忠実なサウンドを成し得たフラグシップモデル
テクニクス「EAH-AZ100」最速レビュー。オーディオファン待望の “磁性流体ワイヤレス”をさっそく聴いた
テクニクスから、完全ワイヤレスイヤホンの新たなフラッグシップモデル「EAH-AZ100」が登場した。現行機種「EAH-AZ80」の上位に位置づけられる本機は、同社のハイエンド・有線イヤホン「EAH-TZ700」で好評を博した磁性流体ドライバーを踏襲することで、原音に限りなく近い音楽再生を追求している。発売に先立ち試聴する機会を得たので、いち早くその魅力をお届けしよう。
EAH-AZ100の開発にあたり、EAH-AZ80のユーザー調査を行ったところ、完全ワイヤレスイヤホンに「音質」と「装着性」が強く求められていることがわかったそうだ。そこで、有線イヤホンEAH-TZ700で高い評価を得ていた、磁性流体を用いたダイナミック型ドライバーの採用に踏み切ったという。
磁性流体ドライバーは、従来のドライバーよりも振動板の動きが格段に正確になり、歪みの少ない澄んだ音を実現できるのが特長だ。さらに、アルミニウム振動板と極薄エッジを組み合わせたほか、ドライバーの前方にハーモナイザーを後方にアコースティックコントロールチャンバーという、2種類の音響空間を設けて、低域から高域まで広帯域で忠実な音楽再生を可能にしている。
音質を高めるうえでもうひとつのポイントが、新開発の専用イヤーピースだ。ノズルに被せる筒の部分が硬さの異なる3層を連ねた構造になっており、最も固い部分がノズルをしっかりとホールドする。これが、低域を中心とする音の漏れを防いで高音質を直接鼓膜に届けたり、パッシブノイズの大幅な低減につながったりしている。
早速、AndroidスマホからAmazon Musicで楽曲を聴いていこう。スマホには、専用アプリ「Technics Audio Connect」がインストールされている。このアプリでは、LDAC再生のオン/オフや空間オーディオの設定のほか、ノイズキャンセリングの調整やイコライザーの切替えなどが可能。直感的な操作で自分好みの音作りができる。
LDACをオンにして聴くEAH-AZ100の音質を一言で表すなら、「生々しさと透明感の共存」だ。磁性流体ドライバーがもたらす正確な振動と、新開発イヤーピースによる優れた遮音性が相まって、音楽の細部まで余すことなく伝えてくれる。Mrs. GREEN APPLE「ライラック」は、イントロのギターの音の立ち上がりが鋭く、一つ一つの音が明瞭に聴こえる。音のバランスはフラットで、各帯域がクリアに再現されため、弾むような音色の低域も、過度に強調されることなく自然な印象だ。
中森明菜「DESIRE」は、歌声の艶やかさと力強さが見事に表現されている。特に、サビで力強く歌い上げる部分では、声の張りや艶、そして感情の機微までもが克明に伝わってくる。バックコーラスの声も、明確に分離して聴こえ音に厚みを感じさせる。
レディー・ガガ&ブルーノ・マーズ「Do With A Smile」では、その空間の広さに驚かされる。イントロのギターとピアノのリバーブが美しく音場に響き渡り、そこに重なるブルーノ・マーズの声が、まるで目の前で歌っているかのような臨場感を醸し出す。レディー・ガガの声は力強く、かつ繊細な表現力に富む。音の情報量が豊かで、高解像度な音像を鮮明に描き出している。
ジャズの名盤、ビル・エヴァンス・トリオ「Waltz for Debby」を聴くと、1音目から美しい音の広がりを感じる。スネアの音がパラパラと繊細に分離し、ベースの弦のしなりまで聴き取れる。まるでハイレゾ対応のDAPとイヤホンで聴いているかのような高音質だ。リズム感が絶妙で、演奏者の息遣いまで感じられるような生々しさがある。
アプリから空間オーディオをオンにしてDolby Atmos対応の中森明菜「DESIRE」を聴くと、LDACの再生よりも音場がふわっと広がっている。曲全体の奥行き感が増しており、まるでライブ会場の最前列にいるような臨場感を味わえる。音の密度が薄くなるかと心配したが、そんなことはなくクリアなサウンドを維持している。
