【特別企画】神楽物語 -第2回-
“音楽の神が宿る音”をいかに実現するか。こだわりのパーツ選定から見る「Kagura」サウンドのねらい
日本を代表するハイエンド・オーディオブランドのひとつであるオーディオ・ノート。そんな同社において不動のフラグシップを誇るのが「Kagura」である。新連載「神楽物語」では、オーディオ・ノートを代表する稀代のモノラルパワーアンプ「Kagura」(後継のKagura2が2020年の8月に登場)」の開発ストーリーをお届けしている。
今回はいよいよ第2章。今一度、大型直熱管211のパラレル・シングル構成とした意味やそのルーツを思い起こしながら核心部に迫りたい。
■送信管「211」の音を全世界にアピールすべく誕生
オーディオ・ノートのデビュー作は創業当初に開発され、イギリスのアワードを受賞した「Ongaku(1989年)」である。現社長の芦澤雅基氏は当時をこう振り返る。「2013年に発売されたKaguraは、ある意味Ongakuの進化形です」。
Ongakuは211のシングルステレオだが、そこから発展したGakuon2(パラシングルのモノラルパワー)が、Kaguraのベースとなっているのは連載第1回のとおり。美しい銅シャーシとそそり立つガラスのツインタワー。そして本体の3/4を占める強大な電源ブロックが、Kaguraアンプの象徴だろう。
ここでチーフエンジニアの廣川嘉行氏が、回路基板の現物などを見せながら、Kaguraに相応しい “音楽の神が宿る音” をどう実現させていったのか、サウンドのねらいなど含め詳細に解説してくれた。
初代KaguraはGakuon2の増幅部を踏襲しつつも、MT管の構成やパーツも大幅にグレードアップしている。「竹を割ったようなとも評される211のスカッとした音。ヌケがよく彫刻的な音の特徴を生かしながらも、211らしさを少し抑えてふくよかさや深みをもたせたい」。廣川氏の持論である、ハイエンドに相応しい堂々とした王様的な風格だ。力みのない自然体ということだろう。
そのため設計手順の第一歩として、初段に低μ管の「12AU7」を。また2段目と211を駆動するドライバー段には、双三極GT管の「6SN7」を使うことに決めたそうだ。211は選別されたゴールデンドラゴン製だ。
■自社製の銀箔コンデンサーは巻き芯にも試行錯誤
ではパーツへのこだわりはどうか。パワーアンプにとって音質を決定づける生命線は、カップリングコンデンサーと出力トランスだという。
「弊社ではカップリングコンデンサーには伝統的に自社製銀箔コンデンサーを使っています」。カップリングとは “結合” である。2段目とドライバー段のみ “直結” ではないコンデンサー結合を採用。音楽信号が通過するキーパーツであり、Kaguraでは得意の銀箔コンデンサーにさらなる改良を求め、そこまでやるかという試聴実験を敢行した。
棒状の巻き芯棒に、銀箔とフィルムを巻きつけていく。実はその棒で音が激変するのだ。ポイントはその太さ(直径)と素材である。従来品は6φのガラスエポキシだが、まずその口径を8φへ太くする。8φのままセラミック棒に変え、今度は空芯の8φセラミックパイプとして、中に樹脂材を充填……。という具合だが、ズバリ音の変化を尋ねたところ狙いは明快だ。
「6φのガラスエポを基準とすれば、8φのガラスエポは太くて堂々としっかりした音質に」。まあ当然な気がするのだが、「同じ8φの棒でも、硬くて重いセラミックだと、これは反応が速くてウエイトの乗った音。高密度かつレンジも広く、キレが良くてハイファイ調だった」そうだ。「でもセラミック臭いというか、ヴォーカルのリバーブ感などにシーシーいう特有の響きがのるんですよ」。「じゃあ中空にして中をダンピングしたらどうか。樹脂の充填材は樹脂臭いというか(笑)、ふくよかさはあるけど、ねちっとした質感が気になりました」。
