【特別企画】躍動感ある低域、大人なトーンの2モデル
生活に潤いをもたらす、音楽好きに薦めたいスピーカー。Amphion「Argon0/1」レビュー
フィンランドに拠点を置くスピーカーブランドAmphion(アンフィオン)は、民生用と業務用両方の製品を生産しており、特に近年は業務用モニターが高い評価を集めている。民生機では、コンパクトな2ウェイからフロア型のハイエンドモデルまで数多くの製品をラインナップするが、今回は、2ウェイブックシェルフ機「Argon3」の弟モデルにあたる「Argon0」「Argon1」を仔細にチェックしたい。
■生活の中で音楽を楽しむ、そのためのスピーカー
アンフィオンは1998年にフィンランドで設立されたスピーカーブランドだ。設立が新しめということもあるし、ここ10年ほどの日本市場では、プロ用のモニタースピーカーやアンプのメーカーとして浸透してきた経緯もある。一般的にはそれほどメジャーには知られていないかもしれない。しかし、その技術力はさすがと感じさせるものがある。
特徴は生活の中で音楽を楽しむためにはどうしたらいいか、という視点を持ってスピーカー開発を行っている点だ。
たとえばクルマでも、レース用のマシンは速く走るための特殊な技術が必要だが、一般の家庭で年齢や性別を問わず使われる乗用車の方がより成熟した、完成度の高いテクノロジーが要求される。同じようにアンフィオンのスピーカーを聴いていると、生活の中で音楽を楽しむには特有の技術的難しさがあることに気づかされる。
今回は「Argon0(アルゴン・ゼロ)」と「Argon1(アルゴン・ワン)」の2種類のスピーカーを紹介するが、カタログにはこう書かれている。“Argonシリーズの目的は「生活」です(中略)。日々新しい感動と生活に潤いをもたらします”。
■チタンとアルミの振動板を使い分ける
両機に共通してのフィーチャーを紹介してみよう。基本的にブックシェルフ型の2ウェイで、ドライバーユニットはノルウェーのSEAS社製を採用している。
トゥイーターはチタンのダイヤフラムでサイズは25mm径。その前面に独自形状のウェーブガイドホーンを持たせて能率と指向性のコントロールを行っている。また、前後方向の位置をコントロールする役割もあって、ウーファーの磁気回路の位置と揃えている。
一方のウーファーはアルミの振動板で「Argon0」が120mm径、「Argon1」が150mm径。低音補強は、このふたつのモデルではバスレフ型を採用している。特徴的なのはクロスオーバー周波数で、1.6kHzとかなり低めだ。
以前CEOのアンシ・ヘヴォネン氏にインタビューしたことがあるが「例えば椅子の座面の真ん中に縫い目があることはほとんどありませんよね? 横の見えづらいところにあることがほとんどです。同じように一番人間の聴覚がよく聴こえるところに、わざわざこの “縫い目” を設定することはないでしょう。スピーカーを開発していて一番難しいことのひとつは、このクロスを違和感なく一体化させることです。というのも、このふたつのドライバーユニットはダイヤフラムの素材、音の拡散の仕方、形自体も違ったりしますからね」と話してくれたのを思い出す。
■積極的で躍動感ある低域の「Argon0」
テストは本誌試聴室で行った。リファレンスはアキュフェーズで、CDプレーヤーが「DP-750」、アンプが「E-380」。
まずArgon0から聴きだしたが、さすがにトゥイーターとウーファーのつながりがいい。もしもブラインドで聴いた時に、コンプレッションドライバーとかソフトドームとか、どの種類のどの素材のトゥイーターが鳴っているかが、分かりにくいし、ずいぶん鳴りっぷりのいいスピーカーだ。
竹内まりや「シングル・アゲイン」では本人らしいまともなトーンの声質で、高域のクオリティも高い。低域のレンジはメーカーの発表している50Hzという数字の聴感だが、たくましい感じが魅力的だ。積極的で、躍動感のある低音なのだ。エリック・クラプトン「アンプラグド」では、エネルギッシュな拍手で、ドライバーユニットの磁気回路が強力なことをうかがわせる。ここでも声は至極まともで、クラプトンの人柄も出てくる。
クラシックのソフトでは、SACDで聴いたアバド指揮ベルリンフィルの『ジルヴェスター・コンサート 1997』の「カルメン」が印象的だった。ソプラノのアンネ・ソフィ・フォン・オッターの声年齢が若くならず、ピットにいるオーケストラやステージの奥にいるコーラス隊など、奥行き方向が深く、しかもセンターの密度も薄くならない。総じて機械が鳴っている感覚のない、反応の良いトーンだ。
■柔らかい感触があり、より大人っぽいトーンの「Argon1」
