音質の特徴は?
変わらないことに価値がある。ビクターのスタジオモニターヘッドホン「HA-MX100V」レビュー!
Victor(ビクター)ブランドからスタジオモニターヘッドホン「HA-MX100V」が登場。優れた音響に充実した設備、敏腕エンジニアが揃う名門「ビクタースタジオ」の、そのエンジニアが製品全体の監修・プロデュースを担当した証であるサブブランド「Produced by VICTOR STUDIO」を冠するアイテムだ。
型番や外観からお気付きになった方も多いだろうが、2016年3月発売のJVC「HA-MX100-Z」のリニューアルであり、内容に大きな変更があるわけではない。目立った変化は、ハウジングにビクターブランドの象徴である犬、ニッパー君のマークが入ったことくらいだろう。
というのもスタジオモニターは制作現場の基準機。その基準たる音質や使い心地が数年程度で大きく変わってしまうようなことはあってはならない。故にむしろ、変わっていないことに価値があるというモデルだ。
となると「では何故リニューアルを?」というのが気になるかと思う。実はJVCケンウッドは2018年から「“こだわりの音づくり”から生み出していく商品やサービス、ソリューションにビクターブランドを付与して展開」「ビクタースタジオもブランドとしてさらに活用」という戦略を開始。まさにそれに該当するため、このヘッドホンはJVCからビクターへのブランド移行が行われたというわけだ。
ということで本機の内容はHA-MX100-Zにほぼ準ずる。しかしHA-MX100-Zの発売から4年以上、その原型であるHA-MX10の発売から10年近くが経過。今回のリニューアルはその特徴と魅力を改めて確認しておくのにもよい機会となるだろう。
まずは技術面から見ていこう。
心臓部たるドライバーユニットは、「ハイレゾ対応モニタードライバーユニット」だ。
2011年にビクタースタジオのエンジニアとの共同開発で発売されたモニターヘッドホン「HA-MX10」のために開発されたのが「モニタードライバーユニット」。そのユニットをベースにハイレゾ対応の特性と音質に引き上げたのが「HA-MX100-Z」に搭載の「ハイレゾ対応モニタードライバーユニット」となる。具体的には、ボイスコイルを「日本製高純度CCAWボイスコイル」に変更、磁気回路を成型後に熱処理を加えて成型時のストレス歪みを解消といった手法が採用されている。
振動板前面に配置され高域の音圧や広がりを整える「サウンドディフューザー」、ドライバー背面に配置され背圧を最適化する「クリアバスポート」も同じくHA-MX10から継承し、HA-MX100-Zでさらなる調整や「デュアル・クリアバスポート」への進化が施された技術要素だ。ドライバーが生み出すサウンドはそれらによって制御され、音の仕上げが行われている。
ほか、ハードワークを想定し装着感や耐久性にも配慮。ビクタースタジオ独自のエージング音源による慣らし運転を行なった上で出荷することでどの個体も購入直後からある程度安定した音質を確保。このあたりはひと言で表すならつまり「プロ仕様」だ。
では、そういった技術要素と、そして何よりビクタースタジオ監修による、そのサウンドとは?
