リビングオーディオの新たな金字塔
話題のマランツのHDMI搭載ネットワークアンプ「STEREO 70s」、評論家4名でクロスレビュー
いまオーディオ製品で高い注目を集めるジャンルが、HDMI搭載のネットワークアンプだ。その草分けとなるモデル「NR-1200」を発売したマランツから、新世代のデザインを纏った待望機種「STEREO 70s」が登場した。
今回はそのサウンドを徹底検証すべく、弊社リファレンスのBowers & Wilkins「805 D4 Signature」を用いて、4名のオーディオ評論家にHEOSアプリのAmazon Musicから、さまざまなジャンルの音楽を聴いていただき、その魅力に迫った。
《ロック作品をチェック》適度で品の良いメリハリが心地よい(生形三郎)
2023年に新登場した「STEREO 70s」は、マランツが生み出した新ジャンル、HDMIセレクター付きプリメインアンプの最新モデルで、大ヒットした「NR1200」の上位バージョンとなる。
SACD 30nを皮切りに順次採用されている新フロントフェイスを纏い、よりラグジュアリーかつスタイリッシュなデザインを獲得した注目機だ。ここでは、Amazon Music再生機能でロック・ミュージックにスポットを当てて試聴し、そのサウンドの魅力に迫った。スピーカーにはB&W「805 D4 Signature」を使用する。
ニール・ヤングの「Heart of Gold」から再生を始めると、潤いに富んだ歌声が耳に飛び込んできた。生き生きとした精彩感があり、朴訥としたニール・ヤングの抑揚を心地よく再現するのだ。アコースティックギターのコードは、ジャキジャキとした小気味良いストロークで音圧高くこちらへ迫り、適度で品の良いメリハリが心地よい。他の各楽器も程よく大きな音像で聴き手へと歩み寄り、演奏の空気感がよくよく伝わってくる。
レッド・ホット・チリ・ペッパーズ「Black Summer」は、やはり冒頭のコーラス掛かったエレキギターやヴォーカルの潤いが豊かで、美しい光沢感に富んだ音色に魅了される。柔和なブリリアンスがあり、歌声や楽器の存在を明るく照らし出す。楽器同士の分離もよいが、音楽のエネルギーをしっかりと伝えてくれる印象だ。とりわけヴォーカルの実体感や、ブリブリと迫るエレクトリックベースのピッキングが白眉で、値段が一桁違う「805 D4 Signature」を魅力的な音で鳴らす様に驚く。
少し賑やかなファンク・アレンジのベック「Sexx Laws」を再生すると、ぎっしりと様々な音要素が詰め込まれた楽曲が、ギュッと身の詰まった充実感に満ちたサウンドで再現され、圧倒的な楽しさを堪能させる。音圧感が豊かで、重ねられるブラス・セクションの勢いや連なりがしっかりと再現され、ポップで綺羅びやかかつファンシーな世界観が十全に伝わってきて、リスニング空間の空気を一変させる様に驚かされた。続けて再生したブラーの最新作から「The Ballad」でも、明瞭かつリッチな厚みによる、心の通った歌声の存在感がひときわで、左右に展開するコーラスとの分離もよく、密度の高い音楽再現が心地よい。
最後に、内蔵のMM対応フォノ入力を用い、JBL「TT350」でレッチリ「Black Summer」を再生してそのサウンドを確認してみたが、アナログディスクの再生でも、本機の魅力が活かされた、美麗かつメリハリある音を聴くことが出来た。
STEREO 70s一台とスピーカーだけでここまでのサウンドを楽しめてしまうのは、まさに新スタイル・オーディオの完全な確立といってよいだろう。ラグジュアリーかつスタイリッシュなデザインと合わせて、実にスマートなオーディオの楽しみ方を提供する存在なのである。
《ジャズ作品をチェック》オープンで豊かな音楽表現が印象的(林 正儀)
STEREO 70sはこの価格帯のHDMIセレクター付きステレオアンプの中でも、傑出した再生能力をもつ意欲作だ。スリムシリーズ初の「HDAM」搭載の本格的プリアンプに、大容量パワーサプライを有するフルディスクリートのパワーアンプによって、力強くかつ正確にドライブされる。
