PR独自の技術力を活かした「FIR 2X」モードに注目
iBasso「DX180」レビュー。こだわり機能でポータブルオーディオの愉しさを教える入門DAP
2024年7月に発売されたiBasso Audio「DX180」は、ブランドの入門機的な位置づけの実売8万円未満のDAP。実際に発売以来好評だという本モデルがこのたび追加生産され、さらに2025年1月3日からの初売りラインナップに並ぶとの知らせが届いた。
追加生産は当初の生産出荷分が相当に売れ行き好調で、ユーザーからの評価も良好という実績があってこそ。ならばそのモデルは買って間違いのない安心モデル!そう読み取ることもできる。
発売から約半年のタイミングで再び注目の集まるDX180。この機会に、その内容と実力を改めて確認していこう。
DX180のサイズは縦123mm、幅75mm、厚さ16mmで、重量は206g。幅はボリュームダイヤルの凸部を除いての実測だと72mmほど。画面は5.0型でフルHD。各ブランドのエントリークラスDAPには小型機も多いが本機はフルサイズに近い。シーラス・ロジックのチップを用いたクアッドDAC構成、8コアSoCによる快適で安定した動作、バランス駆動での連続再生最大15.5時間などのスペックもその余裕のおかげか。
筐体右側面はエッジを鋭く立ててあり、その引っかかりのおかげで滑りにくい。一方で付属の専用TPUケースを装着すればソフトなグリップ感も得られ、好みの持ち心地を選ぶことができる。
ボタン類は右側面にまとめられており、上から電源ボタン兼ボリュームダイヤル、曲送り/早送り、再生/停止、曲戻し/早戻し。送りと戻しは上下入れ替えの設定も可能。端子類の配置は4.4mmバランスと3.5mmシングルエンドのヘッドホン出力を筐体下側に、USB端子とmicroSDスロットを上側にとなっている。
画面内での操作感は標準的なもので違和感なし。OSはAndroid 13を採用しつつSRC(サンプルレート変換)バイパス仕様にカスタマイズされており、Android特有のハイレゾ再生に関わる制限をシステムレベルで回避できるようになっている。このため純正プレーヤーアプリの「Mango Player」に限らず他社製アプリでも、最大PCM 768kHz/32bit、DSD512(22.4MHz)まで、音源本来のフルスペックでの再生が可能だ。
128GBの内蔵ストレージおよびmicroSDカードに保存した楽曲の再生、Wi-Fiを経由したストリーミング/ネットワーク再生だけでなく、USB-DACやBluetoothレシーバーとしても運用可能などなど、現在のDAPで一般的な機能はひと通り網羅されている。
そして前述のように、本機はシーラス・ロジック「CS43131」DACチップ4基によるクアッドDAC構成を採用。それを独自開発コントローラー「FPGA-Master 2.0」で緻密に制御し、チップ単体の理論値を超える性能を引き出していることが特長だ。
加えてFPGA-Master 2.0はDACにおいて重要なFIRフィルターの構築も担当し、以下の2種類のモードを実現。各DACチップ個別の歪みを低減しパフォーマンスを全体的に向上する「NORMAL」モードと、各DACチップのデータストリームのクロックをごく僅かにズラす「ディレイ・パラレル動作」でハードウェア・アナログFIRフィルターを形成し、複数のDAC間の差を平均化することで歪みの大幅低減や信号の滑らかさなどを得る「FIR 2X」モードだ。
難しげな話だが、つまり以下のような理解でよいかと思う。
●NORMALモード:DACチップそれぞれの動作を最適化することで全体的なパフォーマンスを向上
●FIR 2Xモード:DACチップ各基の出力をあえてズラして足し合わせることで誤差を平均化し、より低歪で明瞭なサウンドに
このほかDACチップに内蔵された5種類のデジタルフィルターを切り替えることができ、これによっても少しずつ音色を変化させられる。
何にせよいちばん気になるのは「で、実際の音はどう違うの?」であろうから、この後実際に確認していこう。
まずはFPGA-Master 2.0のFIRモードはNORMAL、デジタルフィルターはShort Delay Slow Roll off、イヤホン出力は4.4mmバランス駆動のLowゲインというセッティングでチェック。イヤホンは、6BA+2ESTのqdc「White Tiger」と、15.4mmの超大口径/高磁力ダイナミックドライバーを搭載したiBasso「3T-154」を適宜使い分け、様々な楽曲を試聴した。
