【特別企画】価格を超えた音楽性
美しい音色とデザインに感動、FOCAL「CHORA」スピーカー主要モデル一斉レビュー
■デザインの素晴らしさに加え、価格を超えた再生能力を備える
試聴室に入ると3つのスピーカーが一堂に並んでいて、筆者はその光景を見て思わず頬が緩んでしまった。CHORAラインは、スタンダードクラスとは思えないほどデザインが美しい。フラグシップスピーカーのような絶対的なコストをかけられないまでも、キャビネットやユニットなどのベーシックな部分でのデザインバランスが取れており、前述したスレートファイバーコーンが表現する美しい模様のウーファーやキャビネット素材など外装に使われている素材の質感も巧みに組み合わされている。「さすがフランスのメーカーのスピーカーだ」と言いたくなる。
もちろんデザインの良さだけに感激したわけではない。CHORAシリーズを高く評価できるのは音楽をずっと聴いていたくなるような、音楽性と価格を超えた再生能力にある。
音楽ソースはCDとアナログで、アンプにラックスマンの「L-505uXU」、SACDプレーヤーに「D-03X」、アナログシステムはプレーヤー「PD-151」(L-505uXUのフォノ入力を利用)と万全の布陣である。なお、カートリッジにはオルトフォンのMC-Q30Sを使用している。
■美しい音色と躍動感はCHORAシリーズに共通する印象
まずはシリーズに共通する音の印象からお伝えしよう。最も印象的だったのは、美しい音色と躍動感。そしてオーディオ的な尺度である分解能やステージング表現までも合わせ持つ、大変完成度の高い音であるということ。素晴らしいコストパフォーマンスで、3つのスピーカーに備わる音楽性の高さはリスナーを魅了する。また、3モデルとも能率が高く音離れが良いので、スピーカーの周りに音がまとわりつかない。
「Chora 806」は2ウェイバスレフ型のブックシェルフスピーカー。まずはCDから、マドンナの14枚目のスタジオ・アルバム『MADAM X』を聴取。一聴して音離れが良く、目の前にスカッとリアルに現れるヴォーカルが朗々と歌う、鮮度の高い表現だ。打ち込みのドラムはレスポンスが良い。ブックシェルフスピーカーのアドバンテージである空間表現力を生かした素晴らしい音。
特に良いな、と思ったのは上原ひろみの『Spectrum』でのピアノの低域の表現力。ひと言で2ウェイと言っても世の中にはさまざまな大きさのスピーカーが存在するが、本モデルのキャビネットサイズ/重量はそれぞれ、W210×H431×D270mm/7.35kgと大きめ。そしてこの余裕あるサイズ感がブックシェルフ離れしたfレンジと、のびのびとした余裕のあるピアノの音を表現している。
次に「Chora 816」を試聴した。使用ユニットは、25mmインバーテッド・ドーム・トゥイーター、16.5cmミッドウーファー、16.5cmウーファーの2.5ウェイ3スピーカー構成。ユニットの数がひとつ増えたことで絶対的な情報量が向上して、先ほどと同じ楽曲を聴くとアーティストとの距離感がグッと近くなる。低域はさらに余裕が生まれてグラデーションが豊かに。
さらに話題の音源である「ジョン・ウィリアムズ ライヴ・イン・ウィーン」のアナログLPを再生したところ、オーケストラを構成する各楽器がしっかりと像を結んで鮮明なサウンドステージをもたらしてくれる。また、アコースティック楽器の質感に艶があり、ずっと聴いていたくなるような音楽性がある。スタンダードクラスのトールボーイスピーカーは投入できるコストの関係上、ブックシェルフ型よりも低域のコントロールが難しく、迫力は出るがコントラバスなどのリアリティが若干不足するケースも多々経験しているのだが、本モデルはそれがないのも素晴らしい。
■Chora 826ではリアルなサウンドステージが眼前に
最後は、3ウェイ4スピーカーの「Chora 826」を試聴したが、これが今回のハイライトとなった。その素晴らしい表現力は、Chora 816との価格差以上のもので、ひと言で言うとかなりリアルなのだ。分解能、fレンジ、静寂感などオーディオ的な指標が大きく向上しており、上原ひろみは、左側の鍵盤タッチのリアリティと伸びがさらに増す。シリーズに共通する明るく色艶の良い音色も手伝い、天真爛漫とした彼女の世界観を素晴らしく上手に表現する。
LPは筆者所有のブルーノートオリジナル盤、ジャッキー・マクリーン「イッツ・タイム」(BLP 4179)を再生したが、音離れの良いサックスとドラムが眼前に炸裂してグルーブ感抜群である。今回改めて感じたのは、3つのモデルとも、ポップス、クラシック、ジャズと音源を問わず再生でき、しかも各ジャンルの持つ音の旨みを上手に音楽性として表現することができている。しかもこの価格で、だ。
CHORAシリーズを初めて聴いたのは、『NetAudio vol.37』の人気企画「有形と無形のソノリティ」で、スピーカーはChora 826であった。評論家の小原由夫氏と筆者が、歴史的なひとつのタイトルをアナログレコード、CD、SACD、ハイレゾ、ストリーミングと聴いてそれぞれの音質チェックを行うという企画なのだが、スピーカーにはメディアによる音質差に加え、マスタリングの違いによる音色や音調の微妙なニュアンスを表現する必要があり、ソース音源に対して素直な変化を聴かせる必要があった。
その点、Chora 826はオーディオ的再生能力に長けており、しかも音楽性の両立が素晴らしかったので、同一の楽曲をそれこそ10回以上フル尺で聴いてもまったく苦にならなかった。これは本当に素晴らしいことだ。また、その能力を証明するように、Chora 826は世界的に影響力を持つ「EISA AWARD 2020-2021」も受賞している。
音楽を魅力的に鳴らし、しかもデザインの良いこのようなスピーカーが筆者は大好きだ。今回はかなり気に入ってしまったのでことさらに褒めてしまったが、FOCALは他にも大変魅力的な製品が多く、機会があれば皆さんに紹介できればと思っている。