プリ、パワーともに底上げされ、14.3万円とは思えない力強くクリーンなサウンドは上位クラス譲り。ジャズ、ジャズヴォーカルを中心にAmazon Musicにて試聴してみると、一聴して見通しのよい、オープンで豊かな音楽表現が印象的だ。
まずは高音質音源でおなじみの『Jazz at the Pawnshop』から。S/Nがよく、ライヴのステージ感が生々しい。音色が明るく、ピアノを中心に弾力あるベースとドラムのリズムにキレがあり、ビブラフォンのクールな共鳴音が空間に漂うさまがリアルだ。20年前の録音とは思えない高鮮度なハイファイサウンド。キース・ジャレット・トリオの『枯葉(ECM録音)』もライヴの熱気に満たされた。
ヴォーカルは定番のノラ・ジョーンズとダイアナ・クラールなどを聴いた。「ア・ガット・シー・ユー・アゲン」はちょっと哀愁感があり、ジャズ特有の空気に包まれながらもお洒落でメロディアス。深みのあるサウンドだ。ダイアナ・クラールは、中低音の豊かなリラックスした雰囲気のナチュラルボイスで、ピアノの弾き語りも素晴らしい。レジェンド系はエラ、サラ、カーメンなど王道をいく名作をズラリ聴いたが、古い録音作品はその時代の味わいを存分に堪能することができた。
最後は日本でも人気の高いステイシー・ケント。グラミー賞ノミネート歌手で、大編成のストリングスに包まれながら歌う透明な高音域は魅力である。
STEREO 70sは、こうしたヴォーカルやジャズの表現力を実にうまく引き出してくれる。MODEL 40nで開発したHDMI(ARC)再生のテクノロジーを生かした手頃なHi-Fiステレオアンプと言える。
定格出力は75W+75W(8Ω)。低域から高音域まで全域でのドライブ力は高い。薄型初のHDAM搭載プリアンプと相まって、ローレベルから高出力までリニアかつスムーズにドライブしてくれるのだ。
今回B&Wの805 D4 Signatureという価格帯が不釣り合いなスピーカーさえ鳴らし切った、フルディスクリートパワーアンプの実力は注目してほしい。またリビングでのシアター用途には、サブウーファーの追加(2ch分)で重厚感のある映画作品も楽しめる。インテリアとしても品位のある佇まいで、これはぜひおすすめだ。
《ポップス作品をチェック》音楽にスピードがありカッコ良い(土方久明)
STEREO 70sは、109mmと全高が低いシャーシに、モダンなデザインが目を惹きつける。豊富なアナログ/デジタルの入出力に加えて、音質を追求したHDMIの搭載、さらにHEOSによるネットワーク再生機能にも対応し、1台でシステムが構築できることなど見どころが多い。
アプリは、昨年12月に過去最大のアップデートを実施した。グラフィカル・ユーザー・インターフェース(GUI)を全面刷新し、使い勝手が劇的に上がったことが大きなトピックだ。ホーム画面のデザインも美しくなっている。ここでは、そのHEOSアプリからAmazon Musicを用いて、「現在のポップスへの音質的な対応力」と「アプリの操作性」のクオリティをチェックした。
オリビア・ロドリゴの「ヴァンパイア」を再生すると、イントロのピアノはリバーブに芳醇な空気感がある。サ行の子音が耳につかず、高音域から低音域まで分解能が高く、高速アンプモジュール「HDAM-SA2」を用いた電流帰還型回路の効果を感じた。ソース音源の通りにエレクトリックベースが定位し、ヴォーカルの前後左右の距離感など空間表現にも長けており、音色、音調を正確に音に反映する。
J-PopはYOASOBIの「勇者」から再生した。一聴してヴォーカル、楽器のディテールにキレと立ち上がりの良さを感じる。エレクトリックシンセサイザーの粒子がスピーカーの左右を超えて空間に放出され、かなり音離れも良い。独立した専用基板を持つ良質なプリアンプ部や入力、ボリューム、出力セレクターそれぞれに特化した高性能カスタムデバイスを採用していることが理由の1つだろう。音楽にスピードがありカッコ良く聴こえることに、サウンドマスター尾形好宣氏による巧みなチューニングを感じる。再生画面上にはハイレゾを示す「ULTRA HD」のロゴが表示され、FLACや96kHz/24bitなどのレゾリュションも表示可能なのは嬉しい。
