クラスを超えた物量を投入
パイオニア「PD-70AE」レビュー。銘機の系譜を継ぐ、ディスク再生特化のSACDプレーヤー
■定位、密度、透明感……あらゆる描写を再現
PD-70AEの試聴はパイオニアの試聴室と音元出版の視聴室で合計2回行った。2回の試聴共に、出音した瞬間、鮮やかに印象付けられたのが定位の素晴しさだ。筆者のリファレンスソフトの1つ、キップ・ハンラハンの『ビューティフル・スカーズ』(SACDハイブリッド)は、電気楽器とパーカッション、ボーカルで演奏されるニューヨークラテンだが、ベースとドラムのセンターラインが太い幹のように音場中央にずっしりと貫通している。
曲によってやや高さが変わるが、ボーカルが音場中央に肉声の量感を伴ってくっきりと現れる。試聴に用いたスピーカーシステム「TAD-E1」の音調を考慮しても、スピーカー中央領域の音影が濃く、深い奥行きがある。この密度感は見事だ。フルバランス設計によるセパレーションのよさに加え、S/Nに優れノイズフロアが低いからこそ、この密度感が引き出せるのだ。そしてこの密度感に澄明度の高さも両立させている。
一方で中央のソロ楽器、リズムセクションの音影は前方に展開するので、対比的にストリングスなどが左右水平方向に広がる。そのため聴き手を包み込む包容力と、楽音が空間に浮遊する艶っぽいニュアンスが出現する。
今回、TAD-E1とアキュフェーズのAB級モノラルパワーアンプ「M-6200」の組み合わせで聴いたが低音楽器の量感は凄まじく、視聴室を揺るがす地響きだ。しかし音量を上げてもPD-70AEは振動の影響を自身の筐体に寄せ付けず、定位にぶれがなく楽音の輪郭ににじみがない。
このCDはコンガ等パーカッションがオブリガードのように加わるパッセージが多いが、その打撃の切れがまた痛快無比。鼓面の反撥がシャープに解像される。これもPD-70AEがドライブメカ内の定在波と共振の干渉を排した結果だ。
■剛と柔を兼ね備えた再生音。しなやかな音楽性を持つ
次にクラシックのピアノ曲を聴いてみよう。高橋アキのシューベルト『3つのピアノ曲D.946 アレグロアッサイ』。剛腕ぶりを印象付けた先のニューヨークラテンから一転、柔らかいピアノの響きだ。このアルバムで高橋アキ氏の使用する楽器はベーゼンドルファーのピアノ・280VC。ファツィオーリを用いた同曲演奏を先日ホールで聴いたばかりだが、PD-70AEは楽器によって全く異なる響きと細部のニュアンスを明確に描き分ける。
その鍵はやはり低音の描写にある。再生音楽でいちばん再現が難しく、どこかへ隠れがちな低音域が損なわれずに再現されているから、使用する楽器でどれだけ表現が違うか、音楽演奏のあやが驚くほど明瞭に伝わる。一方、音域による倍音の出方の変化とニュアンスの表現は、搭載されたES9026PROの高い処理能力を示していると言える。
PD-70AEのもう1つの魅力が、音楽の流れの中の強弱の振幅を活き活きと描写することだ。結果、レスポンスがよく息づくような生命感豊かな音楽が生まれる。これも制振設計とL/R独立で搭載したDACの性能を十全に引き出す優れた使用法によるものだ。
ハードウェアとしての厳しい目的性に徹したシンメトリカルな外観はいささか素っ気なく、PD-70AEの存在感は武骨と言っていい位だが、その再生音質は剛と柔を兼ね備え、ディスクの中の音楽を演奏者と一体になって表現するしなやかな音楽性(ミュージカリティー)を持つ。
CDプレーヤー「PD-T07」「PD-T09」、LDプレーヤー「LD-X1」「HLD-X0」、DVDプレーヤー「DV-S9」といったパイオニアのキラ星の如き名機が次々にオーバーラップし、ファンならニンマリとして溜飲を下げるであろう久々に「らしい」製品。高級機が軒並み100万円を突破する現状にあって、価格28万円はエントリーハイエンドと呼ぶべき範囲にあるが、その音質は価格に数倍するものがある。
ディスク再生のエキスパートというかウェポンに徹した本機の潔さは痛快とすら思える。CD/SACDファンは今、何を措いても聴くべき傑作の誕生だ。
(大橋 伸太郎)