ONIX、FIIO、Astell&Kern、iBassoの人気4機種をテスト
スマホで楽しむQobuz!DACチップ違いの“ドングルDAC”4機種を比較レビュー!
■スマートフォンのQobuzアプリを活用しよう!
いよいよハイレゾストリーミングサービスQobuzもスタートし、その高音質に触れているリスナーも増えている。これまでに発売されているQobuz対応ストリーマー/ネットワークプレーヤーで楽しむ以外に、PCやスマートフォンのQobuzアプリを使い、USB-DAC経由でハイレゾストリーミングを楽しむ手段も選択でき、使い勝手の良さについても満足度の高い配信サービスといえるだろう。
なかでも最も手軽にQobuzを楽しめる、スマートフォンとドングルDACを組み合わせたシステムについて、今回DACブランドの違う4モデルを用意し、イヤホンでのリスニング環境で体験するハイレゾストリーミングの世界についてレポートしてみたい。
Qobuzの良さは音質に加え、アプリを利用すれば、配信されているアーティストや楽曲、ジャンルにまつわる記事を楽しめるマガジン機能など、音楽を耳だけでなく、目でも楽しめる、全方位型の体験に結び付ける仕様にあるだろう。記事中の楽曲へリンクし、再生しながら該当の記事を読み、思いを馳せることができる。非常に有意義な取り組みであり、まさに機能美だ。
Qobuz運営サイドやユーザー提供のプレイリストから、未知の楽曲との出会いもサブスクリプションならではの醍醐味であり、特にスマートフォンのように手軽に持ち歩ける環境でQobuzアプリを介して自在に音楽へアクセスできる仕組みは理想の音楽体験をもたらしてくれるものといえるだろう。
今回試聴には、ハイエンドではない普及価格帯のAndroidスマートフォン、ソニー「Xperia 10III」を用い、USB Type-C接続(電源は基本的にバスパワー供給)で楽しめるドングルDACを用意。イヤホンはビクター「HA-FW10000」をリケーブルにて4.4mmバランス接続で繋いでみた。
ハイレゾストリーミングをWi-Fi環境下で試聴したのだが、スマートフォンの仕様で48kHzまでのレートは48kHz/24bit。48kHzより高いレートの音源(96kHzなど)は192kHz/24bitでの再生となっていたため、厳密なビットパーフェクトでの試聴ではないことをご了承いただきたい。
■ONIX「Alpha XI1」 -音像の分離やキレ、余韻の階調性も高い-
イギリス発祥のブランドであるONIX初のドングルタイプDACだ。ブラックボディとゴールドノブを意匠のポイントとしていたが、本機もその流れを汲んだブラックアルマイト仕上げのアルミボディに金色の物理キーを配置。比較的リーズナブルな価格設定ながら、質感の良い仕上がりだ。
DACチップはシーラスロジック製「CS43198」を2基搭載。後段のオペアンプはSGMicro製「SGM8262-2」を2基用いており、2段階のゲイン切り替え、携帯ゲーム機との接続時に有効なUAC1.0モード切り替えも備える。再生中のレートが表示されるディスプレイや、丸ボタン周囲が再生レートに応じて光るインジケーターなど、使い勝手も良好だ。
ブランドが標榜する“濃密なブリティッシュサウンド”を実感する、中低域の密度と音伸びの良さを持つ。ボーカルは細身でしっとりとした艶のあるトーンで耳当たり良い。オーケストラの緻密さ、ソロヴァイオリンの弦の潤い良い艶ノリをすっきりと浮かび上がらせる。ジャズピアノのアタックは硬質だが、余韻の澄んだ響きも印象的。
TOTOのキックドラムのアタックは軽快だが、ベースは重厚感に溢れている。ビリー・ジョエルは44.1kHz/16bit版のものと比べてみたが(こちらは48kHz出力)、音場もコンパクトにまとまり、密度感がある一方で分離はもう一つといった印象だ。それに対し、ハイレゾ版はさらなるリマスター処理の効果かもしれないが、空間の広がりも良く、音像の分離やキレ、余韻の階調性も高く、ビットパーフェクトではないとはいえ、ハイレゾならではの情報量の差を確かに実感することができた。
■FIIO「KA17」 -音像を引き締めつつ適度な厚みと輪郭のキレ
華々しい躍進を見せる中国発のオーディオブランドFIIOは、ドングルDACやBluetoothレシーバーを数多く手掛けているが、本機はポータブル型KAシリーズのフラグシップモデルだ。
DACチップはESS製「ES9069Q」を2基搭載。オペアンプはTI製「OPA1662」を2基、ヘッドホンアンプにTHX「AAA 78+」を備えており、AAA 78+内蔵オペアンプ4基を用いるデスクトップモードでは、ドングル型の枠を超える650mW×2の大出力を実現。また独立してUSBインターフェースチップやDACチップ、ヘッドホンアンプチップへ電源を供給できる給電用USB Type-C端子を個別に用意しており、さらなる高音質化が期待できる。スクエアスタイルの洗練されたアルミボディを採用。UAC1.0モードやレート表示も可能なディスプレイ、S/PDIF出力モードも搭載した多機能モデルだ。
基本的なサウンド傾向としてはバランス志向で、音像を引き締めつつも、適度な厚みと輪郭のキレを両立させている。クラシックのソロヴァイオリンは弦の細やかさをスマートに引き出し、バックの管弦楽器もハリ良く表現。ボーカルも口元の描写はシャープでヌケが良い。TOTOのリズム隊は密度を出しつつも引き締め感が強めとなる。
