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<連載>角田郁雄のオーディオSUPREME

アキュフェーズの最新プレーヤー&パワーアンプを自宅に導入。アナログ録音時代の名盤から新たな感動が得られる

公開日 2024/01/31 06:30 角田郁雄
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アキュフェーズの音質技術のキーワードは「並列駆動」



今年最初の「オーディオSUPREME」は、ACCUPHASE(アキュフェーズ)の新製品についての話です。私は、長く同社の製品をリファレンスとしていますが、今回はSACDプレーヤーを「DP-750」から「DP-770」へ、A級ステレオパワーアンプを「A-75」から「A-80」へ刷新しました。長年使用しているだけに、技術進化と音質変化には目を見張るものがあります。

角田氏の1Fリスニングルームに、パワーアンプ「A-80」が新規導入された

読者の皆さんも、同社製品には関心があることと思います。もちろん、愛用者も多いでしょう。しかし、SACDプレーヤーやパワーアンプなどのカタログを開くと、独自技術のことがぎっしり詰まっていて、何が同社の伝統技術なのか、分かりにくいかもしれません。しかし、よく読むと一つの共通するワードに気づくはずです。

それは、「並列駆動」という言葉です。同じ増幅回路、同じDAC素子などを並列駆動すると、S/N、歪み率などの諸特性が向上します。例えば、A-80の信号入力部や電力増幅段には、増幅回路を2並列に使用しています。MCS+回路と言いますね。

A-80の電力増幅段。素子を並列駆動することで特性を向上させている

プリアンプ等に使用されるボリューム・コントロール「AAVA」も、並列駆動して諸特性を向上させています。このAAVAにも触れておきましょう。これは、抵抗体を擦る軸摺動型(アナログボリュームと呼ばれる)や抵抗を複数並べて切り替える電子ボリューム(抵抗ラダー型とも呼ばれる)ではありません。

実は、これは「音量を調整する可変利得アンプ」なのです。特徴としては、小音量でも左右連動誤差(ギャングエラー)がなく、高S/Nで周波数特性に優れ、高精度です。左右バランスやアッテネータにも正確に機能します。従来のアナログボリュームと操作感も変わりません。これが特徴です。

SACDプレーヤーではDAC素子の並列駆動です。現在は、ESSですね。内部の8式のDACを並列駆動して、DA変換のリニアリティー(直線性)、歪み特性、ダイナミックレンジを向上させています。「DC-1000」では左右に各2式使用しています。

DAコンバーター「DC-1000」のDA基板

このように、増幅回路やDAC素子などを並列駆動させ、諸特性を向上することが、同社の代表的な伝統技術なのです。最終的には、内部回路の構成、パーツの選択、電源部などをブラッシュアップし、試聴を重ね、理想の音質を実現するわけです。

ドライブメカの振動対策をさらに強化。「DP-770」の搭載技術を詳解



さて、SACDプレーヤー「DP-770」に関して説明しましょう。外観は、美しいシャンパンゴールドのアルミフロントパネルとウッドカバーが特徴です。ディスプレイには再生データ音源のサンプリングレートとビット深度が表示されます。

ACCUPHASE SACD/CDプレーヤー「DP-770」(1,507,000円/税込)

その内部を見ると、中央に重厚なSACD/CDドライブメカが配置され、8mm厚の筐体底板に設置されます。その取り付け部には彫り込みがあり、メカの低重心化を図っています。そのメカ本体は、15mm厚のアルミ・メカニカル・ベースで支えられ、四隅に弾性ダンパーを使用するポールがトラバースメカを支える仕組みです。

DP-770の内部構造。中央にディスクトレイを配置、基板も美しくレイアウトされている

トラバースメカは、信号読み取り用対物レンズ・アクチュエーター、小口径のモーター駆動のディスクターンテーブルなどが搭載され、微細振動や回転による風の影響を受けないようにする必要があります。そこで今回は、新規の弾性ダンパーを採用しました。

DP-770に搭載されるトラバースメカ。振動対策のダンパーも新規開発されている

このメカをカバーするブリッジは、最大17.5mm厚のアルミ精密切削製(1.7kg)で、メカニカルベースに8個の六角ボルトで固定されます。その中央にはディスクを最適に抑えるチャッキング機構を搭載。トレーもアルミ切削製で両側にデュアル・ステー・ベアリングシャフトも使用。これらの技術より、振動や動作音を徹底して排除し高精度読み取りを実現しています。

