【特別企画】精鋭メンバーによる純国産アンプ
日本を代表する世界的ブランド“エアータイト”、一貫したサウンドを生み出す同社工房を訪ねる
世界的な知名度を誇る真空管アンプブランド “エアータイト” 。大阪府高槻市にあるその生産工場では、熟練職人たちがひとつひとつ手作業でアンプを組み上げている。その現場を、山之内 正氏が訪問、その工場見学の様子をお伝えしよう。
■世界で評価を受ける真空管アンプ、その音はどのようにして作られるのか
前回、エアータイトのATM-300RとATM-2211Jを紹介した。前者は300B、後者は211を出力管に用いたステレオ及びモノラル構成。どちらも同社を代表する三極管シングルの優れたパワーアンプである。試聴時に私が「このアンプでなければ聴けない音がある」と感じた再生音の魅力もさることながら、実機に接したとき、ハンドメイドによる丹念な作りにも大変に感心させられた。日本を代表する真空管アンプ群がどんな環境で設計され、どのように製造されているのか、俄然興味が湧いたのだ。
その後しばらくしてエイ・アンド・エム社からお誘いを受け、高槻の同社を訪ねることができた。オフィスでは創業者の三浦 篤社長に出迎えていただき、早速試聴室でお話をうかがった。
「2020年からは国内外のショウやイベントが相次いで中止になり、寂しいですね」と話をすると、三浦氏は、「そうですね。でも嬉しいことにアンプは思いがけず注文が多く、1月に受けた注文を秋ごろになって組み立てていた、というような状況です。パーツが入手しにくくなったり、音の追い込みに時間をかけてしまったこともありますけど」。
実は、海外のオーディオショウのブースではなく、日本でじっくりお話できるのが少し意外だった。なぜかというと、いまだにエアータイトは海外の方が日本よりも知名度が高く、同社のアンプの熱心なファンが世界中に存在するからだ。日本のブランドなのに、海外の知り合いとの会話で話題に上る機会も多く、某著名アンプメーカーの社長が「日本のブランドのなかでエアータイトには一目置いている」と打ち明けてくれたこともある。
■大量生産とは距離を置き、作りたいものを作る姿勢
エアータイトは1986年の創業時から真空管アンプに軸足を置き、アナログオーディオだけで35年間歩み続けてきた稀有なメーカーだ。その歴史はデジタルオーディオの拡大期にピタリと重なるが、大量生産とは距離を置いて「作りたいものを作る」姿勢を貫いてきた。
駆動が難しいスピーカーをも楽々と鳴らすアンプの実力と、その一貫した姿勢がまずは海外で高く評価され、いまは20カ国を超える地域に出荷しているという。米国のアブソリュート・サウンド誌がハイエンドオーディオの殿堂に三浦氏の名前を掲げるなど、近年さらに評価が高まっている。
海外のハイエンドメーカーと間違えそうなエアータイトだが、設計と製造どちらも精鋭メンバーが高槻の社屋内で取り組んでおり、紛れもない日本のメーカーである。オフィスの1階スペースは工房と呼びたくなる雰囲気があり、10名弱のスタッフが組立や測定などの作業にじっくり取り組んでいた。トランスやモノコック構造のシャーシはそれぞれ契約先から搬入されるが、それらの部材に部品を組み付ける作業や測定、エージングなどの工程は基本的に社内で行われている。
リード線の付いたコンデンサーを基板に取り付ける工程などを間近で見学させていただいたが、単なるハンダ付け作業のように見えて、実はそうではないことに気付いた。パーツ同士の間隔やリード線の長さなどを微調整しながら、視覚的なバランスを意識して慎重に組み上げているのだ。
近年のオーディオ機器は表面実装が主流で部品の取り付けも自動化されているケースがほとんどだが、エアータイトのアンプ組み立て作業は手配線にこだわり、文字通りのハンドメイドで行われている。
■アンプづくりの思想を全員が共有。音楽が楽しめるアンプを目指す
三浦社長も自ら企画と設計に携わる。外装と回路はそれぞれ設計の責任者を置いているが、試聴室での音を確認しながらの詰めの作業にも時間をかけ、それぞれが納得するまで議論を繰り返しているようだ。私が訪れたときは2階の試聴室に2211と3211がスタンバイしていて、時間を忘れてCDとLPレコードを楽しく聴くことができた。
クラシックの室内楽やジャズ、ヴォーカルなど様々なジャンルの音楽を聴きながら、この曲はプッシュプル(3211)の方が浸透力が強い、このヴォーカルはシングル(2211)の方が声のイメージが自然だ、という具合に意見が飛び交う。物理特性はもちろん重要だが、実際に音楽を聴いて楽しくなければ良いアンプとは言えない。三浦氏がこだわるアンプ作りの思想を全員が共有しているからこそ、自由な雰囲気で音楽談義ができるのだろう。
こだわりはもう一つある。少し頑張れば音楽ファンが普通に買えるようなアンプを作ることだ。オーバープライスの製品は出さないと明言する三浦氏の言葉通り、同社のアンプ群のなかには100万円を切る製品も複数用意されている。品質の高い日本製の出力トランスなどにこだわるとその価格で収めるのはかなり難しいというが、国内のファンを増やすためにも、ぜひそのこだわりを貫いてほしい。
