より、デジタルAVやホームシアター分野の専門誌を中心に執筆。大学在学中よりコントラバス演奏を始め、現在もアマチュアオーケストラに所属し、定期演奏会も開催する。また年に数回、オペラ鑑賞のためドイツ、オーストリアへ渡航。趣味の枠を越えてクラシック音楽の知識も深く、その視点はオーディオ機器の評論にも反映されている。

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