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藤岡 ところで、最近、一気に注目を浴びているのが今回新たに開発された「AK4397」です。これは、先ほどちょっとお話が出ましたが、PCM/DSD入力対応のプレミアムがつく32bitですね。DACはPCM対応ばかりに限らず、大体24bitが当たり前ですから。しかも、今回エソテリックの「D-05」が初めて採用した。そのことを「わが社が初めて採用した」と旗をふって言っていますからね。エソテリックが採用するにあたってのいきさつみたいなものがあればお聞かせください。
佐藤 もともとわれわれがどうしてこういうものをやり始めたかというところに戻りますが、なかなか音質ということでは認められていませんでした。では、どうやって音質を向上していこうかと考えまして、最初にいきなりデバイスを作るというのは難しかったので、まず評価ボードを作り、使いこなしの部分でどうなのかというところを蓄積していきました。普通の評価ボードはこういったもの(図2参照)、これでは音がコントロールできないので、これをやめて前回の「AK4396」から全く違うかたちのボードに変更しました(図1参照)。全く同じ部品、同じデバイスを付けてこの2枚の板を使って比較試聴すると、後者の方が響きや情報が明らかに多いのがわかります。
藤岡 このパターンを拝見すると、後者の方がグランドや電源と信号ラインの流れの部分を示す黒塗りの部分の幅が広くなっていますね。これは分かりやすいと思う。
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【図1】最新のサウンド評価ボード「Ongaku」。グランドや電源、信号ラインの流れの部分を示す黒塗りの部分の幅が広く、角の部分にアールをつけることで、輻射ノイズの発生を防いでる(写真は拡大します) |
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【図2】従来のサウンド評価ボード (写真は拡大します) |
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【図3】「AK4397」のブロック図 (写真は拡大します) |
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佐藤 それから信号ラインの部分は従来のものでは角をつけてしまいますが、そこから輻射が出てノイズが出て音がキンキンする、そういうのをなくすためにクロックのラインとオーディオ信号のラインの部分にカーブをつけたのです。
藤岡 確かにパターンにアールがついてますね。
佐藤 基板屋さんに頼むとすごく嫌がられましたが、「そこは何とかお願いします」と言って作ってもらいました。
藤岡 これはデジタルの世界でも絶対言える。この円弧を描く信号ラインはない。昔からアナログの世界でもプリント基板を作る時は、太い、厚いは当たり前なのですが、普通は電子が流れますから、鋭角の90度でショートさせたくないわけですよ。アールを描いてなめらかにカーブして信号が流れる、この感覚がデジタルにも欲しいんですよ、これはとても大切なことです。感心しました。
佐藤 それから、基板は上がグランドで下が電源となっていまして、上から見るとちょうど重なるようにすることで、アナログのアンプと同じ効果が基板上で実現できるのです。
藤岡 これは二層基板ですか。
佐藤 そうです。これによって電源やグランドのノイズをキャンセルし、いかにクリーンな電源を供給するか、といった要素も今回の評価ボードで実験しました。
藤岡 メーカーさんもそういう話の方が説得力があるでしょう?
佐藤 そうですね。 |
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藤岡 オーディオの世界でやってはいけないことが実はある。たまたま幸せなことにモールドで中が見えないからいいけれども、これは実はうれしい話です。今の佐藤さんの話は、本当にデジタルでも必要なことです。このストーリーを話せば、メーカーのエンジニアには大いに参考になりますね。
佐藤 我々としても、実はこのボードも5枚ぐらい作ってようやく「これだったらお客様に」ということで1年前に「AK4396」に採用したのです。
藤岡 それはAKMの技術力が高くなったから5枚で済んだんですよ。(笑) |
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【表1】32bitDACの利点 (写真は拡大します) |
佐藤 「AK4396」の使いこなしの部分で得られたノウハウを、そのままデバイスに入れたのが今回の「4397」の32bitになります。一つのコンセプトとしては、dtsが昨今は32bitの演算をしているのに、オーディオだけ24bitでクオリティが下がる。その部分に対して旭化成としては32bitをフルに受けられますよということをお客様に提案したい、ということで今回、32bitの企画を立ち上げました。
藤岡 数値競争をメーカーはやるわけですよ。以前は96kHz24bitだったのが今は192kHz24bitが当たり前、数字が好きなんですよ。だから、とりあえず今、PCM/DSDでの最高位は24bit。32bitはまだない、これは売れるよ。その先端を切ったのがエソテリックの「D-05」です。冷たく言い放てば、実際データの世界は数字競争。数値が多ければそれだけ性能が高い。そのうちカタログで32bitが当たり前みたいな世界がやって来るでしょうね。
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佐藤 32bitの利点として、FFTを取ると(表1参照)24bitだと144dBまでしか表現できませんが、今回は32bitなので、ノイズフロアから上の部分、例えば146dBのデータを入れたときにわれわれのDACだけが何もないところを表現できる唯一のDACになるのです。
藤岡 実際、動作時点では断トツの分解能を持つことになりますね。
佐藤 逆に言うとDSPで演算した微細な情報も、今まで埋もれていて再現できなかった部分がわれわれのDACを使うことで再生できます。それから、どこが32bitになったかという簡単なブロック図がここにあります(前段落図3参照)。左右独立というのはどのメーカーも同じでしょうが、「AK4397」は石自体が真四角なので、それぞれを最短につなごうということで、パッケージも真四角なものを選びました。これも音質を重視するために行ったことです。さらに今回は、新たにクロック専用の電源ピンを立てています。石の中で発生するクロックジッターが音を悪くさせているという要因がありまして、これを排除するために今回のようなピン配置を採用しています。
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AK4397のレイアウト。音質を重視し、真四角な形を採用 (写真は拡大します) |
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藤岡 今回の「AK4397」はメーカー側から「こうしてくれ」という要求ではなくて、AKEMD独自の設計でやったのでしょうか?
佐藤 はい。ですから、逆にどうやってエソテリック「D-05」に採用していただいたかということですが、実はこの企画自体が立ち上がったのは3年ぐらい前で、いろいろなメーカーさんに「いかがですか?」とアピールしましたが、なかなか聴いていただけなくて、ティアックエソテリックカンパニーさんだけが興味を持っていただいたのです。
藤岡 恐らく、エソテリックが「こういうのをつくってくれ」と言ってきたわけではありませんね。逆に言えば、彼らはすごいデバイスを探したものだなと思います。後はエソテリックの持つ独自のプレミアムの高い、ピュアリティの高い電源や周辺の回路があるからこそ、この「AK4397」が使いこなせたとも言えるでしょう。エンドユーザーたるメーカー側が満足していいものをつくってくれれば、読者もお喜びになるということでしょう。今日は貴重なお話をありがとうございました。
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