コブクロ「蕾」も聴いてみたが、アコースティックギターの音色がリアルに空間に響く中、2人の声が左右にピタッと定位する。頭を左右に振っても常に正面に音場があるヘッドトラッキング機能の効果もあり、没入感が格段に増している。これこそ、空間オーディオかつ生音に近い再生だから味わえる感覚だろう。
聴いていて驚いたのが、フィット感に優れ重さを感じないこと。EAH-AZ100のハウジングは、耳を圧迫する力に頼らず、耳甲介(コンチャ)に自然に収まる「コンチャフィット形状」を採用する。従来機のEAH-AZ80よりも体積が10%コンパクトになり装着感が向上したという。
筆者が装着してみると、耳に張り付いているかのようにフィットし、長時間使用しても耳が痛くなることはなかった。片耳約5.9gという軽さも相まって、装着していることを忘れてしまうほどの快適さだった。
ノイズキャンセリングは非常に強力だ。周囲の騒音状況や、装着する人の耳の形状に合わせてリアルタイムに効き具合を調整する「アダプティブノイズキャンセリング」のため、にぎやかな場所でも、よほど大きな音を除いてほとんどの外音が気にならなくなる。
ヒアスルーモードも極めて自然。会話時に自分の声のフィードバックがあり、「イヤホンを装着していたっけ?」と錯覚するほど違和感がない。これなら、場所を問わず音楽に集中できるうえ、イヤホンを外すことなく周囲とのコミュニケーションも取れる。
通話品質も大幅に向上しているのも魅力のひとつ。5億件もの音声データを学習したAI搭載の新チップを搭載し、ノイズ除去性能が大幅にアップしている。加えて「Voice Focus AI」機能により、こちらの声だけでなく、相手の声のノイズを除去できる。在宅でオンライン会議が多い人には嬉しいポイントだろう。
EAH-AZ100は、テクニクスが長年培ってきた音響技術の結晶が、ワイヤレスイヤホンという小さな筐体に凝縮された一品だ。磁性流体ドライバーを搭載したイヤホンEAH-TZ700が実売12万円だったことを考えると、本機の想定市場価格が39,000円前後というのはバーゲンプライスといえそうだ。
なにより、磁性流体ドライバーがもたらす原音忠実な再現能力は、音楽をより深く、より豊かに楽しむための新たな扉を開いてくれる。完全ワイヤレスイヤホンで希少な、フラットで忠実なサウンドを求めるオーディオファンにとって、まさに理想的な一台と言えるだろう。
■磁性流体ドライバーと新開発イヤーピースで高音質を追求
EAH-AZ100の開発にあたり、EAH-AZ80のユーザー調査を行ったところ、完全ワイヤレスイヤホンに「音質」と「装着性」が強く求められていることがわかったそうだ。そこで、有線イヤホンEAH-TZ700で高い評価を得ていた、磁性流体を用いたダイナミック型ドライバーの採用に踏み切ったという。
磁性流体ドライバーは、従来のドライバーよりも振動板の動きが格段に正確になり、歪みの少ない澄んだ音を実現できるのが特長だ。さらに、アルミニウム振動板と極薄エッジを組み合わせたほか、ドライバーの前方にハーモナイザーを後方にアコースティックコントロールチャンバーという、2種類の音響空間を設けて、低域から高域まで広帯域で忠実な音楽再生を可能にしている。
音質を高めるうえでもうひとつのポイントが、新開発の専用イヤーピースだ。ノズルに被せる筒の部分が硬さの異なる3層を連ねた構造になっており、最も固い部分がノズルをしっかりとホールドする。これが、低域を中心とする音の漏れを防いで高音質を直接鼓膜に届けたり、パッシブノイズの大幅な低減につながったりしている。
早速、AndroidスマホからAmazon Musicで楽曲を聴いていこう。スマホには、専用アプリ「Technics Audio Connect」がインストールされている。このアプリでは、LDAC再生のオン/オフや空間オーディオの設定のほか、ノイズキャンセリングの調整やイコライザーの切替えなどが可能。直感的な操作で自分好みの音作りができる。
■音のバランスがフラットで各帯域がクリア、感情の機微まで克明に伝える
LDACをオンにして聴くEAH-AZ100の音質を一言で表すなら、「生々しさと透明感の共存」だ。磁性流体ドライバーがもたらす正確な振動と、新開発イヤーピースによる優れた遮音性が相まって、音楽の細部まで余すことなく伝えてくれる。Mrs. GREEN APPLE「ライラック」は、イントロのギターの音の立ち上がりが鋭く、一つ一つの音が明瞭に聴こえる。音のバランスはフラットで、各帯域がクリアに再現されため、弾むような音色の低域も、過度に強調されることなく自然な印象だ。
