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藤岡
旭化成の創業は大正11年。1922年というとアメリカで世界初のラジオ放送が開始された年でオーディオの歴史からも重ね合わせてみると、「あの時代か」ということで読者もお分かりになるのではないかと思います。御社のレーヨンの製造開始が大正13年ですが、この年はベル研究所の研究開発により電気吹き込みがスタートした時代です。こういう時代背景に旭化成が創立されたわけで、オーディオの歴史から見てもずいぶん昔からのメーカーといえます。
今日のテーマである旭化成エレクトロニクス(株)[略称:AKEMD]の前身の旭化成マイクロシステム(株)がスタートしたのが1983年。CDが誕生した1982年の翌年に半導体部門としてアメリカのAMIジャパンという日本法人の株式を半分取得したのがスタートです。どうも旭化成と半導体部門が一致しないというのはそこに秘密がありますが、その秘密のさらに秘密というのが、旭化成は非常に先進的な企業で次から次へと新しいものを開発する開発力、マンパワー、経営者の意識で、ほとんど失敗した例がありませんね。マラソンで言えばずっとトップランナー、そういう企業です。3年後の1986年にはAMIジャパンの株式を100%取得して今日に至るわけです。もともと一からのスタートではないので、開発のスピードが非常に速い。
オーディオの市場では、AKEMDのデバイスはエンドユーザーがメーカーさんで、デバイスはボンネットの中に隠れているのでほとんど読者にはなじみがない、その辺を踏まえて佐藤さんには分かりやすくお願いしたいと思っています。CDレコーダーが流行した時代に、旭化成のADコンバーターはすごく音が良かったです。旭化成以外にもいくつも半導体メーカーはありますが、多くは音がモヤッとしていたり、分解能が低かったりという状況でしたが、旭化成のADコンバーターを使ったモデルは音が鈍らないというか、ビシッというか、私自身、旭化成の半導体部門がCDレコーダーに幅広く使われるようになった頃から「旭化成というのはすごいんだ」という認識があります。他のオーディオ機器にも結構使われていたのでしょうか?
旭化成エレクトロニクス(株)
オーディオ事業グループ
佐藤友則氏
佐藤
1999年頃にはハイエンドのDATレコーダーにわれわれの「AK5390」というADコンバーターが採用されまして、あのときは非常にご好評をいただきました。ですから、録音系の分野では今までも非常に強くて、特に業務用のお客様には比較的使ってもらっていましたので、今、藤岡さんもおっしゃったように、どちらかというと普通の方ではなく業界向けというところではシェアもかなり持っていました。DAコンバーターでも業務用のコンソール、30何チャンネルといったところでも使っていただいていました。
藤岡
プロ用途ですね。
佐藤
民生用途では、ポータブルで非常に多く使っていただいていましたが、今回のようなハイエンドオーディオに採用していただく機会はなかなかありませんでした。今後はこの分野にもどんどん入っていきたいと思います。
藤岡
デジタルレコーダーにおけるADC、あるいは再生系であるデジタルプレーヤーのDACは決まったメーカーのものばかりです。さらに半導体のサイクルは大変で1年に1回では済まない、3カ月に1回ぐらい、半年に1回はありますね。
佐藤
半年に1回ですね。
藤岡
それは、例えば電圧の問題や消費電力の問題、あるいはいろいろなテクノロジーが進化して集積度もどんどん向上していく。デジタルオーディオが始まった頃とはケタ違い、そういう時代ですからね。最新バージョンである32ビットのDACも含め多くのメーカーが採用していますね。とにかくすごい数です。ひょっとすると読者も自分の機器を開けてAKMの刻印があると、今回お話しされている佐藤さんの会社がつくっているんだと思い出してくれるだけでも十分価値があると思いますよ。真空管とは大違いですから。
佐藤
差し替えるわけにはいかないですからね(笑)。
インタビュアー
藤岡誠氏
藤岡
非常に先進的です。ここではDACの話に限りますが、これがすごい。たくさんあって、こんなに作って儲かるのか、と思いますが、結局それだけニーズがあるんですね。
佐藤
お客様のニーズに合わせて作るという、カスタムに近いところからやっていましたので、少量多品種というのが弊社の特徴です。
藤岡
そういう意味では、オーディオにぴったりですね。そのかわり、営業さんも大変だし、技術者も大変、よく分かります。恐らく、今回お読みになった読者は、「旭化成の半導体が実はすごいんだ」ということを再認識するのではないかと思いますよ。PCM/DSD入力に対応するDACは、今、僕が手元に持っている資料によると、最新型のものを入れて3品種ですか?
