名盤になった所以をサウンド検証で紐解く
全ての理想を叶えた“新定番”にふさわしいデノンのアナログプレーヤー「DP-3000NE」を徹底レビュー
音の良いレコードを聴くためには、やはりその魅力をしっかりと引き出せるプレーヤーやカートリッジの存在は欠かせない。ここではカートリッジの大定番として君臨するデノン「DL-103」に、アナロググランプリ 2024で「Gold Award」を獲得した“新”定番として名高い「DP-3000NE」によるデノンの組み合わせで、名盤のサウンドをレビューした。
ストリーミングが主流になった現在と異なって、レコードが主流だった頃には“定番”というものがあった。聴き放題など夢のまた夢の時代である。レコードを買うときは慎重を期して名の通っているものを選んだ。名曲を名演奏家が演奏したもので、しかも音が良い。それがレコードの定番、すなわち名盤だった。
オーディオ機器にも定番があった。スマホとイヤフォンで最小限のミュージックシステムが完結する現代と異なって、しっかりとしたコンポーネントを揃えなければ音楽を自分のものにすることはできなかった。だから多くの愛好家は、テッパンの定番コンポを選んだ。とくにデリケートな部分の多いレコードプレーヤーは定番を選択するケースが多かった。
ではレコードがリバイバルした現代にあって定番のレコードプレーヤーというものはあるのか? そもそも定番のレコードプレーヤーとはどんなものか? それは名のあるメーカーが作った、価格がリーズナブルで、信頼性が高く、音が良いものということになるだろう。具体的な製品としてはデノンDP-3000NEが定番と称するに足る製品だと筆者は考える。
内容を見ていこう。本機はダイレクト・ドライブ(以下ⅮⅮ)方式の回転機構をもつレコードプレーヤーである。以前のモデルよりも洗練度は大幅に向上しており、機体の隅々にまで高級感が漂っている。
トーンアームはデノン伝統のS字型/スタティックバランス方式で、本機のために開発された。同社が保有する膨大な設計図を参考にするとともに、すでに退職したOB技術者の助言を仰いで有効長、オーバーハング、オフセット角などを決定したという。
調整幅は広く、レコードを演奏しながら高さ調整をすることが可能だ。カウンターウエイトも親切設計で、通常の状態で16gまで、サブウェイトを追加すれば26gまでのカートリッジを装着することができる。インサイドフォースキャンセラーはマグネット方式なのでアームの軸に対して機械的に接触していない。
回転機構はデノンの核心技術であるDDサーボモーター方式だ。起動は迅速で、33回転時はスタートから1秒以内に所定の速度に達する。モーターに電源を供給する回路はスイッチング方式で振動を発生させる恐れのあるトランスはない。回転速度は通常の33、45に加えて78回転も選択できるのでSPレコードにも対応する。
今回は、このDP-3000NEを用い、筆者が往年の定番の名盤と考えるLPを聴いてみた。組み合わせたカートリッジは定番中の定番、デノンのDL-103である。1964年に放送局用として生まれたロングセラー。リーズナブルな価格で、極めてトラッカビリティが高い、音の基準と言うべきMCカートリッジだ
まずはジェリー・マリガンの『ナイト・ライツ』。このLPはフィリップスが1960年代に録ったもので、モダンジャズのレコードとしては音場感が豊か。本機はその音場を奥行き感たっぷりに描いてくれる。情報量は極めて多く、演奏者が音に込めたニュアンスがよく伝わってくる。短調のジャズの哀愁のようなものも濃厚だ。
ヴォーカルは荒井由実のデビュー作『ひこうき雲』。このLPは学生時代によく聴いたが、仕事に使うのは初めてだ。音が鳴った瞬間、懐かしさで胸がいっぱいになったが、ここは仕事なので冷静さを保って聴いた。若い頃の荒井の声は伸びやかでダイナミックレンジが広く、音程に独特のクセがあるのだが、それが良い意味で再現されている。バックバンドの演奏もすばらしく、贅を尽くした録音であることが聴き取れる。
