【特別企画】第3世代に進化したホーンシステム
芸術品の域に達したアヴァンギャルド「TRIO G3」。30年にわたるホーンドライバーの進化を集結
ドイツのハイエンドスピーカーメーカーであるavantgarde(アヴァンギャルド)のフラグシップモデルが、G3(第3世代)にバージョンアップし、登場した。特徴的なホーン3基は、G3モデルのために新規設計されたもの。これまでBASSHORNと名づけられていたサブウーファー部も改良が加えられ、SpaceHornと名称が変更されている。本機の進化を探ってみよう。
静寂深まる空間。今日は、まだ誰も訪れていない大聖堂、あるいは伝統的な音楽ホールに一人で訪ねているかのようだ。しばしそこに身を委ねていると、やがて奏者たちによる重厚極まる旋律が鳴り響く。その響きと私を包み込む風には、楽曲のテーマとは異なるある種の怖さのような感覚を憶え、思わず息を呑んでしまった。胸を突き刺すが如く、打楽器が鳴り響き、金管楽器は眩い重厚な響きを示す。トゥッティのようなフォルテッシモでは、大地を揺るがすかの如くの、ドラマティックな演奏を展開した。
この体験は、ワーグナーの『神々の黄昏 第3幕「ジークフリートの葬送行進曲」』を奏でてくれたアヴァンギャルド最新の第3世代スピーカーシステム「TRIO G3」で得られた。その姿には、確かにオールホーンという形式があるが、私にはそれをも超えるイメージが浮かび上がってしまう。
それは、オーディオの域を超えた「バウハウスの芸術」を彷彿とさせる、現代アートの佇まいだ。一気に音の風を噴出し、トランスペアレンス極まるホーンドライバー。しかしフォルテッシモだけに優位性があるのではなく、静けさに浮かび上がる、どんな微細な音までも引き出し、そのデリケートな音の質感を決して失うことはない。
最近気に入っているトルド・グスタフセン・トリオの『オープニング』を聴いた。絶妙なシンバルの響きは、あらためて一色(ひといろ)の音ではないことを教えてくれた。響きの異なるシンバルをいくつも並べ、ドラムスとともに、奏法により、時には繊細な幻想的とも言える響きを醸し出し、美しく明瞭度の高いピアノと木質感極めるベースとのコントラストにより、美音のテクスチャーを創造してくれる。
ディスクを替え、女性ヴォーカルを再生すれば、手で触れられそうな演奏の実在を感じる。時勢を超えた名演奏、名録音のアルバムを再生すると、そこにオーディオ機器の存在は消えてしまい、ひたすらに音楽に没頭させてくれ、心に浸透する音楽を奏でてくれる。
アバンギャルドTRIO G3と壮大なSpaceHorn。そこには、同社による卓越した技術が存在する。その主な技術を紹介しよう。まず同社には、6つの開発ポリシーがある。
HDR Extreme—躍動と息吹を感じる自然なダイナミズムのために
Nano Tone—小音量であっても、繊細な音を奏でる
Time Perfect—正確なタイム・アライメント
True Space—正確な音場表現力
Custom Fit—部屋と音の完全一致
Natural Plus—人工的な音の排除
この6要素を基軸として今回のG3では、好評を博したXDシリーズの後継モデルとして、さらなるエクセレンスの再発明を実現。その特徴は、新世代のエボリューション・ドライバーだ。より広いダイナミクスとピュアなサウンドを実現した。なかでも、新開発ロングスロー・ホーンと広帯域スーパートゥイーターによる革新的なXT3ユニットにより、記録的な低歪みを実現した。
さらに、全てのドライバーの音源点をリニアフェーズ化し、圧倒的な広がりと深みを実現した。ネットワーク回路においては、卓越したスペックと驚くほどの繊細なサウンドを実現した独自の新型スーパーキャパシター「Nature Cap」を搭載している。
誰もが驚愕するであろうことは、特許取得のiTRON電流アクティブエンジンをオプションで搭載できることだ。後述のアクティブ電流アンプにより、振動板を高次元でダイレクトにコントロールし、極めて反応の良い、卓越したサウンドを実現した。
ホーンドライバーに関しては少し具体的に触れておこう。スーパートゥイーターXT3は史上最速を実現。振動板はドームから環状振動板へと進化し、これによりスフェリカルホーンの直径は200mmに拡張され、長さも176mmに延長された。さらなる低歪み特性を実現し、より高い能率とピュアな音質を身につけた。
同社は、人の聴感で最も大切な中域を重視してきたが、最新のミッドレンジドライバーXM3では、一般的なコンプレッションドライバーとは異なり、振動板とホーンスロート部の口径をほぼ同じにした特殊なディスパージョン形状を採用している。