佐藤
そうです。今回開発した「AK4397」、「AK4396」、それから「AK4358」の3種類です。
藤岡
実をいうとこの3つですね。時代ごとに違うんですね。最初に出た「AK4358」は192kHz/24bit対応で、何と8チャンネル。
佐藤
マルチチャンネルなものですから。
藤岡
お疲れさまです(笑)。それから今回のテーマである「AK4397」の前の「AK4396」。これはデータだけで見ると「AK4358」よりもっと先進的。マルチビットDACで入って、とにかくすごい。オーディオ製品にはいろいろなメーカーのDACが使われているけれど、全ての製品がAKMブランドのコンバーターを搭載するといいんだろうね、これからもっと頑張ってください。
佐藤
ありがとうございます。
藤岡
私もインタビューするに当たってネタを仕入れたわけです。つまり、僕も読者と同じで旭化成という企業は知っている、しかしAKEMDというのはほとんど知らない。ところが、僕は仕事柄、AKMブランドのコンバーターの情報は知っていますが、極めて微細な内部事情、あるいはテクノロジーの進化の度合いだとか、そういうのは知りませんので、きょうは自分自身も参考にしようと思っています。分からないことばかりですから。そもそも、こういうオーディオ雑誌に半導体デバイスが出てくるというのは・・・・・・。
佐藤
あまりないですね。
DSD・PCM信号の入力に対応したフル32bit演算処理DAコンバーター「AK4397」
(写真は拡大します)
L/R独立のDAC基板部
(写真は1チャンネル分)
(写真は拡大します)
PCM/DSD信号の入力対応した120dBアドバンスト・マルチビットDAC「AK4396」。192kHzサンプリング対応、24ビット8倍ディジタルフィルター内蔵等の特徴を備える
(写真は拡大します)
藤岡
本当はやってはいけないね(笑)。だって、一般消費者がユーザーではない、部品メーカーさんですから。しかし、そういう隠れた部分というか、LSIでもチップでもいいけれども、その中に何が秘められているかということをいろいろと説明していただくと、読者も「ああ、そうなんだ」と。われわれも常に原稿では、例えば「DACは何々」ということを書いていますが、見えないですから分かってはいませんよ。ボードの中、見えない奥の話、苦労話も含めて話してくれるといいと思います。話は変わりますが、試聴室があるんですね。
佐藤
はい、3年ほど前に作りました。
AKEMDが構えるオーディオ専用の試聴室DALIのスピーカーシステム「HELICON400」を中心に構成した本格システムを備える
(写真は拡大します)
藤岡
写真を見て驚きました。この試聴室は半端ではないですよ。オーディオマインドを感じます。半導体メーカーで試聴室を持っているというのは、自社で作ったデバイス、どこかのメーカーが作るものを検証するという意味では非常に重要だと思います、再認識しました。
佐藤
スタジオライクな設計で、低音は比較的デッドにして、上のほうは反射するようなセッティングにしています。出てきたデバイスがちゃんとした音で鳴っているか、逆にオーディオメーカー様の要求に合うのかというのを我々なりに検証してから、持っていくようにしています。
藤岡
ただ、問題は買ってもらったデバイスがいかに優秀でもいちばん難しいのは使いこなしですから。半導体だけで音が決まるわけではありませんからね。
佐藤
使いこなしというのは本当に大切です。こういう先進的なデバイスのノウハウというのはその場限りであることは確かなのですが、世界中に対抗メーカーがたくさんあるので、差をつけるためにもその部分は重要です。
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