カートリッジ、フォノイコライザーも変えて試聴
オーディオテクニカのレコードプレーヤー「AT-LP7」レビュー。高い基礎性能、グレードアップの幅も広い
やはり針先形状の違いが大きいのが、高域がよく伸びている。苦しそうなところがなく、楽々と当たり前のように音が出てくる感触だ。それに伴って解像度も上がるし、低域も引き締まっている。
オーケストラでわずかに感じた高域の重さが、ここでは完全に払拭されて晴々としている。このためトゥッティで大音量になったときのダイナミズムも、一回りスケールが大きくなったようだ。
ピアノも大変よく整った出方で、レスポンスの伸びだけでなくタッチの肉質感が高い。バランスがいっそうよくなっているのだ。さらにバロックでも同様で、楽器ひとつひとつが明瞭に分解されている。楽器どうしの濁りやにじみがないのである。
針先ひとつの交換でこれだけ効果がある。そこがアナログの面白いところと言えばそれまでだが、ベースがしっかりしているからこそこうしたグレードアップが有効なのだ。
■MCカートリッジに付け替えることで情報量が増す
さてせっかくMC対応になっているので、MCカートリッジも試してみたい。オーディオテクニカの最もベーシックなMC型、「AT-F2」に交換してみる。
MC型の特徴は何かというと、第一には情報量が多いことではないだろうか。AT-F2は同社のMC型のベーシックモデルだがその特徴が現れ、明らかに音数が増す。
バロックでは音の一つ一つが緻密で、楽器どうしがきれいに分離しながらアンサンブルを立体的に形成している。音楽の奥行が深くなった印象がある。またピアノではいっそう切れがよく、彫りの深い再現性が現れる。音の質感がきめ細かく、タッチの芯がぎゅっと詰まった感覚である。細かな信号の取り出し方に違いがあると言うべきだろう。
オーケストラでもディテールの精度や肉質感の強い音色が、張りのある手触りで描き出される。重くはないが厚手なのかもしれない。
ただ内蔵イコライザーという点から言うと、MCの方が負担は大きいのだ。出力が小さいため、S/Nなど電気回路には少々荷の重い部分があるのも確かである。その点ではVMの方が伸びやかではあって、どちらがどちらとも言い難い気がする。これもグレードアップの上での悩ましさのひとつではある。
それでは内蔵イコライザーをスルーして、外付けにしたらどうだろうか。幸いラックスマンのプリメインアンプ「L-509AX」があるので、これで聴いてみたい。このアンプにはフォノ入力があってMCにも対応するので、ダイレクトに入力することにした。
さすがにレンジとS/Nが違ってくる。内蔵イコライザーとは難しい幅の広い鳴り方である。ラックスマンの最上位機だから比較しても始まらないが、むしろ注目したいのはそのグレードにプレーヤーがちゃんとついて行っていることだ。これはそれだけのグレードがプレーヤーに備わっているということで、コストパフォーマンスの高さが明らかである。
カートリッジはAT-F2のままだ。そしてやはり音数の豊富さが、今度は伸び伸びと引き出されている。バロックでは音場が落ち着き、アンサンブルの全体像が見えるような出方をする。楽器の音ひとつひとつも艶やかで瑞々しい。ピアノは鮮明なタッチの起伏が増し、弱音部の表情がデリカシーに富んでいる。オーケストラは遠近が明確で、高低両端のエネルギーがダイナミックだ。
ここまで出るのなら、試してみたいことはまだまだある。ターンテーブル・シートがそうだし、スタビライザーやインシュレーターでもずいぶん変わるだろう。ボードもある。どこまでグレードアップができるのか、楽しみの尽きないプレーヤーである。
(井上 千岳)