瞬間的な高い音圧ではなく、中域の透明度を高め、開放的な音色を特徴とする。独自のオメガ・ボイスコイルとストロンチウム・フェライト磁石により、驚異の27Ωを実現し、駆動しやすく低歪みで正確なレスポンスを実現。ホーンは570mmで、球面ドーム振動板により位相特性に優れ、低歪みを実現するためにAir Gateフィルター技術を採用。109dBの能率を実現する。
バスドライバーXL3は、ホーンで超高速再生が難しい、人の声、サックス、ヴァイオリンなどの基音となる100-600Hzを朗々と再生する。ホーンは、直径950mm、長さ650mm、ホーンネック開口部100mmの美しい大口径。製作には重さ8トンを超える鋼鉄製金型が必要で、2500トンの圧力を要す。しかも高精度で均一な製造品質をキープする。109dB/100Hzの驚異の能率を誇る。
並外れたエンジン(磁気回路)にはアルニコ磁石を採用。ボイスコイルボビンの内側にもインナーコア磁石を配置し、ピュアで爆発的なサウンドを実現。トリプル・レイヤー・コンパウンド振動板、AirGateフィルター、スフェリック・ドーム・アーキテクチャーなど30年にわたる技術を集結した。
オプションのiTRONは、一般的な電圧増幅アンプによる駆動特徴の概念を遥かに超えた電流アンプ。iTRONを追加すると、外部パワーアンプを必要とせず、プリアンプからのXLR入力でTRIO G3を駆動することができる。オプションの切り替えスイッチモジュールで、iTRONと外部パワーアンプの切り替えも可能だ。
振動板の動きを直接制御するiTRONの効果は絶大だ。広いダイナミクス、小音量でも空気感溢れる解像度、伸びやかな高域、正確な時間軸、驚異的な立体空間、よりピュアな音質に貢献している。
最後に低域用のスペース・ホーンを紹介しよう。従来から1インチ拡大された6インチボイスコイルのXB12バスドライバーを1基搭載したモデルと、2基搭載したモデルがある。これを2段重ねにするなど、多様な組み合わせ、設置方法ができる。音の印象は冒頭のとおりだ。
このように同社は、30年にわたりホーンドライバーを進化させ、驚愕のシステムを完成させた。そこには、ドイツの歴史に根づいた音楽があり、それを臨場感に溢れた音で再現しようとする、弛まぬ研究開発と実践とが見てとれる。その音質、技術、デザインは、まさに芸術品の域と言えるだろう。
取材photo by 君嶋寛慶
(提供:エソテリック)
本記事は『季刊・オーディオアクセサリー vol.186』からの転載です。
デリケートな音の質感を引き出すアヴァンギャルドの佇まい
静寂深まる空間。今日は、まだ誰も訪れていない大聖堂、あるいは伝統的な音楽ホールに一人で訪ねているかのようだ。しばしそこに身を委ねていると、やがて奏者たちによる重厚極まる旋律が鳴り響く。その響きと私を包み込む風には、楽曲のテーマとは異なるある種の怖さのような感覚を憶え、思わず息を呑んでしまった。胸を突き刺すが如く、打楽器が鳴り響き、金管楽器は眩い重厚な響きを示す。トゥッティのようなフォルテッシモでは、大地を揺るがすかの如くの、ドラマティックな演奏を展開した。
この体験は、ワーグナーの『神々の黄昏 第3幕「ジークフリートの葬送行進曲」』を奏でてくれたアヴァンギャルド最新の第3世代スピーカーシステム「TRIO G3」で得られた。その姿には、確かにオールホーンという形式があるが、私にはそれをも超えるイメージが浮かび上がってしまう。
それは、オーディオの域を超えた「バウハウスの芸術」を彷彿とさせる、現代アートの佇まいだ。一気に音の風を噴出し、トランスペアレンス極まるホーンドライバー。しかしフォルテッシモだけに優位性があるのではなく、静けさに浮かび上がる、どんな微細な音までも引き出し、そのデリケートな音の質感を決して失うことはない。
最近気に入っているトルド・グスタフセン・トリオの『オープニング』を聴いた。絶妙なシンバルの響きは、あらためて一色(ひといろ)の音ではないことを教えてくれた。響きの異なるシンバルをいくつも並べ、ドラムスとともに、奏法により、時には繊細な幻想的とも言える響きを醸し出し、美しく明瞭度の高いピアノと木質感極めるベースとのコントラストにより、美音のテクスチャーを創造してくれる。
ディスクを替え、女性ヴォーカルを再生すれば、手で触れられそうな演奏の実在を感じる。時勢を超えた名演奏、名録音のアルバムを再生すると、そこにオーディオ機器の存在は消えてしまい、ひたすらに音楽に没頭させてくれ、心に浸透する音楽を奏でてくれる。
開発ポリシーに忠実に、卓越した技術をホーンスピーカーに投入
アバンギャルドTRIO G3と壮大なSpaceHorn。そこには、同社による卓越した技術が存在する。その主な技術を紹介しよう。まず同社には、6つの開発ポリシーがある。
