デジタルの寵児がアナログを貫徹したモデル
M2TECH「NASH」を聴く。独創的な回路をコンパクトに凝縮した、“正攻法”フォノイコライザー
■非常にS/Nが良好で全体的に清らかな印象
非常にS/Nが良好なことはすぐに分かる。レコードのリードインに針が入り、音楽が始まるまでの束の間のノイズが極めて少ないからだ。トーンは大層クリアで緻密。低域がややふっくらとしたバランスは、本体デザインから受けるスタティックなイメージとは対照的で、全体にまろやか、清らかな印象だ。
メル・トーメは、声の質感が柔らかい。ピアノの伴奏と合わせて、立体的なサウンドステージが浮かび上がる。整ったその音場感が好ましく感じられる。ショーティー・ロジャースのジャズコンボでも同様な印象で、ステレオイメージが広く、アンサンブルの余韻が立体的に拡散する様子が分かる。
ピンク・フロイドでは、アコースティックギターが細やかな描写で、ベースやドラムのビートがどっしり安定。シンプルな編曲の魅力が濃密に伝わってくる再生だ。
ヒラリー・ハーンの無伴奏バッハでも、本機の高S/Nぶりが実感できた。透明で立体的な音場のやや奥まったところにヴァイオリンがスクッと立っている様子で、響きがとてもゆったり豊かに感じられたのだ。
独創的かつ高密度な回路をコンパクトにまとめたことによって低ノイズに仕上がったと思しきNASH。フォノイコライザー単体として見ても明確な存在感を放っている。
■組み合わせた機器と試聴ディスク
●アナログプレーヤー:テクニクス SL-1000R●カートリッジ:フェーズメーション PP-2000●フォノイコライザー:アキュフェーズ C-37●プリアンプ:アキュフェーズ C-3850●パワーアンプ:アキュフェーズ M-6200●スピーカーシステム:B&W 803D3
(小原由夫)
■開発者から
M2TECH
Srl.CEO
マルコ・マヌンタ氏
これまで、M2TECHは「Joplin MkII」や「EVOPhono DAC Two」といったような、最先端のデジタル技術によって豊富なイコライザーカーブに対応するユニークなフォノ・プロダクトを発売して来ましたが、ロックスターシリーズに新しく加わる「NASH」は、フルディスクリート回路を採用するなど徹底的にアナログ回路を追求した製品です。その結果、もうほとんどゼロと言っていいほどの低ノイズ性能を実現しています。もちろん、他の製品にはないM2TECHらしさも盛り込みました。それがスマートフォンのアプリと連携したリモートコントロール。アプリを活用することで、よりお使いのカートリッジの性能を引き出すゲインやロードインピーダンスへの切り換えも「正確に」行えます。そんなM2TECHらしさも備えたNASHは、きっとレコード再生の良いパートナーとなるはずです。
<Specificartion>
● 出力電圧:2.5Vrms(MM 、5mV入力、55dBGain )●入力端子:MC(RCA )×1、MM(RCA )×1、RCA×2、外部電源入力(4pin XLR )×1●出力端子;RAC×1●MMゲイン:55/60/65dB●MCプリ-プリゲイン:3dB ~30dB●トータルMCゲイン:58dB~95dB●MC入力インピーダンス:10Ω~40kΩ●MM入力インピーダンス:47k/15kΩ●MM入力キャパシタンス:0/100/220/320/470/570/690/790pF●S/N:85dB(MM60dBゲイン時)、78dB(MC70dBゲイン時)● 電源電圧:15VDC 、+5VDC;+15VDC;-15VDC(外部電源)●消費電力:4W 、0.23W(スタンバイ時)●外形寸法:200W×200D×50Hmm●質量:2.0kg●取り扱い:ENZOj-Fi,LLC 、(有)トップウイング
※本記事は「季刊analog」62号所収記事を転載したものです。本誌の詳細および購入はこちらから。