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PRMODEL 10のプリアンプとSACD 10のDACを搭載した新たなる銘機が誕生

マランツ “究極” のネットワークプレーヤー「LINK 10n」レビュー。弩級フラグシップ “ラストピース” の実力は?

公開日 2024/12/30 07:00 山之内 正
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HEOS Built-inによるネットワークオーディオ機能に、プリメインアンプ「MODEL 10」と同じプリアンプの回路構成、そして「SACD 10」のD/Aコンバーター機能が搭載された革新的なネットワーク対応プリアンプ「LINK 10n」が登場した。HDMI ARC端子や、フォノイコライザーアンプの搭載も実現し、あらゆる音源をハイエンドの品質で自在に楽しむことができる。フラグシップ “10シリーズ” 最後のピースを埋める、大注目のモデルをご紹介しよう。

Marantz ストリーミング・プリアンプ「LINK 10n」(2,200,000円/税込)

■ネットオーディオ時代には多用途のコンポが重要になる


10シリーズは、創業70周年のタイミングに合わせてマランツが開発を進めた新世代のフラグシップである。プリメインアンプのMODEL 10、デジタルディスクプレーヤーSACD 10に続き、ネットワークプレーヤー/プリアンプのLINK 10nが登場し、シリーズを構成する3機種が出揃った。


先行して発売された2機種からフロントとサイドに肉厚のアルミを採用したデザインを受け継ぎ、トップカバーも12mmと分厚いアルミを採用するなど、下位モデルとは一線を画す重厚な作りが目を引くが、実際に重さは33kgを超え、ネットワークプレーヤーとしては最重量級だ。

プリアンプはプレーヤーの追加機能というレベルではなく、専用設計の本格的な回路と装備を投入しているので、この重厚な作りにも納得がいく。LINK 10nの基本構成を見れば、そこまで本格的な作りになった理由が理解できる。DACはSACD 10と同じものを採用し、プリアンプ部はMODEL 10の設計思想をほぼそのまま受け継いでいるのだ。

つまり、10シリーズを3機種すべて揃えてディスクとネットワークオーディオをカバーするフルシステムを構築することもできるが、ソース機器はディスクまたはネットワークのどちらか一方をメインに選び、MODEL 10を核にした2モデル構成のシステムで使う用途も視野に入る。さらに、LINK 10nのプリアンプ出力を活用し、手持ちのパワーアンプと組み合わせたシンプルなシステムを狙うこともできる。

この3番目の選択肢は、ネットワーク再生を核にしたハイエンドシステムを基本としながら、レコードプレーヤーやCDプレーヤーをつなぐフル構成のシステムに拡張することも想定している。複数のアナログ入力とデジタル入力を装備し、フォノイコライザーアンプとディスクリート設計のヘッドホンアンプまで内蔵しているので、ネットワークプレーヤーとして独立して使う用途を起点に、複数のソース機器とパワーアンプを組み合わる大規模なシステムまで、実に多様な組み合わせをカバーできるのだ。ソースが多様化する本格的なネットワークオーディオ時代には、LINK 10nのような多用途のコンポーネントが重要な役割を演じる。

ディスクリート設計のマランツ独自のDAC「MMM」の内容はSACD 10と同様なのでそちらの記事を参照していただくとして、ここではLINK 10nだけの装備となるネットワークオーディオ回路について触れておこう。

10シリーズの他の機種と同様、LINK 10nも2フロア構成のシャーシを採用しており、上層にネットワークオーディオ基板とMMMとアナログオーディオ回路を配置。下層はさらに上下2段に分割した構造になっており、ボトム側に電源トランスとアナログとデジタルの独立した電源回路を構成し、上段にはMODEL 10よりも集積度を高めたプリアンプ基板、シールドを施したフォノイコライザー回路を配置している。


5.6mm 3層構造のメインシャーシには、銅メッキ鋼板を採用。メカエンジン、デジタルオーディオ回路、アナログオーディオ回路、電源回路をそれぞれ専用のスペースに隔離することで、回路間の干渉を排除している


プリアンプはMODEL 10と同様のフルバランス構成を採用。L/Rにそれぞれ1つのボリュームコントロールICを用いたバランス構成とすることで、チャンネルセパレーションやS/Nもさらに向上している

常に安定した音楽再生を行うために、アナログオーディオ用電源回路とデジタルオーディオ用電源回路を完全に独立させた回路構成を採用。電源トランスを介したアナログオーディオ回路へのノイズの流入も排除している
ネットワークオーディオ回路はHEOSプラットフォームを採用し、Amazon Musicなどストリーミング再生とNASのローカル音源再生に対応する。また、Roon Ready端末としても認証を受けている。ネットワーク再生の対応サンプリング周波数は最大384kHz、DSDは5.6MHzまで(2025年にアップデートで11.2MHzまで対応予定)サポートし、USB-DACとしても同等の信号フォーマットでの動作を実現している。なお、Qobuzには現時点では対応していないが、将来はサポートの予定もあるとのことなので楽しみに待ちたい。ただしRoonでQobuzにログインすれば再生ができるので、Roonユーザーは当面はそちらで楽しむことができる。



SACD 10でも採用される同社完全オリジナルのディスクリートD/Aコンバーター「Marantz Musical Mastering(MMM)」を搭載。PCM信号を11.2MHz / 1bitのDSDデータに変換し、アナログFIRフィルターによってダイレクトにD/A変換する

クロック回路には、「SA-10」に対して位相ノイズが15dBの改善を実現した超低位相雑音クリスタルを搭載。ジッターの影響に敏感な1bit DACのMMMに対して、ジッターによる音質への悪影響を排除し、明瞭な定位と見通しの良い空間表現を強化している


