“1dB”の壁を超えろ!特性と音質向上に賭ける旭化成の最新DACソリューション、新旧徹底比較!
世界のハイエンドブランドから評価されるDACソリューション
旭化成エレクトロニクス(AKM)のオーディオ向け高音質DAC半導体「VELVET SOUND (ベルベットサウンド)」シリーズから、新製品が登場した。デジタル部とアナログ部を1チップに収めた「AK4497S」、2チップソリューションの片翼を担うアナログ処理半導体「AK4498EX」だ。世界のハイエンドオーディオシーンを席巻するDACメーカーの期待の新製品とあって、注目度は極めて高い。

AKMではDACの高音質化に2008年から取り組み、2016年からは「VELVET SOUND」ブランドのハイクラスDACを展開。その成果として2010年代後半からLINNやエソテリック、またFIIOやAstell&Kernまで、世界中のオーディオブランドで次々に採用されてきた。
こうした培ってきた音質ノウハウをベースに、さらに新しい技術を採り入れた、まさにブランニューDACがAK4497S、AK4498EXなのだ。旧世代との比較試聴を通じて、VELVET SOUNDの現在地を探ってみよう。

1チップソリューションの“卓越”を目指す
まず「AK4497S」。開発リーダーの中元聖子氏(製品開発センター 製品開発第一部 高音質オーディオ製品開発 リードエキスパート)は開口一番、言った。

「旧製品4497に“S”を付けました。前作より圧倒的にSuperior、超越したとの意味を込めたのです。同じぐらいだと前のが良かったってなっちゃうじゃないですか。だから圧倒的に凌駕しないと、敗北です。10年も経ってこんなもんかとは決して言われない、格段に進んだものをつくらなければならないと、設計メンバー一丸となって取り組みました。」
2016年に登場した旧AK4497は名DACであった。スコットランドはLINNの「Katalyst DAC Architecture」、エソテリック「Grandioso K1」、「D-05X」などのハイエンドコンポーネントの中核を担った。でも、それより遙かに(=スーペリアに)凄いものなど、果たしてつくれるのか?
「やりました。システムと動作の根本から見直しました」と、中元氏は豪語した。特性ではどれほど、旧AK4497に比べて向上したのか。「アナログ特性を1dB、上げられました」。え〜っ、1デシベル? 確かに旧AK4497に比べ、S/Nは128から129dBに1dB上がった。でもたった1デシベル?

「いやいや、“1”って大したことないように聞こえますが実は、この世界の“1”ってなかなか大変なんです。設計者としてはめちゃめちゃ頑張ったんです!」(中元氏)。
それは失礼、私は1デシベルも向上できたのか!と驚かなければならないのであった。ワンチップ・ソリューションだから、まずはデジタルフィルターとΔΣ変調器を処理するデジタル回路のノイズを減らさなければならない。アナログ回路は、常にそのノイズの脅威にさらされているわけで、最終的にアナログのS/Nを上げるためには、まずはデジタルノイズをいかに減らすかが肝要だ。
「2チップソリューションのデジタルAK4191+アナログAK4499EXの経験から、いかにデジタル部がアナログ部に対して、悪影響を与えているかをはっきりと認識しました。デジタルを分離するとまったく音が違うと分かったので、今回はいかにデジタルノイズを減らすかに徹底的に注力したのです」(中元氏)。
どうやったのか。パルス波で動作するデジタル回路では、その度に必ずパルス状のノイズが発生する。そのノイズに対し、一般的にはアナログ回路への影響をいかに減らすかという観点から、デジタルとアナログ回路の位置を物理的に離したり、遮蔽物を置くなどの対策が取られる。しかし、それで遮断されるほどデジタルノイズは甘くは、ない。それは弥縫策でしかない。効果は期待できない。

根本策とは、デジタルそのものを削減することだ。そもそもデジタル動作が少なければ当然、発生するノイズも少ない。「そう、本当に必要な回路だけを動作させることにしました。たくさんの回路が同時に動作しちゃうから、そこからいろいろな不具合がデジタルバルスとして出て、瞬間電流がどんどん流れるのです。それなら、ひとつの機能をやるにあたって、例えば従来は、ブロックABCDの4つを動かないとできなかったのを、ABCだけで動くようにする。つまりパフォーマンスは同じですが、動作を少なくするのです」(中元氏)。
そんなことはアーキテクチャーを根本的に変えないと、実現できない。ちょっとパターンを見直す程度では、まったくご無体だ。ここで評価が難しいのが、それによって、どれくらいデジタルノイズが減ったのかを測ること。データシートにも目立った違いは出ないし、特性も前とほぼ同じ。しかし、デジタルノイズは例え数値に表れなくとも、聴感が大いに違うのである。
それを佐藤友則氏(オーディオマイスター)が分かりやすく解説してくれた。「音像が前に出るのが、デジタルノイズの影響です。それを減らすと、音像が奥に引っ込んでいく。本来は、奥まで音場が存在するのに、デジタルノイズの悪影響で、音像が本来ある位置から、前方にせり出してくるのですね。だから、その影響を減らすと、音像は本来の奥のポジションに戻るのです」。なるほど、ノイズが音像を前にしゃしゃり出しているのだ。