まず簡潔に伝えるならば、最大の特徴は音像の明瞭さ、そしてその明瞭さの安定感だ。
ここでいう音像の明瞭さとは、音の輪郭や芯がくっきりとしているというだけではなく、音程感の確かさや音の立ち上がりの素直なアタック感、しっかりとした存在感を生み出すほどよい大柄さなど、様々な要素をまとめた意味合いと受け取ってほしい。
そして明瞭さの安定感とは、音色の種類や音の帯域によって揺らぐことなく、その明瞭さが、常に保たれるということ。
特にわかりやすいのは現代的なクラブサウンドの低域側。例えばロバート・グラスパー氏の「Better Than I Imagined」。
この曲のベースとバスドラムは音程として音色としても相当にディープな帯域にまで沈み込んでいるが、このヘッドホンはその深さにまで沈み込んだ音の音像まで明瞭に届けてくれる。
特に凄みを感じさせるのは、低域のボリューム感を押し出すことでその存在感を確保してあるのではないというところ。ベースやバスドラムの音量感はむしろ控えめでタイトな印象だ。しかし例えばアタックの心地よい抜け感などで、その存在感はこちらの耳と意識にしっかりと届いてくる。
さらに言うならばその「心地よい」抜け感というのもポイント。カツンコツンという硬い成分を強調して抜けを強めているわけではない。その音のアタック、音の立ち上がりを正し素直に再現することで、その音本来のナチュラルな抜け感が生かされているといった印象だ。
他の曲を聴いても、ベースのフレーズ内で音程が大きく上下しても音像が膨らんだり痩せたりすることもない。アタックの素直さと合わせてこのあたりは、プレイヤーの演奏ニュアンスへの追従性や正確性といった、演奏時のヘッドホンモニター環境としての適性の高さも示していると言えるだろう。
当然だが、中高域側の表現や空間性などについても見事な仕上がりとなっている。例えばまさにビクタースタジオで制作された悠木碧さん「レゼトワール」。
こちらは悠木碧さんの声だけを使った作品であり、そして特殊な制作手法による空間表現が行われている作品。
まずはその声の感触が素晴らしい。いかにもハイエンドっぽいシャープな描写とはまた違う、やや柔らかめなタッチで声の手触りまでが描き込まれている印象。映像にたとえるなら「高解像度グラフィックではなく丁寧な鉛筆画」といった趣きで、自然な厚みもあり、肉声的な生々しさが引き出される。前述のアタック感もそうだが、音の在り方がナチュラルということだ。エンジニアとしてもリスナーとしても、聴き疲れしにくいという利点にもなるだろう。
一つ一つの声の音像はやや大柄で、その空間配置は、それぞれがすっきりセパレートされるのではなく、うまくなじんで綺麗に重ねられるといった様子。その重なり方のおかげで立体感が豊かになっているようにも思える。
レコーディングエンジニアによるチューニングと言われて、一般向けではないマニアックなものを想像した方もいたかもしれない。
しかし実際には、レコーディングエンジニア、特にビクタースタジオのエンジニアが求めるサウンドとは、現場のそこで鳴っていた音をそのまま届けてくれるようなナチュラルな音だ。それは普遍的な心地よい音にも通じる。
音楽を愛するすべての人に普遍的な心地よさを与えてくれるサウンド。それが「Produced by VICTOR STUDIO」の音、HA-MX100Vの音というわけだ。
スタジオモニター機ではあるが、リスニングアイテムとしても遠慮なく選んでほしい。
型番や外観からお気付きになった方も多いだろうが、2016年3月発売のJVC「HA-MX100-Z」のリニューアルであり、内容に大きな変更があるわけではない。目立った変化は、ハウジングにビクターブランドの象徴である犬、ニッパー君のマークが入ったことくらいだろう。
というのもスタジオモニターは制作現場の基準機。その基準たる音質や使い心地が数年程度で大きく変わってしまうようなことはあってはならない。故にむしろ、変わっていないことに価値があるというモデルだ。
となると「では何故リニューアルを?」というのが気になるかと思う。実はJVCケンウッドは2018年から「“こだわりの音づくり”から生み出していく商品やサービス、ソリューションにビクターブランドを付与して展開」「ビクタースタジオもブランドとしてさらに活用」という戦略を開始。まさにそれに該当するため、このヘッドホンはJVCからビクターへのブランド移行が行われたというわけだ。
ということで本機の内容はHA-MX100-Zにほぼ準ずる。しかしHA-MX100-Zの発売から4年以上、その原型であるHA-MX10の発売から10年近くが経過。今回のリニューアルはその特徴と魅力を改めて確認しておくのにもよい機会となるだろう。
まずは技術面から見ていこう。
心臓部たるドライバーユニットは、「ハイレゾ対応モニタードライバーユニット」だ。
2011年にビクタースタジオのエンジニアとの共同開発で発売されたモニターヘッドホン「HA-MX10」のために開発されたのが「モニタードライバーユニット」。そのユニットをベースにハイレゾ対応の特性と音質に引き上げたのが「HA-MX100-Z」に搭載の「ハイレゾ対応モニタードライバーユニット」となる。具体的には、ボイスコイルを「日本製高純度CCAWボイスコイル」に変更、磁気回路を成型後に熱処理を加えて成型時のストレス歪みを解消といった手法が採用されている。
振動板前面に配置され高域の音圧や広がりを整える「サウンドディフューザー」、ドライバー背面に配置され背圧を最適化する「クリアバスポート」も同じくHA-MX10から継承し、HA-MX100-Zでさらなる調整や「デュアル・クリアバスポート」への進化が施された技術要素だ。ドライバーが生み出すサウンドはそれらによって制御され、音の仕上げが行われている。
ほか、ハードワークを想定し装着感や耐久性にも配慮。ビクタースタジオ独自のエージング音源による慣らし運転を行なった上で出荷することでどの個体も購入直後からある程度安定した音質を確保。このあたりはひと言で表すならつまり「プロ仕様」だ。
では、そういった技術要素と、そして何よりビクタースタジオ監修による、そのサウンドとは?
