【特別企画】神楽物語 -最終回-
音楽の神、ここに宿れり。匠の技術によって生まれたパワーアンプ「Kagura2」、至高のサウンドを聴く
日本を代表するハイエンド・オーディオブランドのひとつであるオーディオ・ノート。そんな同社において不動のフラグシップを誇るのが「Kagura」である。2020年8月に誕生した後継モデルの「Kagura2」。これまで3回に渡ってこの匠の技術を紹介してきたが、この最終回では搭載されている真空管の話を交えながら、最後はその音質を堪能することにしよう。
■芸術作品の領域といえる合理的な設計
“神楽”物語が、いよいよ最終章となる。超ド級ターンテーブル「Ginga」誕生の翌年。2013年に登場した稀代のモノラルパワーアンプだが、7年の歳月を経て2020年に「Kagura2」へと進化を遂げ、世界の音楽ファンを魅了。オーディオ・ノートの名声をさらに高めた意欲作である。
工房で受注した「Kagura2」の組み立てが行われていた絶好のタイミングで取材にお邪魔した。エピローグにふさわしい舞台ではないか! 美しい純銅製シャーシに大型直熱管211(パラレルシングル構成)や新設計の出力トランス。そして精密かつ大規模な電源部(全体の2/3を占める)を擁する構成だ。サウンドディレクターの廣川嘉行さんにはこれまで3回に渡り「Kagura2」の全回路を解説していただいたが、実際にこうしてモジュール化され立体的に展開された高級パーツの数々を見れば納得。芸術作品の領域といってよい。
縦にぐっと空間を広げ、2階建〜3階建のレイウトにすると、こうした最短結線ができるわけで、シグナル・電源とも長く引き回すことがない合理的な設計といえる。世界のどのアンプもやっていない同社オリジナル技術だ。「Kagura2」2台をもし平置き配線にすれば、たたみ1畳分になるのではないか。
■刷新された出力トランスとオリジナル真空管ソケット
改めて「Kagura2」の進化をまとめよう。最大の変更点は、出力トランスの刷新とオリジナル真空管ソケットの搭載だ。
出力トランスは4、8、16Ωの出力線を単独で引き出せ便利になったこともそうだが、それよりもボビン(巻枠)の形状から設計し直した点に注目したい。間にはさむ“層間紙”にもこだわった設計だ。その効果は前回解説したとおり、中低域の厚みや表現力が劇的に向上。オーディオ・ノート伝統の銀線巻きトランスの魅力がさらに引き出された印象である。
新型ソケットの開発は国産タイトソケットの入手が困難になった中での決断である。「Kagura2を作るにあたって、今までのソケット(一般流通品)を変えようということになりました。コンタクトの確実性や接触抵抗の低減はもちろん、オーディオ・ノート・サウンドの世界観をもった高性能ソケットを開発し全面採用したのです」。そう言って芦澤雅基社長が取り出したのが、211用の4ピンソケットとMT9ピンタイプ。それにGT管用の8ピンソケットだ。
211用を見ると、一番音に影響する端子部のみ自社のオリジナルとした。端子の交換は社内で行っているそうだが、211をソケットに差す際、ちょっとでも傾けば点接触になるだろう。これを解決する切り札が2点接触だったという。試行錯誤の結果、パーツにスリットを入れることで接触カ所を増やして情報量の増加を実現。2つの接触部分の幅をあえて不均一にしたのは、優等生的過ぎず音楽的な楽しさをめざしたためだ。生き生きとした質感が加わり211の個性が生きるソケットの誕生である。
素材とメッキはどう工夫したのか。「優秀なメッキ業者の協力を得て、銅合金の端子に15ミクロン(MT9ピンは5ミクロン)もの非常に質のよい“極厚純銀メッキ”を施すことができました」。メッキの世界では3ミクロンでも十分に厚いわけだが、それが何と5倍である。