とはいえ、デジタルノイズの有無は聴感では分かっても、データには出てこない。インビジブルだ。何か、メルクマールはないのか。「デジタルノイズが減った場合、結果として分かるのが、消費電流です。代替指標ですが、旧AK4497に比べ消費電流は約25%、減りました。つまりその分、余計な動作が排除され、動作から発生するデジタルノイズも減ったと推測できます」(中元氏)。
デジタルノイズは動作を減らすと、その分は確実に減るとは単純だが、実に論理的な推論ではないか。それを聴感は確実に捉えるのだ。その成果はのちほど聴こう。
音の細やかさを特徴とする「AK4498EX」
もうひとつの新製品が、アナログを担う半導体「AK4498EX」。そもそも、3年前にデジタルノイズを完全に遮断するために、デジタルとアナログを専用チップ化した、デジタルAK4191+アナログAK4499EXの2チップソリューションを発表。あまりの高音質ゆえに、世界のハイエンドオーディオメーカーがこぞって採用したものだ。今回はAK4191と組むアナログ半導体AK4498EXだ。

かつて中元氏はセパレートの狙いについて、こう語っていた。「従来の1チップソリューションでは、ノイズが増えるのでデジタル部は大きくしたくない、でも処理量は上げたいというジレンマが常にありました。そこから解放されたことが最大の利点ですね。分けることで、デジタルには思う存分、リッチな処理を与えられました。その上でアナログ部がセパレートされたので、デジタルのノイズから完全に解放されました。これまで溜めに溜めていた不満が爆発したのですね」。
この時、画期的な高音質手法の「カーブドトレース」を採り入れている。それまで直角に電子を流していた部分を、陸上競技場のトラックのような滑らかなカーブを描く形に変更。直角の理由は、小さなエリア内での最も合理的なレイアウトだったからだが、電子の流れにとっては、角でストレスが掛かっていた。
真空管アンプの配線はエッジを描かず、滑らかな空中配線が用いられる。AKMは、それをDAC内のパターンに応用。滑らかなパターンに替えたら、音もそれまで尖っていたのが、格段に滑らかになったのである。
話を現代に戻す。今回のAK4498EXは何をしたのか。そもそもEXは「エクセレント」なのか?
「そう解釈していただいて大丈夫です、でもわれわれの心づもりはAK4498をEXCEED(超越)した、です」と中元氏は言った。AK4498とは開発陣が性能に誇りを持っていた自信作だったが、旭化成延岡工場火災のため、ほとんど世の中に出回らなかったアナログDACだ。火災から5年、そのAK4498を大きく超えたいとの願望の元に開発に取り組んだのが、AK4498EXなのである。
どれほど頑張ったか。幻のAK4498のS/Nは128dB、THD+Nは-116dB、新製品のAK4498EXのS/Nは129dB、THD+Nは-117dB と、どちらも前述した「1dB」という格段の進化を達成したのである。「1チップ型のAK4497Sや幻のAK4498とは一味違った、思わず『excellent』と言ってしまうような音に設計しました。音質的には開放感、スピード感、広がり感、粒の細かさが大きく違っています。AK4497S同様に素直な音にするよう、インピーダンス設計などを大きく見直しました」(中元氏)。
セパレートの元祖アナログチップのAK4499EXとは、キャラクターが全く違うという。電流出力のAK4499EXは力感が特徴だが、電圧出力のAK4498EXは、音の細やかさだ。デジタルのAK4191からは高分解能な音が得られ、アナログのAK4498EXが繊細さや空気感を与えるというワン・アンド・オンリーの表現加算が美質だ。
旭化成の開発用試聴室にて新旧比較!
では、いよいよ試聴に入ろう。場所は旭化成エレクトロニクス試聴室。リファレンスは2曲。女性ヴォーカルはジェーン・モンハイトの「ハニーサックル・ローズ」、オーケストラ演奏はブーレーズ指揮、シカゴ交響楽団の、「マーラー:交響曲第1番『巨人』」第2楽章。

