HDオーディオの登場を契機にセパレート型のマルチチャンネルアンプを開発する動きが広がっている。高音質を指向する過程でセパレート型のメリットを再評価しつつ、既存の一体型AVアンプとの差別化を図るという目的にもかなう。

セパレート型への新たな参入が注目されるメーカーの一つがマランツである。もちろん同社はピュアオーディオの分野でこれまで数多くのセパレートアンプの名機を送り出しているが、AVアンプでは初の試みとあって、発表と同時に大きな注目を集めた。本企画では、このセパレートAVアンプの実力を、さまざまな角度から紹介することにしよう。

今夏発売されるマランツのセパレートAVアンプは開発コードネーム「M-1」。Mはマランツの頭文字であり、ミレニアムの意味も込められている。マランツではM-1プロジェクトを発足させ開発に当たるなど、本機に対する意気込みが感じられる。型名はプリアンプがAV8003、パワーアンプがMM8003と4桁の数字が与えられているが、異種素材を組み合わせた3ピースのフロントパネルを採用した新しいデザインを身にまとい、オールブラックの外見がなかなか新鮮だ。従来このクラスのAVアンプはフラットでスクエアな形状のフロントパネルを採用していた。

AVプリアンプ「AV8003」(左)とマルチチャンネルパワーアンプ「MM8003」(右)。いずれも3ピースのフロントパネルを採用。筐体はオールブラックで精悍な印象だ

プリアンプのAV8003はHDオーディオのデコード対応は当然として、やはり注目すべきは音の追い込みの深さだろう。実は、今回のプロジェクト自体、最初からセパレートアンプで行くと決まっていたわけではなく、開発を進めていく段階で、音質を重視した結果、「一体型ではなくセパレート型で」という具合に方針が定まったのだという。まず音質ありきというわけだ。

内部を見るとアナログ、デジタル、映像系の各基板が物理的に十分な距離を置いて5階建て構造で配置されている。もちろん異種信号間の干渉を避けるための工夫だが、一体型AVアンプではここまでゆとりのある配置は望むべくもない。
AV8003の内部構造。5階建て構造と余裕のある配置となっている AV8003の背面端子部。バランス入出力端子を豊富に備えていることに注目したい。HDMIは入力4系統、出力2系統(切替式)。※写真は開発中のもので、発売時には変更される可能性があります

AV8003は背面パネルにマルチチャンネル仕様のバランス出力をそなえ、パワーアンプとのバランス伝送をサポートするし、2チャンネルのバランス入力も1系統用意した。SACDプレーヤーなど高音質プレーヤーのアナログ接続においてもノイズに強いバランス伝送ができることは、AV8003の大きなメリットに数えていいだろう。ピュアダイレクトモードではFL管に加えて映像回路を完全に遮断し、音の純度を確保することにこだわっている。

機能面ではネットワーク経由の再生機能が充実していることに注目したい。DLNA対応に加えてDTCP-IPにも対応し、DTCP-IP対応レコーダーで録画した放送番組やDLNA対応のNAS(Network Attached Storage)に蓄えられた映像・音声ファイルをネットワーク経由で本機を介してフラットテレビやプロジェクターで楽しむことができる。もちろんハイビジョンのプログラムにも対応するから、これでホームネットワーク環境が一変するという家庭は少なくないと思う。なお、ネットワーク関連のGUIは今回新規に開発したものだが、直感的でわかりやすく、試作機とはいえ、きびきびとなめらかに動いていた。

そのほか、DV9600で好評を得たフル10ビット処理ビデオスケーラーをAV8003向けに最適化して内蔵し、映像信号の1080pへのアップコンバートに対応するなど、映像系回路の充実も見逃せない。HDMI端子は入力4系統、出力2系統(切替式)を装備する。
DLNA対応のネットワーク機能も装備。DTCP-IPにも対応し、デジタル放送の再生も可能となっている。写真のように、ネットワーク内のBDレコーダーやPCなどDLNA対応機器に、容易に接続することが可能 リモコンはLCD付きメインリモコン(左)とマルチゾーンリモコン(右)の2種類を用意。どちらも学習機能を備えている。なお、マルチゾーンリモコンは自照式ボタンを装備。写真は点灯させたところ

