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4名の評論家が週替わりでオーディオを語る

岩井喬のオーディオスクランブル【第1回】ソニー「PCM-D100」と真空管アンプでDSDの魅力を引き出す

公開日 2014/07/28 10:15 岩井 喬
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■アンドリュー・ジョーンズ氏がチューニングした隠れた名機「S-CN301-LR」

「S-CN301-LR」は、元々ミニマムなシステム試聴のリファレンスにしようと考え購入したスピーカーであった。極厚MDFバッフルに加え、天然木を細かく規則的に張り合わせた別体構造のリアルウッド仕上げキャビネットを採用し、ネットワークにも空芯コイルを取り入れるなど、低価格機とは思えない作り込みの良さが魅力となっている。

パイオニア「S-CN301-LR」は低価格だが、TADの旗艦機などを手がけるアンドリュー・ジョーンズ自らがサウンドチューニングを行っている。背面にも同氏のサインが印刷されている

さらに購入に至った決定打はTADでフラッグシップ機TAD-R1などを担当するアンドリュー・ジョーンズ氏がサウンドチューニングを行っているからだ。パイオニアの低価格な他ラインナップとは一線を画す、音像の芯を捉えた高密度かつバランスの優れたサウンドで、解像感も程よく保たれている。それに加え、空芯コイルの効果か、音が暗く沈みこまず、開放的なヌケの良さを伴ったすっきりとした中高域の再現性を持っている点が気に入ったのだ。

■人懐っこい、素直で温かみのあるサウンドが愛おしく思えてきた

ではこの組み合わせの肝要なポイントはどこにあるのか、であるが、出力を犠牲に質感や開放感を重視した45シングルアンプ、濃密ながらすっきりとヌケ良いサウンドを持つS-CN301-LR、さらにPCM-D100で再生されるスムーズで臨場感溢れるDSDサウンド。これらを組み合わせることでDSDらしさに繋がる密度感や質感の滑らかさ、詰まりのないスムーズな高域表現と空間構成力を発揮させることはできないか、と考えたのだ。実際の試聴では前述のような点から、音を大きくできないため、普段の試聴距離よりもスピーカーに近づき、ニアフィールドリスニングの領域で聴いてみることにした。

聴き始めは妙に懐かしいマイルドな耳当たりだなと感じたが、半日近くその音色に耳を傾けていると、人懐っこい、素直で温かみのあるサウンドが逆に愛おしく思えてきた

最近リファレンスには半導体アンプ(といっても45シングルと同じA級だが)を用いていたので、聴き始めは妙に懐かしいマイルドな耳当たりだなと感じたのだが、半日近くその音色に耳を傾けていると非常に人懐っこい、素直で温かみのあるサウンドが逆に愛おしく思えてきた。押しつけがましくない有機的な音像と流麗かつナチュラルな質感描写がストレスなくスムーズに耳まで届いてくる。解像感や位相の正確さは最新アンプ環境に遠く及ばないものの、DSDにとって重要な空間の緻密さ、シームレスに広がる空間の豊かさ、透明感は非常によく表現できている。送り出しがポータブルレコーダーであることも忘れ、純粋に音楽に浸ることができた。管球アンプならではの魅惑的な音色がそうさせているのか、定かではない。しかし古典的な設計ではあるもののスペックではない、ゆったりと身をゆだねることの大切さを改めて実感したひと時でもあった。

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