しかもその上に0.1ミクロンの白金属系のパラジウムメッキを施したものだ。清潔感のある柔らかな質感がのり、極めて高品位ながら自然な音色のソケットが完成したそうだ。「金型やプレスよりもメッキ加工の方が高価でしたね」と笑う。
そして輝きに品があり美しい。ギラギラじゃなくキラッキラ。まるで宝石だ。飾っておきたくなるような神秘の輝きである。現在「Kagura2」だけのプレミアムなソケットであり、世界最高性能といっていい。
そのソケットと対をなすのが真空管だ。出力管の211はゴールデンドラゴンの選別品を社内でさらに選別。エージングしたものをのせている。初段と整流管は銘柄がかわって、ゴールデンドラゴンからJJへ、整流管はJJからゴールドライオンに変更。全面刷新というより音質調整の範囲内だろう。「出力トランスやソケットの変更に伴う最適化ですね」。
■みずみずしい空気感の生きた、有機的なサウンド
「Kagura2」が奏でるサウンドは、ただのハイエンドアンプとは違う。15インチウーファー搭載のB&W「801D」から軽々とグリップ力を引き出し、どんな複雑な動きにもレスポンスが完璧でありながら、ハイファイくささがない。この日は大管弦楽ものや清涼な北欧ジャズ、ヴォーカルなど聴いたが、響きが実に有機的で風の向こうに音楽そのものを体感させるのだ。
例えばムラヴィンスキー指揮/レニングラードフィルのライブ盤。これはロシアの郷愁たっぷりで、ぶ厚く重厚にうなりを発して襲いかかる低弦セクションのリアルさに鳥肌が立つ。ショルティの「幻想」は、空間にぽっと浮かぶ木管とそれに応える弱音弦のさざ波が極上だ。ジェイコブ・ヤングのギターとヴォーカルデュオは、繊細でしっとりと品のある表情を楽しみたい。これぞ圧倒的なS/Nやみずみずしい空気感の生きた再生だ。夜中の2時に聴きたいレコードだと改めて思った。
音楽的で神々しい、感動すべきサウンドである。「Kagura2」に盛り込まれたすべての要素が結実しており、オーディオ・ノートの集大成にふさわしい。“神が宿る”至高のサウンドに浸りたい。
(提供:オーディオ・ノート)
本記事は『季刊・analog vol.72』からの転載です
■芸術作品の領域といえる合理的な設計
“神楽”物語が、いよいよ最終章となる。超ド級ターンテーブル「Ginga」誕生の翌年。2013年に登場した稀代のモノラルパワーアンプだが、7年の歳月を経て2020年に「Kagura2」へと進化を遂げ、世界の音楽ファンを魅了。オーディオ・ノートの名声をさらに高めた意欲作である。
工房で受注した「Kagura2」の組み立てが行われていた絶好のタイミングで取材にお邪魔した。エピローグにふさわしい舞台ではないか! 美しい純銅製シャーシに大型直熱管211(パラレルシングル構成)や新設計の出力トランス。そして精密かつ大規模な電源部(全体の2/3を占める)を擁する構成だ。サウンドディレクターの廣川嘉行さんにはこれまで3回に渡り「Kagura2」の全回路を解説していただいたが、実際にこうしてモジュール化され立体的に展開された高級パーツの数々を見れば納得。芸術作品の領域といってよい。
縦にぐっと空間を広げ、2階建〜3階建のレイウトにすると、こうした最短結線ができるわけで、シグナル・電源とも長く引き回すことがない合理的な設計といえる。世界のどのアンプもやっていない同社オリジナル技術だ。「Kagura2」2台をもし平置き配線にすれば、たたみ1畳分になるのではないか。
■刷新された出力トランスとオリジナル真空管ソケット
改めて「Kagura2」の進化をまとめよう。最大の変更点は、出力トランスの刷新とオリジナル真空管ソケットの搭載だ。
