【特別企画】さらに長く使える信頼モデル
世界中のプロが愛する音を持ち歩く。AKGの新モニターヘッドホン「K371-Y3/K361-Y3」レビュー
■サウンドは正確かつニュートラルでありながら、音楽の魅力も引き出す
では、試聴に入ろう。プレーヤーにはAstell&Kernの「A&ultima SP1000」を使い、ハイレゾを中心に聴いた。
最初はK371-Y3から。装着感は上々でフィット感が高い。モニターヘッドホンのため、密閉性を重視して側圧が強めだが、手触りのよい合成皮革と低反発素材を組み合わせたイヤーパッドが側頭部を優しく支えてくれるため、2時間程度の連続利用で頭が痛くなることはなかった。
そのサウンドは、素直そのもの。同社が「レスポンス曲線に忠実な、正確かつニュートラルなサウンドチューニング」と謳っている通り、ややドライで解像感の高いフラットな音質傾向だ。それでいて、どのジャンルの曲でも決して分析的すぎることはなく、ボーカルや管弦楽器などは艶やかに、ベースやドラムの低域は艶やかさに加えてメリハリを持って奏でる。
ドナルド・フェイゲンのアルバム『The Nightfly』から「I.G.Y.」を再生すると、広い音場空間に音がスッと立ち上がる。50mm径ドライバーのチタニウムコーティング振動板は、キレ味よく高域も天を突くように伸びやか。これこそモニターライクに感じる一面と言えよう。だが、決してドライすぎることはなく、ホーンセクションやボーカルは音に潤いがある。サビでコーラスが加わると、一気にサウンドに厚みが増し、リッチなサウンドになる。
原音のリアリティを忠実に伝える素直さは、Aimerのアルバム『DAWN』に収録されている「Brave Shine」を聴くとよく分かる。ボーカルはややハスキーながらも艶のある彼女の声質を、絶妙なブレスワークとともに描ききる。ギターやベースは濃密で、音が迫ってくる感覚が気持ちよく、病みつきになりそうだ。
ジャズからは、ビル・エヴァンス・トリオの定番曲「Waltz for Debby(take2)」を選んだ。こちらも、モニターヘッドホンの特徴である音の見通しの良さが際立っている。1961年にヴィレッジ・ヴァンガードで行われたライブを収録したもので、時折観客の談笑や食器の当たる音が聴こえるのだが、本機では同じ空間にいると錯覚するほどこれらがリアルに感じられる。名演と臨場感が相まって、思わず聴き入ってしまった。
続いてK361-Y3を試聴する。本機は、搭載ドライバーが通常の50mmダイナミックドライバーとなるためか、K371-Y3に比べるとやや音の立ち上がりがマイルドで若干ウェットな印象だ。とはいえ、あくまでも聴き比べたから分かるレベルで、サウンドの質の高さは想像の遙か上を行く。フィット感も申し分ない。イヤーパッドは密閉感が高く、音が抜けてしまう感覚は一切ない。高域から低域までその実力を余すことなく楽しめた。
ドナルド・フェイゲンの「I.G.Y.」は、解像感の高いモニターサウンドなのは同様だが、低域に力が漲り、ベースラインはメリハリが増している。ドラムも勢いがあり、グルーブ感が楽しい。高域の伸びや音の厚みは上位機に一歩譲るが、ボーカルやホーンセクションの艶もしっかりと味わえた。
Aimerの「Brave Shine」は、パワフルさが印象的。オープニングで重厚なギターとベースが迫ってきて一気に曲の世界観に惹き込まれる。やや湿り気のあるボーカルは雰囲気たっぷり。音楽そのものが秘めている魅力を引き出しているようで、スピーカーで聴いているかのような、熱量の高いサウンドだった。
ビル・エヴァンス・トリオの「Waltz for Debby(take2)」は、ライブ録音の臨場感がしっかりと感じられる。この曲も高域の解像感や伸びは上位機が一歩上手だが、低域の安定感が抜群で、いい意味でオーディオライクな再生を楽しめた。
両機とも、AKGのモニターヘッドホンに共通する、原音に忠実で正確なサウンドを再生する実力を備えていた。加えて、音楽の持ち味や演奏の機微を余すことなく再現する能力も持っており、価格を考えれば破格と言えるクオリティだ。
あえて違いを付けるなら、K371-Y3はいわゆるモニター寄り、K361-Y3はリスニング寄りと分類できそうだが、その高い音質水準はどちらを選んでも満足できるはずだ。
(企画協力:ヒビノ株式会社)