Dolby Atmosイネーブルドスピーカーが生む立体感
デノン「DHT-S517」なら“高さ”もリアル。3.1.2chサウンドバーが令和のおうち時間にオススメ
■リアルな高さ感を再現、話題の「空間オーディオ」も楽しめる
まずはここまででも取り上げてきた、テレビ単体でのNetflixの再生を試してみよう。テレビのARC対応HDMI端子と接続すると、難なく本機からドルビーアトモス音声が再生できた。前面のLEDが青く点灯するので、設定などに誤りがあればすぐに気づけるのも嬉しい。
余談だが、ARC対応HDMI端子と接続しているときは、配信サービスやBlu-rayだけでなく、地デジやBSなどのテレビ番組からゲームまで、再生中の音声フォーマットが前面のLEDで確認できる。難しい操作などもなく文字通り一目で分かるようになっているので、家族みんなで使うことを考えると、非常に有用な機能である。
サウンドパフォーマンスは、Netflixオリジナルの人気ドラマ『イカゲーム』のアトモス版で確認。映像は映画作品ほど作り込まれた感はないものの、音声は立派にイマーシブだ。「第1ゲーム:ムクゲの花が咲きました」は、屋外の広がり感に加え、アナウンスが天井方向から効果的に聞こえ、さながら「天の声」のように、底知れぬ恐怖感を印象付ける。スマホのスピーカーやイヤホンはもちろん、テレビのスピーカーや2chのサウンドバーでは感じられなかった雰囲気である。
特に本機の場合、リアルにDolby Atmosイネーブルドスピーカーを搭載しているのも、こうした効果の差に表れているのだろう。バーチャル方式とは異なり、上向きのスピーカーから実際に音が放たれ、天井から反射した音を聞くので、やはり高さ方向の表現はワイドでリアル。
また完全なバーチャル再生の場合、原理上、立体効果が得られるスポットがサウンドバー正面の中央線上付近に限られるが、本機の場合はそうした制約が少なく、家族が複数人で並んで鑑賞するような際にも、ムラなく全員に立体サウンドを届けてくれる。
また、本機は、「Apple TV 4K」などを利用してApple Musicの空間オーディオ作品を再生することも可能。広がり感に加え、高解像度でクリアなトーンが印象的。例えば金管楽器は華やかさが美しく、ボーカルの明瞭さも好感が持てる。
こうした効果には、センタースピーカーを備え、また、サブウーファー分離構造も寄与していることだろう。サブウーファーはコンパクトながら、パワフルかつ質感表現も得意で、音楽もナチュラルな厚みを感じられるのは心地良い。
映画やドラマの場合は画面の前で視聴することが多いが、音楽鑑賞の場合は、テレビの真正面にいないケースも多々ある。昨今の音楽のイマーシブ化も考えれば、リアルな「Dolby Atmosイネーブルドスピーカー」を備えた本機は、映画だけでなく音楽を楽しむにもうってつけで、今、注目すべき理由とも言える。
ちなみに、S517でApple Musicの空間オーディオを試聴したい場合は、Apple TV 4Kや「Fire TV Cube」をS517のHDMI入力端子に接続する必要がある。「Fire TV Stick」を使用した場合や、テレビのHDMI端子に接続した場合は再生できないので注意していただきたい。
さあ、このあたりで少し詳しい読者からは、「天井スピーカーが “真のイマーシブ” であって、イネーブルドスピーカーは簡易式では…」という声が聞こえてきそうだ。確かにそうなのだが、ドルビーのホワイトペーパー(エンジニア向けの技術説明書)には、一般家庭の天井高、約2.4m以下の場合、天井に設置したスピーカーは視聴者に近すぎて存在が分かってしまいやすく、反射によって適度に拡散するDolby Atmosイネーブルドスピーカーの有用性を明記している。つまり、一般的な家庭環境ならイネーブルドがお勧め、ということだ。
追加のアドバイスをすると、Dolby Atmosイネーブルドスピーカーから放たれた音は、天井を反射してから届くことで、より高い立体感が得られる仕組みだ。なので例えば、本機を低いテレビラックの上に乗せているなど、リスニングポイントが近すぎてDolby Atmosイネーブルドスピーカーが丸見えになる状態では、反射するより先に直接音が耳に届いてしまい、あまり立体感を感じられない。
このような場合は、ソファなどに座ってリスニング位置を低くしたり、視聴距離を長くすると良い。部屋の構造などでそれが難しい場合は、本機のようなイネーブルド搭載モデルではなく、 “あえて” バーチャル方式の製品を選ぶのも手だ。
サウンドクオリティーは老舗オーディオブランド・デノンの名に相応しいもので、サブウーファーも付属し、映画も音楽も臨場感たっぷりに楽しめた。Dolby Atmosイネーブルドスピーカーによる高さ方向の立体感は、音に包み込まれる楽しさに加え、セリフやボーカルの分離を高め、有機的で躍動感が高まる効果もある。
テレビを中心とした配信型シアターでイマーシブサウンドを堪能するなら、本機は注目に値する製品と言えるだろう。
(協力:D&Mホールディングス)