PRハーモニーの響きを感じたい
要注目の新興ブランド、ラトビア「アレタイ」スピーカー試聴レビュー!広大な空間描写力が魅力
■ペルトやヤルヴィを生んだ音楽の国・ラトビア
新しいブランドのスピーカーを聴くときはいつもワクワクした気持ちになる。ARETAI(アレタイ)の「Contra 200F」との出会いもそうだった。最初に聴いたのは2023年5月のミュンヘンで、ハイエンド会場の小さめのブースのなか、壁の存在を意識させないほど広い音場を再現していたことが記憶に残っている。
そのスピーカーがついに日本にも導入されることになった。先行して輸入されたブックシェルフ型の「Contra 100S」と一緒にあらためて聴き、深々とした広大な音場を再体験することができた。
アレタイは2018年にラトビアで創業した新しいスピーカーメーカーである。そもそもラトビアってどの辺?という人が多いかもしれないが、位置はバルト三国の真ん中で、エストニアとリトアニアに挟まれている。マリス・ヤンソンスやアンドリス・ネルソンスなど、著名な指揮者を生んだ国としてクラシックファンにはなじみがあるし、実力ある合唱団が多く、欧州有数の「歌の国」としても知られている。
隣国のエストニアはペルトやヤルヴィの出身国で、近年はエステロンのスピーカーが世界的に評価され、オーディオファンにも名が知られるようになった。音楽が根付いた地域からは優れたスピーカーが生まれることが多いのだ。
■合理的思想でスピーカーの設計を追い込む
創業者のヤニス・イルベは本業のIT事業の傍らスピーカー開発に打ち込み、約7年をかけて最上位のContra 350F以下を完成させた。共同創業者のエドガース・ズヴィルグズディンシュが手がけた意匠はレッド・ドット・デザイン賞を受賞。デビューと同時に音とデザインの両方で高い評価を得たのである。
Contraシリーズに共通するキャビネット上部の白い部分はトゥイーターのウェーブガイドで、背後から見ると円筒形のトゥイーター専用ハウジングがキャビネット上部から半分だけ露出している。ミッドレンジやウーファーの外周に当たるバッフル面の加工も含め、指向性を広げると同時に回折と反射を最小に抑える意図がうかがえる。白いウェーブガイドはMDFをさらに圧縮したHDF材からの削り出し。手間はかかるが、金属や樹脂のような共振(鳴き)が起こりにくいメリットがある。
ウーファーはContra 200Fが約20cm,Contra 100Sが約15cmのドライバーユニットを前後に配置したツイン構成だが、各ドライバーを異なる高さに配置していることに意味がある。フロントのウーファーは高めの位置で耳の高さに近付け、リア側は床に近い位置に取り付けて量感の確保を狙っているのだ。部屋の音響特性にもよるが、特にフロント側のウーファーを高めに配置するのは理にかなっている。
前後のドライバーでクロスオーバー周波数も変えており、Contra 200Fは3.5ウェイ、Contra 100Sは2.5ウェイという構成。クロスオーバーネットワーク回路の部品にもこだわっているというが、ドライバーユニットの仕様も含め、詳細は公開していない。
■自然な距離感で深いサウンドステージが展開する
Contra 200Fで聴いたモーツァルトのピアノ協奏曲はサウンドステージの奥行きが深く、ピアノの背後に展開するオーケストラの楽器配置を正確に視覚化できるほど、豊かな立体感を引き出してみせた。奥行きは深いが、ソロ楽器が手前に張り出すような鳴り方にはならず、聴き手と独奏の音像に距離があり、ホール一階席なかほどより少し前あたりで聴いているような自然な距離感がある。他の環境で聴いたときにも同じような鳴り方だった。部屋の大きさによらず、自然な距離感で深いサウンドステージが展開することにこのスピーカーの特徴があるようだ。
フォルテピアノとオーケストラ伴奏でソプラノが歌うアリアは声のフォーカスが鮮明で、他の楽器も直接音と余韻の関係がよく見える。低音楽器は基音のエネルギーが充実し、帯域バランスの重心はかなり低めだが、重い低音が下に向かって沈み込むのではなく、部屋いっぱいに余韻がふわりと広がるオープンな感触。風通しの良い低音のおかげで音場は遠くまで見通しが効く。Contra 100Sとは異なり、バスレフ型を採用しているのだが、低音の制動は良好だ。
リッキー・リー・ジョーンズのヴォーカルは芯のある音像が浮かび、弾力的なベースに負けることなく、表情の振幅も大きめだ。パーカッションの音像定位は左右だけでなく前後にも精度が高く、相互の位置関係がよくわかるが、特定の楽器が手前に張り出すことはない。スピーカーの手前よりも後方にステージが広がる空間描写がこのスピーカーの長所といえそうだ。耳の近くまで飛んでくるような前に張り出す音を好むリスナーには、他のスピーカーをお薦めする。
■合唱の柔らかいハーモニーの響きを感じたい
Contra 100Sも余韻がスピーカー後方まで大きく広がり、直接音と間接音が同じ空間のなかでなめらかにつながる良さがある。スピーカーと部屋の相性に課題がある場合は、声や旋律がスピーカーの位置に張り付き、エコーはまるで別物のように分かれて左右の壁の位置から聴こえてくることがあるが、このスピーカーにはそうした不自然さが感じられない。
一方、オーケストラは打楽器の打点が若干柔らかく感じられ、アタックの鋭さや切れの良さはContra 200Fの方が正確に引き出しているように思える。Contra 100Sは密閉型キャビネットなので低音楽器の音色はとても自然なのだが、ウーファーが受け持つ中域で3.5ウェイのContra 200Fとの差が生じているのかもしれない。ピアノ協奏曲やソプラノのアリアではその柔らかさが溶け合いの美しさとして長所に転じているので、ヴォーカルや室内楽を中心に聴くリスナーにはこちらをお薦めする。
3次元に広がる立体的なサウンドステージが2つのスピーカーに共通する最大の長所だが、今回の試聴であらためて気付いたもう一つの資質として、木質のウォームな感触を挙げておきたい。最近のハイエンドスピーカーは振動板やキャビネットの素材と構造を吟味して付帯音や共振を極限まで減らすアプローチが主流で、正確だが肌触りがクールな音になりがちだ。
Contraシリーズもキャビネットの共振を適切にコントロールしているのだが、そのさじ加減が巧みなのか、ウッドの響きがほどよく残っている。合唱の柔らかい響きから、柔らかいハーモニーをぜひ聴き取っていただきたい。
(提供:エミライ)