続いてArgon1。竹内まりやから聴きだすと、Argon0よりも低域のレンジが広いのはもちろん、よくほどけた柔らかい感触があって、より大人っぽいトーン。寛いで聴ける方向性。もともとスピーカー作りにおいてオーディオ的な強調感のない方向のブランドだが、150mmのウーファーからこうした世界を構築できているのは珍しい。低域のレンジが広がった分、ヴォーカルの人間味や、ピアノ、ギター、ベースギターといった楽器類の再現性が上がっている。
ルーサー・ヴァンドロスの『Live 2003 at Radio City Music Hall』、オーディエンスがいっしょに歌っている空気感や、アフリカン・アメリカンの姐さんたちのソウルフルなコーラスがリアル。グルーヴ感が生き生きしていて、ライブの醍醐味を感じさせてくれる。クラシックでもArgon0よりもスケール感があり、低域も充実。落ち着いた気持ちで音楽、演奏にひたれる。特にカルメンの歌(声)の良さは、さすがのクロス周波数であり、それを可能にした技術を感じさせる。
生活の中で音楽を楽しめる音。しかも、このコンパクトさと価格帯。多くの音楽好きの方に薦められるスピーカーだ。
Amphion「Argon0」
スピーカーシステム
¥132,000/ペア・税抜
【Specifications】
●型式:2ウェイ バスレフ型●ユニット:1インチ チタニウム・トゥイーター、4.5インチ アルミニウム・ミッド・ウーファー●クロスオーバー周波数:1.6kHz●入力インピーダンス:8Ω●感度:86dB●周波数特性:50Hz〜20kHz ±3dB●許容入力:25〜120W●サイズ:132W×259H×220Dmm●質量:6kg●カラー:スタンダードホワイト、フルホワイト、ホワイト・ウィズ・ブラック・グリッド、ブラック
Amphion「Argon1」
スピーカーシステム
¥190,000/ペア・税抜(スタンダードホワイト、フルホワイト、ホワイト・ウィズ・ブラック・グリッド、ブラック)
¥204,000/ペア・税抜(ウォルナット)
【Specifications】
●型式:2ウェイ バスレフ型●ユニット:1インチ チタニウム・トゥイーター、5.25インチ アルミニウム・ミッド・ウーファー●クロスオーバー周波数:1.6kHz●入力インピーダンス:8Ω●感度:86dB●周波数特性:45Hz〜20kHz ±3dB●許容入力:20〜150W●サイズ:160W×316H×265Dmm●質量:8kg●取り扱い:Wefield ウインテスト(株) オーディオ事業部
本記事は季刊・オーディオアクセサリー 177号 SUMMERからの転載です。本誌の詳細および購入はこちらから。
■生活の中で音楽を楽しむ、そのためのスピーカー
アンフィオンは1998年にフィンランドで設立されたスピーカーブランドだ。設立が新しめということもあるし、ここ10年ほどの日本市場では、プロ用のモニタースピーカーやアンプのメーカーとして浸透してきた経緯もある。一般的にはそれほどメジャーには知られていないかもしれない。しかし、その技術力はさすがと感じさせるものがある。
特徴は生活の中で音楽を楽しむためにはどうしたらいいか、という視点を持ってスピーカー開発を行っている点だ。
たとえばクルマでも、レース用のマシンは速く走るための特殊な技術が必要だが、一般の家庭で年齢や性別を問わず使われる乗用車の方がより成熟した、完成度の高いテクノロジーが要求される。同じようにアンフィオンのスピーカーを聴いていると、生活の中で音楽を楽しむには特有の技術的難しさがあることに気づかされる。
今回は「Argon0(アルゴン・ゼロ)」と「Argon1(アルゴン・ワン)」の2種類のスピーカーを紹介するが、カタログにはこう書かれている。“Argonシリーズの目的は「生活」です(中略)。日々新しい感動と生活に潤いをもたらします”。
■チタンとアルミの振動板を使い分ける
両機に共通してのフィーチャーを紹介してみよう。基本的にブックシェルフ型の2ウェイで、ドライバーユニットはノルウェーのSEAS社製を採用している。
トゥイーターはチタンのダイヤフラムでサイズは25mm径。その前面に独自形状のウェーブガイドホーンを持たせて能率と指向性のコントロールを行っている。また、前後方向の位置をコントロールする役割もあって、ウーファーの磁気回路の位置と揃えている。
一方のウーファーはアルミの振動板で「Argon0」が120mm径、「Argon1」が150mm径。低音補強は、このふたつのモデルではバスレフ型を採用している。特徴的なのはクロスオーバー周波数で、1.6kHzとかなり低めだ。
