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【特別企画】あえてこだわったダイナミック型の可能性

テクニクス最上位イヤホン「EAH-TZ700」は “現代の名機” だ! 50数年の技術が小型筐体に凝縮

公開日 2020/01/16 06:30 岩井喬
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ポイントはフリーエッジ構造+特殊アルミニウム振動板

EAH-TZ700自体の開発は2016年頃からスタートしたそうだが、プレシジョンモーションドライバーに用いられている要素技術開発は、テクニクス事業推進室室長の小川理子氏もかつて在籍していた音響研究所にて十数年前から行われていたのとのこと。その当時はオーディオ用とするには音質に課題があったそうだが、開発陣はその可能性に賭けた。

振動板のサイズは10mmだが、これは最終的なハウジングを想定し、高い装着性を確保するためたどり着いた大きさであるという。

本機に搭載されるプレシジョンモーションドライバー

ポイントとなっているのは、イヤホンサイズでありながら、3Hzという驚異的な超低域再生を実現できるハイコンプライアンス設計のフリーエッジを採用していること。加えて100kHzという超高域までカバーできる厚さ数十ミクロンの特殊アルミニウム振動板を取り入れたことだ。

フリーエッジ構造は、いわゆる一般的なダイナミック型スピーカーの構造と同じく、振動板の周囲を動きやすい柔らかい素材によるエッジで支えたものである。EAH-TZ700ではPEEK製フリーエッジを用いているが、従来の製品よりも柔らかく、より動きやすいハイコンプライアンス仕様として、超低域の振幅でも反応できるよう設計された。しかし、ただエッジを柔らかくしただけではボイスコイルの動きが傾くことでふらつき、歪みを生む要因となってしまう。そこで導入されたのが、ボイスコイルとポールピース間のギャップに対して用いた磁性流体だ。

磁性流体が磁気ギャップの内側に注入されることで、ボイスコイルを傾きなく支え、その上下運動をスムーズに促す潤滑油のような役割を果たしてくれる。結果として非常に柔らかいフリーエッジを使っていても磁性流体による土台ができたことでボイスコイルの安定性が保たれ、歪みを抑えた正確な振動板のストローク制動が実現した。

磁性流体の採用によりボイスコイルが安定し、正確な振動板のストローク制動が実現した

さらに特殊アルミニウム振動板は可聴帯域外へ共振点を追いやるため、形状も工夫しているとのこと。この特殊アルミニウム素材は現行のテクニクス製スピーカーのトゥイーターで使われているものと同様だそうで、連綿と受け継がれてきたテクニクスの技術力、知の蓄積を実感した次第だ。

そして振動板の裏側は、ポールピースの穴を経て、アコースティックコントロールチャンバーへと空気の流れを導いている。これは振動板前後の空気の流れ、気圧を緻密にコントロールする機構であり、中高域のピーク&ディップを解消し、フラットな特性と優れた帯域バランスを実現するためのものだ。

ドライバーの放射面からポートまで同軸レイアウトを採用

このドライバーを収めるハウジングは、異種金属を組み合わせた2重構造としており、振動を分散・抑制する。音導部分となるポートハウジングは軽量・高強度のチタンを採用。ドライバー構造を支える本体部はチタンと同じように軽量であり、振動減衰特性に優れるマグネシウムダイカストで構成されている。

ドライバー口径を10mmとし、装着性の高さを目指したと前に述べたが、もう一つのポイントは、ドライバーの放射面からポートまで同軸レイアウトとしている点だ。これにより不要な音の反射や回折の影響を抑え、ドライバーからの音の放射をストレートに届け、点音源としてダイレクトなサウンドを体現できるのである。

大きなユニットを用いた場合、ドライバー前面にハウジングの構造物を配置するケースが多く、結果的にポートを曲げたり、振動板正面からずらした構造となるため、音の放射を直接届けることが難しいのだ。

またハウジング形状は、耳介側に接する面をえぐり取ったような3Dハウジング形状とし、フィット感を高めている。下出し方式としたケーブルも同軸レイアウトを優先するためのものであり、MMCX端子部は金メッキ仕上げのローレット加工を施しデザイン上のアクセントとした。ハウジング部のカラーリングはEAH-T700と同じブラック基調のガンメタリック的な色合いに塗装され、高級感あふれる質感に仕上げられている。

ハウジングはチタンとマグネシウムダイカストを組み合わせた二重構造。本体の耳介側がえぐれたような3Dハウジング形を採用し、フィット感を高めている

付属品としては、標準の真円形状とより高いフィット感を追求した楕円形状のイヤーピースを4サイズずつ用意。MMCX端子による着脱を実現したケーブルは、導体にPCUHDとOFCを用いたハイブリッド素材を導入した。

ハウジングに合わせてメタリックな風合いを持たせたシースもタッチノイズを軽減したものを取り入れた。3.5mmステレオミニプラグ仕様に加え、2.5mmバランス駆動用4極プラグ仕様のケーブルも同梱しており、バランス出力搭載プレーヤーを用いればEAH-TZ700の真価を購入後すぐに発揮させることができる。

端子はMMCXを搭載。3.5mmアンバランスケーブルに加え2.5mmバランスケーブルが同梱するため、購入してすぐにバランス駆動の音も楽しむことができる

試作段階から徐々に変化していった音質傾向

EAH-TZ700のプレシジョンモーションドライバーは従来のダイナミック型ドライバーでは考えられない精度での組み立てが必要であり、製造ラインの立ち上げにも苦労したという。製品化まではギリギリまでサウンドチューニングを行っていたといい、当初のリリースから本体質量が変更になるなど、音質向上に向け、最後まで妥協を許さずに開発が進められたのだ。

試作段階から何度かサウンドを聴く機会を頂いたが、当初はハイコンプライアンスのフリーエッジによって低音の量感の豊かさを全面に押し出した傾向であった。その後量産に向け完成度を高めてゆく段階で、低域の制動性も加わり、バランス重視のリスニングに最適なサウンドへと進化。まさにリファレンスと呼ぶにふさわしい、ナチュラルで伸びやかな、格調高いサウンド性を獲得したのである。

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