最後に辿り着いたのが、「8φのセラミックパイプ+川砂+樹脂充填」だったそうだ。「これはざっくりした質感、ワイドレンジかつ密度感もあるニュートラルな表現力が得られました」。古いウエスタンのトランスの充填材などにヒントを得た結果である。まさに温故知新。のちに「G-1000」プリアンプや「GE-10」フォノアンプにも搭載されていく。
■立体的なユニット構造で、信号経路を最短で接続
第2テーマの電解コンデンサーは、Kaguraお得意のモジュール化技術とともに紹介しよう。Kaguraのシャーシ高は、Gakuon2のざっと2.5倍もある。いったい何がつまっているのか。その理由のひとつが、Kaguraで本格的に採用した立体的なユニット構造だ。
廣川氏が二つ(電圧増幅部と出力管部)のユニットを並べて、Kaguraの前にセット。こうするとタマの配置と、独自のピン立て基板を持つモジュール構造が一目瞭然である。なるほど右から初段、ドライバー段、カソードフォロア段が並び、その直下にはそれぞれのシグナルループを構成するためのデカップリングコンデンサ群(約500μF)を3系統搭載。
シグナルループとは、各信号段でその通る経路を最短にループ化すること。各ループがそこで完結するために、極めて高速で動いて他との干渉もない高度な実装技術なのだ。「Kaguraの設計では、基本的にアースラインには信号を流しません」。ループが完結してからアースに落とすのである。
難しくなってしまったが、普通に平置きで平面にはわせると、ケーブルとシャーシ間でキャパシターが発生。高音域が伸びなくなってしまうのだ。
最後のキメは、Kagura専用の特注オイルコンデンサーだろう。211は1000V近い電圧のため、性能の劣る電解コンの2階建てではなく、高耐圧1000V/47μFのオイルコンデンサーを搭載。これが4基のブロック型で、両手でひとかかえありそうなシロモノだ。ヒーター回路やチョークを含む大規模な電源回路を形成している。
今回はコンデンサーや構造について解説した。次回はKagura2の性能を支える上で重要な電源部について探ってみよう。
(提供:オーディオ・ノート)
この記事は『季刊・analog vol70』からの転載です。
今回はいよいよ第2章。今一度、大型直熱管211のパラレル・シングル構成とした意味やそのルーツを思い起こしながら核心部に迫りたい。
■送信管「211」の音を全世界にアピールすべく誕生
オーディオ・ノートのデビュー作は創業当初に開発され、イギリスのアワードを受賞した「Ongaku(1989年)」である。現社長の芦澤雅基氏は当時をこう振り返る。「2013年に発売されたKaguraは、ある意味Ongakuの進化形です」。
Ongakuは211のシングルステレオだが、そこから発展したGakuon2(パラシングルのモノラルパワー)が、Kaguraのベースとなっているのは連載第1回のとおり。美しい銅シャーシとそそり立つガラスのツインタワー。そして本体の3/4を占める強大な電源ブロックが、Kaguraアンプの象徴だろう。
ここでチーフエンジニアの廣川嘉行氏が、回路基板の現物などを見せながら、Kaguraに相応しい “音楽の神が宿る音” をどう実現させていったのか、サウンドのねらいなど含め詳細に解説してくれた。
初代KaguraはGakuon2の増幅部を踏襲しつつも、MT管の構成やパーツも大幅にグレードアップしている。「竹を割ったようなとも評される211のスカッとした音。ヌケがよく彫刻的な音の特徴を生かしながらも、211らしさを少し抑えてふくよかさや深みをもたせたい」。廣川氏の持論である、ハイエンドに相応しい堂々とした王様的な風格だ。力みのない自然体ということだろう。
そのため設計手順の第一歩として、初段に低μ管の「12AU7」を。また2段目と211を駆動するドライバー段には、双三極GT管の「6SN7」を使うことに決めたそうだ。211は選別されたゴールデンドラゴン製だ。
