開発者に話を聞く/生産ラインも視察
デノン “モンスターAVアンプ”「AVC-X8500H」はいかに誕生したのか。同社の白河拠点を取材
■圧倒的な増幅の余裕度。AVアンプとは思えない鮮明な定位
まず、これまでの試聴も踏まえてAVC-8500Hのサウンドについて述べる。先行して発売されたアッパーミドルクラス「AVR-X6400H」と比べても帯域の広さで明らかに勝る。電源部や物量の差もあり、増幅の余裕度がちがう。また、パワーアンプ部にチェッカーマウント・レイアウトを最初に用いたAVR-X6300Hではステレオ/サラウンドの再生音質にやや硬さを感じたが、本機が再生する音の質感は実に滑らかだ。
ステレオ再生では定位の鮮明さが印象的。これは過去のサラウンドアンプ全般で不満だった点だ。S/Nも非常に良い。一方で13chをフルに用いたサラウンド再生では、広々とした空間が現れ、オブジェクトのディテールがほぐれて音場がしなやかに息づく。また、ステレオ再生と同様にオブジェクトの一音一音に雑味がなく、デノンのアンプらしい鮮度の高さ、質感の豊かさがある。
■ステレオ再生においても原寸大のリアリズムを聴かせてくれる
白河のデノン試聴室では、最初にアナログ入力でSACDのステレオ再生を聴いた。「アコースティック・ウェザー・リポート」(SACDハイブリッド)は、DSD一発録り、無編集のピアノトリオのスタジオライブ演奏。ワイドレンジでリミッターの存在を感じさせないダイナミズムに富む優秀録音だ。
AVC-X8500Hでの再生を一言で表現すれば、原寸大のリアリズム。ベースは帯域十分で、ローエンドの音にならない領域までカバーして空気の波動に変えており、迫力十分だ。中低域がどっしりと安定した活力に富んだサウンドで、ピアノソロの打鍵が明瞭そのもの。濁りのないブリリアントな響きがある。雑味がない鮮度の高い楽音、そしてエネルギー感に満ちている。そう、これがデノンの音だ。ノイズの抑制が行き届いているからこの生々しい再現が生まれるのだ。
しかし、何よりトリオの定位の鮮明さに感銘を受ける。左右対称のアンプレイアウトと余裕のある電源供給、セパレーションがこのぶれのない安定した音場表現をもたらした。高解像度のレンズをマニュアルで追い込んだような、痛快なくらいビジュアル的な明瞭さにも富む音楽再生だ。
■音場情報量の圧倒的豊かさと雄大な音場表現で作品に没入
映像音響は、ドルビーアトモスを採用した新旧SF映画を視聴した。「ブレードランナー ファイナルカット」(UHD BD)は第一に、音場情報量の豊かさに圧倒される。AVC-X8500Hは、ヴァンゲリスが音場に忍ばせた効果音の断片を細大漏らさず掬い上げ、音場に饒舌かつ有機的に散りばめるので、これまで気付かなかった音に気付かされる。
第二に、出現する音場の広大さだ。視聴室四囲の壁が消失したような、行き止まり感のない無限音場が出現する。頭上に轟音を残して空中パトカーが縦横に行き交い、シンセサイザーの音楽が手でふれられるようにくっきりと鋭利に目前に現れる。
こうした雄大な音場表現は、最近作「エイリアン:コヴェナント」でも発揮された。アンドロイド・デイヴィッドが、一民族を滅亡させるシーンで空中に現れる死のスターシップの巨大な質量が頭上高く現れる際の、のしかかるような存在感が本機のパワフルな立体音場と、ハイトスピーカーの量感で「終末感」に変わる。これぞサウンドデザイナーのインテンションだったろう。
後半の着陸船上のアクションでは全チャンネルがフル稼働するが、同時出力でもパワーの低下がなく歪みが耳につかず、帯域が狭くならず、ドラマのテンションが弛まず持続する。見る者・聴く者の映画への没入を加速させ、再生機器の存在を忘れさせる器の大きさ。フラグシップに求められる要件が確かにここにある。
◇
超弩級モデルの実現が難しくなったこの時代において、これまでのデノンの歴史を飾ってきた「A1」たちに肩を並べる性能と音質を備えた新しいフラグシップを、しかも現実的な価格で実現したことの意義は大きい。そこには考え抜かれた開発プロセスがあり、そしてそれを支える開発環境や製造環境があることも今回の白河拠点の取材を通じて確認することができた。サウンドについては上に述べたとおりだ。AVC-X8500Hは、まさに「新時代のフラグシップ像」を示した記念すべきモデルといえるだろう。