まず簡潔に伝えるならば、最大の特徴は音像の明瞭さ、そしてその明瞭さの安定感だ。
ここでいう音像の明瞭さとは、音の輪郭や芯がくっきりとしているというだけではなく、音程感の確かさや音の立ち上がりの素直なアタック感、しっかりとした存在感を生み出すほどよい大柄さなど、様々な要素をまとめた意味合いと受け取ってほしい。
そして明瞭さの安定感とは、音色の種類や音の帯域によって揺らぐことなく、その明瞭さが、常に保たれるということ。
特にわかりやすいのは現代的なクラブサウンドの低域側。例えばロバート・グラスパー氏の「Better Than I Imagined」。
この曲のベースとバスドラムは音程として音色としても相当にディープな帯域にまで沈み込んでいるが、このヘッドホンはその深さにまで沈み込んだ音の音像まで明瞭に届けてくれる。
特に凄みを感じさせるのは、低域のボリューム感を押し出すことでその存在感を確保してあるのではないというところ。ベースやバスドラムの音量感はむしろ控えめでタイトな印象だ。しかし例えばアタックの心地よい抜け感などで、その存在感はこちらの耳と意識にしっかりと届いてくる。
さらに言うならばその「心地よい」抜け感というのもポイント。カツンコツンという硬い成分を強調して抜けを強めているわけではない。その音のアタック、音の立ち上がりを正し素直に再現することで、その音本来のナチュラルな抜け感が生かされているといった印象だ。
他の曲を聴いても、ベースのフレーズ内で音程が大きく上下しても音像が膨らんだり痩せたりすることもない。アタックの素直さと合わせてこのあたりは、プレイヤーの演奏ニュアンスへの追従性や正確性といった、演奏時のヘッドホンモニター環境としての適性の高さも示していると言えるだろう。
当然だが、中高域側の表現や空間性などについても見事な仕上がりとなっている。例えばまさにビクタースタジオで制作された悠木碧さん「レゼトワール」。
こちらは悠木碧さんの声だけを使った作品であり、そして特殊な制作手法による空間表現が行われている作品。
まずはその声の感触が素晴らしい。いかにもハイエンドっぽいシャープな描写とはまた違う、やや柔らかめなタッチで声の手触りまでが描き込まれている印象。映像にたとえるなら「高解像度グラフィックではなく丁寧な鉛筆画」といった趣きで、自然な厚みもあり、肉声的な生々しさが引き出される。前述のアタック感もそうだが、音の在り方がナチュラルということだ。エンジニアとしてもリスナーとしても、聴き疲れしにくいという利点にもなるだろう。
一つ一つの声の音像はやや大柄で、その空間配置は、それぞれがすっきりセパレートされるのではなく、うまくなじんで綺麗に重ねられるといった様子。その重なり方のおかげで立体感が豊かになっているようにも思える。
レコーディングエンジニアによるチューニングと言われて、一般向けではないマニアックなものを想像した方もいたかもしれない。
しかし実際には、レコーディングエンジニア、特にビクタースタジオのエンジニアが求めるサウンドとは、現場のそこで鳴っていた音をそのまま届けてくれるようなナチュラルな音だ。それは普遍的な心地よい音にも通じる。
音楽を愛するすべての人に普遍的な心地よさを与えてくれるサウンド。それが「Produced by VICTOR STUDIO」の音、HA-MX100Vの音というわけだ。
スタジオモニター機ではあるが、リスニングアイテムとしても遠慮なく選んでほしい。