レコード作りは沼
自分でレコードをカッティング!「大人の科学マガジン トイ・レコードメーカー」を作った
今、アナログレコードがアツい。レコード専門店も続々と増えているし、国内外問わず、多くの若手アーティストがレコードをリリースしている。
それこそプレーヤーだって1、2万円くらいで購入できるため、“レコードを聴く”敷居は低い。ただし、それが “レコードを作る” となると話は別だ。普通であれば、あの溝を掘るためには専用のカッティングマシンと熟練の職人技が必要となってくる。
しかし、「自分でレコードが作れたら…」という想いを可能にする激エモキットが登場した。学研プラスが発行する「大人の科学マガジン トイ・レコードメーカー」だ。
スマホなどを繋いで音源を流せば、誰でもすぐにカッティングができるというお手軽製品。プレーヤー機能もあるため、カッティングしたレコードを聴くこともできるし、7インチサイズなら市販のレコードを再生することもできる。
こんな面白いもの、試してみない手はないだろう。早速入手してレコードを作ってみた。
■作るのは難しくない・・・でも説明書はしっかり読もう
内容物は組み立てキット一式と、ブランクの5インチレコードが黒白5枚ずつ、接続用のケーブルや替えのカッティング針などのオプション品、それとマガジンなど。なお、録音は3.5mmケーブルで行うかたちで、変換用のアダプターは各自で用意する必要があるので留意したい。
開封してみると、なかなかにパーツ数が多い。本格さに少し面食らうが、組み立て自体はそこまで難しくはなく、説明書もかなり丁寧に書かれているので、きちんと手順を踏めば、何がなんだか分からなくなり、作りかけで挫折する…なんてことはない。
ただ、アナログプレーヤー+カッティングマシンという複雑な機械であることには変わりはないので、説明書は前もって一通り読んで、手順を理解しておいた方が良さそうだ。ターンテーブルにシートを貼り付ける序盤の段階で、バリーっと豪快に貼ってから「シートは少しずつ貼り合わせましょう」という説明書きに気づいた記者が言うのだから信じて欲しい。
ちなみに、自前で用意する工具はプラスドライバー1本だけだが、ネジ自体が小さいことと、狭いネジ穴が多いこと、横や下からネジ留めするシーンが多いことから、細めで先端に磁石のついたドライバーを用意することをお勧めしたい。
あれやこれやと格闘することおよそ1時間、トイ・レコードメーカーが完成した。
■カッティング自体は簡単だけど、こだわり出したら底無し沼
まずはテストカッティングということで、説明書通りにセッティングをして、スマホに入っていた音源を吹き込んでみた。
実にローファイで味わい深い音…なのだが、やたらピッチが早いうえ、音程も高い。つまるところ、元音源よりも早いテンポで収録されているのだ。普段飲み会とかで「レコードは云々」とドヤ顔で語ってるのに、市販のトイ・レコードメーカーひとつ使いこなせないというのは非常にマズい。このままではイキれなくなる。
慌ててマガジンをめくりかえしてみると、「カッティング時は針の抵抗でレコードの回転スピードが落ちて、早いテンポで録音されることがあります」という項目を発見。スマホアプリのテンポ調整機能などで、いい塩梅に調整してみてください、といった旨のことが書かれていた。チュートリアルでやたら強い敵と戦わされ、超必殺技の撃ち方を教わる流れみたいだと思った。
また、テンポだけでなく、イコライザーも活用してほしいという文言もあった。というのも、レコードは物理的な特性上、低音ほど音が大きく、高音ほど音が小さく収録されるもので、これが低音での音飛びや高音での歪みっぽさにつながる場合があるため、イコライジングでうまく制御する必要があるのだ。
また、一般的なカッティングの時は、イコライザーをかけることでこのバランスを整えており、再生時にフォノイコライザーやフォノアンプで真逆のイコライジングを施すことで、本来の音を再生できる仕組みとなっている。つまりイコライザーをうまく使っていけば、よりナチュラルなサウンドのレコードが作れるわけだ。
もちろん自分でレコードを作るだけでも相当に楽しいのだが、徹底的にイコライザーをいじって“トイらしくない”レコード作りを探求するのも良いし、自分好みのクセを押し出したレコードを作るのも良い。これはヤバい。ブランクレコード10枚の裏表、計20回では足りないかもしれない。
ただ、テンポにせよイコライザーにせよ、PCの測定ソフトを使うなど本気を出せばいくらでも追求できるものの、あえて自分の耳と感覚だけを頼りに詰めていく方が、ロマンとエモーションがあって面白いように思う。記者はテンポ92%、イコライジングは1kHz帯を±0にしつつ、低域少なめ高域多めな形に落ち着いたが、ぜひ、各々にとってのベストなセッティングを見つけ出してみてほしい。