(提供:エイ・アンド・エム株式会社)
本記事は季刊AudioAccessory vol.179 WINTERからの転載です。
■世界で評価を受ける真空管アンプ、その音はどのようにして作られるのか
前回、エアータイトのATM-300RとATM-2211Jを紹介した。前者は300B、後者は211を出力管に用いたステレオ及びモノラル構成。どちらも同社を代表する三極管シングルの優れたパワーアンプである。試聴時に私が「このアンプでなければ聴けない音がある」と感じた再生音の魅力もさることながら、実機に接したとき、ハンドメイドによる丹念な作りにも大変に感心させられた。日本を代表する真空管アンプ群がどんな環境で設計され、どのように製造されているのか、俄然興味が湧いたのだ。
その後しばらくしてエイ・アンド・エム社からお誘いを受け、高槻の同社を訪ねることができた。オフィスでは創業者の三浦 篤社長に出迎えていただき、早速試聴室でお話をうかがった。
「2020年からは国内外のショウやイベントが相次いで中止になり、寂しいですね」と話をすると、三浦氏は、「そうですね。でも嬉しいことにアンプは思いがけず注文が多く、1月に受けた注文を秋ごろになって組み立てていた、というような状況です。パーツが入手しにくくなったり、音の追い込みに時間をかけてしまったこともありますけど」。
実は、海外のオーディオショウのブースではなく、日本でじっくりお話できるのが少し意外だった。なぜかというと、いまだにエアータイトは海外の方が日本よりも知名度が高く、同社のアンプの熱心なファンが世界中に存在するからだ。日本のブランドなのに、海外の知り合いとの会話で話題に上る機会も多く、某著名アンプメーカーの社長が「日本のブランドのなかでエアータイトには一目置いている」と打ち明けてくれたこともある。
■大量生産とは距離を置き、作りたいものを作る姿勢
エアータイトは1986年の創業時から真空管アンプに軸足を置き、アナログオーディオだけで35年間歩み続けてきた稀有なメーカーだ。その歴史はデジタルオーディオの拡大期にピタリと重なるが、大量生産とは距離を置いて「作りたいものを作る」姿勢を貫いてきた。
駆動が難しいスピーカーをも楽々と鳴らすアンプの実力と、その一貫した姿勢がまずは海外で高く評価され、いまは20カ国を超える地域に出荷しているという。米国のアブソリュート・サウンド誌がハイエンドオーディオの殿堂に三浦氏の名前を掲げるなど、近年さらに評価が高まっている。
海外のハイエンドメーカーと間違えそうなエアータイトだが、設計と製造どちらも精鋭メンバーが高槻の社屋内で取り組んでおり、紛れもない日本のメーカーである。オフィスの1階スペースは工房と呼びたくなる雰囲気があり、10名弱のスタッフが組立や測定などの作業にじっくり取り組んでいた。トランスやモノコック構造のシャーシはそれぞれ契約先から搬入されるが、それらの部材に部品を組み付ける作業や測定、エージングなどの工程は基本的に社内で行われている。
リード線の付いたコンデンサーを基板に取り付ける工程などを間近で見学させていただいたが、単なるハンダ付け作業のように見えて、実はそうではないことに気付いた。パーツ同士の間隔やリード線の長さなどを微調整しながら、視覚的なバランスを意識して慎重に組み上げているのだ。
近年のオーディオ機器は表面実装が主流で部品の取り付けも自動化されているケースがほとんどだが、エアータイトのアンプ組み立て作業は手配線にこだわり、文字通りのハンドメイドで行われている。
■アンプづくりの思想を全員が共有。音楽が楽しめるアンプを目指す
三浦社長も自ら企画と設計に携わる。外装と回路はそれぞれ設計の責任者を置いているが、試聴室での音を確認しながらの詰めの作業にも時間をかけ、それぞれが納得するまで議論を繰り返しているようだ。私が訪れたときは2階の試聴室に2211と3211がスタンバイしていて、時間を忘れてCDとLPレコードを楽しく聴くことができた。
クラシックの室内楽やジャズ、ヴォーカルなど様々なジャンルの音楽を聴きながら、この曲はプッシュプル(3211)の方が浸透力が強い、このヴォーカルはシングル(2211)の方が声のイメージが自然だ、という具合に意見が飛び交う。物理特性はもちろん重要だが、実際に音楽を聴いて楽しくなければ良いアンプとは言えない。三浦氏がこだわるアンプ作りの思想を全員が共有しているからこそ、自由な雰囲気で音楽談義ができるのだろう。
こだわりはもう一つある。少し頑張れば音楽ファンが普通に買えるようなアンプを作ることだ。オーバープライスの製品は出さないと明言する三浦氏の言葉通り、同社のアンプ群のなかには100万円を切る製品も複数用意されている。品質の高い日本製の出力トランスなどにこだわるとその価格で収めるのはかなり難しいというが、国内のファンを増やすためにも、ぜひそのこだわりを貫いてほしい。
(提供:エイ・アンド・エム株式会社)
本記事は季刊AudioAccessory vol.179 WINTERからの転載です。