出力トランスは4、8、16Ωの出力線を単独で引き出せ便利になったこともそうだが、それよりもボビン(巻枠)の形状から設計し直した点に注目したい。間にはさむ“層間紙”にもこだわった設計だ。その効果は前回解説したとおり、中低域の厚みや表現力が劇的に向上。オーディオ・ノート伝統の銀線巻きトランスの魅力がさらに引き出された印象である。
新型ソケットの開発は国産タイトソケットの入手が困難になった中での決断である。「Kagura2を作るにあたって、今までのソケット(一般流通品)を変えようということになりました。コンタクトの確実性や接触抵抗の低減はもちろん、オーディオ・ノート・サウンドの世界観をもった高性能ソケットを開発し全面採用したのです」。そう言って芦澤雅基社長が取り出したのが、211用の4ピンソケットとMT9ピンタイプ。それにGT管用の8ピンソケットだ。
211用を見ると、一番音に影響する端子部のみ自社のオリジナルとした。端子の交換は社内で行っているそうだが、211をソケットに差す際、ちょっとでも傾けば点接触になるだろう。これを解決する切り札が2点接触だったという。試行錯誤の結果、パーツにスリットを入れることで接触カ所を増やして情報量の増加を実現。2つの接触部分の幅をあえて不均一にしたのは、優等生的過ぎず音楽的な楽しさをめざしたためだ。生き生きとした質感が加わり211の個性が生きるソケットの誕生である。
素材とメッキはどう工夫したのか。「優秀なメッキ業者の協力を得て、銅合金の端子に15ミクロン(MT9ピンは5ミクロン)もの非常に質のよい“極厚純銀メッキ”を施すことができました」。メッキの世界では3ミクロンでも十分に厚いわけだが、それが何と5倍である。
しかもその上に0.1ミクロンの白金属系のパラジウムメッキを施したものだ。清潔感のある柔らかな質感がのり、極めて高品位ながら自然な音色のソケットが完成したそうだ。「金型やプレスよりもメッキ加工の方が高価でしたね」と笑う。
そして輝きに品があり美しい。ギラギラじゃなくキラッキラ。まるで宝石だ。飾っておきたくなるような神秘の輝きである。現在「Kagura2」だけのプレミアムなソケットであり、世界最高性能といっていい。
そのソケットと対をなすのが真空管だ。出力管の211はゴールデンドラゴンの選別品を社内でさらに選別。エージングしたものをのせている。初段と整流管は銘柄がかわって、ゴールデンドラゴンからJJへ、整流管はJJからゴールドライオンに変更。全面刷新というより音質調整の範囲内だろう。「出力トランスやソケットの変更に伴う最適化ですね」。
■みずみずしい空気感の生きた、有機的なサウンド
「Kagura2」が奏でるサウンドは、ただのハイエンドアンプとは違う。15インチウーファー搭載のB&W「801D」から軽々とグリップ力を引き出し、どんな複雑な動きにもレスポンスが完璧でありながら、ハイファイくささがない。この日は大管弦楽ものや清涼な北欧ジャズ、ヴォーカルなど聴いたが、響きが実に有機的で風の向こうに音楽そのものを体感させるのだ。
例えばムラヴィンスキー指揮/レニングラードフィルのライブ盤。これはロシアの郷愁たっぷりで、ぶ厚く重厚にうなりを発して襲いかかる低弦セクションのリアルさに鳥肌が立つ。ショルティの「幻想」は、空間にぽっと浮かぶ木管とそれに応える弱音弦のさざ波が極上だ。ジェイコブ・ヤングのギターとヴォーカルデュオは、繊細でしっとりと品のある表情を楽しみたい。これぞ圧倒的なS/Nやみずみずしい空気感の生きた再生だ。夜中の2時に聴きたいレコードだと改めて思った。
音楽的で神々しい、感動すべきサウンドである。「Kagura2」に盛り込まれたすべての要素が結実しており、オーディオ・ノートの集大成にふさわしい。“神が宿る”至高のサウンドに浸りたい。
(提供:オーディオ・ノート)
本記事は『季刊・analog vol.72』からの転載です