レコード再生も含め本機のパフォーマンスを集中試聴
エソテリックの旗艦プリメイン「Grandioso F1」を聴く ー 精密感と温かみを高次元で両立
■剛性や精度は極めて高く、操作感も極上なA級アンプ
エソテリックの「Grandioso F1」のハンドリングをする機会を頂戴した。Grandiosoは同社のオーディオエレクトロニクスの最高峰モデルに冠された名称である。このシリーズは各製品カテゴリーのトップモデルで構成されており、本機はプリメインアンプのトップモデルという位置づけだ。おそらくは常識的なサイズのシステムで最上級のクオリティをもたらしたいという思いから企画されたのだろう。
筐体の剛性は極めて高い。アルミニウム削り出しのパネルによって構成されており、精密機器並みの精度で作られている。フロントパネルはGrandiosoに共通する曲面仕上げが施されており、表面は細かい線が刻まれている。この表面に触れるのは生理的快楽だ。最高級のフォアグラや絹ごし豆腐を舌にのせた時のような肌感覚が味わえる。ノブ類の操作感も極上で適度にトルク感があり、音量調整を積極的にしたくなる。
内部は5つのセクションに分かれている。中央は電源部で、前方には巨大なトロイダル型電源トランス(1000VA)、後方には8本の電解コンデンサー(各1000μF)がマウントされ、電源部の左右にはパワーアンプ部が配されている。終段の素子はオリジナルの「ESOTERIC MODEL200」というMOS‐FETだ。これをパラレル・プッシュプルA級動作させ、30W×2(8Ω)の出力を得ている。A級動作としたのは、現実的な音量での滑らかな再生音を狙ったからだろう。
一方、プリアンプ部はリアパネル直近にマウントされている。回路はバランス式で、単体プリアンプの最高級機「Grandioso C1」の流れを汲む。このプリアンプ部にはディスクリート式のMM/MC対応フォノイコライザーと、3バンドのトーンコントロールが搭載されている。コントロール部はプリアンプ部から最も遠いフロントパネル直近に配されている。
■ヴォーカルは最も得意なジャンル。クラシックは厚いハーモニーに圧倒
さて、そのサウンドである。高級な音であるなというのが第一印象だ。オーディオ的にはワイドレンジで、スピーカーのドライブ能力が高く低音がよく出て、情報量も多く精密度が高い。しかしながら精密感一辺倒ではなく、そこには仄かな温かみがある。
この「温かみ」はなかなかの曲者で、一歩間違うと感情に流された勘違い的な駄演になってしまうのだが、そうはならないのが本機の素晴らしいところ。精密感と温かみが高度なレベルで両立している。時計に例えれば、つけ心地に温かみのある金側のクロノグラフといったところか。温かみがある分、音楽的には楽曲・演奏に絡んでくる部分もあるのだが、決して邪魔ではなく、むしろオーナーのプライドをくすぐるのではないだろうか。
ジャズは音像表現が素晴らしい。シンバルの輝きやベースのプリッとした質感、サックスのゾリッとした質感が視覚的に表現される。ヴォーカルは最も得意なジャンルであろう。A級動作であるがゆえに信号に対する反応が敏感で、歌に込められた思いが良く伝わってくる。クラシックのオケものは緻密な細部もさることながら、分厚いハーモニーに圧倒された。
■LP再生ではカートリッジの資質をストレートに引き出してくれる
最後にLPレコードを聴いた。本機のフォノイコライザーは非常に出来が良く、MM/MCポジションともカートリッジの音質をストレートに出すことができる。全てにわたって真に高級なプリメインアンプの銘機である。
本記事は季刊・analog vol.56号からの転載です。本誌の詳細および購入はこちらから。
エソテリックの「Grandioso F1」のハンドリングをする機会を頂戴した。Grandiosoは同社のオーディオエレクトロニクスの最高峰モデルに冠された名称である。このシリーズは各製品カテゴリーのトップモデルで構成されており、本機はプリメインアンプのトップモデルという位置づけだ。おそらくは常識的なサイズのシステムで最上級のクオリティをもたらしたいという思いから企画されたのだろう。
筐体の剛性は極めて高い。アルミニウム削り出しのパネルによって構成されており、精密機器並みの精度で作られている。フロントパネルはGrandiosoに共通する曲面仕上げが施されており、表面は細かい線が刻まれている。この表面に触れるのは生理的快楽だ。最高級のフォアグラや絹ごし豆腐を舌にのせた時のような肌感覚が味わえる。ノブ類の操作感も極上で適度にトルク感があり、音量調整を積極的にしたくなる。
内部は5つのセクションに分かれている。中央は電源部で、前方には巨大なトロイダル型電源トランス(1000VA)、後方には8本の電解コンデンサー(各1000μF)がマウントされ、電源部の左右にはパワーアンプ部が配されている。終段の素子はオリジナルの「ESOTERIC MODEL200」というMOS‐FETだ。これをパラレル・プッシュプルA級動作させ、30W×2(8Ω)の出力を得ている。A級動作としたのは、現実的な音量での滑らかな再生音を狙ったからだろう。
一方、プリアンプ部はリアパネル直近にマウントされている。回路はバランス式で、単体プリアンプの最高級機「Grandioso C1」の流れを汲む。このプリアンプ部にはディスクリート式のMM/MC対応フォノイコライザーと、3バンドのトーンコントロールが搭載されている。コントロール部はプリアンプ部から最も遠いフロントパネル直近に配されている。
■ヴォーカルは最も得意なジャンル。クラシックは厚いハーモニーに圧倒
さて、そのサウンドである。高級な音であるなというのが第一印象だ。オーディオ的にはワイドレンジで、スピーカーのドライブ能力が高く低音がよく出て、情報量も多く精密度が高い。しかしながら精密感一辺倒ではなく、そこには仄かな温かみがある。
この「温かみ」はなかなかの曲者で、一歩間違うと感情に流された勘違い的な駄演になってしまうのだが、そうはならないのが本機の素晴らしいところ。精密感と温かみが高度なレベルで両立している。時計に例えれば、つけ心地に温かみのある金側のクロノグラフといったところか。温かみがある分、音楽的には楽曲・演奏に絡んでくる部分もあるのだが、決して邪魔ではなく、むしろオーナーのプライドをくすぐるのではないだろうか。
ジャズは音像表現が素晴らしい。シンバルの輝きやベースのプリッとした質感、サックスのゾリッとした質感が視覚的に表現される。ヴォーカルは最も得意なジャンルであろう。A級動作であるがゆえに信号に対する反応が敏感で、歌に込められた思いが良く伝わってくる。クラシックのオケものは緻密な細部もさることながら、分厚いハーモニーに圧倒された。
■LP再生ではカートリッジの資質をストレートに引き出してくれる
最後にLPレコードを聴いた。本機のフォノイコライザーは非常に出来が良く、MM/MCポジションともカートリッジの音質をストレートに出すことができる。全てにわたって真に高級なプリメインアンプの銘機である。
本記事は季刊・analog vol.56号からの転載です。本誌の詳細および購入はこちらから。