■実演を交えて楽しくレコードを知れる「子供の科学の大人版」
キットの遊び応えだけでなく、マガジンの読み応えも抜群だ。ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文やコーネリアスの小山田圭吾といったレコード好きアーティストだけでなく、世界でも珍しい、演奏をリアルタイムでカッティングする「ダイレクトカッティング」を行う、キング関口台スタジオの上田佳子エンジニアのインタビューも掲載されている。
そういったマニア垂涎のものだけでなく、レコードの歴史や音がなる仕組みといったレコードのイロハも丁寧に解説されているので、入門書にも最適な内容になっている。
なにより、そういった「レコードとは何か」を、自分でカッティングすることで学べることが面白い。先述のイコライジングもそうだし、33回転と45回転でどう変わるかだったり、盤の外側と内側での音質の違いを試したり、できることは無限にある。体験しながら楽しく学びを得るなんて、まるでテレビで見る「子供の頃に受けてみたかった科学の授業」そのものだ。さすがは大人向け「子供の科学」。童心に返って熱中してしまった。
ちなみに、消耗品であるブランクのレコードとカッティング針は後から追加購入することが可能。子供の頃だったら1枚のレコードを大事に使っていただろうが、大人になった今なら、贅沢に外周部だけで録音するなんてことも出来てしまう。しかも単品販売のレコードは黒と白に加え、黄緑と水色もラインナップされているので、安心して削りまくってほしい。
◇
盤の材質はポリスチレンだし、録音時間も33回転で約4分、45回転で約3分とかなり短い。あくまでトイの域を出ない製品ではあるが、おそらく想像している以上にできることは多いし、制限が多いからこそ、その範疇で色々と遊んでみるのが楽しい。
レコードが好きであっても、自分でカッティングをやったことのある方はそう多くないだろう。初心者にとってはレコードの面白さを知る教材にうってつけだし、それなりに年季の入ったマニアであっても、今までとは違うレコードの魅力を発見できること請け合いだ。
自作ソングを録音するも良し、好きな曲をレコードにしてみるも良し、自分だけの両A面シングルを作るも良し。世界で一つだけのレコードを、自分の手で作ってみてはいかがだろうか。
それこそプレーヤーだって1、2万円くらいで購入できるため、“レコードを聴く”敷居は低い。ただし、それが “レコードを作る” となると話は別だ。普通であれば、あの溝を掘るためには専用のカッティングマシンと熟練の職人技が必要となってくる。
しかし、「自分でレコードが作れたら…」という想いを可能にする激エモキットが登場した。学研プラスが発行する「大人の科学マガジン トイ・レコードメーカー」だ。
スマホなどを繋いで音源を流せば、誰でもすぐにカッティングができるというお手軽製品。プレーヤー機能もあるため、カッティングしたレコードを聴くこともできるし、7インチサイズなら市販のレコードを再生することもできる。
こんな面白いもの、試してみない手はないだろう。早速入手してレコードを作ってみた。
■作るのは難しくない・・・でも説明書はしっかり読もう
内容物は組み立てキット一式と、ブランクの5インチレコードが黒白5枚ずつ、接続用のケーブルや替えのカッティング針などのオプション品、それとマガジンなど。なお、録音は3.5mmケーブルで行うかたちで、変換用のアダプターは各自で用意する必要があるので留意したい。
開封してみると、なかなかにパーツ数が多い。本格さに少し面食らうが、組み立て自体はそこまで難しくはなく、説明書もかなり丁寧に書かれているので、きちんと手順を踏めば、何がなんだか分からなくなり、作りかけで挫折する…なんてことはない。
ただ、アナログプレーヤー+カッティングマシンという複雑な機械であることには変わりはないので、説明書は前もって一通り読んで、手順を理解しておいた方が良さそうだ。ターンテーブルにシートを貼り付ける序盤の段階で、バリーっと豪快に貼ってから「シートは少しずつ貼り合わせましょう」という説明書きに気づいた記者が言うのだから信じて欲しい。
ちなみに、自前で用意する工具はプラスドライバー1本だけだが、ネジ自体が小さいことと、狭いネジ穴が多いこと、横や下からネジ留めするシーンが多いことから、細めで先端に磁石のついたドライバーを用意することをお勧めしたい。
あれやこれやと格闘することおよそ1時間、トイ・レコードメーカーが完成した。