日本のスリーピースバンド、バックナンバーの「冬と春」は、ヴォーカルとギターに中盤から入るドラムスも含め、音像が立体的で音楽的な聴き応えを感じた。エコー成分が少なくオンマイク気味に録音されたヴォーカルは声を張り上げた時の感情がよく表現できている。曲終盤に楽器の数が増えてもそれが団子にならないのは、805 D4 Signatureのトゥイーターとウーファーを同じ速度域で正確にドライブできていることを明示している。特注の6,800μFのカスタム品のブロックコンデンサーを採用した電源部やフルディスクリート構成のパワーアンプ回路がそれに寄与しているはずだ。
試聴中に大きな欠点は見当たらず、HEOSアプリのアップデートにより見やすさや使い勝手などの操作性も大きく上がり、Amazon Musicのほか、NASやUSB外付けハードディスク/メモリからのファイル再生まで、良質な音で楽しめることが嬉しかった。STEREO 70sは近年のネットワークオーディオ再生でトレンドとなる要素を達成したコストパフォーマンス高き1台だ。
《クラシック作品をチェック》奏者の動きや息遣いまで聴き取れる(山之内 正)
HDMI端子付きのステレオアンプが増えるのを待ち望むようになってから何年も経つ。ライヴ・コンサートのブルーレイなど、これがないと良い音で聴けない音源がたくさんあるからだ。他社より少し早く重い腰を上げたのがマランツだ。このSTEREO 70sは6系統のHDMIを積むので、これで足りないということはまずないだろう。もちろんARCも日常的に大活躍。ドラマに思いがけずもの凄い低音が入っているのに気付いたりして、とても楽しい。
スピーカーとネットをつなげばAmazon Musicで次から次に音楽を楽しめる。クラシックの録音も充実しているので、いくら聴き続けても発見が尽きることがない。805 D4 SignatureとSTEREO 70sだけのシンプルだが贅沢なシステムで思いのままに曲を選んでいく。
最初はいつものリファレンス音源。ツィンマーマンとヘルムヒェンが弾くスプリングソナタ(96kHz/24bit)のフレッシュな音が耳を心地よく刺激する。だが、いつもこんなに活き活きと鳴るとは限らない。色付けが濃いアンプやスピーカーだと微妙なニュアンスが隠れてしまい、伸びやかな歌いっぷりや楽器の鳴りの良さなど、一番聴きたかったところの焦点がぼやけてしまう。このシステムにはそれがなく、すぐに音楽に入っていける。
ピリオド演奏が聴きたくなり、ポッジャーの最新録音『バッハ:ゴルトベルク変奏曲リ・イマジンド』を呼び出す。再想像というのは、バッハのテーマと変奏を作曲家本人ならどうアレンジしたか想像しながら編曲したという意味。このアレンジが秀逸で、編成の工夫も天才的な巧みさ。ゴルトベルクのテーマでブランデンブルク協奏曲を聴いているような錯覚に陥るほどで、演奏家たちが楽しみながら弾いている様子が目に浮かぶ。教会の長い残響も演奏の一部になっていて、天井の高さや空気の密度まで体感できるのはアンプとスピーカーが微小な情報を精密に再現しているからだろう。192kHz/24bitのハイレゾ音源ならではの豊富な空間情報をもらさず再生しないと重要なものが失われてしまい、もったいない。
ポッジャーの演奏を聴いているうちにブランデンブルク協奏曲を久々に聴きたくなり、ベルリン古楽アカデミーの録音を聴いた。ファウストやタメスティが参加した豪華なアンサンブルが取り組んだ第3番、呆れるほどテンポが速いのに一体感を失わず、独奏とトゥッティを鮮やかに対比させつつごく自然に両者が溶け合う。この演奏の特別なテンションの高さに引き込まれ、3つの楽章を最後まで一気に聴いた。この音源もハイレゾ配信。空気感だけでなく奏者たちの動きや息遣いまで聴き取れる。
アンサンブルの楽しさを歌でも味わいたくなって選んだキルヒシュラーガーとボニーのデュエットからは、二人の音色の違いとそれが溶け合うことで生まれるハーモニーの暖色系の色合いを堪能することができた。
(提供:株式会社ディーアンドエムホールディングス)
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.192』からの転載です