以前CEOのアンシ・ヘヴォネン氏にインタビューしたことがあるが「例えば椅子の座面の真ん中に縫い目があることはほとんどありませんよね? 横の見えづらいところにあることがほとんどです。同じように一番人間の聴覚がよく聴こえるところに、わざわざこの “縫い目” を設定することはないでしょう。スピーカーを開発していて一番難しいことのひとつは、このクロスを違和感なく一体化させることです。というのも、このふたつのドライバーユニットはダイヤフラムの素材、音の拡散の仕方、形自体も違ったりしますからね」と話してくれたのを思い出す。
■積極的で躍動感ある低域の「Argon0」
テストは本誌試聴室で行った。リファレンスはアキュフェーズで、CDプレーヤーが「DP-750」、アンプが「E-380」。
まずArgon0から聴きだしたが、さすがにトゥイーターとウーファーのつながりがいい。もしもブラインドで聴いた時に、コンプレッションドライバーとかソフトドームとか、どの種類のどの素材のトゥイーターが鳴っているかが、分かりにくいし、ずいぶん鳴りっぷりのいいスピーカーだ。
竹内まりや「シングル・アゲイン」では本人らしいまともなトーンの声質で、高域のクオリティも高い。低域のレンジはメーカーの発表している50Hzという数字の聴感だが、たくましい感じが魅力的だ。積極的で、躍動感のある低音なのだ。エリック・クラプトン「アンプラグド」では、エネルギッシュな拍手で、ドライバーユニットの磁気回路が強力なことをうかがわせる。ここでも声は至極まともで、クラプトンの人柄も出てくる。
クラシックのソフトでは、SACDで聴いたアバド指揮ベルリンフィルの『ジルヴェスター・コンサート 1997』の「カルメン」が印象的だった。ソプラノのアンネ・ソフィ・フォン・オッターの声年齢が若くならず、ピットにいるオーケストラやステージの奥にいるコーラス隊など、奥行き方向が深く、しかもセンターの密度も薄くならない。総じて機械が鳴っている感覚のない、反応の良いトーンだ。
■柔らかい感触があり、より大人っぽいトーンの「Argon1」
続いてArgon1。竹内まりやから聴きだすと、Argon0よりも低域のレンジが広いのはもちろん、よくほどけた柔らかい感触があって、より大人っぽいトーン。寛いで聴ける方向性。もともとスピーカー作りにおいてオーディオ的な強調感のない方向のブランドだが、150mmのウーファーからこうした世界を構築できているのは珍しい。低域のレンジが広がった分、ヴォーカルの人間味や、ピアノ、ギター、ベースギターといった楽器類の再現性が上がっている。
ルーサー・ヴァンドロスの『Live 2003 at Radio City Music Hall』、オーディエンスがいっしょに歌っている空気感や、アフリカン・アメリカンの姐さんたちのソウルフルなコーラスがリアル。グルーヴ感が生き生きしていて、ライブの醍醐味を感じさせてくれる。クラシックでもArgon0よりもスケール感があり、低域も充実。落ち着いた気持ちで音楽、演奏にひたれる。特にカルメンの歌(声)の良さは、さすがのクロス周波数であり、それを可能にした技術を感じさせる。
生活の中で音楽を楽しめる音。しかも、このコンパクトさと価格帯。多くの音楽好きの方に薦められるスピーカーだ。
Amphion「Argon0」
スピーカーシステム
¥132,000/ペア・税抜
【Specifications】
●型式:2ウェイ バスレフ型●ユニット:1インチ チタニウム・トゥイーター、4.5インチ アルミニウム・ミッド・ウーファー●クロスオーバー周波数:1.6kHz●入力インピーダンス:8Ω●感度:86dB●周波数特性:50Hz〜20kHz ±3dB●許容入力:25〜120W●サイズ:132W×259H×220Dmm●質量:6kg●カラー:スタンダードホワイト、フルホワイト、ホワイト・ウィズ・ブラック・グリッド、ブラック
Amphion「Argon1」
スピーカーシステム
¥190,000/ペア・税抜(スタンダードホワイト、フルホワイト、ホワイト・ウィズ・ブラック・グリッド、ブラック)
¥204,000/ペア・税抜(ウォルナット)
【Specifications】
●型式:2ウェイ バスレフ型●ユニット:1インチ チタニウム・トゥイーター、5.25インチ アルミニウム・ミッド・ウーファー●クロスオーバー周波数:1.6kHz●入力インピーダンス:8Ω●感度:86dB●周波数特性:45Hz〜20kHz ±3dB●許容入力:20〜150W●サイズ:160W×316H×265Dmm●質量:8kg●取り扱い:Wefield ウインテスト(株) オーディオ事業部
本記事は季刊・オーディオアクセサリー 177号 SUMMERからの転載です。本誌の詳細および購入はこちらから。