(大橋伸太郎)
まず、これまでの試聴も踏まえてAVC-8500Hのサウンドについて述べる。先行して発売されたアッパーミドルクラス「AVR-X6400H」と比べても帯域の広さで明らかに勝る。電源部や物量の差もあり、増幅の余裕度がちがう。また、パワーアンプ部にチェッカーマウント・レイアウトを最初に用いたAVR-X6300Hではステレオ/サラウンドの再生音質にやや硬さを感じたが、本機が再生する音の質感は実に滑らかだ。
ステレオ再生では定位の鮮明さが印象的。これは過去のサラウンドアンプ全般で不満だった点だ。S/Nも非常に良い。一方で13chをフルに用いたサラウンド再生では、広々とした空間が現れ、オブジェクトのディテールがほぐれて音場がしなやかに息づく。また、ステレオ再生と同様にオブジェクトの一音一音に雑味がなく、デノンのアンプらしい鮮度の高さ、質感の豊かさがある。
■ステレオ再生においても原寸大のリアリズムを聴かせてくれる
白河のデノン試聴室では、最初にアナログ入力でSACDのステレオ再生を聴いた。「アコースティック・ウェザー・リポート」(SACDハイブリッド)は、DSD一発録り、無編集のピアノトリオのスタジオライブ演奏。ワイドレンジでリミッターの存在を感じさせないダイナミズムに富む優秀録音だ。
AVC-X8500Hでの再生を一言で表現すれば、原寸大のリアリズム。ベースは帯域十分で、ローエンドの音にならない領域までカバーして空気の波動に変えており、迫力十分だ。中低域がどっしりと安定した活力に富んだサウンドで、ピアノソロの打鍵が明瞭そのもの。濁りのないブリリアントな響きがある。雑味がない鮮度の高い楽音、そしてエネルギー感に満ちている。そう、これがデノンの音だ。ノイズの抑制が行き届いているからこの生々しい再現が生まれるのだ。
しかし、何よりトリオの定位の鮮明さに感銘を受ける。左右対称のアンプレイアウトと余裕のある電源供給、セパレーションがこのぶれのない安定した音場表現をもたらした。高解像度のレンズをマニュアルで追い込んだような、痛快なくらいビジュアル的な明瞭さにも富む音楽再生だ。
■音場情報量の圧倒的豊かさと雄大な音場表現で作品に没入
映像音響は、ドルビーアトモスを採用した新旧SF映画を視聴した。「ブレードランナー ファイナルカット」(UHD BD)は第一に、音場情報量の豊かさに圧倒される。AVC-X8500Hは、ヴァンゲリスが音場に忍ばせた効果音の断片を細大漏らさず掬い上げ、音場に饒舌かつ有機的に散りばめるので、これまで気付かなかった音に気付かされる。
第二に、出現する音場の広大さだ。視聴室四囲の壁が消失したような、行き止まり感のない無限音場が出現する。頭上に轟音を残して空中パトカーが縦横に行き交い、シンセサイザーの音楽が手でふれられるようにくっきりと鋭利に目前に現れる。
こうした雄大な音場表現は、最近作「エイリアン:コヴェナント」でも発揮された。アンドロイド・デイヴィッドが、一民族を滅亡させるシーンで空中に現れる死のスターシップの巨大な質量が頭上高く現れる際の、のしかかるような存在感が本機のパワフルな立体音場と、ハイトスピーカーの量感で「終末感」に変わる。これぞサウンドデザイナーのインテンションだったろう。
後半の着陸船上のアクションでは全チャンネルがフル稼働するが、同時出力でもパワーの低下がなく歪みが耳につかず、帯域が狭くならず、ドラマのテンションが弛まず持続する。見る者・聴く者の映画への没入を加速させ、再生機器の存在を忘れさせる器の大きさ。フラグシップに求められる要件が確かにここにある。
超弩級モデルの実現が難しくなったこの時代において、これまでのデノンの歴史を飾ってきた「A1」たちに肩を並べる性能と音質を備えた新しいフラグシップを、しかも現実的な価格で実現したことの意義は大きい。そこには考え抜かれた開発プロセスがあり、そしてそれを支える開発環境や製造環境があることも今回の白河拠点の取材を通じて確認することができた。サウンドについては上に述べたとおりだ。AVC-X8500Hは、まさに「新時代のフラグシップ像」を示した記念すべきモデルといえるだろう。
(大橋伸太郎)