<連載>角田郁雄のオーディオSUPREME
EMTのフォノイコライザー「EMT128」を聴く。独創的な回路デザインと真空管ならではの豊潤な倍音が魅力
■粒立ちの良い滑らかな美音が特徴。クリスタルのようなピアノ・ソロの余韻も魅力
試聴ではまず、長年使用している慣性力が高くS/Nも良好なヤマハの「GT-2000L」を使用し、アキュフェーズのプリアンプ「C-3900」とA級パワーアンプ「A-75」の組み合わせによりB&W「802 D3」をドライブしました。このシステムは、S/Nや歪み率などの諸特性に優れ、B&Wも高解像度であるため、レファレンスとして頼りにしています。
EMTのカートリッジとしては、愛用の「JSD Pure Black」を使用しました。これは75周年記念モデル「JSD-S75」をアップグレードしたモデルで、特徴はホワイト・サファイア・カンチレバーを採用し、針先にはMR(マルチラディアス)ダイヤモンド形状針先を使用していることです。さらに筐体強化を図り、伝統の内部インピーダンス24Ω、1mVの高出力を発生する強力な磁気回路も搭載しています。標準のゲインは64dBです。
感激したことは、極めて情報量が多く、心に浸透するかのような、透明度が高く粒立ちの良い滑らかな美音が聴けたことです。この美しい音や豊かな倍音には、クラシックやヴォーカル愛好家は、惚れ惚れとすることでしょう。例えば、ピアノ・ソロの余韻もクリスタルのように美しいです。ヴァイオリンやチェロのソロ演奏では、弦楽の響きが艶やかになり、胴の響きに、滑らかさが加わります。奥行きの深い立体空間も魅力的です。
熱狂のジャズも再生しましたが、トランペットやサックスなどの金管楽器も滑らかな質感となり、サックスでは木管楽器の質感を鮮明に描き出します。今まで硬さを感じたシンバルにも清涼感のある美音が加わり、ベースはタイトかつ極太で弾力感があります。ドラムスでは、音像が浮き上がり、強い連打の一音一音を鮮明にしました。解像度とダイナミックレンジ特性にも優れ、音溝のどこを擦っているのであろうか、と思うほど情報量が多く、スクラッチノイズも驚くほど少ないです。これは、EMT128の真空管回路とサファイアカンチレバーを使用したJSD Pure Blackの効果と思われます。
■バーグマンのアナログプレーヤーと組み合わせ。エッセンシャルな弱音を美しく再現する
次に2Fのシステムに移動して聴いてみました。こちらでは、プレーヤーとして、デンマークのバーグマン「Magne」(エア・ポンプでプラッターを浮かせ、リニアトラッキングアームもエアで移動)とマイソニックのMCカートリッジ「Signature Platinum」を組み合わせたシステムで試聴しました。
プリアンプは、Ayre「KX-R Twenty」、パワーアンプは同社の「MX-R Twenty」で、Vivid Audioの「GIYA G3-S2」をドライブしました。なお、このカートリッジは、内部コイル・インピーダンスが1.4Ωで、0.5mV出力であるため、ゲインを70dBに変更しようかと思いましたが、まったく問題がなかったので標準64dBで使用しました。
実際に再生して感じたことは、愛用の半導体イコライザーでは、スキッとした透明度の高いワイドレンジな音が特徴ですが、EMT128を使用すると、真空管により豊潤な倍音が重畳されたことです。高域は伸びていますが、滑らかな質感で、中低域に量感があります。しかもカートリッジの強力な磁気回路による低インピーダンスと高出力特性が活かされ、音の立ち上がりが俊敏です。EMT128の回路が発揮され、音の鮮度が高くハイスピードであることも理解できますし、音楽でエッセンシャルな弱音を美しく再現してくれます。
別途で、新しいTONDOSEシリーズのカートリッジ「TSD SFL」を使用しましたが、EMT伝統の彫り深いサウンドが聴け、以前にも増して高解像度ワイドレンジ化された印象を受けました。また「JSD VM」も使用しましたが、3つの音質調整用インサートにより、音に柔らかみが加わったり、クリアでナチュラルになったり、音の輪郭が明瞭で立ち上がりが俊敏になったり、という変化が体験できました。
このように、EMT128は独創的な回路デザインと音質を実現していることに個人的にも注目しますし、好印象でした。往年のEMT愛好家をはじめ、多くのアナログファンに、EMT128のデザイン、操作感、音質を体験して欲しいと思うところです。