ピックアップ上部を覆うブリッジもゴールドに仕上げられている

また、筐体底板には独自の鋳鉄製インシュレーターも使用しています。まさに高精度SACD/CDメカドライブに仕上げられているのです。

この右側には、一枚構成のデジタル制御/DAC部/アナログ部(I/V変換)があります。リアには、USBなどデジタル入力部があり、伝送経路としては、メカドライブからの信号や外部入力信号は、デジタル処理のコアとなるFPGAに伝送されます。このFPFAは、ESSのDACチップ、ES9028Pro(1chあたり1個使用)を制御します。その理由は、このDACには8式のDACを内蔵し、FPGA制御で並列駆動すれば、微小信号のリニアリティー、歪み率、雑音特性が向上できるからです。

ES9028Proを並列駆動するDACアッセンブリ

この技術で知っておきたいことは、DSDとPCMでは変換方式が違うことです。DSD再生では、FPGAが2倍にアップサンプリングした上で、8個のDACのクロックタイミングを1/2クロック遅延させDA変換します。これが「MDSD」です。分かりやすく説明すると、8個のDACがプログラムで4個に分けられ、互い違いに動作し、変換特性向上のみならず、高域雑音低減フィルターの効果も実現します(2倍速移動平均フィルター:最大11.2MHzDSDまでアップサンプリング)。特性としては、DP-750よりも歪み率+ノイズ特性が約20%改善されています。

一方、CD再生やUSB入力によるPCM再生では、256倍のオーバーサンプリング(44.1kHz)で8個のDACはクロック遅延なく並列駆動します。これを「MDS++」と言います。

そのDAC後段のI/V変換は重要で精度が求められます。オペアンプには、音質と高精度特性を両立させるTIの「LME49720」を採用し同社の低ノイズ、低歪み化技術となるANCCも追加しました。3次ローパスフィルターを構成するオペアンプは、日清紡の「NJM2122」です。

高品位なパーツを厳選する後段のI/V変換部

この直近には、DAC専用LR独立電源も配置しました。その理由は、ESSのDACチップには内部にレギュレーター電源がなく、高精度DA変換だけに特化しているからです。そのため、低ノイズで高品位な電源部を外部から供給する必要があります。

DACとI/V変換回路を最短距離にしていることも特徴です。I/V変換後の信号は、ワイヤーで左後部のアナログフィルター(出力段)に伝送されます。その基板は低損失で高速伝送を実現するガラス布フッ素樹脂製(テフロン)です。RCA、バランス出力独立です。

各部に高品位なパーツも採用し、電源部では、アナログとデジタル用トランスを搭載し、左前には、デジタル用とアナログ用を分離したフィルターコンデンサーを配置しています。アナログ用は音質も吟味し15,000μF/25Vの大容量、高音質コンデンサーをカスタムメイドし、直近に低雑音レギュレーター電源も配置します。その結果、S/N 121dB、ダイナミックレンジ119dB、歪み率0.0004%という優れた保証特性(一般的なリスニングルームで実現できる特性)を達成しています。同社内での測定値は、これをも上回るそうです。

大型の電源トランスも搭載

静寂感、解像度がさらに進化。ハイレゾに近い豊かな倍音が聴ける



その音質は、フラグシップモデル「DP-1000」「DC-1000」に次ぐ最新一体型プレーヤーであるため、相当、音質を追求しています。大きな特徴は、静寂感、解像度、空間描写性、倍音再現性の進化と言えます。例えば、いくつかの愛聴盤CDを再生すると、録音場所の空気感をより鮮明にし、奏者をよりリアルに空間描写します。ソロ・ヴォーカル曲だけではなく、オーケストラでも、ヴァイオリンパートやブラスパートの響きを鮮明にします。さらにベールを一枚も二枚も剥いだような演奏の臨場感を実感します。

角田氏の自宅に導入された「DP-770」

さらに感激したことは、44.1kHz/16bitのCDなのに、ハイレゾに近い、豊かな倍音が聴けることです。実に高密度な音質で、CDにもこれだけの情報が入っていたのか、と感激し、CD初期盤をじっくり聴き直しているほどです。

本体自体の音色としては、長くリスニングできるナチュラルトーンを基調とし、どこかの帯域を強調したり、暖色傾向などの固有音もありません。マスター音源に内包する情報をストレートに再現しているように実感しています。SACDも同様で、解像度が高まり、より一層、ワイドレンジでダイナミックレンジの広さを実感しました。キーポイントは、音の透明度ですね。演奏の臨場感を鮮明にし、音楽に深みを感じさせます。まさに搭載技術が、音楽再生に反映しています。