マルチチャンネルパワーアンプMM8003は8チャンネル分のパワーアンプを内蔵し、チャンネルあたりの出力は140Wに及ぶ(定格出力、8Ω負荷時)。一般的にマルチチャンネルアンプの出力値は特別に明記しない限り2チャンネル動作時の数値を表示しており、全チャンネル動作時の実際の出力はその数分の1になってしまうという例すら少なくない。マランツは社内で定めるルールによって定格出力値の70%を5チャンネル動作時、50%を7チャンネル動作時に保証する設計を行っており、本機の場合はそれを大きくしのぎ全チャンネル動作時に70%の出力を確保している。140Wの7割といえばほぼ100Wに相当するが、それを8チャンネル駆動時に実現しているというのは驚異的なことと言っていい。

MM8003の背面端子部。XLR/RCAの入力端子とスピーカー出力端子が主のシンプルな構成。※写真は開発中のもので、発売時には変更される可能性があります MM8003の内部構造

内蔵するパワーアンプが7チャンネルではなく8チャンネルになっているのは理由がある。パワーアンプ基板は4チャンネルずつ1枚のボードに載せ、新開発の大型モノコックヒートシンクを挟んで水平に対向する配置されている。モノコックヒートシンクは剛性が高く、全チャンネルの熱バランスを平均化できるメリットがある。さらにステレオ単位でそれぞれのブロックをオン・オフしたり、振り分ける構成を選ぶことも可能だ。これは欧米での需要が高いマルチルームシステムを想定した機能だと思うが、パワーアンプブロックが対称構造をなしていることはクオリティ面でもメリットが大きいはずだ。

パワーアンプブロック。ヒートシンクを挟んで2つの基板が対向配置されている

プリアンプのAV8003もそうだが、セットの奥行きが385mmと他社のAV機器に比べてかなりコンパクトにまとめられている。これは奥行きの浅いラックにも無理なく設置できるように、意図的にサイズを抑えているのだという。ケーブル接続を考えると実際の設置スペースはかなり奥が深くなってしまうことが多いので、マランツの選択は住環境にやさしく、歓迎すべきものである。アンプやプレーヤーを正面に設置する場合は、フラットテレビはもちろんのこと、スクリーンと組み合わせるケースでも前後の奥行きを小さく抑えることができ、優れたスペースファクターを発揮する。

【AV8003】
●映像入力端子:HDMI(Ver1.3a)4、コンポーネント4、Sビデオ4、ビデオ4 ●映像出力端子:HDMI(Ver1.3a)2、コンポーネント2、Sビデオ3、ビデオ4 ●音声入力端子:同軸デジタル3、光デジタル3、2chアナログ(RCA)7、2chアナログ(XLR)1、7.1chアナログ(RCA)1 ●音声出力端子:同軸デジタル1、光デジタル1、2chアナログ(RCA)6、7.1chプリアウト(RCA)1、7.1chプリアウト(XLR)1、ヘッドホン出力1 ●マルチゾーン出力:ステレオプリ2、ビデオ1、コンポーネントビデオ1 ●その他入出力:ネットワーク入力1、DCトリガー出力2、IRレシーバー入力1、IRフラッシャー入力1、IRエミッター出力2、RC-5 リモートバス→メインゾーン入力1/出力1、マルチゾーン入力1/出力1、RS-232Cコントロール ●S/N比(アナログ入力):105dB ●周波数特性(アナログ入力):8Hz〜100kHz ●最大消費電力:85W ●スタンバイ消費電力:ノーマル1.0W、エコノミー0.7W ●最大外形寸法:440W×184.5H×385Dmm ●質量:11.6kg

【MM8003】
●アナログ音声入力:RCA8、XLR8 ●スピーカー出力:8 ●その他入出力:DCトリガー入力1/出力1、IRフラッシャー入力1、RC-5リモートバス入力1/出力1 ●定格出力(8Ω/20Hz〜20kHz/0.08%THD):各チャンネル140W ●S/N比:105dB ●周波数特性:8Hz〜100kHz ●最大消費電力:800W ●スタンバイ消費電力:0.4W ●最大外形寸法:440W×184.5H×384Dmm ●質量:17.9kg