総じての印象として、White Tigerとの組み合わせでは高域の滑らかさとシャープさの兼ね合いの良さが光り、3T-154との組み合わせではローエンドまでフラットに伸びる低域やシャキッとビシッとした明瞭度が際立っていた。本機はEST(静電トゥイーター)も超大口径ドライバーも適切に駆動し、それを活用した各イヤホンの魅力を存分に引き出してくれたわけだ。本機のアンプ周りは十分な駆動力と素直な特性を備えていると見てよいだろう。
中でも5弦ベースのローポジション、基音30Hzから60Hzあたりで展開されるフレーズでの音の安定感は特に秀逸だった。超低音の音像は薄まり、やや高めの音程では音像が膨らむなどのバラつきがあると、ベースどころか楽曲全体の重心やグルーヴが乱れてしまうものだ。だが低音再生に優れたイヤホンとそのポテンシャルを引き出せる本機の組み合わせなら、そんなことは起きない。
そしてFPGA-Master 2.0のFIRモードだが、NORMALからFIR 2Xに切り替えると全体の一体感や馴染みがよくなり、またボーカルが半歩奥に引いて音場の奥行感も高まる印象。であるがデジタルフィルターの変更による効果と比べるとその変化は小幅と感じた。
しかしそれが逆に都合が良い。デジタルフィルターと組み合わせることで、より細やかで柔軟なセッティングが可能になるからだ。例えばShort Delay Slow Roll offフィルターのシャープな描写傾向は好みだが音像の距離感が近くなる点は好みではないという場合、FIR 2Xモードを組み合わせることで、描写のシャープさはおおよそ維持しつつ距離感の近さはうまく緩和させられる。
FIRモードとデジタルフィルターの設定を合わせて追い込むことで自分好みのサウンドを突き詰める。こういったマニアックな楽しみ方ができることも、本機の大きな魅力として挙げておきたい。
ワイヤレスイヤホン&ヘッドホン全盛のいま、DAPに興味を持ちあえて手を伸ばしてくれる。そんなディープなユーザーに向けたエントリーDAPには、手に取りやすさと同時に好奇心に応えるマニアックさも必要だろう。DX180はまさにそんな1台だ。
【2025年1月3日(金) 9:00 - 1月7日(火)23:59まで初売りセール開催】
(企画協力:MUSIN)
追加生産は当初の生産出荷分が相当に売れ行き好調で、ユーザーからの評価も良好という実績があってこそ。ならばそのモデルは買って間違いのない安心モデル!そう読み取ることもできる。
発売から約半年のタイミングで再び注目の集まるDX180。この機会に、その内容と実力を改めて確認していこう。
■“音楽再生専用デバイス” として十分以上のスペック
DX180のサイズは縦123mm、幅75mm、厚さ16mmで、重量は206g。幅はボリュームダイヤルの凸部を除いての実測だと72mmほど。画面は5.0型でフルHD。各ブランドのエントリークラスDAPには小型機も多いが本機はフルサイズに近い。シーラス・ロジックのチップを用いたクアッドDAC構成、8コアSoCによる快適で安定した動作、バランス駆動での連続再生最大15.5時間などのスペックもその余裕のおかげか。
筐体右側面はエッジを鋭く立ててあり、その引っかかりのおかげで滑りにくい。一方で付属の専用TPUケースを装着すればソフトなグリップ感も得られ、好みの持ち心地を選ぶことができる。
ボタン類は右側面にまとめられており、上から電源ボタン兼ボリュームダイヤル、曲送り/早送り、再生/停止、曲戻し/早戻し。送りと戻しは上下入れ替えの設定も可能。端子類の配置は4.4mmバランスと3.5mmシングルエンドのヘッドホン出力を筐体下側に、USB端子とmicroSDスロットを上側にとなっている。
画面内での操作感は標準的なもので違和感なし。OSはAndroid 13を採用しつつSRC(サンプルレート変換)バイパス仕様にカスタマイズされており、Android特有のハイレゾ再生に関わる制限をシステムレベルで回避できるようになっている。このため純正プレーヤーアプリの「Mango Player」に限らず他社製アプリでも、最大PCM 768kHz/32bit、DSD512(22.4MHz)まで、音源本来のフルスペックでの再生が可能だ。
128GBの内蔵ストレージおよびmicroSDカードに保存した楽曲の再生、Wi-Fiを経由したストリーミング/ネットワーク再生だけでなく、USB-DACやBluetoothレシーバーとしても運用可能などなど、現在のDAPで一般的な機能はひと通り網羅されている。