これまでAKMの代表製品として定評を勝ち得ていたAK4497だが、もはや「S」の前には、昔日の思い出という印象だ。AK4497Sの次に聴くと、AK4497はドライだ。細かなきらめきが淡く、冒頭のアコースティック・ベースの蠢きが薄い。ところが、AK4497Sではベースが実に太いのである。基音と倍音がきちんと分離されて認識でき、響きのサステインが長い。スピードも断然、速く、名人クリスチャン・マクブライドならではの先鋭的なベースサウンドを堪能。

ヴォーカルもすごく違う。まず音色。AK4497Sはグロッシーな質感を帯び、濡れる。ブレス、アクセント、アーティキュレーションが実に細かなレベルまで捉えられている。これほどのアップテンポでも、ジェーン・モンハイトは一音一音を明瞭に、しかも、その単位で情感を楽曲に与えていることが、AK4497Sでは明確に聴き取れるのである。小節の初めにアクセントをつけ、それから音程をちょっと上げる、下げるなど、きわめて短い単位で、微細な表情や抑揚を与えている、凄い歌手だ。情緒感が実に濃い。ピアノの美しさとウエットさとヴォーカルの滑らかさ、情感の深さがベストコンビだ。
マーラー:「巨人」第2楽章のレントラー。AK4497Sは力感に溢れ、躍動的でハイテンションなサウンドだ。ブーレーズの理智的な解釈とシカゴ響のテクスチャーの豊かさは、スコアの複雑な絡みを瑞々しくも感情豊かに白日の元に魅せ、聴かせてくれる。イ長調ならではの深さが体感できるワクワクする音楽進行だ。
まずチェロが主音のAからドミナントEへの4度音程の惹句を奏で、次にヴァイオリンとビオラがドミナント音をオクターブし、次にフルート、オーボエ、クラリネット、ファゴットの木管隊が躍動的なテーマを奏でる。チェロと木管群はセンターから、弦楽は両翼から来る。今度は、木管群と弦群が攻守入れ替わり、オブリガードを木管が、テーマをヴァイオリンとビオラが弾く。
伴奏と旋律の逆転、弦の左右対比、木管の奥行きが実に面白い。そんな攻防を何回か繰り返した後に、金管がガッと加わると突然音色が金色というかゴージャスになる。こうした時間的な、そして編成的な音色と位置の変化を、AK4497Sは躍動的に、さらにドラマティックに演出するのである。


音楽のエッセンスが凝縮されたAK4498EX
今度はAK4191+AK4498EXのセパレートDAC組み合わせで、単体で聴く。ジェーン・モンハイトの「ハニーサックル・ローズ」は明らかにハイエンド性が濃い、まさに次元の違う音だ。低域の力感に加えスピーディな音進行も聴け、低域の快感に身を委ねる幸せを感じる。切れ味がシャープで、同時に端正だ。リズムのテンションも高く、躍動が心地好い。
このようにオーディオ的に分析しても素晴らしいが、単に音が物理的に良いというだけでなく、音楽のエッセンスが凝縮された鳴り方をするのである。ヴォーカルも色気、巧さ、ニュアンス感、そして音楽的な抑揚がポイントだ。発音のアーティキュレーション、アクセント、ニュアンスがAK4497S以上にひじょうに濃く出てくる。ゾクゾクと身震いするような実体感、眼前感が体感できた。

マーラー:『巨人』第2楽章はどうか。空気感がものすごく緻密に再生された。それもスピーカーからの出音ではなく、音場空間そのものから、弦が木管が、金管が奏するのである。音場構造も明瞭で、高さ方向、奥行き方向まで細密に見渡せ、音の空気感も濃い。ヴァイオリンの倍音が美しく、細やかな粒子が飛び散る音場空間のドラマティックなこと!
私がAKMを高く評価するのは、数値だけでなく、聴感評価によって高音質を追求する姿勢だ。高集積された先端技術の塊の半導体に中味に高音質ノウハウが文字通り集積されているというのが、実にオーディオ的ではないか。今回のAK4497S、AK4498EXは音質的にも、音楽的にもたいへん優れた音を聴かせてくれた。でも本当に聴いたのは、開発陣のこだわりの熱き魂の叫びではなかったか。
(提供:旭化成エレクトロニクス)