■自社製の銀箔コンデンサーは巻き芯にも試行錯誤
ではパーツへのこだわりはどうか。パワーアンプにとって音質を決定づける生命線は、カップリングコンデンサーと出力トランスだという。
「弊社ではカップリングコンデンサーには伝統的に自社製銀箔コンデンサーを使っています」。カップリングとは “結合” である。2段目とドライバー段のみ “直結” ではないコンデンサー結合を採用。音楽信号が通過するキーパーツであり、Kaguraでは得意の銀箔コンデンサーにさらなる改良を求め、そこまでやるかという試聴実験を敢行した。
棒状の巻き芯棒に、銀箔とフィルムを巻きつけていく。実はその棒で音が激変するのだ。ポイントはその太さ(直径)と素材である。従来品は6φのガラスエポキシだが、まずその口径を8φへ太くする。8φのままセラミック棒に変え、今度は空芯の8φセラミックパイプとして、中に樹脂材を充填……。という具合だが、ズバリ音の変化を尋ねたところ狙いは明快だ。
「6φのガラスエポを基準とすれば、8φのガラスエポは太くて堂々としっかりした音質に」。まあ当然な気がするのだが、「同じ8φの棒でも、硬くて重いセラミックだと、これは反応が速くてウエイトの乗った音。高密度かつレンジも広く、キレが良くてハイファイ調だった」そうだ。「でもセラミック臭いというか、ヴォーカルのリバーブ感などにシーシーいう特有の響きがのるんですよ」。「じゃあ中空にして中をダンピングしたらどうか。樹脂の充填材は樹脂臭いというか(笑)、ふくよかさはあるけど、ねちっとした質感が気になりました」。
最後に辿り着いたのが、「8φのセラミックパイプ+川砂+樹脂充填」だったそうだ。「これはざっくりした質感、ワイドレンジかつ密度感もあるニュートラルな表現力が得られました」。古いウエスタンのトランスの充填材などにヒントを得た結果である。まさに温故知新。のちに「G-1000」プリアンプや「GE-10」フォノアンプにも搭載されていく。
■立体的なユニット構造で、信号経路を最短で接続
第2テーマの電解コンデンサーは、Kaguraお得意のモジュール化技術とともに紹介しよう。Kaguraのシャーシ高は、Gakuon2のざっと2.5倍もある。いったい何がつまっているのか。その理由のひとつが、Kaguraで本格的に採用した立体的なユニット構造だ。
廣川氏が二つ(電圧増幅部と出力管部)のユニットを並べて、Kaguraの前にセット。こうするとタマの配置と、独自のピン立て基板を持つモジュール構造が一目瞭然である。なるほど右から初段、ドライバー段、カソードフォロア段が並び、その直下にはそれぞれのシグナルループを構成するためのデカップリングコンデンサ群(約500μF)を3系統搭載。
シグナルループとは、各信号段でその通る経路を最短にループ化すること。各ループがそこで完結するために、極めて高速で動いて他との干渉もない高度な実装技術なのだ。「Kaguraの設計では、基本的にアースラインには信号を流しません」。ループが完結してからアースに落とすのである。
難しくなってしまったが、普通に平置きで平面にはわせると、ケーブルとシャーシ間でキャパシターが発生。高音域が伸びなくなってしまうのだ。
最後のキメは、Kagura専用の特注オイルコンデンサーだろう。211は1000V近い電圧のため、性能の劣る電解コンの2階建てではなく、高耐圧1000V/47μFのオイルコンデンサーを搭載。これが4基のブロック型で、両手でひとかかえありそうなシロモノだ。ヒーター回路やチョークを含む大規模な電源回路を形成している。
今回はコンデンサーや構造について解説した。次回はKagura2の性能を支える上で重要な電源部について探ってみよう。
(提供:オーディオ・ノート)
この記事は『季刊・analog vol70』からの転載です。