最高の音質をリーズナブルに
マランツ「SA-12/PM-12」を聴く − 現代の銘機“10シリーズ”を継承する強力なスタンダード機が誕生
この内蔵ディクリートDACは、USB入力にも対応。11.2MHzのDSDはもちろん、384kHz/32ビットのPCM信号にも対応するというから頼もしい。4年前のSA‐14S1が最大2.8MHz対応までだったことからすれば、隔世の感がする。
なお、本機のD/A部は、すべてのPCMデータを1ビットDSDに変換した後に出力される(DSDデータは信号処理なし)。
ドライブメカニズムも、SA‐10のそれに準じたもの。メカの台座こそアルミ押し出し材から鋼板製に変わっているが、メカエンジン「SACDM‐3」やアルミダイキャスト製ローダーは同一仕様。再生精度の要となる部材に手抜きはない。HDAM搭載フルディスクリート・アナログ出力回路も、既に定評があるものだ。
この他、クリスタル発振器に位相雑音で優れた最新仕様品(SA-10のそれに比べて位相ノイズが15dBも改善されている)、回路の改良による一部の抵抗の廃止など、細部をブラッシュアップすることでむしろ兄貴分のSA‐10よりも進化した部分がある点も見逃せない。ヘッドフォンアンプや電源回路の充実もまた然りである。
プリメインアンプ「PM‐12」
■スイッチング式の利点を生かすレイアウトと画期的な搭載技術
プリメインアンプ「PM‐12」も、PM‐10の要素技術を引き継ぐ内容で、PM‐14S1とは大きく異なる。具体的には、純アナログアンプであったPM‐14S1に対して、アナログアンプとスイッチングアンプの融合・進化を果たしたのが「PM‐12」であり、多くの回路/部材をPM‐10から流用している。
「PM‐12」の特徴は、スイッチング増幅方式のパワーアンプ(HYPEX製NC500パワーアンプ・モジュールと専用電源SMPS600)の採用だが、今回はその取り付け方法に新たな工夫を凝らした。
PM‐10では、端子部を下にしたモジュールのマウント方法を採っていたが、「PM‐12」では本体背面側に端子を向けた横向きの取り付けに変更。シグナルパスの大幅短縮を実現しているのである。
もともとこの方策は、コストダウンに伴って筐体の高さを低くしなければならず、従来方法では固定できないことから採ったもの。機構設計と生産技術が協力してシャーシに取付けるための治具を準備するといった新たな手間がかかっているのだが、結果的に実配線の短縮はもちろん、接点の減少、ダンピングファクターの大幅改善(公称カタログ値では同じだが、実測の実力値ではPM‐10比で2倍以上を実現している)をもたらすなど、想定外の副産物を生み出したのだ。
また、専用スイッチング電源の放熱対策や固定方法にも余裕が生じ、より理想的なコンストラクションを構築するに至った。
スイッチングアンプの採用により、パワーアンプ部の体積が大幅に縮小できたことで、「PM‐12」はその空いたスペースをアナログプリアンプ回路に充て、従来のプリメインアンプでは難しかった徹底したこだわりが注がれた。
新たに設計されたDCサーボ型電流帰還回路の投入、MCヘッドアンプ内蔵の新開発のフォノイコライザーアンプの採用、各種カスタム部品の投入など、エンジニアの思い描いた要素がしっかりと反映されている。そのひとつがJRC製の新型ボリュームICで、大幅なS/N改善が達成できたという。
蛇足ながら、フルドットの有機ELディスプレイも、ボリューム操作時や入力切替え時に大きなフォント表示に一時的に変わるタイプとなり(PM‐10は固定セグメント表示の液晶タイプ)、視認性や操作性が大幅に向上している。
10シリーズとの外観比較
■質感の高い10シリーズと見劣りしない精悍な佇まい
兄弟モデルの10シリーズと12シリーズを横に並べれば、パネルフェイスはさすがにそっくりなのだが、近づいてしっかり眺めると、微妙なところの質感が異なっているのがわかる。