クラシックは3タイトルをもってきた。まずはイ・ムジチ合奏団によるヴィヴァルディの『四季』。さすがに時代を感じさせる演奏だが、時代感が絶妙に再現されている。独奏者のフェリックス・アーヨはコンサートマスターを兼ねているので最も左側に座っているのだが、音像は委縮することなく明るい表情でソロパートを奏でている。
次にケルテス/VPOによるドヴォルザークの『新世界より』。これはステレオ盤もあるのだが、DL-103はモノラルにも対応するのでモノ盤をもってきた。予想通りすばらしいエネルギーが左右のスピーカーの中央からリスニングポジションに飛んできた。ディテールの情報も多く、モノラルのすばらしさが遺憾なく発揮される。
最後に『カンターテ・ドミノ』を聴いた。これは1980年代に登場したもので、長岡鉄夫氏が絶賛したことで有名になった。トラック1の表題曲を聴いたのだが、オルガンのペダルトーンが本誌新試聴室の天地を揺るがすとともに、合唱が天使の声のように入ってくる。合唱の音像はスピーカーの奥に浮かび上がるが、そこから清浄なエネルギーとなってリスニングポジションに飛んでくる。
長く聴いてきた定番の名盤も久しぶりに聴いた定番の名盤も、その音場は極めて清潔で、音像に色づけのようなものはなく、素直なレコード再生音が得られている。DP-3000NEの音は実に中立的で、ベルトドライブ機のような弾力感も希薄だし、DD機にありがちな強引さのようなものも希薄である。
エネルギーバランスはすらりとしているが低域の支えがしっかりしているので、いわばスカイツリー型だ。音楽的にも中立的で、楽曲・演奏を脚色するようなことはない。ただし、ある種の超高級機のように演奏のあら捜しをするようなこともない。
加えて、DP-3000NEの操作感は素晴らしい。トーンアームは調整がしやすく、触り心地が抜群だ。スイッチの感触も上々。プラッターのリム部には曲面仕上げが施されており、アームの操作がしやすかった。
再生音が素直で、性能的に安定していて、リーズナブル、そして使いやすい。オーディオ的にも音楽的にも定番たりうるプレーヤーである。そんなDP-3000NEを用いて往年の定番レコードを聴くと、そのレコードが定番となった理由がよく理解できるのだ。
レコードリバイバルの現代に本機は“定番”と称するに足る
ストリーミングが主流になった現在と異なって、レコードが主流だった頃には“定番”というものがあった。聴き放題など夢のまた夢の時代である。レコードを買うときは慎重を期して名の通っているものを選んだ。名曲を名演奏家が演奏したもので、しかも音が良い。それがレコードの定番、すなわち名盤だった。
オーディオ機器にも定番があった。スマホとイヤフォンで最小限のミュージックシステムが完結する現代と異なって、しっかりとしたコンポーネントを揃えなければ音楽を自分のものにすることはできなかった。だから多くの愛好家は、テッパンの定番コンポを選んだ。とくにデリケートな部分の多いレコードプレーヤーは定番を選択するケースが多かった。
ではレコードがリバイバルした現代にあって定番のレコードプレーヤーというものはあるのか? そもそも定番のレコードプレーヤーとはどんなものか? それは名のあるメーカーが作った、価格がリーズナブルで、信頼性が高く、音が良いものということになるだろう。具体的な製品としてはデノンDP-3000NEが定番と称するに足る製品だと筆者は考える。
内容を見ていこう。本機はダイレクト・ドライブ(以下ⅮⅮ)方式の回転機構をもつレコードプレーヤーである。以前のモデルよりも洗練度は大幅に向上しており、機体の隅々にまで高級感が漂っている。
トーンアームはデノン伝統のS字型/スタティックバランス方式で、本機のために開発された。同社が保有する膨大な設計図を参考にするとともに、すでに退職したOB技術者の助言を仰いで有効長、オーバーハング、オフセット角などを決定したという。