A-300の技術を踏襲したステレオパワーアンプA-80



次にA級ステレオパワーアンプ、A-80について、説明します。これについては、すでにレビューが公開されていますので、改めて概略を説明します。外観は、シャンパンゴールドのフロントパネルにブラック・スクウェア・メーターが伝統の顔です。重厚なヒートシンクも特徴です。

ACCUPHASE ステレオパワーアンプ「A-80」1,540,000円/税込

技術的には、50周年記念モデルのモノラルパワーアンプ「A-300」の技術を継承しています。具体的には、出力が「A-75」よりもA級領域が8%も高出力化され、65W/8Ωとなっています。電力増幅段(出力段)はMOS-FET使用の10パラレル構成で、ダンピングファクターが保証値1000です。しかし、同社の測定では2900に達しています。

ディスクリート構成の信号入力部と電力増幅部のゲイン配分を変更することで、ノイズレベルを7%も向上させています。前者は、12.6倍(22dB)というハイゲインで、後者は2倍(6dB)です。信号入力部のゲインを上げることにより、出力ノイズを大幅に下げることができたわけです。

A-80の内部構造。中央に大型のトランス、手前にフィルターコンデンサー、左右に入力配線、背後に出力配線が配置されている

電力増幅部の電圧増幅段もディスクリート構成で、2並列回路を構成しています。そのほかの注目点は、パワーアンプの電源配線、入出力部の配線の最短化、基板直付けの大型スピーカー端子の採用など、細部にわたり低インピーダンス化が行われ、ダンピングファクターを向上しています。逆起電力を完全に制御するバランスド・リモートセンシングという技術も投入されています。

これらの増幅回路の性能をフルに発揮するのは、電源部です。高効率大型トロイダル・トランスを新開発し、120,000μFのカスタムメイド・フィルターコンデンサーを搭載しています。

スピーカーの存在が消える音の透明度と駆動力の高さ



その音質は、まさにスピーカーの存在が消えてしまうかのような、音の透明度と駆動力の高さです。プリアンプは「C-3900」で、スピーカーはBowers&Wilkinsの「802 D3」ですが、2ヶ月ほどで変化を感じとったことは、低域レスポンス、スピードが高まったことです。

スピーカーケーブルをバイワイヤとすることでさらなる音質向上を実現

壮大なマーラー交響曲などでは、ボトムエンドを撃つような力感を感じます。まさにダンピングファクターの向上が見てとれます。中音域に厚みが増し、高域も拡張し、マイルス・デイヴィスの『コンプリート・ライヴ・アット・ザ・プラグド・ニッケル1965』を再生すると、シンバルとドラムスの響きに圧倒されます。

プリアンプには「C-3900」を引き続き使用

A-80には、リモートセンシング技術も投入されており、逆起電力を吸収します。これに着目し、スピーカーケーブルをバイワイヤーにしました。すると、さらに全体的に音の透明度や解像度が向上し、さらに中低域に厚みのあるピラミッドバランスの音へと変化しました。これらは、ウーファーの逆起電力がネットワーク回路を通じて、トゥイーターやミッドレンジに直接的に回り込まない効果だと思いますし、低インピーダンス増幅回路の効果です。

DP-770もA-80にも伝統の進化した技術と音質があり、精密感も感じています。CDやSACDのアナログ録音時代の名盤を聴き直し、新たな発見や感動をしているところです。

そして最後にもう一つ大切なことは、長く愛用できるよう高品位なデザインで、普段、開けることもないのに、内部を美しくレイアウトしていることです。まさにハイエンドオーディオの佇まいがあるのです。ぜひ、一度、専門店で試聴してみて下さい。

注目の高音質レコードを紹介



最後に、年初に気に入ったLPレコードも紹介しておきます。ECMレーベルから発売になったキース・ジャレットの『ソロ・コンサート -ブレーメン、ローザンヌ』。

キース・ジャレット『ソロ・コンサート -ブレーメン、ローザンヌ』(3枚組LP、450-5325)

キース・ジャレットのソロ活動の原点と言えるアルバムで、今でも高い人気を誇る「ケルン・コンサート」の3年前、1972年に録音されています。当時は、各地で絶賛され、著名な賞も受賞。そのオリジナルマスターを使用し、今年録音50周年を記念して本LP盤が登場しました。「C-47」フォノイコライザーと愛用カートリッジをいくつか変えて、リアルな演奏を堪能しています。

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