PR【特別企画】ペルソナを愛する評論家たち(6)
パラダイム「Persona 9H」導入記。「世界中のコンサートホールに連れていってくれる」鈴木 裕氏
■中高域の瑞々しい音色と鮮度感
いよいよその音について書いていく。拙宅のシステムを紹介しておくと、SACDプレーヤーはエソテリック「K-01XD」、アナログプレーヤーはクズマの「STABI S COMPLETE SYSTEM II」、カートリッジはデノン「DL-103R」のボディをアルミ製のものに換装したもの。プリアンプはサンバレーの「SV-192A/D」。プリとパワーアンプの間にアヴァロンデザインのパラメトリックイコライザー「AD2055」が入る。
パワーアンプはサンバレーの「SV-2PP」(真空管の845を出力管として採用した70Wの出力のもの)。スピーカーケーブルはコード・カンパニーのコードミュージック。ジャンパーケーブルもコードミュージック。
ちなみに「Persona 9H」はバイワイヤリング接続にも対応できる。つまり、その気になれば、トゥイーターとミッドレンジを別のアンプで鳴らすこともできるわけだ。いまは現状に満足しているので、そのうち何かのタイミングで試してみたいものだ。サイズは高さが132cm、幅が30cm、奥行きが52cm、重さは190ポンド(86kg)だ。
さて、ここからこのスピーカーの音について書いていきたいが、まずお伝えしたいのはPersona 9Hの聴かせる鮮度感の高さだ。特に中高域の音色感の瑞々しさは特筆しておきたい。反応が良く、微少領域の再現性が高いのは、パワーアンプの良さもあるし、96dBという感度の高さもあるだろう。
筆者の使って来たスピーカーとしては、ティール「CS-7」(能率は86dB)その次がアヴァロンの「Eidolon」(能率は87dB)そして、続いてソナス・ファベールの「Electa Amator III」(能率は88dB)ときたが、Persona 9Hを選んだ理由のひとつとして、その音がしっくり来たのはもちろん、96dBという感度の高さを自分のスピーカーとして鳴らしてみたかったこともある。パラダイムの技術者たちも、特にトゥイーターとミッドレンジについては能率の高さにこだわっているようだった。
■肌や内臓にまで感じられる圧倒的な低音がたまらない
続いて低音について書いてみよう。低音に求めるものは、人によって、ずいぶん違うということを何回も経験してきている。まずはそのレンジ。10Hzの中盤までは再生してほしい。そしてトランジェントのいい低音であることだ。立ち上がりと低音のしゃがみ。さらに、肌や内臓にまで感じられるような圧を持った低音。
Persona 9Hは、こうした圧倒的な低音を再現してくる。パイプオルガンや、チューバといった楽器の低音も見事だが、オーケストラのチェロやコントラバスの音の出だしの、たとえばマーラーの第2交響曲冒頭の♪ザカザカザンッ♪といったフレーズの縦の線の合い方。
パラダイムの技術者たちが、位相やトランジェントということに対して意識的なのは、この文章の冒頭の概要を読んで頂いて伝わると思うが、内蔵するパワーアンプ部+DSPも含めて良く出来ている。基本的には、入力された信号のみを音に変換するハイファイを目指しているスピーカーだ。
ちなみに付属の電源ケーブルの音を確認してみると、低音に微妙なコクと粘り気を感じさせる要素があり。クラスDの内蔵アンプの音色感のバランスを取ってあったことが分かった。開発の中で一般的なスピーカーメーカーのやっているヴォイシングの工程をやっているのかもしれない。
■実体感と空間表現力が高く、生演奏奏さながらの臨場感
音調的に特徴的なのは中域で、フロントのウーファー2発が、400Hz以下(200Hzくらいまで)を再生しているのが利いているようだ。マニアの方の中には、ワイドレンジなスピーカーは音が薄く感じると誤解されている方がいるが、この中域のおかげで、濃密に音楽を楽しませてくれる。
拙宅には相当にさまざまな音楽のレコードやCDがあるが、ジャズもクラシックも音像の高い実体感と空間表現力という意味で、ライヴハウスやコンサートホールで演奏を体験しているような臨場感はすこぶる高い。ライヴ盤じゃないセッション録音でも、演奏のノリと勢い、その演奏特有の気配を楽しませてくれるスピーカーだ。
聴いてきた中で、特に面白かった再生のソフトを紹介しておくと、ピエール・ブーレーズ指揮、クリーブランドオーケストラによるストラヴィンスキー作曲の『バレエ音楽《春の祭典》』1969年のセッション録音。14歳の時に同級生から売ってもらったレコードで、50年くらいは聴いてきた。
スピーカーの慣らしも進んだ2023年のゴールデンウィークに気合いを入れて聴いた。中学生の頃は毎日のように、このレコードを聴いていたし、オーディオ雑誌で仕事をするようになっては、試聴盤としても使って来た。しかし。Persona 9Hを鳴らして聴いて、こういう録音で、こういう演奏だということが初めてわかって、驚いて椅子から転げ落ちたくらいだ。
たとえば、B面の頭の第2部の「いけにえ」の序曲の緊張感。各所にある、大太鼓やティンパニーが強打される炸裂感。中学生の頃、何かに取り憑かれたように毎日のようにこのレコードを聴いていたのは、(あの当時はちゃんと再生できていなかったけれど)この強靭な演奏の生命力を感じられていたのだと、初めてわかった。
自分にとって、現在の仕事に至るきっかけのようなレコードなので、驚きでもあり、こんな音で聴くことができて良かった。バルトーク、ラヴェル、ワーグナー、アルバン・ベルクなど、近現代の編成の大きいオーケストラ音楽の再現性はかなり高い。
ジャズも楽しい。クリフォード・ブラウン&マックス・ローチの『スタディ・イン・ブラウン』は筆者の愛聴盤のひとつだが、「チェロキー」でのスリリングな熱さが出ないと聴いた気にならない。Persona 9Hを大音量で鳴らしていると、気持ちは完全に1954年のニューヨーク、ライヴハウスのバードランドにいる気になってくる。これこそオーディオの醍醐味じゃないだろうか。
■世界中のコンサートホールの演奏を体験できる
冷静になってPersona 9Hの良さをまとめておくと、ベリリウムの振動板を採用し、極端に反応のいい中高域に対し、位相の合ったしかも15Hzというレンジを持った低域を構築できている点。しかもこんなにコンパクトなサイズなのに。
さらに書くと、設置時には、付属のマイクを立てて、本体とPCとを付属のUSBケーブルで接続して低音の補正をするだけで普段の使い勝手は一般的なパッシブタイプのスピーカーと同じだ。電源は音楽信号が入力されれば自動的に入り、無音状態になって数分経てば、自動的に切れる。
最後に個人的な感慨を記してこの長い文章の締めとしたい。筆者は、脳梗塞発症後、東京都リハビリテーション病院に5か月入院していたが、コロナの第6波と重なり自動車免許の更新に行けず失効。後遺症である左空間無視のため、新たに免許を取ることができない。乗用車やオートバイも運転できない。自転車さえ乗ることができない。
ところが、Persona 9Hをアウトプットとする、現在のシステムをもって再生すれば、世界中のコンサートホールやライブハウスに行って、そこで行われた演奏を体験したような気になれる。そう思うと、これからの人生、明るい気持ちで生きていけるような気がしている。
Photo by 君嶋寛慶
(提供:PDN)
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.193』からの転載です