調整幅は広く、レコードを演奏しながら高さ調整をすることが可能だ。カウンターウエイトも親切設計で、通常の状態で16gまで、サブウェイトを追加すれば26gまでのカートリッジを装着することができる。インサイドフォースキャンセラーはマグネット方式なのでアームの軸に対して機械的に接触していない。
回転機構はデノンの核心技術であるDDサーボモーター方式だ。起動は迅速で、33回転時はスタートから1秒以内に所定の速度に達する。モーターに電源を供給する回路はスイッチング方式で振動を発生させる恐れのあるトランスはない。回転速度は通常の33、45に加えて78回転も選択できるのでSPレコードにも対応する。
再生音が素直で性能も安定、使い勝手も良くリーズナブル
今回は、このDP-3000NEを用い、筆者が往年の定番の名盤と考えるLPを聴いてみた。組み合わせたカートリッジは定番中の定番、デノンのDL-103である。1964年に放送局用として生まれたロングセラー。リーズナブルな価格で、極めてトラッカビリティが高い、音の基準と言うべきMCカートリッジだ
まずはジェリー・マリガンの『ナイト・ライツ』。このLPはフィリップスが1960年代に録ったもので、モダンジャズのレコードとしては音場感が豊か。本機はその音場を奥行き感たっぷりに描いてくれる。情報量は極めて多く、演奏者が音に込めたニュアンスがよく伝わってくる。短調のジャズの哀愁のようなものも濃厚だ。
ヴォーカルは荒井由実のデビュー作『ひこうき雲』。このLPは学生時代によく聴いたが、仕事に使うのは初めてだ。音が鳴った瞬間、懐かしさで胸がいっぱいになったが、ここは仕事なので冷静さを保って聴いた。若い頃の荒井の声は伸びやかでダイナミックレンジが広く、音程に独特のクセがあるのだが、それが良い意味で再現されている。バックバンドの演奏もすばらしく、贅を尽くした録音であることが聴き取れる。
クラシックは3タイトルをもってきた。まずはイ・ムジチ合奏団によるヴィヴァルディの『四季』。さすがに時代を感じさせる演奏だが、時代感が絶妙に再現されている。独奏者のフェリックス・アーヨはコンサートマスターを兼ねているので最も左側に座っているのだが、音像は委縮することなく明るい表情でソロパートを奏でている。
次にケルテス/VPOによるドヴォルザークの『新世界より』。これはステレオ盤もあるのだが、DL-103はモノラルにも対応するのでモノ盤をもってきた。予想通りすばらしいエネルギーが左右のスピーカーの中央からリスニングポジションに飛んできた。ディテールの情報も多く、モノラルのすばらしさが遺憾なく発揮される。
最後に『カンターテ・ドミノ』を聴いた。これは1980年代に登場したもので、長岡鉄夫氏が絶賛したことで有名になった。トラック1の表題曲を聴いたのだが、オルガンのペダルトーンが本誌新試聴室の天地を揺るがすとともに、合唱が天使の声のように入ってくる。合唱の音像はスピーカーの奥に浮かび上がるが、そこから清浄なエネルギーとなってリスニングポジションに飛んでくる。
長く聴いてきた定番の名盤も久しぶりに聴いた定番の名盤も、その音場は極めて清潔で、音像に色づけのようなものはなく、素直なレコード再生音が得られている。DP-3000NEの音は実に中立的で、ベルトドライブ機のような弾力感も希薄だし、DD機にありがちな強引さのようなものも希薄である。
エネルギーバランスはすらりとしているが低域の支えがしっかりしているので、いわばスカイツリー型だ。音楽的にも中立的で、楽曲・演奏を脚色するようなことはない。ただし、ある種の超高級機のように演奏のあら捜しをするようなこともない。
加えて、DP-3000NEの操作感は素晴らしい。トーンアームは調整がしやすく、触り心地が抜群だ。スイッチの感触も上々。プラッターのリム部には曲面仕上げが施されており、アームの操作がしやすかった。
再生音が素直で、性能的に安定していて、リーズナブル、そして使いやすい。オーディオ的にも音楽的にも定番たりうるプレーヤーである。そんなDP-3000NEを用いて往年の定番レコードを聴くと、そのレコードが定番となった理由がよく理解できるのだ。