ハイレベルな中での個性の違い
FAudioの新ダイナミックイヤホン「Minor」レビュー。あの「Major」と比肩しうる完成度
■ストレートな表現で、楽器の音色をダイレクトに届けてくれる
ここからは、そのサウンドを紹介していこう。試聴は主に「FA Vocal」イヤーチップを使用して行った。
ハイエンドモデルのMajorが、音色そのものだけではなく、その音の周囲の響きや気配までも余さず表現するのに対して、こちらのMinorは、描写のフォーカスを音の本体に合わせ、それぞれの楽器の音色をよりダイレクトに届けてくれる印象だ。表現としてはMajorはややゴージャス、Minorはもっとストレート。例えば迫力の表現においては、Majorはしなやかな強さ、Minorはガツンとくる強さといった具合に印象が異なる。
ただそれは、あくまでも「Majorと比べて」だ。Minorにおいても、響きや気配といった要素の描写が不足するわけではないので、Minorは雰囲気や飾りのない素っ気ない音なの?といった心配は不要だ。
試聴する中で特に相性が良いと感じられた曲の一つは、SANABAGUN.「Fever」。公式プロフィールによると「ストリートにジャズのエッセンスを散りばめ個性とセンス重んじて突き進む平成生まれのヒップホップチーム」であるが、実体験において「ストリート」とも「ヒップホップ」とも近くない人生を送ってきた筆者が聴いても、純粋に「かっこいい!」の一言が出てくる、ボーダーレスなサウンドだ。
中でもこの曲はドラムスの音が素晴らしく、ベースとのコンビネーションもあってかバスドラムの空気感が実に豊かに感じられる。このイヤホンで聴くとそのバスドラムが踏み込まれた際にスタジオに吹く「風圧」までが届いてくるようだ。
Minorは音をストレートに表現してくれるので、部屋全体に豊かに響く成分よりも、ドラマーの踏み込みから直接的に放たれる音圧の方が際立っているのだろう。トラディショナルなジャズドラムだと少し違うかもしれないが、ヒップホップ的な質感やグルーヴには、こちらの描写の方がフィットするように思う。
またそのドラムスと併走するベースは、あえて輪郭を強めないふくよかなタッチで演奏されているが、しかしその音程感やアタックが不明瞭になることもない。そこもこのイヤホンのストレートでダイレクトな描写のおかげだろう。
さらに、そのグルーヴの上に絶妙な俗っぽさ、言い換えればポップス的なキャッチーさを乗せてくれるエレクトリックギターの音色や細かな演奏ニュアンスの表現も好感触。シャキッとしたキレも、パキッとした抜けも、実に気持ちよく描き出してくれる。
Minorのサウンドは、高い表現力の中にダイレクトな音の描写があり、人気ハイエンドモデルのMajorとは少し狙いを変えたバリエーションモデルと理解した方がしっくりくる。試聴の機会があればぜひ、両モデルを聴き比べてみてほしい。
ハイレベルな中での個性の違いを体感することは、ご自身のイヤホンの好みをより明確に把握するきっかけにもなってくれることだろう。その上で、どちらを選ぶのか。それはその時のお楽しみだ。
(特別企画 協力:ミックスウェーブ)