モバイルバッテリーを給電用ポートへ繋いでみると音質傾向も変化。音像の厚みが増し、より安定的で重心が低く落ち着いたサウンドとなる。ここでデスクトップモードを有効にすると音場の密度感の高さに加え、押し出しの良さ、質感の滑らかさもより明確に描かれるようになった。
■Astell&Kern「AK HC4」 -解像度の高さを軸とした切れ味良いサウンド-
ハイレゾDAPの草分け的存在であるAstell&Kernも近年はドングル型DACをいくつか製品化しているが、本機はケーブル着脱方式のより本格的な仕様を持つ。DAPをはじめとする同社製品と同じように陰影を感じさせるエッジの利いたデザインを取り入れたシンプルな佇まいのアルミボディで、表示類も再生フォーマットの種類を色で示すLEDのみとなる。
DACチップはAKM製「AK4493S」を搭載。DAPにも使われる超小型タンタルコンデンサーをはじめ、厳選パーツによる独自アンプを構成したほか、アナログ段を極力出力端子側にまとめ、ノイズの影響を抑える構造を取り入れている。また付属ケーブルはシールド効果を高めた専用品を同梱し、使い勝手の面ではUAC1.0モードも搭載する。さらにAKM製SRCチップ「AK4137EQ」を用いたリアルタイムアップサンプリング機能DAR(Digital Audio Remaster)を備えていることが大きな特徴だ。今回のケースでは384kHzに変換される。
まずDARなしで聴いてみたが、解像度の高さを軸としながら、音像のコシの太さを残しつつ切れ味の良いサウンドを聴かせてくれる。ボーカルのクールさ、ハリ良く滑らかな口元の動きも明瞭に描写。オーケストラの響きも清廉で、ソロヴァイオリンの抑揚感を優しくまとめている。ローエンドも制動良くコントロールしており、音場もクリアだ。ジャズピアノのアタックはブライトでウッドベースの指使いも鮮明に表現。スネアブラシの僅かにつぶれたニュアンスもリアルに引き出す。TOTOのキックドラムはキレ良く収束も早い。
DARを有効にすると、音場のS/Nが向上し、アタックとリリースがより明確となる。音像のシャープさも増し、一層リアルなサウンドに進化。SRCによって前段からのジッターの影響を抑える効果もあり、音質的対策が希薄なスマホ+ストリーミング再生では特に効果を発揮しているように感じられた。
■iBasso Audio「DC Elite」 -落ち着きと滑らかさに溢れ、高級感漂う-
最後は中国のポータブルオーディオブランドの中でも古参といえるiBasso Audioのドングル型DACにおけるフラグシップモデルだ。ハイエンドオーディオ製品に採用されている、ローム製電流出力型・高級DACチップ「BD34301EKV」を搭載。このDACチップを中心に6組のデュアルオペアンプを搭載した、DAP同様のオーディオセクションを備えているほか、デジタルボリュームのビット落ち問題を解消する、独自開発のアナログ式4連24ステップアッテネーターを取り入れた、“音質全振り”モデルである。
高剛性かつ軽量なチタン合金製ボディやボリュームのアルミノブ、ガラスパーツを用いた高級感ある筐体も特長であり、S/PDIF出力モードも装備。表示用ディスプレイは備えておらず、再生フォーマットを色で示すインジケーターのみというAK HC4同様シンプルな機能性も音質最優先の設計ゆえか。自社開発によるFPGAやNDK製フェムトクロック水晶発振器、高効率&低ノイズ設計の電源部など、まさにハイエンドな仕様を詰め込んだ一台である。
そのサウンドもしっとりとした落ち着きと滑らかさに溢れた、高級感漂うもの。オーケストラは各パートの分解能も高く、ソロヴァイオリンの旋律はウェットかつ鮮やかに浮かび上がり、音の繋がりもスムーズで上品な響きに包まれる。ローエンドの制動も余裕があり、緻密なハーモニーを流麗に表現。いかにもアナログライクで上質なサウンドである。
ボーカルはボトムの厚みを出しつつ、輪郭のキレ、口元のウェットさも丁寧に描き出し、コーラスワークとの分離も鮮明だ。シンセベースのリッチで押し出し良く逞しい表現も難なくこなしつつ、余韻の繊細なニュアンスまでクリアに描き切る、ダイナミックレンジの広い表現力も兼ね備えている。ジャズピアノも低重心でレンジも広く澄み切った響きを見せる。TOTOのリズム隊も落ち着き良く、アタックの早さと空気感をリアルに再現。ひととき、スマホ+ストリーミング再生という環境で聴いていることを忘れるほどの情報量の多さと解像感の高さを味わうことができた。
Qobuzアプリも欲を言えばPC版のような排他モードをAndroid用にも開発してほしいところだが、ビットパーフェクトではないにせよ、ここまでの試聴により、スマホ単体で聴くよりもはるかに高音質でハイレゾならではの高解像度なサウンドをドングルDACで楽しめることが分かった。ポータブルな環境でも諦めることなく高音質で楽しめる手段として、ドングルDACを活用してみてはいかがだろうか。
【試聴楽曲】
・諏訪内晶子『シベリウス&ウォルトン:ヴァイオリン協奏曲』〜第1楽章(96kHz/24bit)
・オスカー・ピーターソン・トリオ『プリーズ・リクエスト』〜ユー・ルック・グッド・トゥ・ミー(96kHz/24bit)
・ビリー・ジョエル『リヴァー・オブ・ドリームス』〜2千年もの果てに(96kHz/24bit)
・TOTO『タンブ』〜ギフト・オブ・フェイス(192kHz/24bit)
・丁「呼び声」(96kHz/24bit)