中森明菜「DESIRE」は、歌声の艶やかさと力強さが見事に表現されている。特に、サビで力強く歌い上げる部分では、声の張りや艶、そして感情の機微までもが克明に伝わってくる。バックコーラスの声も、明確に分離して聴こえ音に厚みを感じさせる。
レディー・ガガ&ブルーノ・マーズ「Do With A Smile」では、その空間の広さに驚かされる。イントロのギターとピアノのリバーブが美しく音場に響き渡り、そこに重なるブルーノ・マーズの声が、まるで目の前で歌っているかのような臨場感を醸し出す。レディー・ガガの声は力強く、かつ繊細な表現力に富む。音の情報量が豊かで、高解像度な音像を鮮明に描き出している。
ジャズの名盤、ビル・エヴァンス・トリオ「Waltz for Debby」を聴くと、1音目から美しい音の広がりを感じる。スネアの音がパラパラと繊細に分離し、ベースの弦のしなりまで聴き取れる。まるでハイレゾ対応のDAPとイヤホンで聴いているかのような高音質だ。リズム感が絶妙で、演奏者の息遣いまで感じられるような生々しさがある。
アプリから空間オーディオをオンにしてDolby Atmos対応の中森明菜「DESIRE」を聴くと、LDACの再生よりも音場がふわっと広がっている。曲全体の奥行き感が増しており、まるでライブ会場の最前列にいるような臨場感を味わえる。音の密度が薄くなるかと心配したが、そんなことはなくクリアなサウンドを維持している。
コブクロ「蕾」も聴いてみたが、アコースティックギターの音色がリアルに空間に響く中、2人の声が左右にピタッと定位する。頭を左右に振っても常に正面に音場があるヘッドトラッキング機能の効果もあり、没入感が格段に増している。これこそ、空間オーディオかつ生音に近い再生だから味わえる感覚だろう。
■装着していることを忘れるほど自然で快適なフィット感
聴いていて驚いたのが、フィット感に優れ重さを感じないこと。EAH-AZ100のハウジングは、耳を圧迫する力に頼らず、耳甲介(コンチャ)に自然に収まる「コンチャフィット形状」を採用する。従来機のEAH-AZ80よりも体積が10%コンパクトになり装着感が向上したという。
筆者が装着してみると、耳に張り付いているかのようにフィットし、長時間使用しても耳が痛くなることはなかった。片耳約5.9gという軽さも相まって、装着していることを忘れてしまうほどの快適さだった。
ノイズキャンセリングは非常に強力だ。周囲の騒音状況や、装着する人の耳の形状に合わせてリアルタイムに効き具合を調整する「アダプティブノイズキャンセリング」のため、にぎやかな場所でも、よほど大きな音を除いてほとんどの外音が気にならなくなる。
ヒアスルーモードも極めて自然。会話時に自分の声のフィードバックがあり、「イヤホンを装着していたっけ?」と錯覚するほど違和感がない。これなら、場所を問わず音楽に集中できるうえ、イヤホンを外すことなく周囲とのコミュニケーションも取れる。
通話品質も大幅に向上しているのも魅力のひとつ。5億件もの音声データを学習したAI搭載の新チップを搭載し、ノイズ除去性能が大幅にアップしている。加えて「Voice Focus AI」機能により、こちらの声だけでなく、相手の声のノイズを除去できる。在宅でオンライン会議が多い人には嬉しいポイントだろう。
■忠実なサウンドを求めるオーディオファンにとって理想的なサウンド
EAH-AZ100は、テクニクスが長年培ってきた音響技術の結晶が、ワイヤレスイヤホンという小さな筐体に凝縮された一品だ。磁性流体ドライバーを搭載したイヤホンEAH-TZ700が実売12万円だったことを考えると、本機の想定市場価格が39,000円前後というのはバーゲンプライスといえそうだ。
なにより、磁性流体ドライバーがもたらす原音忠実な再現能力は、音楽をより深く、より豊かに楽しむための新たな扉を開いてくれる。完全ワイヤレスイヤホンで希少な、フラットで忠実なサウンドを求めるオーディオファンにとって、まさに理想的な一台と言えるだろう。