HDR Extreme—躍動と息吹を感じる自然なダイナミズムのために
Nano Tone—小音量であっても、繊細な音を奏でる
Time Perfect—正確なタイム・アライメント
True Space—正確な音場表現力
Custom Fit—部屋と音の完全一致
Natural Plus—人工的な音の排除
この6要素を基軸として今回のG3では、好評を博したXDシリーズの後継モデルとして、さらなるエクセレンスの再発明を実現。その特徴は、新世代のエボリューション・ドライバーだ。より広いダイナミクスとピュアなサウンドを実現した。なかでも、新開発ロングスロー・ホーンと広帯域スーパートゥイーターによる革新的なXT3ユニットにより、記録的な低歪みを実現した。
さらに、全てのドライバーの音源点をリニアフェーズ化し、圧倒的な広がりと深みを実現した。ネットワーク回路においては、卓越したスペックと驚くほどの繊細なサウンドを実現した独自の新型スーパーキャパシター「Nature Cap」を搭載している。
誰もが驚愕するであろうことは、特許取得のiTRON電流アクティブエンジンをオプションで搭載できることだ。後述のアクティブ電流アンプにより、振動板を高次元でダイレクトにコントロールし、極めて反応の良い、卓越したサウンドを実現した。
30年にわたるホーン技術を集結、全ドライバーを刷新
ホーンドライバーに関しては少し具体的に触れておこう。スーパートゥイーターXT3は史上最速を実現。振動板はドームから環状振動板へと進化し、これによりスフェリカルホーンの直径は200mmに拡張され、長さも176mmに延長された。さらなる低歪み特性を実現し、より高い能率とピュアな音質を身につけた。
同社は、人の聴感で最も大切な中域を重視してきたが、最新のミッドレンジドライバーXM3では、一般的なコンプレッションドライバーとは異なり、振動板とホーンスロート部の口径をほぼ同じにした特殊なディスパージョン形状を採用している。
瞬間的な高い音圧ではなく、中域の透明度を高め、開放的な音色を特徴とする。独自のオメガ・ボイスコイルとストロンチウム・フェライト磁石により、驚異の27Ωを実現し、駆動しやすく低歪みで正確なレスポンスを実現。ホーンは570mmで、球面ドーム振動板により位相特性に優れ、低歪みを実現するためにAir Gateフィルター技術を採用。109dBの能率を実現する。
バスドライバーXL3は、ホーンで超高速再生が難しい、人の声、サックス、ヴァイオリンなどの基音となる100-600Hzを朗々と再生する。ホーンは、直径950mm、長さ650mm、ホーンネック開口部100mmの美しい大口径。製作には重さ8トンを超える鋼鉄製金型が必要で、2500トンの圧力を要す。しかも高精度で均一な製造品質をキープする。109dB/100Hzの驚異の能率を誇る。
並外れたエンジン(磁気回路)にはアルニコ磁石を採用。ボイスコイルボビンの内側にもインナーコア磁石を配置し、ピュアで爆発的なサウンドを実現。トリプル・レイヤー・コンパウンド振動板、AirGateフィルター、スフェリック・ドーム・アーキテクチャーなど30年にわたる技術を集結した。
ドライバーを正確に駆動するアンプiTRONも魅力
オプションのiTRONは、一般的な電圧増幅アンプによる駆動特徴の概念を遥かに超えた電流アンプ。iTRONを追加すると、外部パワーアンプを必要とせず、プリアンプからのXLR入力でTRIO G3を駆動することができる。オプションの切り替えスイッチモジュールで、iTRONと外部パワーアンプの切り替えも可能だ。
振動板の動きを直接制御するiTRONの効果は絶大だ。広いダイナミクス、小音量でも空気感溢れる解像度、伸びやかな高域、正確な時間軸、驚異的な立体空間、よりピュアな音質に貢献している。
マグネットも強化した低域用SpaceHorn。シングルドライバーモデルも追加
最後に低域用のスペース・ホーンを紹介しよう。従来から1インチ拡大された6インチボイスコイルのXB12バスドライバーを1基搭載したモデルと、2基搭載したモデルがある。これを2段重ねにするなど、多様な組み合わせ、設置方法ができる。音の印象は冒頭のとおりだ。
このように同社は、30年にわたりホーンドライバーを進化させ、驚愕のシステムを完成させた。そこには、ドイツの歴史に根づいた音楽があり、それを臨場感に溢れた音で再現しようとする、弛まぬ研究開発と実践とが見てとれる。その音質、技術、デザインは、まさに芸術品の域と言えるだろう。
取材photo by 君嶋寛慶
(提供:エソテリック)
本記事は『季刊・オーディオアクセサリー vol.186』からの転載です。