MM型、MC型両方式のカートリッジに対応する「Marantz Musical Premium Phono EQ」を搭載。音声信号が通過する信号経路はすべてディスクリート回路により構成している

アナログ/デジタル用それぞれに、試作と試聴を繰り返してサプライヤーと共同開発した専用のカスタム・ブロックコンデンサー(10,000μF×2)を搭載している

■積極的に可視化するような精密な描写力をそなえる


マランツ試聴室とオーディオアクセサリー誌試聴室でネットワーク再生の音質を確認した。DELAのNAS、USBメモリー、Amazon Musicの3つを主なソースとして使用した。


パワーアンプには、試聴室リファレンスのアキュフェー ズ「A80」を組み合わせた
バルトーク《管弦楽のための協奏曲》(FLAC 96kHz/24bit)はスコア全段分の楽器が同時にフォルティッシモで演奏するフレーズでも響きに混濁がなく、耳に意識を集中させることで木管楽器や弦楽器の内声パートの動きまで鮮明に浮かび上がってくる。漫然と聴いていると聴き取りにくいような音符やリズムの形まで積極的に可視化するような精密な描写力がそなわっており、オーケストラの演奏技術の高さもよく分かる。聴き手が集中力を高めて聴けば、その期待に柔軟に応えてくれるサウンドだ。


『バルトーク:管弦楽のための協奏曲』
スザンナ・マルッキ、ヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団
(BIS FLAC 96kHz/24bit)
リュート伴奏で歌うペトラ・マゴーニのヴォーカル(DSD 2.8MHz)はビブラートの濃淡を正確に描き分け、陰影の深さを最大限に引き出してきた。歌詞の内容を意識しながら聴くと、歌の表情の動きがいっそう豊かに感じられるのは、声の発音が素直で誇張がなく、微妙な変化を忠実に再現しているからだ。弱音で弾いているのにリュートの分散和音を一音一音すべて聴き取れるのも正確な発音のおかげだろう。


『オール・オブ・アス』
ペトラ・マゴーニ、イラリア・ファンティン
(fone DSD 2.8MHz)
ストリーミングで再生したマイルズ・フロスト「Beat It」(FLAC 96kHz/24bit)はキックドラムのアタックが強靭で、大量の空気を一瞬で動かす瞬発力の大きさに息を呑む。出力レベルを固定したプレーヤー出力からプリアンプ出力に切り替えると、低音の立ち上がりの速さと俊敏な切れ味が際立ち、ベースに緩みがないのでヴォーカルの抜けの良さがダイレクトに伝わる。


『Beat it』
マイルズ・フロスト
(96kHz/24bit)
本格的なストリーミング時代の到来を受けて手頃なストリーマーがこれから続々と登場するが、ハイレゾ本来のポテンシャルを最限に引き出す製品となると選択肢は一気に少なくなる。LINK 10nはその重要な一角を担うプレーヤー&プリアンプとして存在感を発揮することになるだろう。

【LINK 10n スペック】


●出力電圧:2.0V(アンバランス)、4.0V(バランス) ●再生周波数範囲:2Hz - 96kHz(PCM)、2Hz - 100kHz(DSD) ●再生周波数特性:2Hz - 50kHz(-3dB) ●SN比:113dB(PCM・可聴帯域)、116dB(DSD・可聴帯域) ●ダイナミックレンジ:112dB(可聴帯域) ●入力端子:XLR×1、RCA×1、PHONO(MM/MC)×1、HDMI(ARC)×1、同軸デジタル×1、光デジタル×2、USB-A×1、USB-B×1、Bluetooth/Wi-Fiアンテナ入力×2、フラッシャー入力×1 ●出力端子:XLR×1、RCA×1、XLRプリアウト×1、RCAプリアウト×1、サブウーファープリアウト×1、同軸デジタル×1、光デジタル×1、ヘッドホン×1 ●その他端子:ネットワーク×1、RS-232C×1、マランツリモートバス(RC-5)入出力×1 ●消費電力:55W ●待機電力:0.3W以下 ●外形寸法:440W×192H×472Dmm ●質量:33.0kg

<PREAMP OUTオーディオ特性> ●定格出力電圧/出力インピーダンス:3.16V/140Ω(BALANCED)、1.58V/30Ω(UNBALANCED) ●ヘッドホン定格出力:130mW(負荷32Ω、1kHz、T.H.D.0.7%) ●歪み率(THD+N):0.001%(20Hz - 20kHz) ●周波数特性(CD、1W、8Ω):5Hz - 100kHz(+0dB/-3dB) ●SN比(IHF-A、8Ω):76dB(0.5mV入力・PHONO MC)、88dB(5mV入力・PHONO MM)、122dB(4V入力、定格出力・BALANCED)、122dB(2V入力、定格出力・LINE) ●入力感度/入力インピーダンス: 400μV/33Ω(PHONO MC Low)、400μV/100Ω(PHONO MC Mid)、400μV/390Ω(PHONO MC High)、3.6mV/39kΩ(PHONO MM)、700mV/33kΩ(BALANCED)、350mV/47kΩ(LINE) ●PHONO最大許容入力(1kHz):8mV(MC)、80mV(MM)

アンバランス出力端子には、純銅削り出しのピンジャックを採用。表面処理は1層のニッケルメッキが施されている。同軸デジタル入力/出力端子には、真鍮削り出しの金メッキ端子を採用する


(提供:ディーアンドエムホールディングス株式会社)
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.195』からの転載です

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