■カッティング自体は簡単だけど、こだわり出したら底無し沼
まずはテストカッティングということで、説明書通りにセッティングをして、スマホに入っていた音源を吹き込んでみた。
実にローファイで味わい深い音…なのだが、やたらピッチが早いうえ、音程も高い。つまるところ、元音源よりも早いテンポで収録されているのだ。普段飲み会とかで「レコードは云々」とドヤ顔で語ってるのに、市販のトイ・レコードメーカーひとつ使いこなせないというのは非常にマズい。このままではイキれなくなる。
慌ててマガジンをめくりかえしてみると、「カッティング時は針の抵抗でレコードの回転スピードが落ちて、早いテンポで録音されることがあります」という項目を発見。スマホアプリのテンポ調整機能などで、いい塩梅に調整してみてください、といった旨のことが書かれていた。チュートリアルでやたら強い敵と戦わされ、超必殺技の撃ち方を教わる流れみたいだと思った。
また、テンポだけでなく、イコライザーも活用してほしいという文言もあった。というのも、レコードは物理的な特性上、低音ほど音が大きく、高音ほど音が小さく収録されるもので、これが低音での音飛びや高音での歪みっぽさにつながる場合があるため、イコライジングでうまく制御する必要があるのだ。
また、一般的なカッティングの時は、イコライザーをかけることでこのバランスを整えており、再生時にフォノイコライザーやフォノアンプで真逆のイコライジングを施すことで、本来の音を再生できる仕組みとなっている。つまりイコライザーをうまく使っていけば、よりナチュラルなサウンドのレコードが作れるわけだ。
もちろん自分でレコードを作るだけでも相当に楽しいのだが、徹底的にイコライザーをいじって“トイらしくない”レコード作りを探求するのも良いし、自分好みのクセを押し出したレコードを作るのも良い。これはヤバい。ブランクレコード10枚の裏表、計20回では足りないかもしれない。
ただ、テンポにせよイコライザーにせよ、PCの測定ソフトを使うなど本気を出せばいくらでも追求できるものの、あえて自分の耳と感覚だけを頼りに詰めていく方が、ロマンとエモーションがあって面白いように思う。記者はテンポ92%、イコライジングは1kHz帯を±0にしつつ、低域少なめ高域多めな形に落ち着いたが、ぜひ、各々にとってのベストなセッティングを見つけ出してみてほしい。
■実演を交えて楽しくレコードを知れる「子供の科学の大人版」
キットの遊び応えだけでなく、マガジンの読み応えも抜群だ。ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文やコーネリアスの小山田圭吾といったレコード好きアーティストだけでなく、世界でも珍しい、演奏をリアルタイムでカッティングする「ダイレクトカッティング」を行う、キング関口台スタジオの上田佳子エンジニアのインタビューも掲載されている。
そういったマニア垂涎のものだけでなく、レコードの歴史や音がなる仕組みといったレコードのイロハも丁寧に解説されているので、入門書にも最適な内容になっている。
なにより、そういった「レコードとは何か」を、自分でカッティングすることで学べることが面白い。先述のイコライジングもそうだし、33回転と45回転でどう変わるかだったり、盤の外側と内側での音質の違いを試したり、できることは無限にある。体験しながら楽しく学びを得るなんて、まるでテレビで見る「子供の頃に受けてみたかった科学の授業」そのものだ。さすがは大人向け「子供の科学」。童心に返って熱中してしまった。
ちなみに、消耗品であるブランクのレコードとカッティング針は後から追加購入することが可能。子供の頃だったら1枚のレコードを大事に使っていただろうが、大人になった今なら、贅沢に外周部だけで録音するなんてことも出来てしまう。しかも単品販売のレコードは黒と白に加え、黄緑と水色もラインナップされているので、安心して削りまくってほしい。
盤の材質はポリスチレンだし、録音時間も33回転で約4分、45回転で約3分とかなり短い。あくまでトイの域を出ない製品ではあるが、おそらく想像している以上にできることは多いし、制限が多いからこそ、その範疇で色々と遊んでみるのが楽しい。
レコードが好きであっても、自分でカッティングをやったことのある方はそう多くないだろう。初心者にとってはレコードの面白さを知る教材にうってつけだし、それなりに年季の入ったマニアであっても、今までとは違うレコードの魅力を発見できること請け合いだ。
自作ソングを録音するも良し、好きな曲をレコードにしてみるも良し、自分だけの両A面シングルを作るも良し。世界で一つだけのレコードを、自分の手で作ってみてはいかがだろうか。