■緻密なDAC制御技術で生み出したこだわり機能「FIR 2X」モード
そして前述のように、本機はシーラス・ロジック「CS43131」DACチップ4基によるクアッドDAC構成を採用。それを独自開発コントローラー「FPGA-Master 2.0」で緻密に制御し、チップ単体の理論値を超える性能を引き出していることが特長だ。
加えてFPGA-Master 2.0はDACにおいて重要なFIRフィルターの構築も担当し、以下の2種類のモードを実現。各DACチップ個別の歪みを低減しパフォーマンスを全体的に向上する「NORMAL」モードと、各DACチップのデータストリームのクロックをごく僅かにズラす「ディレイ・パラレル動作」でハードウェア・アナログFIRフィルターを形成し、複数のDAC間の差を平均化することで歪みの大幅低減や信号の滑らかさなどを得る「FIR 2X」モードだ。
難しげな話だが、つまり以下のような理解でよいかと思う。
●NORMALモード:DACチップそれぞれの動作を最適化することで全体的なパフォーマンスを向上
●FIR 2Xモード:DACチップ各基の出力をあえてズラして足し合わせることで誤差を平均化し、より低歪で明瞭なサウンドに
このほかDACチップに内蔵された5種類のデジタルフィルターを切り替えることができ、これによっても少しずつ音色を変化させられる。
何にせよいちばん気になるのは「で、実際の音はどう違うの?」であろうから、この後実際に確認していこう。
■DX180音質レビュー 〜 音源とイヤホンの個性を存分に引き出すクッキリサウンド
まずはFPGA-Master 2.0のFIRモードはNORMAL、デジタルフィルターはShort Delay Slow Roll off、イヤホン出力は4.4mmバランス駆動のLowゲインというセッティングでチェック。イヤホンは、6BA+2ESTのqdc「White Tiger」と、15.4mmの超大口径/高磁力ダイナミックドライバーを搭載したiBasso「3T-154」を適宜使い分け、様々な楽曲を試聴した。
総じての印象として、White Tigerとの組み合わせでは高域の滑らかさとシャープさの兼ね合いの良さが光り、3T-154との組み合わせではローエンドまでフラットに伸びる低域やシャキッとビシッとした明瞭度が際立っていた。本機はEST(静電トゥイーター)も超大口径ドライバーも適切に駆動し、それを活用した各イヤホンの魅力を存分に引き出してくれたわけだ。本機のアンプ周りは十分な駆動力と素直な特性を備えていると見てよいだろう。
中でも5弦ベースのローポジション、基音30Hzから60Hzあたりで展開されるフレーズでの音の安定感は特に秀逸だった。超低音の音像は薄まり、やや高めの音程では音像が膨らむなどのバラつきがあると、ベースどころか楽曲全体の重心やグルーヴが乱れてしまうものだ。だが低音再生に優れたイヤホンとそのポテンシャルを引き出せる本機の組み合わせなら、そんなことは起きない。
フィルター設定で「自分好み」に追い込める、まさしくDAPの “入門機”
そしてFPGA-Master 2.0のFIRモードだが、NORMALからFIR 2Xに切り替えると全体の一体感や馴染みがよくなり、またボーカルが半歩奥に引いて音場の奥行感も高まる印象。であるがデジタルフィルターの変更による効果と比べるとその変化は小幅と感じた。
しかしそれが逆に都合が良い。デジタルフィルターと組み合わせることで、より細やかで柔軟なセッティングが可能になるからだ。例えばShort Delay Slow Roll offフィルターのシャープな描写傾向は好みだが音像の距離感が近くなる点は好みではないという場合、FIR 2Xモードを組み合わせることで、描写のシャープさはおおよそ維持しつつ距離感の近さはうまく緩和させられる。
FIRモードとデジタルフィルターの設定を合わせて追い込むことで自分好みのサウンドを突き詰める。こういったマニアックな楽しみ方ができることも、本機の大きな魅力として挙げておきたい。
ワイヤレスイヤホン&ヘッドホン全盛のいま、DAPに興味を持ちあえて手を伸ばしてくれる。そんなディープなユーザーに向けたエントリーDAPには、手に取りやすさと同時に好奇心に応えるマニアックさも必要だろう。DX180はまさにそんな1台だ。
(企画協力:MUSIN)